2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 92_2
日本人の死因第一位は悪性腫瘍であり、癌治療を受ける患者の3分の1には罹患早期より疼痛が認められる。早期からの痛みの有無はQOLを大きく左右し、全身化学療法後の治療効果の予測因子の一つとされている。現在、悪性腫瘍浸潤が進行した際に生じる神経障害性疼痛に対する治療薬はモルヒネ以外の選択肢がなく、無効例も多く、高用量のモルヒネによる意識低下はQOLを低下させる。そこで私どものチームでは新規の特殊培養デバイスを開発することにより、ヒトiPS細胞由来の特殊な神経オルガノイド培養法を確立し、これまでになかった新しい客観的な感覚神経活動の評価系の開発に取り組んできた。
無限に増殖可能なヒトiPS細胞から分化誘導して作成した有髄・無髄の神経オルガノイドの神経活動を経時的に計測する新規デバイスの開発を行い、将来的に疼痛に対する治療薬の開発などに役立つ新規in vitro神経評価技術の開発を実施している。ヒトiPS細胞由来の神経オルガノイドを用いる評価系のため大量生産が可能で、難治性疼痛のための新規薬剤の開発スクリーニングをプロトコル標準化により無人で実施可能になる可能性を有している。客観的な「疼痛評価」がin vitroで実現できれば、これまでモルヒネさえも効かなかった癌浸潤性の疼痛などへの新規薬剤の開発も十分に期待できる。