2024 年 Annual62 巻 Abstract 号 p. 241_2
悪性腫瘍の治療法として不可逆エレクトロポレーション(IRE)が注目されているが,人体に対して数kVもの高電圧を印加する必要があるため低電圧化が望まれている.この低電圧化へのアプローチの1つに,何らかの外来物質を治療対象に添加するアジュバントが挙げられる.そこで本研究では,金ナノ粒子を添加することによって治療対象の電気的特性を変えることを提案し,インピーダンス法による金ナノ粒子分散溶液の導電率測定を行った.
粒径20〜200 nmの金ナノ粒子をPBS中に濃度105,107,109 particles/mlで分散させ,LCRメーターと自作測定セルを用いてインピーダンス計測を行った.その結果,濃度に寄らず粒径20 nmの分散液において,導電率は溶媒のPBSのそれよりも約4%高い値を示した.また,濃度105,107 particles/mlの分散液では,粒径が大きくなるにつれて導電率は減少し,PBSのそれに近づいた.一方,濃度109 particles/mlの分散液では,粒径が増すと導電率は大きく低下し,粒径200 nmの金ナノ粒子分散液の導電率はPBSの約50%にまで小さくなった.さらに,このような金ナノ粒子を治療対象に分散させて体表からのIREを施すことを想定し,有限要素解析によって電界分布を計算したところ,この領域ではより高い電界が作用することが明らかになった.
これらの実験と解析の結果,金ナノ粒子を用いたアジュバントによって不可逆エレクトロポレーションの臨界電界を下げられること,あるいは壊死領域を拡げることが可能であることが示された.