International Journal of Marketing & Distribution
Online ISSN : 2186-0939
Print ISSN : 1345-9015
ISSN-L : 1345-9015
Original Articles
A Study on Supply Chain Integration in Retail: The Relationship between Supply Chain Strategy, Structure, Integration and Performance
Toyoki Kijima
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2018 Volume 21 Issue 2 Pages 47-62

Details
Abstract

本研究は,小売業における物流を中心としたサプライ・チェーンの統合を,戦略-組織構造-統合-業績の関係を用いて説明するとともに,物流センターの利用の有無による違いを明らかにした。戦略,組織構造,統合,業績それぞれの関係について仮説を設定し,わが国の小売業を対象にした調査結果を用いて検証した。その結果,戦略-公式化-サプライ・チェーンの統合-業績の一連の関係が成り立つことが実証された。さらに,物流センターの利用の有無によって,戦略と組織構造の関係,サプライ・チェーンの統合と業績との関係に違いが認められた。

1  はじめに

本研究の目的は,小売業における物流を中心としたサプライ・チェーンの統合(Supply Chain Integration: SCI)を,戦略-組織構造-統合-業績の関係を用いて説明するとともに,物流センター(Distribution Center: DC)の利用の有無による違いを明らかにすることである。

サプライ・チェーン・マネジメント(Supply Chain Management: SCM)の主要な概念の1つに統合がある(Cooper, Lambert, & Pagh, 19971)。SCIとは,Flynn, Huo, and Zhao(2010, p. 59)によると,「サプライ・チェーン・パートナーと戦略的に協働して,企業内,企業間のプロセスを管理すること」である2)。具体的には,企業内における複数機能間の内部統合,上流の仕入先や下流の顧客との外部統合である(Chow, Heaver, & Henriksson, 1995Stevens, 1989Stock, Greis, & Kasarda, 1998)。ここでいう統合は,協力,協調,相互作用,協働の概念を含むものであり,組織間の資本関係や所有関係を必要としない点で垂直統合と異なる(Lawrence & Lorsch, 1967O’Leary-Kelly & Flores, 2002Porter, 1980)。SCIに関する研究は,過去20年間で活発化し,SCIの実現が業績を向上させることが知られている(Leuschner, Rogers, & Charvet, 2013)。

SCIに関する研究の焦点は,SCIを実現する要因やSCIの実現による影響といったSCIの前後関係である。そのなかで,戦略を状況変数とした状況適合理論のモデルである戦略-組織構造-組織過程-業績3)を用いた研究が行われている(Chow et al., 1995Rodrigues, Stank, & Lynch, 2004Stank & Traichal, 1998)。SCIは組織構造と業績を媒介する組織過程として理解されており,戦略,組織構造,SCIの適合が業績を高めるのである。

しかし,こうした先行研究には,組織構造をその中心的概念である公式化とすること,SCIを内部統合,仕入先との統合,顧客との統合に区別することの両方を取り入れた研究が少ない。本研究は,これら2点を取り入れて戦略から業績までの一連の構造を実証する。

それから,SCIの前後関係がDCの利用の有無によって異なることに着目する。SCIに限らず,SCMに関する研究の多くはメーカーを対象にしており,小売業に着目した研究は少ないことが指摘されている(Defee, Randall, & Gibson, 2009Randall, Gibson, Defee, & Williams, 2011Schramm-Klein & Morschett, 2006)。現実には,小売業の多くがDCを設置し,サプライ・チェーンにおける物流プロセスを自ら管理するようになってきている。食品流通が発達している英国を例にとると,1970年代の小売店舗への直送の時代から,1980年代のDCへの在庫の集中化と物流事業者への外注化へと変わり,1980–1990年代には複数温度帯の商品を統合した複合物流が展開され,2000年代になると商品の仕入原価に関係する上流段階の統合へと進化している(Fernie, 1989Smith, 1998Sparks, 2010矢作,2000)。すなわち,英国食品小売業は,DCの設置を契機に,メーカーから店舗への配送機能を肩代わりし,さらにメーカーの工場や物流拠点から自ら商品を集荷し,DCへの配送をコントロールすることで,サプライ・チェーン全体のプロセスを統合している(Stephens & Wright, 2002)。小売業にとってDCの設置は,戦略的な意義が大きく,仕入先のメーカー段階から消費者に至る小売サプライ・チェーンの中間ノードとしての機能を果たしている(Ayers & Odegaard, 2007McKinnon, 1990)。

わが国の小売業でも,英国と同様に,多くの小売業がDCを利用して商品を調達しており,DCの設置に伴う集中化と外注化が進行している(臼井,2007木島,2014寺嶋,2012)。わが国の流通では,古くから卸売業の役割が大きく,卸売業が小売店舗まで商品を配送し,その店着価格を売渡価格の基準とした商物一致の取引が行われてきた。このため,昭和40年代まで自前で物流機能をほとんど持たなかったが,「標準化された形での商品の安定調達」を求めて,DCの設置に取り組むようになった(中田,1992,p. 30)。現在では,店頭作業の負担軽減を主な目的として,DCの利用が幅広い業態で広がっており,店頭作業に基づいたDCの設計とオペレーションが実現されている(臼井,2005a2005b内田,1996)。

先の研究の指摘とこうした実態を踏まえて,本研究の対象を小売業とする。しかし,小売業の中には自社専用のDCを利用せず,仕入先が店舗に直接納品する企業も存在する。DCの利用の有無によって物流プロセスが変わり,SCIの前後関係も変わるため,DCの利用の有無を区別して実証する必要があると考える。

本稿の構成は,初めに,SCIに関する研究,小売業における物流を中心としたSCMに関する先行研究をレビューする。次に,本研究の仮説を提示する。その後,仮説を検証するために,わが国の小売業を対象にした定量調査の結果を用いて分析する。最後に,分析結果に考察を加え,結論する。

2  先行研究レビュー

2.1  戦略,組織構造,サプライ・チェーンの統合,業績

ロジスティクスの統合4,5)はいかにして推進されるのかについて,Chow et al.(1995)は戦略-組織構造-組織過程-業績の関係を用いて説明している。彼らは,ロジスティクスの統合を,ロジスティクスの組織構造と業績の中間の成果変数として定義し,高い業績を実現するための手段として必要な成果物であると考えた。ロジスティクスの統合に関する研究において戦略-組織構造-統合-業績の関係を提唱している。

Chow et al.(1995)の枠組みをもとに,Stank and Traichal(1998)はロジスティクスの戦略,組織構造,内部統合,業績の関係について検証した。組織構造と業績との間には,意思決定の集権化とプロセスの公式化が業績を高めるという関係が実証された。また,各機能の内部統合は集権化,公式化,業績それぞれと正の関係にあり,組織構造-統合-業績の関係があると結論している。一方,戦略と組織構造との関係は実証できなかった。この点について,戦略を柔軟性の1つに集約していたことが原因であると推測し,複数で検証することが必要であるとの課題を示した。

同様に,Rodrigues et al.(2004)は,ロジスティクスの戦略-組織構造-統合-業績の関係を実証し,戦略から業績までの一連の構造を明らかにした。当初,統合を内部統合と外部統合に分けて,業績との関係を検証したが,どちらの関係も実証できなかった。このため,統合を2つに分けず,1つの統合として,統合が業績を高めることを実証した。

このように戦略-組織構造-統合-業績の関係モデルは,SCIに関する研究で用いられており,その有効性が実証されつつある。しかし,戦略,組織構造,SCI,業績の構成概念は各研究で様々である。そこで,以下では4つの構成概念に関する先行研究を整理する。

2.1.1  戦略

戦略は,効率性と敏捷性という2つのサプライ・チェーン戦略について研究されている。効率性は価値のないプロセスや無駄を削除することを重視する戦略であり,敏捷性は変わりやすく多様な顧客ニーズに対応する柔軟性と反応性を重視する戦略である(Lee, 2002Mason-Jones, Naylor, & Towill, 2000Yi-nan & Zhao-fang, 2009)。効率性は在庫削減などコストが,敏捷性は柔軟性などサービスが重要な要素である点が決定的に異なる(Mason-Jones et al., 2000Narasimhan, Swink, & Kim, 2006Naylor, Naim, & Berry, 1999)。Qi, Zhao, and Sheu(2011)は,この相違点に着目し,Porter(1980)が提唱したコスト・リーダーシップ戦略と差別化戦略との関係を検証し,コスト・リーダーシップ戦略が効率性と正の関係があり,差別化戦略が敏捷性と正の関係があることを実証した。SCIとの関係については,Yi-nan and Zhao-fang(2009)が,効率性の戦略と敏捷性の戦略がそれぞれ内部統合と外部統合と正の関係にあることを実証した。

2.1.2  組織構造

組織構造は,SCIに関する研究において主に公式化と集権化が採用されている。公式化とは「ロジスティクス活動の目標,規則,方針,手続きが正確かつ明確に公式化されている程度」(Chow et al., 1995, p. 289)であり,集権化とは「ロジスティクスの意思決定力が組織に集中している程度」(Chow et al., 1995, p. 288)である。

Mollenkopf, Gibson, and Ozanne(2000)は,マーケティングとロジスティクスの機能間の内部統合と組織構造等の関係について検証している。内部統合は情報の共有と活動の調整で構成され,内部統合を高める組織構造的な要因として公式化,集権化,報酬システムの3つについて分析が行われた。分析の結果,内部統合との関係が認められたのは公式化だけであった。回答者をマーケティング担当に限定すると,活動の調整による内部統合と公式化には正の関係があることが確認された。

Kim(2007)は,SCIの段階に応じて,採用されるSCM組織が異なることを実証した。SCM組織をChow et al.(1995)が提示した組織構造の特性である集権化,公式化,階層性の高低の組合せで分類し,各SCM組織の分布をSCIの段階別に確認した。その結果,内部統合の段階では集権化,公式化の高い組織が採用されている傾向があることから,内部統合にはSCM組織の集権化,公式化が重要であると結論している。しかし,外部統合の段階では集権化と公式化の高い組織が全く存在しなかったため,過度な集権化,公式化は外部統合を阻害する可能性があることを示唆している。

2.1.3  サプライ・チェーンの統合

Stevens(1989)は,SCIに,未統合段階から機能統合,それから内部統合が起こり,外部統合へと拡大するという段階があることを提唱した。

このStevens(1989)の説を支持する実証研究が次の通り行われている。Gimenez and Ventura(2003)は,ロジスティクスと生産の内部統合と外部統合それぞれが業績を高めること,外部統合の前に内部統合が起こることを実証している。Gimenez and Ventura(2005)は,内部統合をロジスティクスと生産の統合だけではなく,ロジスティクスとマーケティングの統合を含めた2つにし,内部統合と外部統合の関係を実証している。内部統合は外部統合を推進するが,生産との内部統合の方がマーケティングとの内部統合よりも外部統合に対する影響が高いことが明らかになった。続くGimenez(2006)では,より高い外部統合を達成するためには,ロジスティクスと生産の統合だけではなくロジスティクスとマーケティングの統合も必要であることを明らかにしている。他にもChen, Daugherty, and Roath(2009)が,内部統合が外部統合を高め,外部統合が業績を高めることを実証している。

Flynn et al.(2010)は,外部統合を仕入先との統合と顧客との統合に分け,内部統合を含めた3つの統合が業績に対してそれぞれどのような影響があるのかを検証している。内部統合は業務的業績と企業業績に,顧客との統合は一方の業務的業績に関係することが確認されたが,仕入先との統合はいずれの業績にも有意な関係が認められなかった。しかし,仕入先との統合は顧客との統合との業績に対する交互作用が認められた。この結果を受けて,仕入先との統合と顧客との統合は外部統合という1つの統合として取り扱うのは適切ではないこと,仕入先との統合と業績との関係は直接的な関係がないことが推察されている。

2つの外部統合の関係について,Frohlich and Westbrook(2001)は上流の仕入先と下流の顧客のどちらの方向にも統合が広範にわたるとき,業績の改善率が最も高いことを実証している。He, Lai, Sun, and Chen(2014)は,仕入先との統合と顧客との統合それぞれが業績を高めることを実証した。さらに,仕入先との統合が顧客との統合に対して正の影響があることも確認されたため,仕入先との統合の後に顧客との統合が起こるという順序があることを示唆している。

他方,SCIの対象に物の流れと情報の流れがあることが,サプライ・チェーンやロジスティクスと同様に知られている(Cooper et al., 1997CSCMP, 2013Pagell, 2004)。これを受け,Prajogo and Olhager(2012)は,SCIを物流の統合と情報の統合に区別し,情報の統合が物流の統合を促進し,物流の統合が業績を直接高めることを実証している。

最後に,小売業のSCIに関する研究は,Çerri(2014)が行っている。ここでは,Bowersox, Closs, and Stank(1999)6)の内部統合などを含む6つの統合と一本化されたSCIとの関係について検証されている。SCIには,顧客との統合,内部統合,仕入先との統合,さらに行動に関連する関係の統合の4つの統合が関係することが明らかになった。なかでも,SCIへの影響力は顧客との統合が最も高く,重要であると結論している。調査対象は小売業に限定されており,管見の限り小売業のSCIに関する研究は本研究以外にない。

2.1.4  業績

Gimenez and Ventura(2003)は,ロジスティクスに関する絶対評価した業績と他者との比較によって相対評価した業績の2つについて,内部統合と外部統合との関係を検証している。分析の結果,内部統合と外部統合がともに関係しているのは絶対評価した業績であった。なお,絶対評価した業績は,物流コストの削減や欠品の削減,納品リードタイムの短縮などで構成されており,Gimenez and Ventura(2005)でも使用されている。

2.2  小売業のサプライ・チェーン・マネジメント

2.2.1  海外の小売業

小売業の物流を中心としたSCMは,英国食品小売業を対象とした研究で蓄積されているため,その発展の経過を時間軸に沿って確認する。

Fernie(1992)は,1980年代までの英国食品小売業の物流システムの変化が大規模な物流センターであるRDC(Regional Distribution Center)への在庫の集中化と物流事業者への外注化であると指摘している。RDCへの在庫の集中化の利点は,店舗における売場スペースの拡大,バックルームでの混雑の緩和,消費需要への変動に対する反応性の改善,売場生産性の向上,在庫管理の効率化などである(Fernie, 1989)。他方,物流事業者への外注化は,当時の市場環境下において,小売業が柔軟性を特に重視していた結果,推進された(Fernie, 1989)。小規模小売業でも外注化が行われ,外注先の選定には低コストが最も重要視されていた(Cooper & Johnstone, 1990)。

Smith and Sparks(1993)は,1980年代から1990年代にかけて,小売業の物流がこれまでの集中化から複合化へと展開されていることを整理している。複合物流の特徴は,DCや配送車両において常温品,低温品,生鮮品,冷凍品をそれぞれ複数の温度帯で一括して管理することである。複合化による効果は,多頻度配送,在庫の削減,欠品による販売機会損失の削減,発注精度の改善,消費者に提供する商品鮮度の改善,一括納品による店舗での混雑の解消などオペレーションの効率化である。

Fernie, Pfab, and Marchant(2000)は,1990年代後半に,小売業の店舗とRDCの物流ネットワークにメーカーが統合されていると指摘している。当時,小売業は,RDCの集中化による店頭在庫の削減に次いで,RDCの在庫を削減しようとしていた。メーカーに対してRDCへの納品リードタイムの短縮や多頻度納品,発注単位の縮小を求めた。また,配送車両の帰り便を活用し,メーカーの工場やDCに対して引取物流を行うようになっていた。メーカーとRDC間,RDCと店舗間の2つの物流において,小売業,メーカー,物流事業者が協働して物流コストや在庫の削減に取り組む動きが見られた(Smith, 1998Smith & Sparks, 2004)。

2.2.2  日本の小売業

先述の通り,わが国の小売業でも,英国と同様に,多くの小売業がDCを利用して商品を調達している(臼井,2007木島,2014寺嶋,2012)。わが国における小売業のDCの利用は,少なくとも今から50年くらい前に始まった。中田(1992)は,昭和30年代まで店舗への納品は卸売業が担っていたが,「チェーン・ストアが調達物流を意識し,そのための体制を考えるようになったのは昭和40年代の始め頃からである」(中田,1992,p. 30)と言及している。DCの利用は大規模小売業を中心に普及してきたが7),現在では売上高の比較的小さい小売業でも利用している(臼井,2007木島,2014寺嶋,2012)。

小売業は,こうした自社専用のDCを利用することで,コストの削減とサービスの向上を実現している(日本加工食品卸協会,20088)。近年ではメーカー,卸売業と連携して物流サービス水準を従来よりも下げる方向で,その適正化を目指して取り組んでいる(流通システム開発センター・流通経済研究所,2011201220132014)。

欧米と異なる点は,小売業の物流における卸売業の役割が大きいということである。わが国の小売業はDCの運営を卸売業に委託し,DCの在庫の所有権を卸売業が持つことがあるが,欧米では小売業が物流事業者に直接委託して在庫の所有権を持ち自ら物流機能を果たしている(臼井,20012006)。

3  仮説

本研究の枠組みは,戦略,組織構造,SCI,業績に一連の関係があると仮定し(Chow et al., 1995Rodrigues et al., 2004Stank & Traichal, 1998),DCの利用の有無によってそれぞれの関係が異なるというものである。

戦略は,SCIに関する先行研究において効率性と敏捷性が用いられ(Yi-nan & Zhao-fang, 2009),Porter(1980)の基本戦略との関係も検証されている(Qi et al., 2011)。小売業においても,これらの主要な概念であるコストの削減とサービスの向上が指向されている(Randall et al., 2011;日本加工食品卸協会,2008)。したがって,本研究では戦略を「効率性指向」と「敏捷性指向」とする。

組織構造は,SCIに関する研究において公式化と集権化が採用され,SCIとの関係が明らかになっている(Kim, 2007Mollenkopf et al., 2000)。集権化の程度はチェーン・ストアと独立小売店という企業特性によって異なるため9),本研究では「公式化」に焦点を当てることにする。「公式化」とは,物流の方針や計画,役割,手順が明確に公式化されている程度のことである(Chow et al., 1995)。

戦略と組織構造の関係については,物流を効率的に運用するために,規則や手順を明確に公式化する一方で,日々のオペレーションにおいて,市場環境を常に把握し,顧客の変化するニーズに対応することをルーチン業務として公式な仕組みにすることもある(Daugherty, Stank, & Rogers, 1992Stank & Traichal, 1998)。したがって,「効率性指向」と「公式化」には正の関係があり,「敏捷性指向」と「公式化」にも正の関係があると考える。

DCの利用の有無による戦略と組織構造の関係の違いは,DCの設計や運用には店舗の物流活動が公式化されている必要があるため,DCを利用している小売業の方が利用していない小売業に比べて,「効率性指向」と「公式化」の正の関係,「敏捷性指向」と「公式化」の正の関係は一層強いと考える(臼井,2005a,2005b;内田,1996)。

仮説1-1:「効率性指向」と「公式化」には正の関係があり,DCを利用している小売業の方がその関係が一層強い。

仮説1-2:「敏捷性指向」と「公式化」には正の関係があり,DCを利用している小売業の方がその関係が一層強い。

SCIには,企業内における機能間の内部統合と,取引先との外部統合があり,外部統合は仕入先との統合と顧客との統合に区別することができる(Chow et al., 1995Flynn et al., 2010Stevens, 1989Stock et al. 1998)。本研究でも,統合を「内部統合」,「仕入先との統合」,「顧客との統合」とする。

内部統合は,メーカーを対象にした先行研究において,物流と生産,物流とマーケティングの機能間の統合として取り扱われている(Gimenez, 2006Gimenez & Ventura, 2003, 2005)。本研究では,小売業の主要な活動である販売と物流との統合として取り扱うことにする。具体的には,販売計画と物流計画が相互に共有されていたり,店舗での販売活動と店舗への物流活動が調整されていたりすることなどを想定する。例えば,イトーヨーカ堂は,店舗への配送やDCの運営などの効率化に向けて,店舗への納品条件を見直す際に,社内の販売部や店舗と調整している(流通システム開発センター・流通経済研究所,2011,2016)。

「仕入先との統合」は,先行研究と同様に仕入先との物流の統合とする。卸売業などの仕入先は,店舗に直接納品していなくても,すなわち小売業がDCを利用している場合でも,店舗への出荷に合わせてDCに納品したり,在庫所有権を持ち,受注に対して欠品しないように補充する(臼井,2009)。物流の効率化に向けて取り組む際にも,例えば,イトーヨーカ堂では,DCの在庫の適正化に向けた課題の抽出と対応策の検討を,仕入先やDCの運営会社と一緒に行うように,仕入先との調整が必要となる(流通システム開発センター・流通経済研究所,2017)。

組織構造の公式化と内部統合の関係は,先行研究から正の関係があることがわかる(Kim, 2007Mollenkopf et al., 2000Stank & Traichal, 1998)。物流の手順や役割が明確に公式化されている場合は,販売という物流とは異なる機能や部門とも調整しやすいと考える。一方,公式化と仕入先との統合との関係は,過度な公式化が外部統合を阻害する可能性があることから,負の関係があると考える(Kim, 2007)。仕入先との統合には取引主体間で信頼など非公式な関係が必要なのである(Paulraj & Chen, 2007;Yeung, Selen, Zhang, & Huo, 2009)。

DCの利用の有無による公式化と内部統合の関係の違いは,DCを利用している小売業では,店舗での販売活動の状況などを踏まえた物流サービスが提供されるため,「公式化」と「内部統合」の正の関係は一層強いと考える。一方,仕入先はDCの物流機能に応じて納品するため,「公式化」による「仕入先との統合」の負の関係は一層強いと考える。

仮説2-1:「公式化」と「内部統合」には正の関係があり,DCを利用している小売業の方がその関係が一層強い。

仮説2-2:「公式化」と「仕入先との統合」には負の関係があり,DCを利用している小売業の方がその関係が一層強い。

「顧客との統合」は,本研究では小売業を対象にしているため,消費者の需要との統合という意味で用いる。一般的に,顧客との統合は,仕入先との統合と同じ文脈で,川下の取引先企業と協働してプロセスを管理することである。具体的には,諸活動の調整や改善,計画をはじめとする情報の共有などが行われる。しかし,本研究でこの内容をそのまま適用するのは適当でないと判断し,SCIのうち情報に焦点を当てた統合として扱うことにした(Leuschner et al., 2013)。すなわち,本研究でいう「顧客との統合」は,消費者のニーズに合った物流活動の意思決定に必要な情報に基づいてプロセスを管理することであり(Kulp, Lee, & Ofek, 2004),具体的には商品の販売情報やそれに伴って発生した店舗の発注情報などを物流活動の意思決定に活用することを想定する。なお,「顧客との統合」という語法は,小売業に限定したSCIに関する研究を行ったÇerri(2014)において「Customer integration」としており,本研究でもそれに倣っている。

内部統合と2つの外部統合の関係は,内部統合から外部統合の方向に段階を踏み,内部統合が外部統合を高めることが知られている(Chen et al., 2009Gimenez, 2006Stevens, 1989)。このため,「内部統合」と「仕入先との統合」には正の関係があり,「内部統合」と「顧客との統合」には正の関係があると考える。

仕入先との統合と顧客との統合の関係は,仕入先との統合の後に顧客との統合が起こるという順序があることが示唆されている(He et al., 2014)。このため,「仕入先との統合」と「顧客との統合」には正の関係があると考える。

DCの利用の有無による3つの統合間の関係の違いは,DCを利用している小売業では,店舗に対して提供する物流サービスを高めるために,DC段階で仕入先の物流サービスを高めようとする。そのためには,仕入先の物流は小売業の専用物流システムの一部として統合されていなければならない。他方,消費者の需要を物流活動の意思決定に反映し実行するのはDCの利用目的であるため,「顧客との統合」が高くなると考える。すなわち,DCを利用している小売業の方が,「内部統合」と「仕入先との統合」との正の関係,「内部統合」と「顧客との統合」との正の関係,「仕入先との統合」と「顧客との統合」との正の関係は一層強いと考える。

仮説3-1:「内部統合」と「仕入先との統合」には正の関係があり,DCを利用している小売業の方がその関係が一層強い。

仮説3-2:「内部統合」と「顧客との統合」には正の関係があり,DCを利用している小売業の方がその関係が一層強い。

仮説3-3:「仕入先との統合」と「顧客との統合」には正の関係があり,DCを利用している小売業の方がその関係が一層強い。

業績は,先行研究において,物流コストの削減や欠品の削減,納品リードタイムの短縮で構成されている(Gimenez & Ventura, 2003, 2005)。小売業においても同様に,配送の効率化や,荷受や品出しなどオペレーションの効率化,欠品・品切れの削減などである(Fernie, 1989Smith & Sparks, 1993;日本加工食品卸協会,2008)。本研究においてもこうした指標を採用することにする。

SCIと業績の関係は,先行研究において,内部統合,仕入先との統合,顧客との統合いずれも業績を高めることが確認されている(Flynn et al., 2010Frohlich & Westbrook, 2001Gimenez & Ventura, 2003, 2005Stank & Traichal, 1998)。したがって,「内部統合」,「仕入先との統合」,「顧客との統合」は「業績」には正の関係があると考える。

DCの利用の有無によるSCIと業績の関係の違いは,DCを利用している小売業の方が店舗に対して提供する物流サービスが高く,「内部統合」,「仕入先との統合」,「顧客との統合」と「業績」との正の関係は一層強いと考える。

仮説4-1:「内部統合」と「業績」には正の関係があり,DCを利用している小売業の方がその関係が一層強い。

仮説4-2:「仕入先との統合」と「業績」には正の関係があり,DCを利用している小売業の方がその関係が一層強い。

仮説4-3:「顧客との統合」と「業績」には正の関係があり,DCを利用している小売業の方がその関係が一層強い。

4  検証方法

4.1  収集データの概要

設定した仮説をアンケート調査により得られた一次データを用いて検証する。アンケート調査は2014年10月から11月にかけて主に加工食品や日用雑貨を中心とする最寄品をセルフサービス業態で販売する小売業を対象に実施された10)。調査方法は,わが国の小売業1,424社を対象に11),紙媒体の調査票を郵送にて送付し回収する郵送法で実施し,回収には一部FAXも利用した。調査を実施した結果,349社から調査票を回収し,調査票が届かなかった48件を除く回収率は25.4%であった。回収票から無回答を除いた319社を有効回答数とし,有効回答率は23.2%であった。有効回答企業の概要は図表1の通りである。

図表1 有効回答企業の概要
回答数 回答率
有効回答企業数319100.0%
主力業態総合スーパー185.6%
食料品スーパー19260.2%
コンビニエンスストア123.8%
ドラッグストア247.5%
ホームセンター226.9%
ディスカウントストア72.2%
生協・農協3210.0%
専門店72.2%
その他51.6%
店舗数1~4店舗11034.5%
5~9店舗6018.8%
10~19店舗4213.2%
20~29店舗268.2%
30~49店舗175.3%
50~99店舗288.8%
100店舗以上3611.3%
年間小売売上高10億円未満5818.2%
10億円以上50億円未満8326.0%
50億円以上100億円未満5015.7%
100億円以上200億円未満4012.5%
200億円以上300億円未満237.2%
300億円以上500億円未満175.3%
500億円以上1000億円未満257.8%
1000億円以上3000億円未満175.3%
3000億円以上61.9%
専用物流センターの利用の有無利用している19360.5%
利用していない12639.5%
店舗数 専用物流センターの利用の有無 合計
利用している 利用していない
1~4店舗28%72%100%
5~9店舗62%38%100%
10~19店舗67%33%100%
20~29店舗92%8%100%
30~49店舗94%6%100%
50~99店舗79%21%100%
100店舗以上97%3%100%
合計61%39%100%

※「主力業態」とは,展開する小売業態のうち最も売上高の高い業態のことである。

※「店舗数」は現時点の店舗数を,「年間小売売上高」は 2013 年度の実績を訊ねた。

4.2  質問項目と測定尺度

調査票の質問項目は,戦略,組織構造,SCI,業績の大きく4つに関する内容で構成されており,先行研究に倣い作成した。

戦略の「効率性指向」と「敏捷性指向」に関する質問項目は,Qi et al.(2011)Yi-nan and Zhao-fang(2009)を参考に作成した。組織構造の「公式化」は,Kim(2007)Mollenkopf et al.(2000)をもとに作成した。それから,SCIの「内部統合」はFlynn et al.(2010)Gimenez and Ventura(2003, 2005),Prajogo and Olhager(2012),「仕入先との統合」はFlynn et al.(2010)Prajogo and Olhager(2012),「顧客との統合」はBowersox et al.(1999)Çerri(2014)Stank, Keller, and Closs(2001)をもとに作成した。「業績」は,Gimenez and Ventura(2003, 2005)をもとに作成した。

各質問項目の測定尺度には,「当てはまる」,「やや当てはまる」,「どちらとも言えない」,「あまり当てはまらない」,「当てはまらない」の5段階尺度を採用した。

4.3  仮説検証の手順

最初に,仮説の枠組みについて,先のアンケート調査データを用いて確認的因子分析法による共分散構造分析を行う。次に,回答者をDCを利用している小売業と利用していない小売業に分け,戦略-組織構造-SCI-業績の関係の違いについて分析する。それから,DCの利用の有無によって各構成概念間のパス係数の大きさを比較することができる多母集団同時分析を行うことにする。

5  分析結果

観測変数の測定値を図表2に示した。各観測変数の平均と標準偏差をみると,平均に標準偏差を加えた天井効果が5変数に認められる。しかし,いずれも仮説に挙げた構成概念を構成するために必要な変数であり,削除しないことにした。

図表2 観測変数の度数,平均,標準偏差とクロンバックのα係数
構成概念 観測変数 度数 平均 標準偏差 α係数
効率性指向在庫を削減すること3194.40.90.56
店舗の作業を効率化すること3194.60.8
商品の仕入先を仕入にかかるコストで選定すること3193.61.1
敏捷性指向市場の変化に素早く対応すること3194.30.80.63
不安定な消費需要にも対応すること3193.81.0
柔軟に対応する仕入先を選定すること3193.90.9
多数の仕入先から商品を仕入れられるようにすること3193.41.1
公式化物流業務は決められた方針や手順に従って行われる3194.31.00.74
物流の各担当者の役割は明確に分かれている3194.01.2
物流計画の策定には物流専門の責任者が参画する3193.31.5
内部統合貴社では店舗の販売活動と物流活動が調整されている3193.91.10.86
貴社では販売担当と物流担当が協働して物流活動を見直している3193.31.2
貴社では販売計画と物流計画が共有されている3193.51.2
仕入先との統合貴社の物流活動と主要な仕入先の物流活動は調整されている3193.91.00.82
主要な仕入先と協働して納品までの物流活動を見直している3193.61.1
主要な仕入先と物流計画を相互に共有している3193.51.1
顧客との統合貴社の物流は顧客の需要の変化に柔軟に対応している3193.51.00.89
貴社の物流活動は顧客の需要動向をみて見直されている3193.51.1
貴社の物流計画は顧客の需要動向が反映されている3193.51.0
業績発注から店舗への納品までの時間(納品リードタイム)が短い3193.80.90.66
店舗における発注や品出しなどの作業コストが低い3193.11.0
店舗での欠品がほとんどない3192.91.0

共分散構造分析を行う前に,構成概念の信頼性を検討する。信頼性を測るために,内的整合性を示すクロンバックのα係数を算出した。「効率性指向」のα係数0.56,「敏捷性指向」の同0.63などは,一般的に妥当という0.8よりも低いと評価できる。しかし,先行研究では,Qi et al.(2011)の「Agile Supply Chain Strategy」のα係数は同0.62であり,同水準である。また,小塩(2011)は,信頼性の低さから構成概念を導く観測変数を再検討する必要があるとする目安を0.5未満としている。したがって,図表2に示した観測変数と構成概念をもって分析を進めることにする。

5.1  戦略-組織構造-統合-業績の関係

共分散構造分析の結果は図表3に示した。適合度指標は,X2値 = 430.418,df = 198,p値 = 0.000,GFI = 0.891,AGFI = 0.861,CFI = 0.915,RMSEA = 0.061である。CFIは一般的に当てはまりが良いとされる0.9以上という基準を満たしているが,GFIとAGFIは下回っており,RMSEAは良くも悪くもないグレーゾーンと判断されるため,モデルの適合は非常に良好であるとは言い難い(朝野・鈴木・小島,2005豊田,2007)。しかし,同様の研究を行ったRodrigues et al.(2004)と同水準(GFI = 0.854, AGFI = 0.824, CFI = 0.913, RMSEA = 0.054)であるため,適合度は許容できる水準であるとみなした。

図表3 

仮説の検証結果

パス 標準化係数 検定統計量
効率性指向公式化0.1912.030 **
敏捷性指向公式化0.3263.276 ***
公式化内部統合0.6738.982 ***
公式化仕入先との統合0.0981.189 n.s.
内部統合仕入先との統合0.6667.510 ***
内部統合顧客との統合0.4434.494 ***
仕入先との統合顧客との統合0.1281.310 n.s.
内部統合業績0.3362.777 ***
仕入先との統合業績0.2141.873 *
顧客との統合業績0.1361.717 *
効率性指向敏捷性指向0.5325.328 ***

*** p < 0.01;** p < 0.05;* p < 0.10;n.s.非有意

分析結果からは,戦略-組織構造-統合-業績の関係がそれぞれ確認された。「効率性指向」と「敏捷性指向」の2つの戦略はともに組織構造の「公式化」と正の関係があり,「公式化」はSCIの「内部統合」と正の関係があることが認められた。それから,「内部統合」は外部統合の「仕入先との統合」と「顧客との統合」とそれぞれ正の関係があるとともに,「業績」とも正の関係があることがわかる。一方,「仕入先との統合」と「顧客との統合」の外部統合と「業績」との関係については,有意水準10%であり,「業績」に正の影響を与えている傾向があるという結果であった。また,「公式化」と「仕入先との統合」,「仕入先との統合」と「顧客との統合」との関係は認められなかった。

5.2  物流センターの利用の有無における戦略-組織構造-統合-業績の関係の比較

5.1.のモデルを用いて,DCを利用している小売業(n = 193)と利用していない小売業(n = 126)との間に,どのような違いがあるかを多母集団同時分析の結果により検討する。

最初に,等値制約を置かない配置不変モデル(モデル1)と等値制約を置く複数のモデル(モデル2-6)の中から,どのモデルのもとで母集団の異質性を検証すればよいかを検討する。各モデルのGFI,AGFI,CFI,RMSEA,AICを比較すると,モデル1はGFI,AGFI,CFIが最も高く,RMSEA,AICの値が最も低い(図表4)。また,モデル1の等値制約を置かない条件が正しいという仮定の下で,モデル2-6との差の検定を行った結果,モデル2-6のいずれとも1%水準で有意となり,配置不変性が成り立つとみなした。

図表4 多母集団同時分析における各モデルの適合度指標
モデル 等値制約を課すパラメータ χ2 df p値 GFI AGFI CFI RMSEA AIC
モデル1なし660.7703960.0000.8500.8080.9010.046880.770
モデル2測定モデルのウェイト(パス係数)694.5564110.0000.8420.8050.8940.047884.556
モデル3構造モデルのウェイト(パス係数)716.2354210.0000.8370.8050.8900.047886.235
モデル4構造モデルの共分散(潜在変数の分散)722.9204240.0000.8350.8030.8890.047886.920
モデル5構造モデルの残差(誤差変数の分散)756.9294290.0000.8280.7970.8780.049910.929
モデル6測定モデルの残差(誤差変数の分散)834.9164510.0000.8100.7870.8570.052944.916

配置不変モデルの適合度指標は,X2値 = 660.770,df = 396,p値 = 0.000,GFI = 0.850,AGFI = 0.808,CFI = 0.901,RMSEA = 0.046である。GFI,AGFIは一般的に当てはまりが良いとされる0.9以上という基準を下回っており,モデルの適合が良好であるとは言えない。しかし,CFIは0.9以上,RMSEAは良好とされる0.05を下回っていることから,分析結果を採用することにする(朝野ほか,2005;豊田,2007)。したがって,DCの利用の有無による2つの母集団に対して,等値制約を置かないモデルを適用し,各構成概念間の影響度の差異を確認する。

DCの利用の有無による各構成概念間の影響度の差異は5つのパスで認められた(図表5)。DCを利用している小売業の方が利用していない小売業よりも各構成概念間の影響度が高かったパスは,「効率性指向」から「公式化」へのパス(有意水準1%),「内部統合」から「業績」へのパス(同5%),「公式化」から「内部統合」へのパス(同10%)である。他方,DCを利用していない小売業の方が利用している小売業よりも高かったパスは,「仕入先との統合」から「業績」へのパス(同5%),「敏捷性指向」から「公式化」へのパス(同10%)である。

図表5 

専用物流センターの利用の有無による多母集団同時分析の結果

上段:専用物流センターを利用している小売業(n = 193)

下段:専用物流センターを利用していない小売業(n = 126)

パス 専用物流センターの利用の有無 パラメータ間の差に対する
検定統計量
利用している 利用していない
標準化係数 検定統計量 標準化係数 検定統計量
効率性指向公式化0.5282.811 ***–0.103–0.760 n.s.2.467 ***
敏捷性指向公式化0.1751.120 n.s.0.3862.409 **–1.771 *
公式化内部統合0.6566.010 ***0.6895.921 ***1.739 *
公式化仕入先との統合–0.126–1.131 n.s.0.0270.207 n.s.–1.051 n.s.
内部統合仕入先との統合0.8816.539 ***0.6504.771 ***1.527 n.s.
内部統合顧客との統合0.5193.248 ***0.3712.867 ***1.132 n.s.
仕入先との統合顧客との統合0.1200.760 n.s.0.1841.426 n.s.–0.221 n.s.
内部統合業績0.7003.196 ***0.2551.658 *2.029 **
仕入先との統合業績–0.220–1.122 n.s.0.3142.029 **–2.050 **
顧客との統合業績0.2271.947 *0.0210.179 n.s.1.303 n.s.
効率性指向敏捷性指向0.6644.619 ***0.4222.644 ***0.693 n.s.

*** p < 0.01;** p < 0.05;* p < 0.10;n.s.非有意

以上の分析結果からは,まず小売業における戦略-組織構造-統合-業績の関係は,DCの利用の有無にかかわらず成立することが確認された。DCの利用の有無による違いは主に,DCを利用している小売業では「効率性指向」と「公式化」の適合により「内部統合」が実現され,「業績」の向上に「内部統合」の実現が寄与すること,DCを利用していない小売業では「敏捷性指向」のもと「公式化」が実現され,「業績」に対して「内部統合」を通じた「仕入先との統合」が重要であることである。

したがって,先の仮説は,仮説1-1,仮説2-1,仮説4-1が支持され,仮説1-2,仮説3-1,仮説3-2,仮説4-2,仮説4-3が一部支持されたと評価できる。対して,仮説2-2,仮説3-3は支持されなかった。

6  考察

分析結果は,小売業における物流を中心としたサプライ・チェーンの戦略と業績の間に,戦略-公式化-SCI-業績の一連の関係が成り立つことを示している。すなわち,効率性指向と敏捷性指向の戦略はいずれも物流の公式化と正の関係があり,公式化は物流と販売の機能を統合する内部統合を実現させ,内部統合は業績を高めるのである。また,内部統合は,自社と仕入先との物流の統合である仕入先との統合と,消費者の需要と物流との統合である顧客との統合を高める。なお,これら2つの外部統合は物流の業績を高める傾向が示唆された。小売業にとって,物流の業績を高めるためには,特に戦略と公式化の適合を通じた物流と販売の内部統合の実現が重要である。

それから,DCの利用の有無によって,戦略と組織構造の関係,SCIと業績との関係に違いがみられた。戦略と組織構造の関係では,DCを利用している小売業は効率性を指向する戦略が物流の公式化を高めるが,利用していない小売業では敏捷性を指向する戦略が物流の公式化を高める。DCを利用している小売業は,店舗作業の効率化や欠品削減などを目的に,物流サービスやそれを実現するDCでの活動を店舗オペレーションに合わせて決めるため,効率性を指向する戦略のもと物流の公式化が進められる。一方,DCを利用していない小売業は,変化する消費需要への対応を重視した敏捷性指向の戦略のもと物流を公式化している。

SCIと業績の関係では,DCを利用している小売業は内部統合の実現によって業績を高めるが,利用していない小売業は仕入先との統合の実現によって業績を高める。DCを利用している小売業は,店舗,DC,その間の配送といった物流過程を調整するには,その後の販売といかに統合するかが重要になる。一般的に,小売業はDCの運営を卸売業や物流事業者に委託しているが,物流サービスやそれを実現する仕入先あるいはDCでの物流活動は小売業に依存する。このため,物流の業績は小売業の内部統合の実現によって決まる。他方,DCを利用していない小売業は,発注後の店舗までの物流過程の全てを仕入先が担っている。物流の業績は仕入先の物流機能に大きく依存しているため,仕入先との統合が重要になると理解できる。

3つ目に,仮説が支持されなかった仕入先との統合の前後関係については,仕入先との統合と公式化あるいは顧客との統合との関係が直接的でない可能性が示唆される。仕入先との統合と公式化との関係は,内部統合を媒介した間接的な関係が認められた。顧客との統合との関係では,例えば,仕入先との統合が,顧客との統合の先行条件ではなく,顧客との統合の業績に対する効果を調整する役割を果たすというものである(Danese & Romano, 2011)。

以上の結果は,先行研究に比べて次のように評価できる。最初に,SCIの前後関係について,Stank and Traichal(1998)は戦略と組織構造の関係を実証していなかったのに対し,本研究では効率性指向と敏捷性指向の2つの戦略と組織構造の公式化との間に正の関係があることを実証した。また,Rodrigues et al.(2004)はSCIに関係する組織構造を情報システムと業績測定システムとし,SCIを1つの統合として実証した。これに対して本研究では,組織構造に公式化を設定し,内部統合との正の関係を実証したのとともに,SCIを内部統合,仕入先との統合,顧客との統合の3つに分けて,内部統合が外部統合を高める正の関係を実証した。この結果は,公式化と内部統合の正の関係を示した研究結果(Kim, 2007Mollenkopf et al., 2000),SCIの段階を提唱したStevens(1989)の説を実証した研究結果と整合する(Gimenez, 2006Gimenez & Ventura, 2003, 2005;Chen et al., 2009)。

それから,効率性と敏捷性を指向する戦略とSCIとの直接的な関係が先行研究で確認されていた(Yi-nan & Zhao-fang, 2009)。本研究では,戦略とSCIの媒介変数として公式化という組織構造を設定した点で先の研究と異なり,戦略と組織構造の適合がSCIを高めることを示した。

最後に,SCIが業績を高めるという関係は,有効回答企業全体を対象にした分析を通じて,先行研究と同様の結果を確認した。本研究で特筆するべきことは,DCの利用の有無によってSCIと業績との関係の違いを明らかにしたことである。この結果から示唆されることは,小売業が自ら管理する物流活動の範囲と仕入先の物流活動による影響の範囲がDCの利用の有無で異なるため,業績と関係のあるSCIの範囲に違いがあるということである。DCの利用の有無による違いを検証できたのも,SCMに関する小売業に着目した研究が少ないという指摘に対して,対象を小売業に限定したことによる成果である。ただし,DCを利用している小売業において,仕入先との統合と業績との関係を実証できなかった。この点については,仕入先との統合が業績に影響を与える仕組みが他の統合とは異なる可能性があるといえる(Flynn et al., 2010)。例えば,仕入先との統合と業績とは直接的な関係がなく,小売業のDCへの入荷の業績を介した間接的な関係であると推測する(Prajogo, Oke, & Olhager, 2016)。また,わが国では,小売業のDCの運営や在庫の管理責任を仕入先の卸売業が負うことがあり,小売業の物流における卸売業の役割が大きい(臼井,2001,2006)。このため,小売業と卸売業などの仕入先の関係は,欧米を中心とした小売業とメーカーを中心とした仕入先との関係とは異なるとも推測され,わが国特有の取引関係が仕入先との統合と業績との関係に影響を与えた可能性がある。

7  結論

本研究では,小売業を対象に,物流を中心としたサプライ・チェーンの戦略-組織構造-統合-業績の関係を確認し,この関係がDCの利用の有無によって異なることを実証した。

明らかになった主な点は,戦略-組織構造-SCI-業績の関係は,DCの利用の有無にかかわらず成立すること,DCを利用している小売業では効率性指向と公式化の適合による物流機能と販売機能の内部統合の実現性が高く,業績の向上に内部統合の実現が寄与すること,DCを利用しない小売業では敏捷性指向のもと公式化が実現され,業績に対して内部統合を通じた仕入先との統合が重要であることである。

本研究の学術的貢献は,戦略-組織構造-SCI-業績の一連の関係が成り立つこと,なかでも公式化と内部統合の正の関係,内部統合と2つの外部統合との正の関係があることを明らかにしたことである。それから,この一連の関係をSCMに関する研究が少ない小売業でも成り立つことを実証し,DCの利用の有無によってSCIと業績との関係に違いがあることを明らかにしたことである。

実務的貢献としては,物流の業績を高めるには社内の物流と販売の内部統合が重要であるといえる。特にDCを利用している小売業においてその傾向は顕著である。DCを利用していない小売業は仕入先と統合することが重要である。

本研究の限界は,小売業といっても様々な事業者,業態が存在したり,取引先との関係がそれぞれ異なったりするにもかかわらず,これらの諸条件を区別せずに一つの小売業として取り扱った点である。本研究は小売業を対象としたSCIに関する研究の初期段階に位置付けられるため,これらの諸条件による区別よりも,SCIの前後関係とそのDCの利用の有無による違いを明らかにすることを優先した。今後は,SCIの前後関係に関係する小売業の諸条件を加えたモデルの開発が必要であると考える。さらに,本研究におけるモデルの適合度指標の一部が慣習的な基準を下回っていた点も課題であり,先の諸条件を考慮するなどモデルの改善や概念の見直しを行う努力が必要である。

今後の研究課題として,SCIと業績との関係の前提となる条件に着目することが挙げられる。本研究ではDCの利用の有無に焦点を当てたが,需要の変わりやすさなど外部環境の不確実性の高低といった物流の業績を左右する条件の違いを考慮した検証が必要である12)。小売業のサプライ・チェーン,物流に関する研究を進める上で,こうした課題に取り組むことが期待される。

1)  SCMとは,Cooper et al.(1997, p. 11)によると,「サプライ・チェーン全体の全ての重要なビジネス・プロセスを統合すること」である。また,Lambert, Stock, and Ellram(1998, p. 504)は「SCMは,顧客に価値を付加する製品やサービス,情報を提供するサプライヤーからエンド・ユーザーまでのビジネス・プロセスを統合することである」と定義している。Lambertらの言うビジネス・プロセスとは,Davenport and Beers(1995)の「顧客に対する特定の成果を伴う構造化された一連の活動」と同義である(Lambert, 2008, p. 7)。SCMは,サプライ・チェーンにおけるロジスティクスの統合からビジネス・プロセスの統合へと再概念化されてきたものである(Lambert, 2008)。

2)  SCIの定義は必ずしも一義的なものではなく,時にレトリックであるとも表現される(Fawcett & Magnan, 2002)。Kahn and Mentzer(1996, p. 6)は,「現在まで,具体的に定義することを怠っており,言葉は漠然としたままになっている」と警鐘を鳴らし,Pagell(2004, p. 460)は「多くの研究者が統合の構成概念について正式に定義していない」と指摘している。なかには定義を明確にする研究もあるが(Chen et al., 2009Flynn et al., 2010),それらが完全に同義であるとは言い切れない。

3)  Galbraith and Nathanson(1978)によると,戦略-組織構造-業績の関係は,Chandler(1962)が提示した「組織構造は戦略に従う」という命題をRumelt(1974)が定量的に検討したものである。さらに,Galbraith and Nathanson(1978)は,組織構造から組織過程を明確に区別し,戦略-組織構造-組織過程-業績の関係を提示した。なお,Chandler の「組織は戦略に従う」という命題に対して,Ansoff(1978)の「戦略は組織に従う」という戦略と組織の順序関係が逆転する命題があるが,これら2つの命題における組織の意味するところの違いを吉田(1981)が次のように説明している。「チャンドラーの命題は,多角化戦略の展開に従って事業部制などの組織構造の変革が起こることを指摘しているのに対し,アンゾフの命題は組織体の風土・能力などの特性によって,その採用する戦略が規定されるということをいっているのであって,同じく組織という用語を用いていても,前者は組織構造であり,後者は組織特性であって,同一概念ではない」(吉田,1981,pp. 36–37)。本研究は,類似の先行研究と同じく,組織構造に着目し,Chandler の命題に従っている。

4)  ロジスティクスという用語は物流と同義で使用している(CSCMP, 2013)。

5)  ロジスティクス・マネジメントはSCMと密接に関係している。SCMの専門家団体であるCSCMP(Council of Supply Chain Management Professionals)によれば,ロジスティクス・マネジメントはサプライ・チェーン・マネジメントの一部である(CSCMP, 2013)。Bowersox et al.(1999, p. 6)も,SCMを「市場の機会を共有するために,組織間のビジネス・オペレーションをつなぐ,協働に基づいた戦略」と定義した上で,ロジスティクス活動がSCMに含まれると言及している。したがって,SCIは,SCMの主要な概念であり,その重要な構成要素の一つとしてロジスティクスの統合が位置付けられる。

6)  Bowersox et al.(1999)は,統合を業種や国を問わず普遍的な能力であると位置づけ,6つの統合を提唱した。6つの統合とは,調達や生産,物流の業務に関連する顧客との統合,内部統合,仕入先との統合,それから計画設定とコントロールに関連する技術と計画の統合と測定の統合,行動に関連する関係の統合である。Stank et al.(2001)は,Bowersox et al.(1999)が示した6つの統合が業績にどのくらい影響を与えているかを検証している。業績に対して影響を与えるのは,業務に関連する顧客との統合と内部統合であった。

7)  具体的な事例を挙げると,「日本チェーンストア協会によれば,会員企業の中で最も古い設置事例は,1964年,高知スーパーによるものである」(臼井ほか,1999,p. 39)。また,大手総合スーパーを例にとると,西友が1965年に東京都中野区江古田に開設し,ダイエーが1970年に兵庫県神戸市に開設した。(臼井,2007)。イトーヨーカ堂の食品物流では,店舗直送から,1986年に本格的に実施された窓口問屋制と呼ばれるDCへの集中化,1999年のカテゴリー一括物流の複合化へと,店舗を起点に物流の仕組みが変化した(木島,2014)。イオンでは,2001年の「ジャスコ」からの社名変更と同時期に,店舗までの物流活動にかかるコストを明確にし削減するため,メーカーと直接取引を指向し,自社で物流ネットワークを再構築してきた(木島,2014)。

8)  日本加工食品卸協会(2008,p. 1)は,DCを利用することによる主なメリットに,配送の効率化(配送先数の削減,搬入車輛数の削減,積載効率の上昇),ピッキングの削減(総量の納品が可能),荷受作業の効率化(定時一括納品,ノー検品),品出し作業の効率化(カテゴリー別納品,通路順別納品),店頭在庫の削減(多頻度配送が可能,小ロット配送が可能),欠品・品切れの削減(リードタイムの短縮)があると整理している。

9)  チェーン・ストアは,「同じタイプの複数店舗を中央集権的な本部主導システムで統合的に管理しようとする企業」(田村,2001,p. 213)であり,店舗の物流活動は本部主導である程度集権的に決められている。例えば,商品の発注は,店舗が日々行うが,本部が策定する仕入商品や仕入先の選定,仕入量の決定などを含む一定期間の仕入計画に基づいている(矢作,1993)。一方で,独立小売店は,このようなチェーン・ストアの特徴が薄く,各店舗で物流活動の意思決定を行う権限が高いと考えられる。

10)  アンケートでは,展開する小売業態のうち最も売上高の高い業態のなかで,売上高が高いカテゴリーについて回答を求めた。カテゴリーは,加工食品(常温。菓子,飲料,酒類を含む)と日用雑貨(化粧品,一般用医薬品,家庭用品を含む)のどちらか一方である。なお,本調査ではNB(ナショナル・ブランド)商品の取引を想定している。

11)  対象企業の選定は,わが国の小売業を対象にした物流に関するアンケート調査の実績がある流通経済研究所(2002)寺嶋・木島(2014)を参考にし,『日本スーパー名鑑 2014年版』(株式会社商業界),コンビニエンスストアに限っては『日経流通新聞』の「第35回 コンビニエンスストア調査(2013年度)」に掲載されている企業とした。

12)  外部環境の不確実性がSCIと業績の関係に与える影響について,Boon-Itt and Wong(2011)Wong, Boon-Itt, and Wong(2011)などが実証している。

参考文献
 
© 2018 Japan Society of Marketing and Distribution
feedback
Top