抄録
本稿は、公衆衛生の領域における西欧の司牧的権力・統治性の系譜学を現代の環境主義的統治性の分析に延長・接続させようとする試みの一部である。革新主義時代のアメリカにおけるMunicipal housekeeping運動はヴィクトリアン・ジェンダー・イデオロギーを背景に私的領域を都市の生活環境保全と結びつけた。その論理は1930年代の日本で婦選運動の打開策として採用され、現代の消費者運動・環境保護運動の基層にも反復されている。他方、1980年代以降のカルチュラル・エコフェミニズムは、女性の優位性を論拠とする構造を反復しつつ、そこにロマン主義的な終末=救済論を重ね合わせる。統治性の内部及び周辺の様々な層で諸々の司牧的実践が機能している。そして、それぞれの実践の中心にあって実践を定義し合理化する言説は、先行する諸言説から取り出された構造、部品、素材を用いて自らをアセンブルするのである。