生体医工学
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Annual62 巻, Abstract 号
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  • 波多 伸彦
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 81_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    手術ロボットは約30年の発展の中で、主に高精度と高緻密度を追求してきたが、この進化の原動力は、最先端の機構、センサー技術、駆動技術、制御技術、および材料技術の進歩にあった。一方で、広義のロボット研究分野では、人工知能技術の発展と汎用化が進められ、ロボットの知能化研究が自動化及び協働化を中心に進められきた。昨今は特に生産業において協働化を中心とした知能ロボット技術が格段に実用化されはじめている。手術ロボット分野においても、手術作業の一部を協働する等、医師の判断の増幅もしくは補完を行うロボットの知能化研究が萌芽的に始められている。制度的にも、自動車の自動運転と同様に、医師と手術ロボットが段階的に協働化されていく枠組みも整備され始めている。本講演では、これらの知能ロボット研究が、手術ロボット分野にどのような形で影響を与えているかについて、演者と米国の他の研究者の実例を交えながら紹介し、同時に知能化で得られる臨床的、経済的、社会的効果を探る。手術ロボットの知能化の進展に伴い、ロボットとユーザーの協働作業が促進され、その過程で意思の疎通が必要となったときに、どのような技術が知能手術ロボットに応用できるのかについても議論する。最後に、日本国内で手術ロボットの商品化ブームが一巡した後、次世代の手術ロボットが知能化で国際競争力を目指す際の、日米の共同研究の発展のあり方を探る。

  • Ron Kikinis
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 82_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    Scientific progress hinges on the open exchange of knowledge and data. However, replicating research findings in medical image analysis presents a distinct challenge. Unlike other scientific fields, achieving true reproducibility in this domain requires a vast amount of intricate data. This encompasses the raw image data itself, the specific acquisition protocols employed, the software utilized for analysis, and the precise processing settings applied.

    This presentation delves into the challenges and solutions associated with ensuring reproducibility in medical image analysis. We will showcase 3D Slicer as a practical example to demonstrate its capabilities in analyzing individual patient data. This includes handling complex, multi-modal datasets relevant to surgical planning. 3D Slicer offers advanced visualization tools essential for surgeons and physicians during minimally invasive procedures. Additionally, 3D Slicer facilitates quality assurance of segmentation results, ensuring the accuracy and consistency of extracting crucial information from medical images.

    The subsequent section of the presentation shifts the focus to analyzing data from entire patient cohorts. We will emphasize the critical role of accessible and standardized databases that adhere to the FAIR data principles (Findable, Accessible, Interoperable, Reusable). The NCI's Imaging Data Commons serves as a model for such a repository.

    The solutions and recommendations presented aim to enable a future where medical image analysis research is more reliable, and findings can be easily replicated by others, leading to faster advancements in the field.

  • Zora Kikinis
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 83_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    Mental health disorders are widespread, imposing a dual burden on society through diminished productivity and reduced personal well-being. Regrettably, these conditions are often stigmatized as weaknesses rather than recognized as legitimate illness often leaving individuals and families to manage on their own. However, the emergence of treatment options, such as antidepressants, has enabled psychiatrists to assist patients suffering from depression. Depression represents just one of the many mental disorders; further research into other conditions is imperative to expand treatment options. As scientists, we require tools capable of probing the brains of living patients. Non-invasive brain imaging offers a glimpse into the workings of the brain, offering hope for enhanced understanding, diagnosis, treatment, and prevention of mental illnesses.

  • 寺薗 英之
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 84_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    これまで様々な生命観測技術の発展により、多くの生命現象が解明されてきた。しかしながら、まだまだ解明できていない生命現象が豊富にある。既存の分子生物学的技術や電気生理学的技術、光学的技術などを用いて解明できるものが多くあるが、医学と工学を融合による生体医工学研究は、これまでにない新たな技術を開発し、未解明の生命現象を明らかにできる可能性を秘めている。医薬品開発において、アンメットメディカルニーズの高い疾病に対する治療薬の開発は非常に重要である。特にがん研究の分野においては分子標的薬の劇的な進歩があるものの、未だ根治には結びつかない症例が多い。理由の一つとして、がんが進行するとがん組織内の遺伝的多様性(heterogeneity)が多岐にわたり、抗がん薬が奏功する細胞と特定の抗がん薬に耐性を持つ細胞などが存在するようになる。このがんheterogeneityに着目した創薬は今後の医薬品開発において重要な位置を占めると考えている。本講演では、薬学の視点から生体医工学研究の重要性や応用可能性について、生体医工学を利用した薬学領域との融合の可能性についてこれまでの研究内容を報告する。

  • 生田 幸士
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 85_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    南海トラフなど広域大災害時の医療行為を継続するためには従来の医療機器では困難である。震災時とその後の避難所生活で電力、水、医療従事者が不十分な特殊状況でも医療検査と治療が可能な新規の「防災医工学」の構築が不可欠である。筆者は、最先端医工学の研究を進めてきたが、防災医工学機器には「簡秀技術」(森政弘東工大名誉教授)というハイテクよりも知恵と新発想を融合したシンプルな解決策を模索してきた。今回の発表では、政府による遅鈍な対策よりも民間力を用いる新しい視点のアプローチ。中でも津波避難と、倒壊住宅からの脱出を市民活動で実現するハードの開発を中心に述べる。

     さらに本学会が主導する「防災医工学コンテスト」の概要を紹介する。

  • 八木 哲也
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 85_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

     東北地方や能登地方での大地震などで経験したとおり、大規模災害時において被災地域は、人流・物流のみならず情報通信システムさえ麻痺するために完全な孤立を余儀なくされた。情報通信システムは、災害時の状況把握、救援・救護の緊急対応、最適化などにとって必須であり大いに期待されるインフラストラクチャ―であるが、現在日常において我々が享受している技術の延長で災害時も対応可能かは疑問な部分もある。特に診断や健康管理などの医療対応においてはより目的に特化されたシステムの構築が必要であると思われる。ここでは、日常の情報通信技術と医療・診断目的において必要とされる同技術の違いについて解説した上で、災害時に必要とされる情報通信技術について聴衆の方々とともに考察したい。

  • 長倉 俊明
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 86_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

     人間は災害に直面して初めて考える愚かな生き物なのかもしれない。しかし人も火災や洪水に関しては工夫を凝らしてきている。消防法や建築基準法などが最たる物であろう。広域災害のために医学と工学の両方の面から提案したいことがある。(1)災害時の備え、(2)災害直後・被災期間、(3)災害後のフォローに分けて考えると、(1)は災害に対する備えである。(2)は起こった災害に対してロバストな社会システムの構築など。(3)は被災後にも元の居住地に戻れない、PTSDのような物が残るなど。この中で医工学ができることは、(1)のなかで電源確保と水と医薬品の確保、(2)は建築関係が多いが医学の世界でも除振・免震構造の病院建築、非常電源でも瞬時起動電源、転倒防止など既に様々な病院の工夫や決まり事がある。電源は経産省と厚労省から基準はあるが、供給源は電力会社任せである。(3)に関する社会システムが意外とできていないし、マスコミも長期戦を想定していない気がする。(1)と(2)は長期間の電源と水は命に関わる問題なので、基幹病院には自家発電以外に自然エネルギーなどの発電を義務づけるべき。また大都市圏では電車交通網があるので災害の時だけではなく普段から利用すべきである。地方は道路網の整備であると同時に電力やガス供給網に習って、ロジスティックの一部が使えない時の迂回路やハブを作るべきで官民を超えて利用を促すシステムが必要あると考える。

  • 石原 謙
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 86_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    国内だけでも震度5超の地震が毎年数件は発生し、A-PLAT(気候変動適応情報プラットフォーム)によると洪水被害は市町村の半数にあたる794地域で平均毎年1件以上にもなる。これらの災害では、行方不明者の早期発見が救命の何より重要な課題であり、解決すべき根本課題と言えよう。

     そこで、行方不明者早期発見のためのシステムを提案する。従来の要素技術を組合せたものであるが、これまでに無い独創的開発戦略であろう。

     目的は死体の発見ではなく、呼吸し心拍のある生存者であるから、生きた人体を捜索することに主眼を置き、#1微小な温度変化を図示できるサーモグラフィ、#2加齢臭ノネナールやストレスで増える疲労臭のアンモニアなどの匂いの高感度検出、#3可聴音ならびに力学的振動の検出、加えて、#4超音波反射法での反射経路を問わない微小変化検出、#5電波(200MHz〜2GHz程度)での反射法による波長以下の位相変化を検出する動体検出、ではいずれも呼吸と心拍検出に特化して対応する0.1〜2Hzのバンドパスフィルタリングを備え、生体の存在位置や存在可能性を検出するだけではなく、バイタルサインの有無を検出する機能の並列稼働システムを開発する。

    さらには、不明者が居ると推定される周囲に数点以上の複数の信号(力学的振動・電流・電波)発生源と受信装置を設置して、透過法や開口合成法などでのCT的探索手法も検討されるべきかもしれない。共同研究開発陣を強く求めさせていただきたい。

  • 木村 裕一
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 87_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    在宅での血液透析(HHD)、及び補助人工心臓(VAD)は、長時間に及ぶ病院での拘束から患者を開放するものであり、患者のQOLを向上することが出来る。保険収載されており、又、HHDでは全慢性透析患者数が約35万人と多いこと、VADでは重症心不全患者を日常生活に戻しうるものであることから、今後普及していくであろう。

    しかし、在宅という院外での治療行為となることから、その安全性を確保するための技術開発が重要である。この状況の下、在宅人工臓器治療研究会を2021年初頭に設立し、人工臓器学会や在宅血液透析学会との連携の下で、HHD、VADの実施で求められる技術要素の研究開発を進めてきている。

    今回は特に、脈波が採れないというVAD特有の環境下での血圧測定の可能性について発表いただく。又、在宅血液透析で求められる、血圧低下などの異常事態の発生を予測する方法について、現状について説明を頂く。

  • 藤野 剛雄, 橋本 亨, 松永 章吾, 牛島 智基, 園田 拓道, 佐々木 悠真, 定松 慎矢, 金萬 仁志, 豊沢 真代, 絹川 真太郎, ...
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 87_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

     植込型補助人工心臓(left ventricular assist device, LVAD)は、重症心不全患者の予後および生活の質を劇的に向上させるデバイスである。わが国では2011年に臨床使用が開始され、2022年末までに1300名を超える新規植込み手術が施行されている。LVAD患者は心不全症状から解放され、自宅に戻り、社会復帰も期待できるが、一方でLVADに伴う様々な合併症を予防するために在宅管理(セルフケア)が重要となる。

     LVADの在宅管理において、日々の血圧測定は極めて重要な要素の一つである。LVAD患者の血圧高値は脳血管障害や心不全、大動脈弁逆流といった合併症と関連していることが知られており、最新のガイドラインでも平均血圧で75-90mmHgが推奨されている。患者は自宅で日々の血圧を測定して記録し、定期通院時に持参することが求められている。しかし、現在のLVADは遠心ポンプもしくは軸流ポンプを用いた連続流式であるため、多くの患者の脈圧は小さく、現在使用可能な家庭用血圧計では血圧測定が困難であったり、複数回の測定を余儀なくされたりする場合もある。

     本演題では、現在のわが国におけるLVAD治療の現状と、特に血圧管理に焦点を当てて在宅管理における問題点について概説する。

  • 小川 充洋
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 88_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    補助人工心臓 (VAD: Ventricular Assist Device)とVADを用いた治療の発展は目覚ましく、Destination Therapy (長期在宅補助人工心臓治療) と呼ばれる移植を前提としない治療も本邦では2021年4月から保険償還となった。VAD装着患者が増加していくことが見込まれるが、VADを装着患者においては、血圧の脈圧が健常人と比較して顕著に小さくなる場合がある。在宅VAD患者の血圧管理を考えた場合、自動血圧計測が最適であるが、家庭用血圧計は動脈血管が伝える心臓の鼓動に由来する変動 (いわゆる「脈」) を使って血圧を計測しているため、既存のカフ―オシロメトリック法を用いた在宅血圧計測向けの計測には困難がある。このためVAD患者の在宅血圧計測にはカフ―オシロメトリック法以外での計測が求められるが、これまでに開発・研究された非侵襲血圧計測法の多くは動脈血管の脈動情報に依存するために、新たな計測法が求められる。上記の背景のもと、我々は脈に依存しない血圧の非侵襲測定を目指し、圧迫カフから十分に遠位の体肢末梢での光電容積変化から血圧を測定する計測法の検討を進めている。これまでに原理検証のための計測実験装置・システムを開発し、開発装置を用いた健常参加者による実験の結果、収縮期血圧において既存の市販血圧計と同等の計測結果を得たので報告する。

  • 一色 啓二
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 88_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    在宅血液透析(home hemodialysis:HHD)は患者と介助者が十分な教育訓練を受けて医療施設ではない患者居宅で行う血液透析治療である。患者にとって自由度が高く社会復帰に有利であり、合併症・予後管理も良好である一方、本邦では827人(2022年末)と少なく全透析患者の0.2%にすぎない。HHD患者が増えない種々の要因の一つに医療者不在の環境下での透析管理やトラブルの対応など施設透析には無い、患者・介助者の負担がある。既に一部で運用されている居宅と医療施設をICTで繋ぎビデオ通信を介して患者や機器の状態を確認するシステムなどHHDの遠隔管理は患者の安全・安心に大きな役割を果たす。患者への直接的な負担を少なく経時的にバイタルサインを検出し、その変動から血圧低下などの出現を予測するアルゴリズムの構築を図り、患者病態の変化を予知し、警報発出と透析治療の中止、医療施設への通報など危険を回避する新しいシステムの開発が望まれる。このシステムは患者・介助者の負担を軽減し、オーバーナイトHHDをはじめとする長時間透析や連日施行する頻回透析など効率も良く個々の患者生活に合致した多様な透析スケジュールの遠隔管理の一方法としてHHDの普及に役立つ。さらには患者のニーズは想定されるものの現在本邦では施行できない介助者不在の「solo-HHD」の承認など今後のHHDの可能性にも貢献しうるものと考える。

  • 永岡 隆, 一色 啓二, 根本 充貴, 木村 裕一, 古薗 勉, 瀧 宏文, 政金 生人
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 89_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    在宅透析の普及に向け、透析中の異常を事前かつ非接触に検知できるシステムの開発は必須である。本発表では、透析中に得られる各種生体情報を用い、透析中の異常検知に取り組んだ結果について報告する。本研究では生体情報として、心電図、血圧、ならびにミリ波レーダを用いた非接触見守りセンサ(VitaWatcher、株式会社マリ)から位置情報が取得される。近畿大学生物理工学部生命倫理委員会ならびに共同研究機関の倫理審査委員会の承認を得たプロトコールに従い、インフォームドコンセントを受け、書類による同意が得られた富田クリニックの透析患者に対して計測が実施され、これまでに100例を超えるデータの取得に成功している。本報告では先行研究の論文紹介などを踏まえ、今後の展望について述べる。

  • 島津 和久
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 90_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    日本の災害医療は阪神淡路大震災の教訓から、災害に強い災害拠点病院の認定、被災状況の共有目的での広域災害救急医療情報システムの整備、被災地内で医療支援活動を行う災害支援チームの養成、被災地内の医療負荷軽減を目的として被災地外へ傷病者を搬送する広域医療搬送を4本柱としてきた。 しかし、令和6年能登半島地震では長期に及ぶ停電、断水下では地域医療は維持できず、被災地の病院や福祉施設から多数の傷病者や入居者の長距離搬送を余儀なくされた。石川1県でさえ従来の航空機や緊急車両による搬送力では搬送ニーズを満たすことは困難であったが、多数の地域が被災する南海トラフ大地震を考えれば、より大量搬送に適した手段がなければ被災地内での避け得た災害死が多数発生すると予想される。この点において鉄道輸送は大量搬送ニーズに大変良く合致したものと考えられるが、航空機に比し鈍足、かつ阪神淡路大震災等での鉄路被害のイメージが先行し鉄道搬送に関する研究は殆ど行われて来なかったのは誠に残念なことである。貴重な航空機を遠距離へ長時間使用せず被災地内でのピストン搬送のみに使用し、被災地近傍からの大量搬送は鉄路搬送を組み合わせることにより輸送力を格段に向上させることが可能である。さらには傷病者搬送のみならず、被災地への人的、物的資源の大量投入にも適しているため鉄道の災害医療への活用には大きな可能性を秘めていると考えられる。

  • 梅津 光生
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 90_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    2023年の日本生体医工学会総会で、防災医工学という新たな専門別研究会を設立していただき、『鉄道の災害医療への活用研究会』(英文名:Research group on utilization of railways for disaster medical care) 略称:Rail DiMeC (レイルディーメック) 研究会が発足した。メンバーは、早稲田医療レギュラトリーサイエンス研究所、若手名誉教授の会(一社 スターリサーチャー)、災害医療のプロフェッショナル、稲門鉄道研究会が核となり、異分野融合チームを作り上げた。そして、緊急医療現場の良好な環境構築ための鉄道に関する革新的技術の開発、それを運用するための政策、法整備などを、関連学会と横断的連携をとりながら推進する。具体的には、被災地近くのアクセスが良好な駅を臨時の医療搬送中継ぎ拠点駅と仮に設定し、そこでトリアージ・治療・待機を行うとともに、非被災地に向かうピストン列車を仕立てれば、患者を一度に非被災地病院へ搬送でき、多数の患者の未治療死が免れる。絵に描いた餅にならぬよう、昨秋、神戸市交通局の協力を得て実証実験を実施した。そこでは、中継ぎ拠点駅からの大量の模擬患者を、鉄道を使って医療がひっ迫していない非被災地へ搬送する訓練ができ、将来に向けての強い手応えを感じた。この先は、被災地に比較的遠方のDMATなどの医療救援隊を効率よく移動させる鉄道利用法に焦点を当てる。そのために、救急車両を鉄道貨物コンテナで運搬する方法の開発、被災地への救援医療チームの鉄道移送方法の最適化を図る実験を行う計画である。

  • 小峰 輝男
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 91_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    東日本大震災では鉄道で石油を被災地付近へ輸送した実績があるが、他の大地震発生時を含めて被災者や医療関係者、医療器材等の搬送は道路や空路、海路で行われており、災害医療支援活動時の輸送モードには鉄道が含まれていなかった。中等症以下の被災者であれば、鉄道の旅客列車は少人数の医療関係者で多くの被災者を近隣へ搬送できる可能性があり、また貨物列車は救急車や医療器材などのほか一般的な支援物資を少人数の乗務員で大量に遠方の非被災地から搬送することが可能である。災害医療活動の搬送手段に鉄道を加えて自動車など他の手段と連携し、より効率的な搬送を行うことで未治療被災者を減らし、災害医療活動の支援を行うことを目指している。鉄道が活用できるステージは、1非被災地の鉄道貨物駅等から医療関係者や医療器材を被災地最寄りの貨物駅等への輸送、2被災地付近の貨物駅等を医療搬送中継ぎ拠点と仮定し、トリアージ・治療・待機の実施、3被災者の非被災地へのピストン輸送、を想定している。2023年度には上記3を想定した鉄道による被災者搬送訓練や医療機材の動作確認が神戸市交通局の協力により実施された。また鉄道は大地震時に被災した情報があるが、被災地付近の健全な地点まで列車を運行することは可能である。過去の大規模災害発生時における鉄道の運行実績を基に、道路輸送との連携による輸送について検討を行い、実現に向け課題を整理した。

  • 生田 幸士
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 91_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    病院列車構想の実現には、発想の転換による従来機材の転用と、簡便な新規付加装置の開発がキーになる。できる限り新規の装置を減らし、治験や法改正も最小限に留めるアプローチが肝要となる。すなわち発想の転換と、包括的な知恵が不可欠となる。医師、看護師、医療機器研究者、鉄道技術者、鉄道運営者、防災研究者、政治家、官僚の相互理解と協力を加速するための手法の考察と、コンテスト方式の市民啓蒙戦略の提案を行う。

  • 谷城 博幸
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 92_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    17年間の行政での薬事規制の経験を踏まえ、学内外のアカデミア・企業を対象とした医療機器の薬事開発の理解を深めることや開発促進の観点から必要な助言等を実施する学術指導を主務として、大阪歯科大学に設立した医療イノベーション研究推進機構に2022年1月に赴任しています。これまで、当機構で直接学術指導を実施している、あるいは国や地方自治体が提供する医療機器の開発化促進事業の専門家として間接的に関わらせていただいている、企業やアカデミアの事例等を参考にして、海外に比して何故、本邦でのイノベーティブな医療機器開発へと進まないのか、進めるためには何が必要なのかをお話させていただければと考えています。開発した医療機器が実現する機能と臨床的意義について、承認申請に係る国の審査機関であるPMDAでの審査の考え方と、開発者や申請する企業での考え方におけるギャップもその一つです。そのギャップの解決方法によっては、上市までのスケジュールで大きく遠回りをする場合もあり、一方で、上市までのスケジュールは早くなっても事業として成立しない医療機器となってしまうこともあり得ます。このセッションでの講演を通じて、薬事開発を意識した研究開発への視点を持っていただけることを期待しております。

  • 中矢 大輝
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 93_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    人工衛星に搭載され、植生分析や鉱物探査にも活用されているハイパースペクトルカメラを病理診断に応用する試みを進めるスタートアップ「Milk.株式会社」。

    8年以上前より北里大学との共同研究をスタートし、そこから7種以上の臓器においてがん細胞を90%以上の正答率で区別できることを示した。

    現在は東京都の先端医療機器アクセラレーションプログラム「AMDAP」へ採択され、医療機器としての承認申請に向けた体制構築を進めている。

  • 十河 基文, 山口 哲
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 93_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

     1988年歯学部を卒業後、2001年「大学発ベンチャー1000社計画」、2002年「知的財産戦略大綱」が政府から出された。その波に乗る形で研究内容の特許出願を2002年に、大学発ベンチャーを2003年に起業した。

     創業期の初製品はコンピュータに関係する2つのアイテム。1つはCTデータからあごの骨の中に歯科用インプラントを埋えるコンピュータ・シミュレーションのソフトウェア。もう1つは、シミュレーション通りに手術が出来るようにコンピュータのモノづくり(いわゆるCAD/CAM)による“あて木“の「ガイド」作製。当時はSaMDもなく、ガイドも前例がないため悩まされた。

     創業後20年が経った今、第2創業的な製品の1つに認証品をスマホアプリで代替する研究を行っている。認証品は演者が大学を卒業する前から存在する装置で、研究用からいつ承認品にさらには認証品になったかわからないが、下あごの運動を計測する装置(一般的名称:歯科用下顎運動測定器)である。薬事のハードルを出来るだけ低くしたく、約1年半の間、第三者認証機関/Pmda/厚労省を行ったり来たりして、ようやく2023年初めにプログラム医療機器としての方針が確定。昨年は別件で時間が取れていなかったが遅ればせながら再開。

     講演では、令和のアカデミアに自身の座右の銘の「最低の努力で最大も効果」を出してもらえるように、少しでも何かをお伝えできればと思う。

  • 齊藤 旬平, 鳥飼 祐介, 岩澤 亮, 小川 晋平
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 94_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    日本で2025年に大きな問題になるとされている心不全パンデミック、その原因となる心臓弁膜症や心筋症といった心疾患を早期に発見することが重要な社会課題である。これまで、心疾患のスクリーニングは人の聴覚と技術による”聴診”によって行われており、そこで疑われた者が侵襲や技術の要する心臓超音波検査等の精密検査を受けて診断されてきた。日本は超高齢社会に突入し心疾患の有病率も上昇しているため、このスクリーニング検査の精度を向上させ、人の技術によらず簡単に、そして記録に残る形で実施できるようにしなければならない。そこでAMI株式会社は「超聴診器」の研究開発並びに聴診DXの推進を通して心疾患の新たなスクリーニング及びモニタリング方法を提案している。当社は2023年に心音及び心電の検査が可能なハンドヘルド型の医療機器の薬事承認を取得しており、現在はこの機器にアドオンする形のプログラム医療機器を開発している。これらの活動に伴う当社の薬事戦略は、臨床課題を正確に捉えた解決策としての使用方法や評価内容になっているかを中心に立案されてきた。当日は、社会課題を解決するための一環として実施してきた薬事戦略の課題を含めて、当社の超聴診器の研究開発と社会実装についてお話しする。

  • 仲矢 道雄
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 95_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    線維化とは、組織にコラーゲン等の細胞外マトリックスタンパク質が過剰に産生された状態である。慢性炎症時に誘導される線維化は、組織を硬くすること等により、様々な組織の機能低下をもたらす。従って、線維化の制御は、喫煙等による肺線維症、心筋梗塞後の心臓や慢性腎不全、さらには非アルコール性脂肪性肝炎等、実に様々な慢性疾患において克服すべき重要な課題となっている。

    線維化は、筋線維芽細胞という細胞群がコラーゲン等の細胞外マトリックスタンパク質を過剰に産生することにより実行される。この筋線維芽細胞は、主として組織に常在する線維芽細胞が炎症をきっかけに分化する事によって生じる。我々は、筋線維芽細胞の分化状態がメカノシグナルの有無によって自在に制御できることを見出した。そこでこの分化制御法を用いて筋線維芽細胞の分化、線維化能に関する分子を網羅的に探索した。その結果、筋線維芽細胞のコラーゲン産生を促進する分子を見出した。続いてこの分子のノックアウトマウスを作成して各組織における線維化を検討したところ、in vivoでもこの分子が線維化に関与することを見出した。本発表ではこの分子の線維化病態への関与メカニズムについても紹介したい。

  • 西山 功一
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 95_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    血管新生は、既存の血管から新たな血管が増生する反応である。個体発生期だけでなく成体においても、損傷した血管の修復や虚血状態の解除などの生理的な反応として生じる。逆にがんや炎症では、異常な血管を増生し、病態形成やその進展に関与する。我々はこれまで、血管新生で血管が効率よく増生するためには、血管新生因子VEGFなどの化学シグナルに刺激された血管内皮細胞が、集団として効率よく移動することが重要であることを明らかにした(Development, 2011; Cell Rep, 2015; EMBO J, 2020)。一方、新生した血管にはすぐに管腔構造が形成され血流が流れこむため、血流による力学刺激に常に晒されている。しかし、この血流刺激が、化学シグナルと相まってどのように血管新生制御に関与しているのか、ほとんどわかっていない。この点において我々は、血流によって生じる血管壁の伸展が、血管内皮細胞の移動を抑制することで血管新生による血管の伸長を負に制御する、新たな力学シグナルであることを報告した(Nat Commun, 2022)。

     本セッションでは、最近さらに見出した血管新生の新たな生体力学的制御機構を紹介する。そこでは、血管内皮細胞の周囲に存在するもう一つの血管細胞ペリサイトが、血管周囲基質を硬くすることで血管内腔の拡張性を調節し、血流による血管新生抑制作用をさらに制御することで血管の増生を促進していた。

  • 山本 希美子, 安藤 譲二
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 96_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    血管内皮細胞(ECs)は剪断応力や伸展張力などの血行動態の変化に応じて機能を変化させることにより、循環系の恒常性を維持している。しかし、ECsが剪断応力や張力の変化をどの様に区別して感知し、細胞内の生化学的なシグナルに変換するのかは未解決の問題が多く残されている。以前我々は、マウス胚性幹(ES)細胞に剪断応力または、伸展張力を負荷すると、ECsと平滑筋細胞(SMCs)にそれぞれ分化が特異的に誘導されることを見出した。そこで、細胞が剪断応力と伸展張力をどの様に区別して感知するのか検討した。剪断応力と張力に対して、細胞膜は膜流動性や脂質分子の配向性、コレステロール含量の変化が異なることが明らかになった。また、人工脂質二重膜でも剪断応力と張力に対して、生細胞と同様の変化が見られたことから、細胞膜の物性変化は、生体反応というよりは物理現象であることが示された。この様な膜の物性変化は、膜タンパク質の構造を変化させ、それらの活性化に影響を及ぼし、特異的な細胞応答を引き起こす。特に、剪断応力の刺激により血管内皮増殖因子受容体(VEGFR-2)がリン酸化された一方で、伸展張力により血小板由来増殖因子受容体(PDGFRβ)がリン酸化された。VEGFR-2とPDGFRβそれぞれのリン酸化阻害剤を作用すると、剪断応力と伸展張力によるECsとSMCsへの分化が誘導されなくなった。以上の結果は、細胞膜が剪断応力と伸展張力を分けるメカノセンサーとして働くことを示唆する。

  • 高橋 賢, 劉 雲, Rumaisa Kamran, 王 夢雪, 成瀬 恵治
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 96_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    マイクロ流体チップ上で数種類の細胞を共培養することにより、心臓、肺、肝臓などの組織構造を構築し、臓器機能を再現する臓器チップ技術が着実に進歩している。ヒト幹細胞を用いて臓器の構造を構築し、臓器の機能を再現する過程において、メカノシグナリングは本質的な役割を果たす。著者らが開発した心臓チップは、血管内皮細胞、線維芽細胞、およびヒトiPS細胞から分化誘導した心筋細胞から成る。マイクロ流体チップ上で培養した血管内皮細胞は、圧力刺激および伸展刺激に応じて一酸化窒素を放出する。このことは、生体内で血圧が上昇したときに血管平滑筋を弛緩させる一酸化窒素が放出される事象を再現している。またマイクロ流体チップ上で培養した血管内皮細胞は、培養液の流れを検知して流れの方向に配向するとともに、細胞間結合タンパクの一種であるCD31の発現量を増加させ、血管透過性を低下させる。一方、iPS心筋もマイクロ流体チップ上で流路に並行な方向に配向を示すものの、この現象は培養液の流れの検知とは別の機序によって起こると考えられる。線維芽細胞を構成成分として含むこの心臓チップは、ヒト心臓の生理的機能の再現にとどまらず、心臓の過伸展による線維化の病態の再現など、有用な病態モデルの開発にも貢献することが期待される。

  • 木戸秋 悟
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 97_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    幹細胞の周囲力学場の感受とメカノトランスダクション応答は、運動特性や分化特性、さまざまな生理活性分子の分泌特性の調節に深く関わるため、幹細胞を組織工学応用する際にはその培養環境力学場の系統的設計技術の拡充は本質的課題の一つである。我々はこれまでに間葉系幹細胞やiPS細胞に対して、これらの機能を強化もしくは最適制御する培養力学場の粘弾性の空間分布設計に取り組んできた。前者MSCに対しては、再生医療細胞医薬品としての応用に必須となる未分化保持および治療有効性因子の分泌性能の強化を可能とする環境力学場の設計原理の開拓を進め、治療有効性増強した幹細胞の識別を可能とする簡便な評価指標を開発した。後者iPS細胞に関しては、オルガノイドの再現性高く効率的な誘導を可能とする粘弾性マトリックスの設計指針を見出し、マトリゲル代替材料のプロトタイプを開発した。本発表では、これらの成果について紹介し、再生医療・組織構築に資する幹細胞操作マトリックスの設計例について議論する。

  • 磯辺 智範
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 98_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

     医学物理学は、放射線診断、核医学および放射線治療などをはじめ、医学のさまざまな分野において、放射線やその他の物理現象を応用・活用する学問である。画像診断や放射線治療を実践する臨床では、放射線発生装置をはじめとしたハードウェアと装置を制御するソフトウェアが必要となるが、これらハード・ソフトの高精度化と技術の複雑化が急速に進んでおり、臨床において物理工学の知識は必要不可欠となっている。一方で、基礎研究や開発を担う物理工学では、得られた成果の医学応用を目指し、さらなる優れたテクノロジーが臨床に届けられている。この2つ、すなわち、医学と物理工学の架け橋となるのが医学物理士である。2023年5月1日現在、医学物理士資格保有者は1,440名いるものの、本邦特有の事情から、医学物理士の画像診断での活躍の場はほぼなく、放射線治療分野を主戦場としている。放射線治療は、がんや他の疾患の治療に広く使われているが、医学物理士は、放射線治療計画の立案、装置の精度管理、新たな治療技術や装置開発など、治療の安全性と効果を向上させることを目指して活動している。2011年3月の福島第一原子力発電所の事故以降は、放射線災害医療分野の研究開発、医療施設内外での放射線にかかわるリスクコミュニケーション等、放射線防護分野で活躍する人材も増えている。

     本講演では、まずは、医学物理学とはどのような学問か、どんな研究をしているのかを紹介し、続いて臨床に焦点をあて、医学物理士の教育制度、現状、役割、医学への貢献について解説する。

  • 堀 純也
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 99_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

     ME技術教育委員会が1977年に設立され,現在までに第2種ME技術実力検定試験は44回,第1種ME技術実力検定試験は28回の試験が実施された.直近の第44回第2種ME技術実力検定試験における受験者のうち,臨床工学系の学生が約80 %を占めて最も多く,ついで企業関係者が約10 %となっている(残りの約10%は医療機関勤務の者,その他,無回答).したがって,臨床工学技士を目指す学生にとっては登竜門としての位置付けになっており,また医療機器関連企業の教育にも利用されていることがわかる.また,直近の第28回第1種ME技術実力検定試験の受験者についてみると,約25%が臨床工学技士の有資格者,約64%が学生,約4%が企業関係者となっている.第1種ME技術実力検定試験は,EMC(電磁障害防止)管理者として適任とされている臨床ME専門認定士取得のための試験も兼ねていることから,第2種ME技術実力検定試験に比べると,受験者数に対する臨床工学技士の割合が高くなっている.

     第1種,第2種,いずれの試験においても基礎工学に関する分野は重要視されている.ME技術実力検定試験の問題作成検討会においては,単なる工学の知識を問うのではなく,常に医療機器や病院電気設備等との関わりを念頭におきながら問題内容の検討がなされている.第1種ME技術実力検定試験は,第2種ME技術者を指導する能力をもった「適切な指導者」を育てることを目的としていることから,第25回以降,出題形式を大きく変更すると共に,現場で起こり得る問題や現象を中心に出題の題材として扱い,問題の中に与えられた条件・情報等から解決策を探る力を検定する内容として見直しを行った.その際に,従来は個別に出題されていた「ME基礎論(いわゆる基礎工学)」の分野が,「ME安全管理分野」,「生体計測機器分野」,「臨床治療機器分野」に含まれる形で出題されることとなった.

     本講演では実際に出題された医用機械工学分野に関わるME技術実力検定試験の問題をいくつかピックアップしながら試験問題から見たME技術教育について述べる.

  • 片岡 則之
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 99_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    臨床工学技士の国家試験、また、実際の業務において必要とされる多くの工学分野があるが、それらは物理の知識を基礎としている。しかしながら昨今、高校で物理を履修していない入学生が非常に多い。その結果として、我々は工学系分野の教育に苦労しているのが現状である。

    この問題は、高校における物理の履修の有無のみではなく、そもそも物理を理解するための数学の知識不足も起因している。そこで前職では、1年生に対して前期に徹底した基礎数学の科目を設けた。文字式の計算から方程式、関数の基礎(2次関数、三角関数、指数・対数関数など)、基礎的な微分・積分の授業を、演習時間を多く設けて実施した。ここでの工夫は、とにかく演習問題を多く準備したことである。次に物理では「微分・積分」を使わない物理の授業を実践した。ここでも多くの演習問題を解かせるとともに、学生を4〜6名程度のグループにし、「時間中、何を話しても良い」と申し渡してグループ学習を実施した。また、基本的な実験科目を設け、力学現象を目で見て理解出来るよう、バネとおもりを使って力の釣り合い、浮力の測定、あるいは振り子を使って重力加速度の測定を行った。このように、まずは、基礎数学、基礎物理の授業を行い、その後にようやく機械工学の授業に着手出来るレベルであった。実際の苦労や工夫について、出席者の皆様と共有出来れば幸いである。

  • 龍 則道
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 100_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

     本学は臨床工学技士を養成する専門学校であるため、ほぼすべての学生が臨床工学技士国家試験を受験して資格を取得し、医療機関に就職することを目指している。

     機械工学は生体機能代行装置学等の臨床に直結する分野に比べると、臨床現場で生かせるイメージがつきにくい。将来に生かせる分野であることがイメージできないため、電気・電子工学分野と同様に苦手意識をもつ学生が多く、学習課題を先延ばしにする傾向が強いのが現状である。国家試験対策の学習期間に入ってから実施される模擬試験の結果からも、他の分野に比べて学習が進みにくい分野であることがわかる。機械工学の問題を解く中で、「単位はヒント」になることがあるものの、“単位”自体を苦手と感じる学生も多い。

     このような現状において、機械工学を教育していく中では、まず語句の意味を説明するようにしている。専門的な用語に限らず、専門分野特有の独特な言い回しが理解を遠ざけることになりやすい。平易な言葉で語句の意味を説明することで多くの内容が理解しやすくなる。また、学ぶ内容と学生自身の実体験を結びつけることで理解しやすくなるため、イメージしやすいように工夫している。

     これら臨床工学技士を養成する専門学校における機械工学教育の現状と問題点について述べる。

  • 嶋津 秀昭
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 100_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

     機械工学に限らず、基礎工学は物理学が基本である。医療系の各分野の学生は、臨床工学分野でさえも、物理学を苦手にしている学生が多数存在する。基礎工学を担当する教員は物理学を教えることよりも、学生がこの分野を嫌いになってしまった理由をよく考察することが必要である。これを踏まえて、講義の対象となる事項を、できれば基礎医学に関連させて興味を持てる内容として構成することが望ましい。そのためには教員自身が、日常的に基礎工学と同時に医学分野を含めた生体工学全般に関心を持つことが大切である。

     科学の分野で物理学やその思考法が不可欠であることを納得できなければ、講義が表面的な基礎工学教育に留まり、その知識をそのほかの専門教育に生かすことが難しく、結果として「あの科目は何だったのか」ということになり、再び、物理嫌いを作り出すことになる。

     基礎工学に必要な概念は「ディメンジョン」にある。質量、位置、時間など最小限の必要項目を理解した上で、これらの物理的概念に基づいた組合わせを理解することは、結果として物理現象を正しく理解することと等価である。整合性のあるSI単位系で整理しておけば、いくつかの定数を知っておくだけで、公式などに頼らなくても実際に必要な数値計算が可能となる。また、扱う工学だけでなく医学分野でも、分野を超えたアナロジーが基本的な概念を理解する上で役立つ。

  • 佐久間 一郎, 鎮西 清行
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 101_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

     独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の科学委員会運営業務の一環として,AIを活用したプログラム医療機器に関する専門部会が2022年7月に発足し,2023年まで今後発展が予想される機械学習を中心としたAI技術を応用した医療機器ソフトウェアに関して,特に学習に使うデータの在り方について議論を行った。

     市販後に実世界データを集積し学習を継続することで性能をし得る点が、機械学習を用いたSaMDの特徴の一つであるが,現時点では設計段階で市販後の性能変化を科学的に予測することは難しく,研究開発では逐次一定の品質を有する学習、検証、評価データを大量に収集することが重要となる。しかし医療分野ではこの作業そのものに制限が存在することが多い。このため研究開発段階から関連する研究開発上のリスクを回避し,データ収集をすることが重要となる。報告書では重要な論点として,データの「バイアス」に着目し,様々なバイアスがあることを指摘している。またAI医療機器の開発には評価データを再利用して評価せざるを得ない状況もあるが,そのデータの再利用そのものに含まれるリスクや,シミュレーションデータや広く公開されているデータを活用する際の注意点等を指摘している。いずれにせよよ学習/検証/評価において使用するデータの(統計的な)性質がそのSaMDの意図する使用において対象とする患者集団の統計的性質と同等であることが求められる。

  • 森 健策
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 101_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本講演では、人工知能・機械学習におけるバイアスについて考えてみたい。人工知能・機械学習は幅広い分野で利用されるようになった。一方、人工知能・機械学習の利活用においては、様々なバイアスを考える必要がある。その代表的なもんだとしては、(1) 解決すべき問題を選択時に発生するバイアス、(2) データ収集におけるバイアス、(3) 評価バイアス、 (4) アルゴリズム開発におけるバイアス (5) 人工知能・機械学習を市場展開する場合におけるバイアスなど、様々なバイアスが考えられる。医療機器向けの人工知能・機械学習を考えると、学習に利用するデータによって、その性能に偏りが生じることは容易に想像できる。これらを踏まえて、本講演では医療分野における人工知能・機械学習のバイアス問題について、様々な側面から考えてみたい。

  • 清水 昭伸
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 102_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    深層学習などの機械学習を利用した医療機器プログラム(Software as a Medical Device, SaMD) は,連続学習などの高頻度な再学習が可能である.この特徴を利用すれば,Domain shift等によって市販後のSaMDの性能が低下した場合にも,市販後施設の学習データによる再学習によって,性能の回復が期待される.わが国では,このような機械学習を利用したSaMD の特徴を活かすために,変更計画も含めた承認が可能なIDATENと呼ばれる制度が整備された.しかし,その活用は十分とは言えない.理由の一つに,市販後再学習による様々なリスクがあげられる.例えば,市販後再学習によって性能が低下する可能性がある,また,Catastrophic forgetting(破滅的忘却)によって承認時のデータに対する性能が低下するリスクもある.さらに,再学習を繰り返し行った場合の性能評価の際には,大量の医療データの収集は困難であるため,同一評価データを繰り返し利用することが予想されるが,その繰り返しの中で,評価した性能にバイアスが混入するリスクがある.本講演では,同一評価データを繰り返し利用する場合に注目し,その具体的なリスクと対策について紹介する.

  • 岡﨑 譲
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 102_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    医療機器を上市するためにはクラス分類に応じた許認可を得る必要がある。承認が必要な医療機器の承認申請は、申請書及び添付資料等を医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)に提出することにより行う。審査の結果、ベネフィットがリスクを上回ることが確認され、承認拒否事由に該当しないことが確認された場合に申請が承認される。人工知能技術を利用して開発された医療機器の申請に当たっては、「次世代医療機器評価指標の公表について」(令和元年5月23日付け薬生機審発0523第2号通知)の別紙4「人工知能技術を利用した医用画像診断支援システムに関する評価指標」を参考にされたい。医療機器は多種多様であり、個別の品目に応じた評価が求められる。PMDAでは、開発の初期段階から、承認申請前、承認取得後のさまざまなフェーズに対応した相談制度を運用している。医療機器の開発、市販後対応については、相談制度の活用をあらかじめ計画に含めて進めていただきたい。

  • 鷲見 久遠, 河合 辰貴, 髙田 宗樹
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 103_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    近年、深層学習の発展に伴い、医療現場における医療データの分類や疾患検知の精度は飛躍的に向上してきている。現状、深層学習による医療データの分類等を行う場合には、偏りのない多くの学習データが必要であるが、個人情報が含まれているデータは入手難易度が高いため、十分なデータ量を確保できない場合がある。そこで、本研究では、PhysioNetで公開されている大規模実心電図データセット(PTB-XL, a large publicly available electrocardiography dataset)を利用し、ノイズ除去拡散確率モデルを用いてECGデータの擬似的な生成を試みた。学習データには、健常な心電図、不完全な右脚ブロック、左心室肥大、下心筋梗塞、非特異的なST-T波変化の5種類の心電図データを使用する。各心電図データ数はそれぞれ、9432、800、1120、1600、1600である。各データの80 %は学習用データとして使用し、残りの20 %は検証用データとして使用する。尚、サンプリング周波数は100 Hzである。前処理として、時系列長が1024になるように抽出し、最大値が1、最小値が0になるように正規化処理を施した。生成された心電図波形の評価には、動的時間伸縮法(DTW)、無相関検定の2種類を用いた。

  • 中根 滉稀, 鷲見 久遠, 杉浦 明弘, 藤掛 和広, 伊藤 菊男, 高田 宗樹
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 103_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

     近年、社会の高齢化に伴う認知症患者数の増加が深刻な問題となっている。特にアルツハイマー型認知症はその中でも主要な疾患の一つであり、早期発見と適切な治療が重要視されている。この背景の下、認知症治療薬として期待されるレカネマブが薬事承認されたことは、多くの患者とその家族にとって希望となっている。

     しかし、レカネマブ治療を受けるためには、アミロイドPET検査や髄液検査を通じて、患者がアルツハイマー型認知症であることを確認する必要がある。これらの検査は高額であり、また患者にとっても身体的、心理的な負担が大きいという問題がある。さらに、これらの検査設備が整っていない地域では、診断へのアクセス自体が困難な場合も考えられる。

     このような状況を改善するために、簡易的かつ低侵襲で、広範囲にわたる医療現場で利用可能な診断手段の開発が急務とされている。脳波計はそのような要件を満たす潜在的なツールであると考えている。特に簡易型脳波計は、非侵襲的かつ比較的安価で使用方法も簡単という利点が挙げられる。これを用いて認知症が疑われる対象者の脳波の特徴を解析することで、アルツハイマー型認知症の早期診断に役立てることが期待されている。

     本発表では、若年者と老年者に対し認知機能検査時における検査スコアと脳波パターンから、特にアルツハイマー型認知症の早期発見に有効な脳波の指標について議論する。

  • 長谷川 良平
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 104_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本発表者は、これまで重度運動機能障がい者の意思伝達支援を目的として脳波による意思伝達装置「ニューロコミュニケーター」を開発してきました。この装置を用いれば、発話や書字ができない方でも注意の瞬間的な高まりを反映する脳波成分である「事象関連電位」を仮想的なワンボタンスイッチ(脳波スイッチ)としてパソコン画面上の絵カード(介護の要望など)選択が可能となります。このようなシステムの実現に重要や役割を果たしたのは効率的な事象関連電位の誘発手法でした。先行研究としては多数の選択肢(文字や数字)の輝度を順にフラッシュさせるタイプがありましたが、そのシステムで正確な標的の解読を行うためには多数の選択肢を何度も高速フラッシュさせる必要がありました。そのため、ユーザーの疲労感の増加や、それに伴う解読精度の低下が問題となっていました。そこで、我々は以下の手法の導入により、快適かつ効率の良い解読を可能としました:①絵カード単位でのメッセージ選択、②輝度変化ではなく、文字の重ね書きによるフラッシュ、③リアルタイム解読によるフラッシュ打ち切り、④解読状況のユーザーへのリアルタイムフィードバック。現在、これらの効果を検証するための臨床評価を行いつつ、長期寝たきりによる認知機能低下予防のために脳波スイッチによる認知トレーニングシステム(脳波脳トレ)の開発やその対戦競技化(bスポーツ)にも取り組んでいます。

  • 松浦 康之, 牧野 瑞稀, 高田 宗樹
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 104_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    観光地などで、3D映像を視聴したり、仮想現実(VR)を用いた疑似体験をしたり、拡張現実(AR)による案内など、3D映像を用いた様々な利活用が行われている。一方で、3D映像視認時に生じる酔いについては、未解決のまま残っており、先行研究においても、3D映像視聴時が生体に及ぼす影響が報告されている。しかし、それらの先行研究の多くは心電図や脳波など、一種類あるいは二種類の生体信号を計測している。そのため、視線運動や心電図、脳波や重心動揺といった複数種の生体信号の同時計測を行い、複合的に検討している例は多くない。そこで、暗室における2Dおよび3D映像視聴が生体に及ぼす影響について、複数種の生体信号計測による基礎的検討を目的として、研究を行った。本研究では、若年男性を対象に、2Dおよび3D映像を周辺視認または中心視認の方法で60秒間視認させ、この間連続して視線運動、脳波、心電図、脳波、重心動揺の計測を行った。また、視認映像と視認方法の組み合わせについては順序効果を考慮しランダムな順番で行い、すべての映像視認が終了した後SSQにて酔いの心理的評価を行った。これらの解析結果から、3D周辺視認が最も酔いやすいことが示唆された。一方で、追従視認ではリラックス度が高いため、3D映像視聴時の酔いを軽減できる可能性が示唆された。

  • 高井 英司, 中根 滉稀, 高田 宗樹
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 105_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    香気評価は香料開発の重要な過程であり、通常は官能評価により行われる。近年、嗅覚刺激に対する生理応答を利用した生体計測による香気評価も検討されている。生体計測を用いることで、客観的な評価や経時的な変化の追跡が可能となるかもしれない。加えて、嗅覚刺激によるストレスレベルや情動の変化を可視化できる可能性がある。さらに、非言語的な評価であるため、認知症患者などへの適用も期待される。そこで、自律神経により制御される胃の電気活動を計測する経皮的胃電図に着目し、嗅覚刺激時の胃電図データを解析した。解析手法として、一般的な周波数解析に加え、非線形解析として時系列データの最小埋め込み次元を推定する誤り近傍法や、決定論性を並進誤差として定量的に評価できるWaylandアルゴリズムを使用した。濃度の異なるバニラ香料を用いた嗅覚刺激時の胃電図データについて解析を行ったところ、周波数解析には変化が見られなかったが、最小埋め込み次元は濃度によって異なる値を示した。また、並進誤差は香気濃度に伴って増加し、主観的香気強度と強い正の相関が見られた。以上より、胃電図の非線形解析は香気評価方法として有用である可能性が示唆された。今後は、嗜好性や快適性の異なる香料の使用や香気提示方法の検討により、より汎用性の高い評価技術の開発を目指す。

  • 髙田 真澄, 中根 滉稀, 瓜巣 敦子
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 105_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

     MCIの症状には、認知機能が低下することによって現われる物忘れ、理解・判断力の低下、情緒症状、引きこもりなどは一般的な症状である。また、視力障害などの視機能の低下があげられ、特に、視空間認知障害はアルツハイマー型認知症に多くみられる症状である。

     認知機能低下と脳血流の関係性については様々な研究によって明らかにされており、脳への情報刺激が脳血流を増大させることがわかっている。これまでの研究において、立体映像視認時は、立体の位置や奥行などの情報量が増加することから、脳内処理過程での脳血流量が増大していることを述べきた。立体映像視認については、水晶体―毛様体筋の収縮、弛緩をともなうことから視力低下の防止等の期待がもたれる。立体映像視認を行うことで、脳血流量の増加・視機能の維持を図り、認知機能の維持促進に活用するための脳波測定を行った。

     詳細は、発表において報告する。

  • 梶 弘和
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 106_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    現在、特に創薬分野において非臨床試験のヒトへの外挿性を向上させることを目的に、生体模倣システム(MPS)の開発が盛んに検討されている[1-3]。各種臓器の中でも胎盤は、動物種により構造や機能が大きく異なるため、ヒト胎盤機能を有するMPSの開発は、生物医学的価値が高く、医薬品のみならずサプリメントや化粧品評価系への多大な波及効果が期待できる。最近我々は、近年樹立されたヒト胎盤由来の栄養膜幹細胞(TS細胞)を用いて[4]、胎盤の絨毛構造を有するオルガノイドの培養条件を見出した[5]。さらに、胎盤バリア能を定量評価するためにより汎用性の高い平面状オルガノイドの作製にも成功している。本講演では、我々が開発しているヒト胎盤バリアモデルについて紹介する。他にも妊娠高血圧症候群の発症機序解明のための血管浸潤モデルについても紹介する。

    [1] I. M. Goncalves et al., Cancers 14, 935 (2022).

    [2] V. Carvalho et al., Sensors 21, 3304 (2021).

    [3] L.-J. Chen, H. Kaji, Lab Chip 17, 4186-4219 (2017).

    [4] H. Okae et al., Cell Stem Cell 22, 50-63 (2018).

    [5] T. Hori et al., Nat. Commun. (2024). DOI: 10.1038/s41467-024-45279-y

  • 青山 忠義
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 106_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    この講演では、ヒトの活動空間をマイクロ世界へと拡張するマクロ・マイクロ・インタラクション技術とその生殖補助医療への応用展開について紹介します。まず、光学顕微鏡において広範囲・高解像度撮影の両立を可能としたマルチタスク型の撮像技術、単眼画像計測による細胞の実時間デプス推定技術、画像計測による実時間力推定技術等の基盤技術を統合した微細操作システムを解説します。続いて、能力接続技術を用いた微細操作支援AI robotについて解説します。能力接続技術では、胚培養士が獲得した能力を用いたデータ呈示により、顕微授精のために必要な技能獲得を目指す「初学者」へ胚培養士の能力を使用可能とするものです。最後に、没入型微細操作支援システムについて解説します。没入型微細操作支援システムは、操作者がマイクロ世界に没入し、自分が小さな世界に入り込んだような感覚で卵子や胚の操作を行うことを可能にするものです。これらの微細操作支援技術により、生殖補助医療におけるタスクの簡便化や顕微授精の技能獲得プロセスの簡約化が期待でき、胚培養士不足による地域格差の解消や、胚培養士の技能伝承に貢献できるものと考えています。

  • 村山 嘉延
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 107_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    不妊症の治療に顕微授精や体外培養などの高度ヒト生殖補助医療は最も有効な手段であるが、それでも採卵当たりの妊娠率は8.6%と未だ低い水準にあり、技術的に克服すべき課題が残されている。とくに、受精から移植までのあいだの数日間、受精卵は体外で培養されなければならず、生体内(in vivo)の環境とは異なるために約40%ほど受精卵品質を落としていると言われている。受精卵の品質に関わる医工学的な課題は(1)受精卵品質を維持する培養環境、(2)受精卵に優しいハンドリング技術、(3)受精卵の品質を評価(診断)する手法の実現であり、本発表ではこれらの最先端について紹介するとともに、私たちのこれまでの研究成果を交えてさらなる解決の方法について可能性を探りたい。加えて、生殖補助医療を支援する技術群が再生医療など周辺領域への応用に期待されている事例を紹介する。

  • 松浦 宏治
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 107_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    生殖補助医療において、良好な精子が受精し、かつ体外胚培養の成績向上が必要である。我々はこの目的を果たすために、マイクロ流体デバイスを開発し、生殖細胞の操作と機能解明に取り組んできた。本発表ではその研究の経緯を紹介する。運動良好精子分離マイクロデバイスの開発から当分野の研究を開始し、精子運動性を評価する試験紙デバイスに関しては臨床試験を行うことができた。我々が開発した試験紙デバイスでは酸化還元酵素活性やATP産生を評価することができ、その酵素活性が運動精子の数に相関していることを見出している。現在、哺乳類運動精子のATPライブイメージングを進めている。受精卵培養についてはマウス胚、ブタ胚、ヒト胚を用いた研究を進めてきた。Tilting Embryo Culture System (TECS)を開発し、受精卵培養を卵管内と同様に胚を移動させながら培養する体外培養系を構築している。これまで、臨床研究やマウス胚発育に関するRNA-seqをこれまで進めてきた。マイクロデバイスを用いたメカニカルストレス応答評価系も構築しており、マウス受精卵に圧力が負荷された際に細胞内カルシウム濃度の上昇が観察された。初期胚内にメカニカルストレス応答機構を有しており、卵管内環境における応答機構の意義を検討している。生殖細胞の運動・発生に伴うエネルギーとメカニカルストレスとの関係について理解を深め、生殖補助医療への発展を目標としている。

  • 池内 真志
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 108_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    近年,我が国のみならず世界的に,生殖補助医療への関心が高まっているが,他の医学領域に比べ,工学的なアプローチは極めて少ないのが現状である.本講演では,機械工学,特にマイクロメカトロニクスの観点から,生殖補助医療の各工程を捉え直し,生体のシステムへの介入,あるいは支援によって,生殖補助医療の成功率を高める,演者らの研究開発の最先端を紹介する.

  • 矢藤 慶悟, 橋爪 克弥
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 108_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    2022年に不妊治療の保険適用範囲が拡大し、一部の不妊治療法が保険適用になり患者の選択肢が広がった。さらに高額療養費制度の対象に入ったことで患者の利便性向上が向上し、国内の不妊治療への大きなインパクトとなった。

    現在の国内の治療状況として、平均初産年齢の上昇に伴い体外受精の治療件数が増加しており、2022年の保険適用によりさらなる増加が想定される。一方で課題も顕在化し、成功率、身体的な負担、子どもへのリスクは改善する必要がある。他方、世界の流れとして、不妊検査やARTなどへの投資家からの投資は加速し、いくつかのスタートアップは資金調達に成功している。

    この大きな潮流の中で、本セッションでは、日本におけるARTの新規開発、また次世代ARTの可能性について議論するために、スタートアップ事例を参照しながらグローバルの動向について紹介する。また、ベンチャーキャピタルの視点から、事業化可能性や、国内で事業成長させていくための要素について紹介したい。

  • 遠藤 達郎
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 109_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    デジタルヘルスケアを実現するためには、生体の各種化学的・物理的情報を簡便・迅速に取得し、データとして蓄積可能なセンサが必要である。一方で我々は、ナノメートルの構造より観察される光学現象を利活用する学術領域「ナノフォトニクス」を基盤技術としたバイオセンサの開発を行っており、各種生化学マーカーの検出・定量に成功している。ナノフォトニクスを基盤技術としたバイオセンサは、スマートフォンや簡易光学系での測定が可能であることからデジタルヘルスへの相性が良い。本発表では、我々がこれまでに取り組んできたバイオセンサ開発例を紹介し、デジタルヘルスへの応用展開について述べる。

  • 藤原 正澄
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 109_2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    ナノダイヤモンド量子センサーは、高感度にナノスケールの磁場や温度を計測する手段として大きな関心を集めている。この技術は、光学顕微鏡観察下でダイヤモンドの窒素空孔色欠陥中心の電子スピン状態を測定するものであり、原理検証はおおむね完了している。現在の研究の中心は、これを如何に特定の用途における応用に実装し、高感度かつ有用なセンサーとして利用するかという点となる。本講演では、生体温度計測やバイオ分析チップデバイスの開発など、我々の最近の成果について報告し、今後の展望について議論する。

  • 仲上 豪二朗
    2024 年Annual62 巻Abstract 号 p. 110_1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    ICT、IoT、AIなどの先端技術が急速に発展し、これら技術の進展がデジタルトランスフォーメーション(DX)として看護分野にも波及している。特に、病院や在宅ケアにおける人員不足の課題を背景に、DXを活用してケアの質を維持、または向上させる取り組みの重要性が増している。看護分野におけるバイタルサイン、治療・看護の記録、患者のアウトカムなど、豊富なデータが電子化され利用可能な状態にあるが、ナーシングデータサイエンスの人材不足や統合データベースの欠如が課題である。本発表では、このような背景の下、電子カルテデータを活用した褥瘡や転倒などの有害事象の予測に関するAIモデル、体圧センサシートを用いたロボティックマットレスによる最適圧力の提供、遠隔コンサルテーションシステムなど、DXを通じて患者のQOL向上に貢献する先進的な事例を紹介する。これらの技術が看護の現場でいかに実装され、患者の幸福寿命を延ばすために役立てられているのかを示し、将来の看護におけるDXの可能性について議論を深めることを目指す。

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