2023 年 Annual61 巻 Proc 号 p. 406-408
骨伝導では振動子を頭骨部に強く押し当てる必要があり,長時間の装用に伴い痛みが生じる等の問題があった.この問題の解決手段として耳介・耳珠の軟骨組織に振動子を呈示する軟骨伝導が提案され,補聴器やスマートホンに応用されている.軟骨伝導では,外耳孔から外耳道に侵入する気導成分に加え,耳介の振動を介して外耳道内に放射される外耳道内放射成分が支配的となる.そのため,耳介の形状,質量,硬さといった特性が聞こえに影響を及ぼすと考えられる.耳介の形態に変化が生じる疾患として耳介血腫が挙げられる.耳介血腫は耳介の皮下に生じる内出血であり,耳介に瘤状の隆起を生じさせる.イヤホン等の使用が困難になる場合が多く,軟骨伝導デバイスの使用が有効であるが,血腫を生じた耳介の特性や軟骨伝導の聞こえを調べた例はない.本研究では血腫保有者の耳介の硬度,サイズ,軟骨伝導検出閾を計測し,健常者と比較した.さらに,耳介特性と軟骨伝導検出閾の関係を検討した.血腫群の耳介硬度は,計測した5部位中の3部位で健常群に対して有意に上昇した.また,検出閾は健常群に比べて125-1000 Hzにおいて上昇し,4000 Hzで減少した.対輪上部,耳輪の硬度および耳垂長においては,検出閾に対する主効果が認められた.また,耳輪,対珠硬度と検出閾の間に線形相関が認められた.これらの結果は,血腫により耳介の硬度や形状が変化し,軟骨伝導検出閾に影響を及ぼすことを示している.