2024 年 Annual62 巻 Abstract 号 p. 211_1
聴覚情報処理障害(APD)は,正常な聴力を持つにもかかわらず聞き取りに困難を感じる障害であり,その原因や評価,診断方法は不明瞭である.APDの一因として注意機能が考えられている.本研究では,APDの評価に用いられる両耳分離聴検査を利用し,その際の脳活動を計測することで分配的注意の定量的評価を目的としている.計測には健常者43名が参加し,全員に両耳分離聴タスクを実施した.このタスクは,左右の耳に異なる単語(タコ,イカなど)を同時に呈示し,受け取った両耳の言語音を紙に記述するタスクである.計測条件として,タスクを実行するActive条件と,実行しないPassive条件の二つを設定した.呈示音は35Hzと45Hzの異なる変調周波数で振幅変調され,周波数タグ付けを行った.これにより,変調周波数に対応した35Hzと45Hzの聴性定常応答(ASSR)が誘発され,左右の耳由来のASSRを区別した.解析では,Active条件下のASSRからPassive条件下のASSRを差し引き,注意によるASSRの変化を抽出した.さらに,左右聴覚野及び左右耳のASSRの差異を正答率と関連づけて検討した.その結果,タスクの正答率は右耳で高かった.また,ASSRの振幅は左聴覚野で大きく,正答率との相関では,右耳の正答率と右耳由来の左聴覚野のASSRとの間に有意な相関がみられた.これは左右耳への分配的注意を左聴覚野から定量的に評価できることを示唆する.