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ポジショニングは製品差別化に貢献するか?
結城 祥
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2023 年 26 巻 1 号 p. 1-16

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Abstract

ポジショニングには,対照的な2つのアプローチが存在する。第1は,知覚マップ上に示される競合製品群の位置関係を起‍点に自社製品の位置取りを検討する「相対性ポジショニング」であり,第2は,製品群の相対的な違いよりも,自社製品のみと結びつくユニークな価値の探索・提供を重視する「独自性ポジショニング」である。幾つかの研究は,相対性ポジシ‍ョニングは製品差別化に貢献しないこと,あるいはその効果が独自性ポジショニングよりも小さいことを主張する。しかし,双方のポジショニングの効果を定量的に検討した研究は存在しない。そこで本論は,わが国の実務家から得られたサーベイ・データに基づき,製品差別化に対する各ポジショニングのインパクトを分析した。その結果,独自性ポジショニングは製品差別化に寄与する一方で,相対性ポジショニングについては有意な効果が認められないことが明らかになった。

1  はじめに

ポジショニングは,セグメンテーション,ターゲティングと並ぶマーケティング戦略の中核概念であり,多くの教科書において取り上げられる重要なトピックである1)

一般的なマーケティングの教科書は,ポジショニングを知覚マップに依拠して説明している。すなわちポジショニングは,「製品カテゴリーに共通する属性に基づいて競合製品群の位置を識別し,その上で自社製品の位置取りを定めること」という形で説明されるのである。このような,製品群の相対的位置関係を拠り所とするポジショニングを「相対性ポジショニング」と呼ぶことにする。

相対性ポジショニングは,視覚的に理解しやすく,多属性態度モデルの知見とも接続できる便利なツールである(Urban, Hauser, & Dholakia, 1987)。しかし相対性ポジショニングは,ポジショニングの目的である製品差別化に貢献しないかもしれない。幾つかの研究が指摘するように,ライバルと同じ製品属性に注目し,同じ土俵に立って競争すれば,自ずと製品が同質化してしまう可能性があるからである(久保田,2021久保田・澁谷・須永,2022Moon, 2010)。

重要なことに,ポジショニングの主眼は,製品群の相対的な位置関係の分析にあるわけではない。ポジショニングの本来のミッションは,自社製品に固有の提供価値を設計し,そのユニークな価値を顧客の頭の中に刷り込むことである(久保田,2021Ries & Trout, 1981結城,2021a)。つまりポジショニングにおいて鍵を握るのは,「競合製品との相対的な差異」を作り出すことではなく,あくまでも「自社が提供可能な独自の価値」を見出すことにある。このような提供価値の独自性を強調するポジショニングを,相対性ポジショニングと対比させるために「独自性ポジショニング」と呼ぶことにしよう2)

さて,ポジショニングが相対性/独自性の2タイプに類型化できるとすれば,ここに1つの重要な研究論題が浮上する。それは「相対性ポジショニングと独自性ポジショニングのどちらが製品差別化に貢献するのか」,という問いである。

既述のとおり,一部の研究は,相対性ポジショニングの有効性に懐疑的な姿勢を示している(久保田,2021久保田他,2022Moon, 2010)。その主張に従えば,相対性ポジショニングは製品差別化に貢献しないか,独自性ポジショニングよりも貢献度が低くなると予想される。ところが,これら2つのポジショニングと製品差別化の関係を定量的に分析した研究は存在しない。本論はこのリサーチ・ギャップを埋めるべく,わが国の実務家から得られたサーベイ・データを用いて,製品差別化に対する相対性/独自性ポジショニングのインパクトを実証的に検討する。

本論の構成は次のとおりである。次節では,ポジショニング概念の普及の歴史を素描する。第3節では,多くの教科書で紹介される相対性ポジショニングが,実は製品差別化に貢献しない可能性があることを指摘する。第4節では,相対性/独自性ポジショニングと製品差別化の関係を仮説化する。第5節においては実証分析が行われ,最後に第6節では,分析結果から導かれる示唆と今後の課題が示される。

2  ポジショニング概念の普及

2.1  ライズとトラウトの『ポジショニング戦略』

ポジショニング概念が普及する契機となったのは,Ries and Trout(1981)の『ポジショニング戦略』(Positioning: The Battle for Your Mind)である3)。彼らは,ポジショニングを「製品そのものに手を加えることではなく,消費者の脳内に自社製品を位置づけてもらうこと」と定義した(邦訳p. 12)。つまりマーケティング上の競争は,製品の物理的特性ではなく,消費者の脳内への侵入や占拠を巡って繰り広げられるものである,と考えたのである。

彼らの比喩を借用すれば,消費者の頭の中には,製品カテゴリーごとに幾つもの「はしご」が格納されている。世の中の製品(ブランド)群は,特定のカテゴリーのはしごに,想起順にぶら下がることになる。そうした中にあって,どうすればはしごの上段を確保できるのか(あるいは特定のはしごを専有できるのか)を考えることが,ポジショニングのミッションとなる(結城,2021a)。彼らは,ポジショニングの具体策として図表1に示すような方法を提案している。

図表1.

Ries & Trout(1981)が提案する主なポジショニング方法

方法 内容 具体例
業界のパイオニアかシェアno. 1になる 「パイオニアないしシェアno. 1である」という事実を足場として,自らの正統性,安心感,親近感等をアピールする。 ・コカ・コーラの“The real thing”(これが本物)キャンペーンa
・「コピー機と言えばゼロックス」という顧客認知の定着a
サブ・カテゴリーの創造 既存の製品カテゴリーに新たなサブ・カテゴリーを作り,そこに一番乗りする。 ・「世界で最も安全な車」として認識されてきたボルボb
・ポテトチップスの中に「ポテトクリスプ」という新ジャンルを作ったプリングルスc
同格化 同一カテゴリーや他カテゴリーの上位製品(ブランド)の威光を利用し,自社製品を上位製品に関連付けて理解してもらう。 ・「我々はレンタカー業界のno. 2です」と訴えたエイビスa
・「東洋のマチュピチュ」と銘打って観光客にアピールした別子銅山b
重要属性の入れ替え 顧客や業界の常識に揺さぶりをかけたり,ライバルの強みの背後にあるトレードオフを利用したりすることで,それまで重視されてきた属性の重要度を引き下げ,別の属性の重要度を高める。 ・「薬臭い息」キャンペーンでリステリンを攻撃したスコープ(マウスウォッシュ)a
・“have it your way”というコピーで,提供の迅速性と対極にあるカスタマイズの便益をアピールしたバーガーキングd

注)結城(2021b)を参考に作成。事例の出典は次のとおり。a:Ries and Trout(1981),b:結城(2021b),c:Dyer, Dalzell, and Olegario(2004),d:Ries and Trout(1993)

図表1の事例を見ても明らかなように,Ries and Trout(1981)は,ポジショニングを広告コミュニケーションの文脈で捉えていた。しかしその後,ポジショニングは4Pのプロモーションから切り離され,セグメンテーション,ターゲティングとともに,4Pに先行するステップとして見なされるようになった。その端緒となったのが,次に紹介するコトラーの『マーケティング原理』(Principles of Marketing)である。

2.2  コトラーの『マーケティング原理』

コトラーは,『マーケティング原理』の第2版(Kotler, 1983)において,マーケティング管理プロセスを,市場機会分析,標的市場選択,マーケティング・ミックス策定,マーケティング活動管理の4段階に整理した。この中で,ポジショニングは,セグメンテーション,ターゲティングとともに,標的市場選択を支える柱に位置づけられている(いわゆるSTP)4)。その上で彼は,ターゲティングから4P策定へと一足飛びに進むのではなく,その前に標的セグメントを巡る競合動向を把握し,それに基づき自社製品のポジションを定めるべきであると主張した5)

Kotler(1983)はポジショニングの方法について,下記のように説明している。

「参入すべきセグメントが定まると,企業は次に,その参入方法を決定しなければならない。もし当該セグメントが確立されたものであれば,既に競合他社がこのセグメントで活動し,各々のポジションを確保しているはずである。企業は自社のポジションを決定する前に,現在の競合他社のポジションを識別しなければならない。」(p. 233)

「ヘレン・カーチス社が,鎮痛剤のヘビーユーザーである高齢者市場を標的にすると決めたと仮定しよう。その場合,このセグメントの顧客に供給されている全ての製品・ブランドを識別する必要が生じるだろう。…ブランド群を比較する1つの方法は,消費者がブランド選択時に用いる主要属性に関して,各ブランドがどこに位置しているのかを識別することである。その結果は,製品ポジションマップとして示すことが可能になる。…各ブランドは,客観的な特徴ではなく,消費者の知覚に従って位置づけられる。」(pp. 41–42)

これらの記述から明らかなように,コトラーは,自社製品のポジションを定める前に,他社製品のポジションを把握することが重要であり,その分析に際しては知覚マップが有用になると主張する。彼によれば,こうしたステップを踏んで自社製品の位置取りを決めることが,ポジショニングの骨子となる6)

その後,『マーケティング原理』は改訂が重ねられるが,STPという枠組,および知覚マップを用いたポジショニングの解説は,近年まで続くことになる7)。また同書に追随する形で,わが国においても知覚マップに依拠してポジショニングを解説する教科書が,多数刊行されてきた8)。こうして「ポジショニングとは,知覚マップを用いて競合製品の位置を確認し,その上で自社製品の位置取りを決めること」という理解が,広く定着するに至ったのである。ところがその後,コトラー流のポジショニングについて,その有効性を批判する研究が登場する。節を改めてそれらの主張を整理し,本論が取り組む問題の所在を示す。

3  ポジショニング概念の整理と問題の所在

3.1  知覚マップを用いたポジショニングの問題点

知覚マップを用いるコトラー流のポジショニングは,多くの教科書で紹介されているオーソドックスな技法であるが,幾つかの研究はその有効性に疑念を呈している。その代表的な研究の1つがMoon(2010)である。

Moon(2010)によると,企業は熾烈な競争に対応すべく製品差別化を目指すものの,皮肉なことに,そうした努力が却って製品群の同質化を招くことになるという。彼女は,「製品群の違いは確かにあるが,顧客には全て同じにしか見えない」という事態を「異質的同質性」と呼び,それが発生する理由を知覚マップに求めた。

知覚マップは,一瞥すると製品間の差異創出を促す強力なツールであるように思える。しかし「特定の製品属性(顧客の重視する主要属性)に基づき製品を比較する」という行為は,「当該属性水準でライバルを凌駕した者が勝者となる」という競争ルールに従うことと表裏一体である。それゆえ,競争の勝敗を決める属性がひとたび設定されると,企業群の製品開発努力は「当該属性水準の向上」に収斂してしまい,結果として製品間の差異がますます小さくなる,と彼女は主張する9)

久保田(2021)も同様に,知覚マップを用いたポジショニングを行うと,競合ブランドとの明確な違いを生み出すことが困難になると指摘する。彼によれば,知覚マップを用いたポジショニングは「比較」を起点とするものであるが,そもそも比較が成立するためには,ブランド間で何らかの属性が共有されていることが条件となる。つまり知覚マップは,製品群の共通性や類似性を前提とするツールなのである。したがって知覚マップを用いる限り,企業は他社製品との共通性・類似性の呪縛から逃れることはできず,その空間上で創出可能な差異は些末なものにならざるを得ない。

また結城(2021a)は,知覚マップの使いやすさそれ自体に問題が潜んでいると指摘する。一般的に紹介される2次元の知覚マップは,何らかの製品属性を2つ選択しさえすれば,いくらでも作成できてしまうものである。この手軽さゆえに,実務家は自らの知覚と希望的観測で独善的なマップを作成してしまう危険がある。加えて彼は,知覚マップ上で競合製品が存在しない空白領域に製品を投入し成功を収めたとしても,企業群の経営資源が拮抗していれば,他社もすぐに模倣製品を投入するはずだと主張する。もしそうであれば,知覚マップをいくら眺めてみても,「独自の提供価値で顧客の脳内に固有の居場所を見つけ出す」というポジショニングのミッションは,達成できないことになってしまう。

3.2  知覚マップに代替するポジショニング方法

上述の研究群は,いずれも知覚マップを用いたポジショニングの有効性に疑念を呈している。仮にこれらの疑念が正しいとすれば,代わりにどのようなポジショニングが有効になるのであろうか。

この点についてMoon(2010)は,

①リバース・ブランド(顧客や競合他社が当然視している便益の提供をやめたり,余計な要素をそぎ落とす),

②ブレークアウェー・ブランド(既存の製品カテゴリー空間の辺境に自社製品を位置づける),

③ホスタイル・ブランド(敢えて挑戦的・攻撃的な姿勢を示し,顧客に揺さぶりをかけたり,忠誠心を試す),

という方法を挙げている10)。これらの方法は,Ries and Trout(1981)がかつて提案した「サブ・カテゴリーの創造」「重要属性の入れ替え」といった手法と似通っている(図表1を参照)。

加えて久保田(2021)久保田他(2022)は,「知覚マップを超えたポジショニング」を提案している。これは,既存の製品属性空間の枠内に収まらない,新しい価値を顧客に提案し,自社ブランドを当該属性空間から隔離することであり,端的に言えば,新カテゴリーの創造に対応する。Aaker(2011)もまた,新しい製品カテゴリーやサブ・カテゴリーを創造する重要性を説く。彼によれば,既存の製品カテゴリー空間の中で「より顧客に選好される製品を開発する」というアプローチは,競合他社による対抗行動の迅速化のために,有効性を失いつつあるという。そして,そうした環境下で差別化を実現するためには,新しい製品カテゴリーないしサブ・カテゴリーを切り開き,そのカテゴリーに自社ブランドのみが強く結びつく(relevantになる)状態を作り出すことが必要であると主張している。

以上にレビューしたとおり,幾つかの研究は,知覚マップを用いたポジショニングに代わりうる,様々なポジショニング方法を提案してきた。しかし,これらの代替的なポジショニング方法を列挙しただけでは,その特徴や共通点が何であるのかも,それが知覚マップを用いたポジショニングとどのように異なるのかも不明のままである。そこで以下では,知覚マップに代替するポジショニングの内包(共通特性)と外延(具体的なバリエーション)を整理する。

3.3  独自性ポジショニング

Moon(2010)のポジショニング方法,そしてAaker(2011)久保田(2021)久保田他(2022)が提案する新カテゴリー創造というポジショニング方法に共通するのは,「競合製品との違いではなく,独自の魅力的な提供価値の探索・設計を重視する」ということである。久保田他(2022)はこのポイントを,図表2に示すような簡潔な図式を用いて説明している。

図表2.

ポジショニングの構造

出典)久保田他(2022),図8.3(p. 230)。

図表2にあるように,知覚マップに代わりうる有効なポジショニングとは,「自社ブランドだけが魅力的なコンセプト(提供価値)と結びつくようにすること」である(久保田他,2022)11)。こうしたポジショニング方法,つまり「顧客にユニークな価値を提案し,その価値や製品イメージを顧客の脳内で占有すること」を強調するアプローチを,「独自性ポジショニング」と呼ぶことにする。独自性ポジショニングにおいて鍵を握るのは,提供価値の「独自性」およびそれに派生する「排他性」であり,これらが当該概念の内包となる(Aaker, 2011久保田,2021久保田他,2022)。

とはいえ,既存研究が提案してきたポジショニング方法は,全てが同程度の独自性と排他性を備えているわけではない。この点を踏まえて,様々なポジショニングの位置関係を独自性と排他性の観点から整理すれば,図表3のようになる。

図表3.

各種ポジショニング方法の位置づけ

図表3の右極に存在するのは,全く新しい製品カテゴリーを創造し,そこに自社ブランドを位置づけようとする「新カテゴリーの創造」である(Aaker, 2011久保田,2021)。SONYのウォークマンはその典型例である。同製品は「より自由な環境で音楽を楽しむ」というユニークな価値を提案した「ポータブル音楽プレーヤー」のパイオニアであり,そのブランド名がカテゴリー名として市場に浸透した点において,強い排他性も有していた(楠木・阿久津,2006)。

新カテゴリー創造に準ずるポジショニング方法が「サブ・カテゴリーの創造」である(Aaker, 2011久保田,2021Moon, 2010Ries & Trout, 1981)。たとえばP&Gのプリングルスは,ポテトチップスというカテゴリーの中に「ポテトクリスプ」という新たなサブ・カテゴリーを築いた製品である。競合他社がプリングルスの人工的性質を激しく批判した際,同社はプリングルスを「ポテトクリスプ」としてリポジショニングし,「サクサク」「楽しい」「スマートに食べられる」等の新たな価値を顧客に提案した(Dyer, Dalzell, & Olegario, 2004)。プリングルスを「ポテトチップスまがいのもの」として嘲笑した競合他社は,おそらく類似製品の導入に躊躇したはずであり,それゆえプリングルスの提供価値は,高い独自性と排他性を持続できたものと推測される。

第3のポジショニング方法は「新属性の追加」である。これは製品カテゴリーを所与としつつも,それまで顧客や競合他社が等閑視してきた全く新しい価値を提案することで,製品属性の独自性を確保する方法である。たとえば,女性用生理用品について「モレない」という価値のみが重視されていた市場の中に,「ドライ感」という価値を新提案したP&Gのウィスパーがそれに該当する(和田,2006)。

第4のポジショニング方法は「属性重視度の変化」である。これは既存の製品カテゴリーと主戦場となる製品属性を前提としつつ,重視される属性の順位を入れ替える方法である。その例としてデジタルカメラにおけるエクシリムを挙げることができる。かつてデジタルカメラ市場では,画素数が最重要属性に位置づけられ,コンパクト性の重視度は画素数のそれよりも低かった。そうした中でカシオは,薄さと軽さに特化した「エクシリム」ブランドを投入し,「カメラを気軽に携行して,日常の出来事を記録する価値」を訴えた(楠木・阿久津,2006)。この試みは,顧客の重視属性を画素数からコンパクト性にシフトさせ,なおかつコンパクト性における自社ブランドの優位性を訴えるポジショニングであったと理解できる。

最後に,図表3の左極にあるのが「改善」である。これは,顧客や競合他社が重視する製品属性,および顧客の属性重視度の順位を所与として,顧客が重視する製品属性の水準を高めていく方法である。この方法は,製品カテゴリー,製品属性空間,そして顧客の選好を変化させるのではなく,むしろ既存の競争空間,競争ルールに適応していくタイプのポジショニングである。

図表3に示すとおり,「新カテゴリーの創造」は,既存の知覚マップあるいは製品カテゴリーに収まらない新たな価値の提案と,その占有を目指すものであり,最も高い独自性と排他性を備えている。そのため,この手法は独自性ポジショニングの理念型として位置づけることができる。それに対して,図表3の左側にある「改善」は,既存の製品属性において競合製品を凌駕することを目指すものであり,独自性や排他性は極めて低い。なぜならばその改善指針は基本的に,「同じ提供価値・属性を共有する競合製品との位置関係」によって根拠づけられるからである(久保田,2021久保田他,2022Moon, 201012)。本論冒頭で述べたように,このような「競合製品群の相対的位置関係を拠り所とするポジショニング」をここでは「相対性ポジショニング」と呼ぶことにする。「改善」という手法は,この相対性ポジショニングの理念型とな‍る。

図表3のスペクトラムの中間に位置する3つのポジショニング方法は,独自性ポジショニングと相対性ポジショニングの両方の要素が混在している。たとえば「属性重視度の変化」の例として紹介したエクシリムは,「カメラを気軽に携行して,日常の出来事を記録する」という価値を提案することで,「薄型デジカメと言えばエクシリム」というポジションを獲得するに至った。その点で同ブランドは,独自性と排他性を備えたポジショニングに一定程度,成功したと見なされよう。しかしエクシリムの提供価値は「薄さ」や「軽さ」という定量的属性に容易に翻訳されるものであったため,その後,他社とのスペック改善競争が熾烈化し,当初の独自性や排他性は次第に浸食されることになった(楠木・阿久津,2006)。結果的に同ブランドのポジショニングは,独自性要素よりも相対性要素の方が強いポジショニング方法であったということができよう。

3.4  問題の所在

ここまでのレビューから明らかなように,ポジショニングには対照的な2つの考え方が存在する。第1は,主に知覚マップを活用しつつ,競合製品群の相対的位置関係を前提として自社製品のポジションを決定する「相対性ポジショニング」であり,第2は「自社製品が顧客に提案可能な価値は何か」「その価値は,自社製品のみと結びつくだけのユニークさを備えているか」という問いに主眼を置く「独自性ポジショニング」である。

既存研究は相対性/独自性ポジショニングの有効性について,定量的な分析を行っていない。相対性ポジショニングを批判し,独自性ポジショニングの有効性を主張するAaker(2011)久保田(2021)久保田他(2022)Moon(2010)は,いずれも概念レベルの検討あるいはアネクドートに頼った説明にとどまっている。また日本におけるSTPの実践動向を調査した希少な研究として山下・福冨・福地・上原・佐々木(2012)が挙げられるものの,この研究で調査されたポジショニングは,本論が言うところの相対性ポジショニングに対応するものであり,独自性ポジショニングの有効性との比較はなされていない。

本論はこのリサーチ・ギャップを埋めるべく,相対性ポジショニングと独自性ポジショニングのそれぞれが,ポジショニングの目的である製品差別化に貢献するか否かを実証的に問う。

4  仮説の提唱

本論は,相対性ポジショニング,独自性ポジショニング,そして製品パフォーマンスの関係にフォーカスしている。ポジショニングによって影響を受けるであろうパフォーマンスには,製品の品質,ニーズ対応度,革新性,あるいは製品開発のスピードや開発製品数,財務的成功度等,様々な次元が考えられるものの(結城,2017),本論は「製品差別化の度合い」に注目し,それを従属変数として設定する。というのも,ポジショニングの第一義的な目的は,他社製品との意味ある違いを設計し,それを以て製品を差別化することに他ならないからである(Kotler, 1983久保田,2021水野,2014Myers, 199613)

独立変数は,相対性ポジショニングと独自性ポジショニングの2つである。ただし「各ポジショニングをどれだけ上手く行えているのか」という実践の巧拙を客観的に判断することは困難である(山下他,2012)。そこで本論は,山下他(2012)を参考として,「マーケティング戦略の策定時に,各ポジショニングをどれだけ重視しているか」という観点から概念化を行う。具体的に述べると,相対性ポジショニングは「製品群の相対的位置関係の分析を重視する度合い」であり,独自性ポジショニングは「自社製品のみと結びつくユニークな提供価値の設計を重視する度合い」となる。

前節で議論したとおり,独自性ポジショニングは提供価値の独自性および排他性が高く,「〇〇(提供価値)と言えば××(ブランド名)」という形で,顧客の脳内に当該ブランドの固有の居場所を確立でき,以て強力な差別化が可能になると予想される。他方で相対性ポジショニングは,提供価値の独自性や排他性が低く,容易にレッドオーシャン型の競争に巻き込まれるリスクを負っている(Aaker, 2011Kim & Mauborgne, 2005久保田,2021)。もちろん,卓越した技術力を擁する企業であれば,既存の製品属性空間の中で他社製品を圧倒するポジションを築くことも可能であるが,他社の対抗スピードが速まっている今日にあっては,その優位性が短命に終わることが多い(Aaker, 2011)。そのため,相対性ポジショニングの製品差別化へのインパクトは,独自性ポジショニングよりも低くなると推測される。よって,以下の3つの仮説が提唱される14)

H1:独自性ポジショニングは,製品差別化に正の影響を及ぼす。

H2:相対性ポジショニングは,製品差別化に正の影響を及ぼす。

H3:製品差別化に対する相対性ポジショニングの影響力は,独自性ポジショニングのそれよりも小さい。

5  実証分析

5.1  調査の概要

分析に先立ち,わが国の実務家に対するウェブ調査を実施した。サンプリングにおいては,インテージの法人パネルを利用し,①所属企業が消費財(サービスを含む)の開発・生産に従事していること,②正社員であること,③職種がマーケティング,営業推進・営業企画,商品開発・研究のいずれかであること,の3点を満たす実務家を抽出し,調査協力を依頼した。

調査は2022年12月に実施され323票の回答が得られたが,一部,上記3条件を満たさない回答が含まれていたため,それらの回答票を除外した。またインフォーマント・チェックとして「あなたは担当事業において,マーケティング戦略の策定に関わっている」というリカート法7点尺度の質問を提示したところ,その平均値は4.07(SD = 1.89)となり,マーケティング戦略策定に精通していない者の回答票が含まれていることが危惧された。そこで,この質問項目について4点未満の回答票(n = 103)も分析対象から除外することにした。結果として有効回答は212票となった。その概要は図表4に示すとおりである。

図表4.

回答者および所属企業の属性

回答者の属性 度数 % 所属企業の属性 度数 %
職種 財の種類
 マーケティング 86 40.57  製品(有形財) 151 71.23
 営業推進・営業企画 77 36.32  サービス(無形財) 61 28.77
 商品開発・研究 49 23.11
国籍
職位  日系 205 96.70
 一般社員 71 33.49  外資系 7 3.30
 係長クラス 22 33.49
 課長クラス 66 31.13 業種
 部長クラス 42 19.81  飲食料品 43 20.28
 役員 7 3.30  家電・情報通信機器 24 11.32
 経営者 4 1.89  金融・保険 20 9.43
 自動車(二輪車を含む) 19 8.96
 情報通信サービス 15 7.08
 医薬品・医薬部外品 13 6.13
 アパレル・インテリア 10 4.72
 雑貨 10 4.72
 その他 58 27.36
     
従業員数の平均値 9995.60人

5.2  測定尺度

図表5には,調査で用いた測定尺度が示されている。製品差別化はRamaswami, Srivastava and Bhargava(2009)の尺度を,相対性ポジショニングは山下他(2012)の尺度を参考にしている15)。独自性ポジショニングは既存の測定尺度が存在しないため,久保田(2021)久保田他(2022)結城(2021a)に基づいて独自に開発した。なお,これらの測定尺度については,4名の実務家に事前にチェックしてもらい,内容の修正を施している。

図表5.

構成概念と測定尺度

構成概念(変数) 測定尺度
製品差別化a
Ramaswami et al., 2009
・自社製品は,競合製品に対して大きな優位性を持っている。
・競合他社が自社製品を模倣することは困難である。
・他社とは異なる,差別化された新製品を開発できる。
相対性ポジショニングa
山下他,2012
マーケティング戦略の策定に際して,以下の活動を重視している程度
・知覚マップを作成すること。
・自社製品と競合製品の位置取りや相違点を分析すること。
・競合製品との比較に基づいて,自社製品の訴求点を定めること。
独自性ポジショニングa
(独自開発)
マーケティング戦略の策定に際して,以下の活動を重視している程度
・顧客の脳内に,自社製品固有の価値やイメージを刻み込むこと。
・「〇〇(製品カテゴリー)と言えば××(自社製品)」というように,顧客が真っ先に自社製品を思い浮かべてくれる状態を作り出すこと。
・自社製品のみが占有(独り占め)可能な,ユニークで魅力的な提供価値を設計すること。
反応型市場志向a
石田,2018Lim et al., 2017Narver et al., 2004
・御社は,顧客満足を第一優先にして事業目的を設定している。
・「顧客ニーズの理解」を基盤に,競争優位のための戦略を策定している 。
・顧客満足度を体系的かつ頻繁に測定している。
・わが社は競合他社よりも,顧客本位である。
先行型市場志向a
Cai et al., 2015石田,2018Narver et al., 2004Wang & Liu, 2020
・顧客自身が気付いていない新たなニーズの発見に努めている。
・顧客がうまく言葉で表現できないニーズへの対応に,ビジネス・チャンスを見出そうとしている。
・まだ明確になっていない顧客ニーズに対する解決策を,新製品に取り込んでいる。
・重要な市場トレンドから,将来の顧客ニーズに関する洞察・ヒントを引き出そうと努めている。
市場成熟度a 当該業界の市場は,成熟している。
環境不確実性a 我々のビジネスでは,顧客ニーズ・選好の変化が速い。
回答者の職種 マーケティング,営業推進・営業企画,商品開発・研究
※ベースラインを「マーケティング」とするダミー変数
サービス・ダミー 所属企業の生産物が無形財の場合は1,有形財の場合は0
外資ダミー 所属企業の母国籍が海外の場合は1,日本の場合は0
従業員数 所属企業の従業員数(対数)

注)a:リカート法7点尺度で測定。

加えて,コントロール変数として反応型市場志向,先行型市場志向,市場成熟度,環境不確実性,回答者の職種,サービス・ダミー,外資ダミー,従業員数も測定した。コントロール変数に市場志向を含めた理由は2つある。第1の理由は,既存研究において,市場志向が製品パフォーマンスの重要な予測因子として位置づけられてきたからである(Atuahene-Gima, Slater, & Olson, 2005Tsai, Chou, & Kuo, 2008)。そして,より重要な第2の理由は,ポジショニングというマーケティング戦略上の手続きが,市場志向(組織文化やマーケティング能力)に還元できない固有の役割を有しているか否かをチェックするためである。

調査データはシングル・ソースであるため,コモンメソッド・バイアスの存在が懸念される。そこで,全ての変数群についてHarman’s One Factor Testを実施した。固有値1以上を抽出条件とする探索的因子分析(回転なし)を行った結果,寄与率が50%を超えない3つの因子が抽出されたため,コモンメソッド・バイアスは深刻な問題にならないと判断された(Podsakoff, MacKenzie, Lee, & Podsakoff, 2003)。

5.3  構成概念の信頼性と妥当性

相対性/独自性ポジショニングは,それぞれ3つの尺度で測定されている。まず,これらの尺度群が本論の想定する2次元に分かれるかどうかをチェックするために,探索的因子分析を行う。

探索的因子分析には,最適な抽出因子数の決定問題が常につきまとう。たとえばカイザー基準(固有値1以上)やスクリーテストは,因子数を過小あるいは過大に識別してしまう可能性が高い(堀,2005)。この点について堀(2005)は,①因子数を過大に抽出することはないが,やや過少に抽出する傾向にあるMAP(Minimum Average Partial)と,②因子数を過小に抽出することはないが,やや過大に抽出する傾向を持つ対角SMC(Squared Multiple Correlation)平行分析を併用し,両方法で識別される因子数の中間を最適な因子数とする方法を推奨している。そこで堀(2005)に従い,相対性/独自性ポジショニングの尺度群について分析を行ったところ,MAPによる識別因子数は1,対角SMC平行分析による識別因子数は3となった。よって本論は,最適因子数を両者の中間にある2個に設定する。

図表6には,因子数を2としてプロマックス回転を施した探索的因子分析の結果が示されている。相対性ポジショニングの尺度群は第1因子に対して,独自性ポジショニングの尺度群は第2因子に対して,それぞれ高い負荷量を有しており,ポジショニングに関する測定尺度は概ね予想どおりの次元に分かれることが確認された16)

図表6.

ポジショニングの質問項目に関する探索的因子分析の結果

測定尺度 第1因子 第2因子 共通度
相対性ポジショニング
 ・知覚マップを作成すること。 .59 .23 .60
 ・自社製品と競合製品の位置取りや相違点を分析すること。 .76 .14 .76
 ・競合製品との比較に基づいて,自社製品の訴求点を定めること。 .86 .06 .81
独自性ポジショニング
 ・顧客の脳内に,自社製品固有の価値やイメージを刻み込むこと。 .17 .68 .65
 ・「〇〇(製品カテゴリー)と言えば××(自社製品)」というように,顧客が真っ先に自社製品を思い浮かべてくれる状態を作り出すこと。 .07 .77 .66
 ・自社製品のみが占有(独り占め)可能な,ユニークで魅力的な提供価値を設計すること。 .14 .73 .70
固有値 1.72 1.64
寄与率 .29 .27
累積寄与率 .29 .56

注)共通度および寄与率は回転前の数値。

ただし,探索的因子分析のみでは構成概念の信頼性や妥当性を評価できないし,また,それらの評価に際しては,他の構成概念も含めた検討が必要となる。そこで,複数の尺度で測定された全ての構成概念を対象に確認的因子分析を実行した。図表7には,各構成概念の記述統計量が示されている。

図表7.

構成概念の記述統計量

M SD α CR AVE Fornell & Larcker 基準 HTMT比基準
1. 2. 3. 4. 5. 1. 2. 3. 4. 5.
1.製品差別化 4.32 1.19 .85 .85 .67 (.81) 1.00
2.相対性ポジショニング 4.96 1.07 .89 .90 .74 .58 (.86) .60 1.00
3.独自性ポジショニング 4.93 1.03 .87 .87 .69 .74 .82 (.83) .71 .84 1.00
4.反応型市場志向 4.93 1.03 .87 .88 .64 .74 .70 .68 (.80) .70 .72 .69 1.00
5.先行型市場志向 4.76 1.07 .91 .91 .71 .74 .76 .75 .87 (.84) .75 .78 .76 .87 1.00

注)カッコ内は,AVEの平方根。適合度指標については,次のとおり。Comparative fit index (CFI) = .93,Incremental fit index (IFI) = .93,Tucker–Lewis index (TLI) = .91,Root-mean-square error of approximation (RMSEA) = .09。

クロンバックのα係数および合成信頼性(CR:composite reliability)は,全ての構成概念についてHair, Black, Babin, and Anderson(2018)の推奨基準(>.70)を満たしている。また平均分散抽出度(AVE:average variance extract)についても,Fornell and Larcker(1981)が提唱する収束妥当性の基準(>.50)を,全ての構成概念がクリアしている。

最後に,ほとんどの構成概念のAVE平方根は,他の構成概念との相関係数より高く,おおむね弁別妥当性が保たれている。ただし,独自性ポジショニングのAVE平方根は.83,独自性ポジショニングと相対性ポジショニングの相関係数は.82であり,Fornell and Larcker(1981)の弁別妥当性基準を満たしているとはいえ,その差はわずかしかない。加えて,反応型市場志向と先行型市場志向の相関係数もそれぞれのAVE平方根よりも大きく,2つの市場志向が上手く弁別できていない可能性がある。とりわけ相対性/独自性ポジショニングについては,①いずれも同じ「ポジショニング」にフォーカスする極めて近接した概念であること,②独自性ポジショニングについては,筆者が新たに提唱し,独自に開発した尺度によって測定されていることを踏まえると,両者の弁別妥当性については慎重な判断が求められる。

そこで本論はHenseler, Ringle, and Sarstedt(2015)に従い,Fornell & Larcker基準よりも正確な弁別判定能力を持つHTMT比(heterotrait-monotrait ratio)を用いて,改めて弁別妥当性をチェックした17)。図表7に示すように相対性ポジショニングと独自性ポジショニングのHTMT比は.84であった。Henseler et al.(2015)は弁別妥当性の判定基準として,HTMT比 <.90,および閾値をより厳しく定めたHTMT比 <.85を提案しており,相対性/独自性ポジショニングのHTMT比はいずれの基準も満たしている。よってそれぞれのポジショニングは弁別妥当性が保たれていると判断された。また反応型市場志向と先行型市場志向のHTMT比は.87であり,こちらについても,一定レベルの弁別妥当性が維持できていると判断された。

5.4  仮説のテスト

仮説の妥当性をテストすべく,製品差別化を従属変数とする回帰モデルを推定する。複数の尺度で測定された概念については,それらの尺度の平均値を用いる。なお,推定に先立ってBreusch-Pagan検定を行ったところ,「残差分散が一定」という帰無仮説が5%水準で棄却され,分散の不均一性が疑われた。不均一分散はOLS推定量の不偏性を脅かすものではないが,回帰係数の標準誤差を過小評価することになる(Wooldridge, 2013)。そこで検定に際しては,Whiteの頑健な標準誤差を用いることとした。

推定結果は図表8に示されている。Model 1の推定結果に示されるように,反応型/先行型市場志向は,いずれも製品差別化に有意な影響を及ぼしている(β3 = .42,p < .001;β4 = .40,p < .001)。このことは,市場志向が製品パフォーマンスを左右する中核的な予測因子であるという既存研究の主張(Atuahene-Gima et al., 2005Tsai et al., 2008)に沿うものである。

図表8.

推定結果

Model 1 Model 2 Model 3 Model 4 Model 5
β1:相対性ポジショニング −.12 (0.09) .06 (0.09) .15 (0.09)
β2:独自性ポジショニング .39*** (0.09) .34*** (0.09) .59*** (0.09)
β3:反応型市場志向 .42*** (0.12) .37** (0.12) .41*** (0.12) .35** (0.12)
β4:先行型市場志向 .40*** (0.11) .28* (0.12) .37** (0.12) .25* (0.12)
β5:市場成熟度 −.13* (0.05) −.15** (0.05) −.13* (0.05) −.15** (0.05) −.13* (0.06)
β6:環境不確実性 .05 (0.05) .06 (0.05) .05 (0.05) .05 (0.05) .09 (0.05)
β7:営業推進・営業企画ダミーa −.01 (0.14) .06 (0.15) .01 (0.15) .10 (0.14) .28 (0.15)
β8:商品開発・研究ダミーa .32 (0.17) .34* (0.16) .32 (0.17) .34* (0.16) .39* (0.18)
β9:サービス・ダミー −.14 (0.14) −.10 (0.17) −.14 (0.14) −.10 (0.14) .04 (0.15)
β10:外資ダミー .81*** (0.20) .74*** (0.18) .79*** (0.19) .71*** (0.16) .67*** (0.19)
β11:従業員数(対数) .01 (0.03) .01 (0.03) .01 (0.03) .01 (0.03) .03 (0.03)
β0:constant .69 (0.41) .26 (0.42) .63 (0.43) .21 (0.41) .40 (0.46)
F 25.86 25.53 23.64 28.07 21.86
Adjusted R2 .48 .52 .47 .52 .40
Model 1に対するΔR2 .05*** .00 .04***
VIF < 2.85 3.36 3.21 3.07 2.46
n 212 212 212 212 212

注)*p < .05,**p < .01,***p < .001。カッコ内はwhiteの頑健な標準誤差。a:ベースラインとなる職種は「マーケティング」。

次に,Model 2の推定結果によると,独自性ポジショニングは製品差別化に対して正の有意な効果を有している(β2 = .39,p < .001)。よってH1は支持された。他方で,相対性ポジショニングについては有意な効果が認められなかった(β1 = −.12,p > .05)。加えて,Cohen(1992)に従って検定力(1 − β)を計算したところ,その値は.98となった18)。これは,帰無仮説を誤って採択してしまう確率(β)が2%前後に抑えられていることを意味する。したがってH2,およびH2を前提に提唱されたH3はいずれも不支持であると判断された19),20)

なお図表7に示されるように,主要構成概念間の相関係数は概して大きく,またModel 2のVIF最大値も3を超えている。そのため,多重共線性によって推定値が不安定になっている可能性がある。この点をチェックすべく,3つのモデルを追加で推定した。Model 3は,ポジショニングについて相対性ポジショニングのみを投入したモデル,Model 4は独自性ポジショニングのみを投入したモデル,そしてModel 5は,双方のポジショニングを投入し,反応型/先行型市場志向を除外したモデルである。いずれのモデルにおいても,独自性ポジショニングは有意な正の効果が認められた。また相対性ポジショニングについては,Model 3およびModel 5において係数の符号が負から正へ反転したものの,その効果はやはり非有意であった。

6  ディスカッション

本論は,ポジショニングを相対性/独自性の2タイプに分け,それぞれが製品差別化に貢献するか否かを実証的に問うた。その結果,独自性ポジショニングは製品差別化に貢献するが,相対性ポジショニングの貢献は認められない,というファインディングスが得られた。以下,これらのファインディングスから導かれるインプリケーションを整理する。

6.1  学術的インプリケーション

第1の学術的インプリケーションは,ポジショニングは製品差別化に寄与する重要な変数だということである。山下他(2012)も指摘するように,既存の学術研究は,標準的な教科書で想定されているマーケティング戦略策定の有効性を,ほとんど検討してこなかった。しかし本論は,ポジショニング,とりわけ独自性ポジショニングが,製品差別化に貢献することを見出した。しかもその効果は,市場志向をコントロールした上で析出されたものである。ポジショニングという作業には,組織文化やマーケティング能力に還元できない,固有の役割・有用性が含まれている。

第2の学術的インプリケーションは,知覚マップに象徴される相対性ポジショニングに関するものである。久保田他(2022)は,相対性ポジショニングの役割を否定せず,独自性ポジショニングが実行困難な場合には,次善策として相対性ポジショニングを行うべきであると提案している。また山下他(2012)は,セグメンテーション,ターゲティング,ポジショニングの2次因子として「マーケティング戦略」の実行水準を捉え,それが事業成果に正の影響を及ぼすという分析結果を報告している。しかし本論の実証分析においては,相対性ポジショニングの有意な効果は見出されなかった。相対性ポジショニングを重視する企業は,既存の製品属性空間上での競争に拘束されやすく,それが製品差別化の実現を妨げているものと推測される。

6.2  実務的インプリケーション

実務家に対する第1の示唆は,ポジショニングの本来のミッションを忘れてはいけない,ということである。そのミッションとは,「自社製品の固有の提供価値を設計し,そのユニークな価値を顧客の頭の中に刷り込むこと」である。このことを忘れ,相対性ポジショニングや知覚マップを単なるテンプレートとして用いると,「どの顧客が,なぜ,どのように喜ぶのか」という提供価値の設計がおろそかになり,結果として十分な製品差別化が達成できなくなってしまう(楠木,2010)。

加えて実務家は,既存の競争ルールを変化させる機会や,その競争ルールから自らを隔離する機会について,より敏感になるべきである。これが第2の示唆である。独自性ポジショニングが標榜する「独自の提供価値の設計」は,大きな想像力を要する困難な作業である(Aaker, 2011久保田他,2022)。しかし独自性の創出は,必ずしも「無から有を生み出すこと」を意味するものではなく,既存の製品カテゴリーの中に新たなサブ・カテゴリーを設けたり,これまで等閑視されてきた新しい属性(提供価値)を提案することによっても達成できる。こうした手法は,多くの企業にとって参考になるはずである。

かつて日本の消費財業界では,製品開発力とチャネル力の2つが,シェアや利益を改善させる上での鍵を握っていた。つまり新製品を間断なく開発し,それを統制されたチャネルで販売することで,価格決定権を維持しながら販売数量を増加させることが期待できたのである(池尾,1999田村,1996)。こうした優良企業の「勝ちパターン」において,差別化は主にチャネル統制と広告・ブランドが担う一方,製品開発は競合製品にキャッチアップするため,あるいはチャネル統制を支えるための道具として位置づけられてきた(池尾,1999)。このような時代にあっては,「顧客の重視する製品属性について他社製品を凌駕すること(あるいは追随すること)」を主眼とする相対性ポジショニングがフィットしていたのかもしれない。しかし今日では,チャネル統制権が流通業者へと移り,製品のコモディティ化も進行している。こうした環境下で競争優位を確立するためには,同質的製品の連続投入ではなく,ライバルから高度に差別化された製品の開発が必須となる。それを実現する上で,独自性ポジショニングが強力な武器になりうることを,本論は示唆しているのである。

6.3  今後の課題

本論の実証分析については,幾つかの克服すべき課題が残されている。

第1に,より入念な測定尺度の開発が求められる。本論においては相対性ポジショニングと独自性ポジショニングのいずれも,3つの測定尺度しか用意できなかった。また,相対性/独自性ポジショニングおよび製品差別化は,回答者の知覚に基づき測定されたものであった。今後は回答者のバイアスや測定誤差を小さくするために,回答者の主観に依存しない外的な成果指標を導入したり,あるいは企業の企画書を入手するなどして,特定製品の客観的なポジショニングの実践状況とパフォーマンスを測定する工夫が必要となろう。

第2に,本論の従属変数は製品差別化のみであったが,それ以外の成果次元(製品の品質,ニーズ対応度,開発スピード等)を従属変数とする分析も行うべきである。たとえば従属変数を「製品のニーズ対応度」や「製品開発スピード」に設定すれば,相対性ポジショニングの有意な効果が見出されるかもしれない。なぜなら相対性ポジショニングは,顧客が現在重視している製品属性水準の改善を促したり,あるいは製品開発方針に関する企業内のコンセンサス醸成に寄与すると考えられるからである。マーケティング戦略における相対性ポジショニングの役割は,これらの多様なパフォーマンス次元を考慮した上で,慎重に判断されるべきであろう。

付記

本論の研究過程において貴重なアドバイスと示唆を賜りました小川進先生(関西学院大学),水野誠先生(明治大学),久保田進彦先生(青山学院大学),および本論の審査において重要なご指摘を頂きました匿名のアリアエディターおよびレビューアーの先生方に,心より感謝を申し上げます。なお本論で使用したデータは,JSPS科研費(21H00758)の助成を受けて行われたサーベイによるものです。

1)  マーケティング論におけるポジショニングは,競争戦略論におけるPorter(1980)流のポジショニングとは全く異なる概念であることに留意されたい。前者は「顧客の脳内」における自社製品の位置づけを問題にするのに対し,後者は自社を取り巻く利益収奪要因(5 forces)の圧力を回避可能な居場所にフォーカスしている。結城(2021c)を参照のこと。

2)  「相対性ポジショニング」と「独自性ポジショニング」という類型化は,久保田他(2022)に登場する「相対的ポジショニング」と「独自化型ポジショニング」という類型を参考にしている。ネーミングに若干の違いがあるものの,その意味内容は全く同じである。

3)  彼らは『ポジショニング戦略』の出版前に,その原型となる論文を発表している(Ries & Trout, 1972)。また『ポジショニング戦略』の出版後も,その姉妹版といえる書籍(Ries & Trout, 1993)を刊行している。

4)  『マーケティング原理』の初版(Kotler, 1980)にもポジショニングという用語は登場するが,それはターゲティングの中に位置づけられ,かつその記述は非常に少ない。また同書と並ぶコトラーの代表的教科書であるMarketing Managementにおいても,いわゆるSTPというフレームワークが登場するのは第5版(Kotler, 1984)からである。

5)  この点について,コトラーは次のように主張している。「どのセグメントを標的にするかという意思決定により,企業の競争相手が規定され,その上で競争的なポジショニングに関する意思決定が行われる。企業はこの意思決定によってマーケティング・ミックスの詳細を計画することが可能になる」(Kotler, 1983, p. 234)。

6)  具体的には,①垂直的属性の水準を他社製品よりも高い位置に移動させる,②空白のまま取り残されている領域に製品を投入する,③競合製品のポジションに敢えて接近してシェアを奪う,等のオプションが考えられる。Kotler(1983)を参照のこと。

7)  少なくとも,筆者が現物を確認できた第15版(Kotler & Armstrong, 2014)までは,STPの枠組に基づき,知覚マップを用いてポジショニングが解説されている。

9)  知覚マップを用いたポジショニングを直接批判したものではないが,Kim and Mauborgne(2005)もまた,既存の市場空間とルールを所与として競争を行えば,いくら製品差別化を標榜したところで,製品の同質化圧力に抗えないことを述べている。さらに楠木(2006)も,製品の良し悪しを判断する属性が安定・収斂している状況下でコモディティ化が発生しやすいことを指摘している。

10)  Moon(2010)は,リバース・ブランドの例として,余計なコンテンツを一切提示しないgoogleのポータル,ブレークアウェー・ブランドの例として,「ロボット」であるが「ペット」カテゴリーに限りなく接近したaibo,そしてホスタイル・ブランドの例として,自動車のサイズの小ささを開き直って強調したミニクーパーを挙げている。

11)  水野(2014)も,ブランドの「自分らしさ」や「アイデンティティ」こそが当該ブランドの固有の価値となり,それが強力なポジショニングの基盤になると述べている(p. 64)。

12)  本論は3.1において知覚マップを用いたポジショニングの限界について触れたが,厳密にいえばその限界は,知覚マップを用いることそれ自体ではなく,製品カテゴリー,製品属性,顧客選好を所与とした競争空間を前提にポジショニングを考えることで,その独自性や排他性が強く制約されてしまうことに求められよう。

13)  もちろん製品差別化は,実際には製品の物理的属性を変える,付帯サービスを改良・追加する,プロモーション方法を変えるなど,4Pに関する多様な切り口で具現化されることになる(Kotler, 1983高嶋・桑原,2008)。しかし,そうした個別の打ち手が製品差別化に結び付くか否かは,その戦術策定に先行するポジショニング(ないしはコンセプトの設計)に大きく依存する(Kotler, 1983楠木,2010)。本論はこうした立場に立脚して,製品差別化を従属変数とし,それに対するポジショニングのインパクトを検討する。

14)  本論が提唱する仮説群については,当然のことを述べているだけに過ぎない,という批判がありうるかもしれない。しかしながら,仮に多くのマーケティング研究者が「これらの仮説は自明のことである」と主張するならば,大きな矛盾が生じてしまう。その矛盾とは,多くのマーケティング研究者が「相対性ポジショニングよりも独自性ポジショニングの方が有効であるのは当然だ」という考えを共有しているのであれば,なぜ多くの教科書が(コトラー流の)相対性ポジショニングを紹介しているのか,そしてなぜ多くの教育現場で相対性ポジショニングが解説されているのかを説明できない,という点にある。換言すれば,ある研究者が「相対性ポジショニングよりも独自性ポジショニングの方が,製品差別化に貢献する」と信じながらも,教育現場でコトラー流のポジショニングを解説しているとすれば,その研究者は製品差別化にあまり役に立たない(と内心では思っている)ポジショニング方法を教育していることになるのである。こうした混乱を解消するためには,相対性/独自性ポジショニングの実践動向とそのパフォーマンスの関係を定量的に調査・分析する必要がある。本論が提唱した仮説群のテストは,この点,すなわちマーケティング論における「理論と教育のねじれ現象」を解消する契機を提供する点において,大きな意義を有している。

15)  山下他(2012)のオリジナルの尺度は,①「他社製品との比較に基づいて,製品の訴求点を明確に定めている」,②「自社内の他製品との比較に基づいて,製品の訴求点を明確に定めている」,③「顧客の製品評価データに基づいて,製品の訴求点を明確に定めている」の3つである。図表5の相対性ポジショニングの測定尺度は,上記の尺度群を参考にしつつも,微調整を加えている。具体的には,山下他(2012)における尺度②は,自社の製品ライン内における製品の棲み分けを測定するものであり,他社製品に対する差別化問題にフォーカスする本論の文脈にはふさわしくないと判断し,本論のサーベイからは除外している。また尺度③については,顧客の製品知覚を拠り所とするポジショニングの実践を問うていること,そしてこのポジショニングの中核的なツールが知覚マップであることを踏まえて,よりシンプルに「知覚マップを作成すること」の重視度を測定することとした。

16)  加えて相対性/独自性ポジショニングの尺度群について,1因子モデル(6つの尺度すべてが1つの構成概念に縮約されることを想定したモデル)と,2因子モデル(ポジショニングを相対性/独自性の2つの下位概念に分け,それぞれが3つの尺度で測定されることを想定したモデル)の適合度を計算した。その結果,1因子モデルのχ2値は115.31(d.f. = 9),2因子モデルのそれは39.70(d.f. = 8),2因子モデルに対する1因子モデルのΔχ2は75.61(Δd.f. = 1)となり,両者の適合度の差は0.1%水準で有意であった。また1因子モデルのAICは139.31,2因子モデルのそれは65.70であった。以上の結果は,本論が用いたポジショニングの尺度群が,相対性/独自性という異なる次元を反映できていることを示唆している。

17)  HTMT比は,同一概念内の尺度間相関(monotrait-heteromethod correlations)の平均に対する,異なる概念を測定する尺度間の相関(heterotrait-heteromethod correlations)の平均の比率であり,概念間相関の推定値を示すものである。Henseler et al.(2015)によれば,HTMT比が1よりも明らかに小さい場合に,構成概念間の真の相関は1と異なるものであり,ゆえに弁別妥当性が保たれていると判断できる。加えて,彼らはシミュレーションを通じて,HTMT比基準がFornell & Larcker基準よりも,sensitivity(2つの構成概念が同一である場合に,弁別妥当性の欠如を検出する能力)とspecificity(2つの構成概念が異なる場合に,弁別妥当性を備えていると判定できる能力)が高いことを報告している。

18)  検定力は,母集団効果量,自由度,有意水準(Type I error:α)の関数である(Rothstein, Borenstein, Cohen, & Pollack, 1990)。ただし,モデルにおいて想定される母集団の効果量をア・プリオリに決めることは困難である。そこで本論では,Cohen(1992)における「中程度の効果量」(f2 = 0.15)を想定して検定力を計算した。具体的には,Model 2のように独立変数が12個存在し,中程度の効果量が想定され,α = .05かつn = 212である場合の検定力が0.98となる。なお中程度の効果量は,経営学分野の実証分析において多く用いられてきたものである(e.g., Kim, Hoskisson, & Wan, 2004Lane, Cannella, & Lubatkin, 1998Spanjol, Qualls, & Rosa, 2011)。

19)  紙幅の関係上,詳細は割愛するが,本論では2つのポジショニングの交互作用項,および各ポジショニングの二乗項を追加したモデルの推定も行った(上記の項のみをセンタリングした上で推定)。これらの追加分析の結果,各ポジショニングの交互作用項も二乗項も有意な効果は見出されなかった。

20)  本論は独自性ポジショニングが製品差別化に貢献すると予想している(H1)。しかし実際には,「高度な製品差別化を実現できているからこそ,それを維持・強化すべく独自性ポジショニングを追求する」という逆の因果性が作用しているかもしれない。この場合,独自性ポジショニングと誤差項に相関が生じてしまい,OLS推定量の不偏性ないし一致性が保てなくなる。この点をチェックすべく,Wooldridge(2013)の手順に従って,内生性の有無を検定する。

検定に際しては,「内生的な独立変数には影響を及ぼし,かつ従属変数には直接影響しない変数」,いわゆる操作変数が必要となる。そこで本論は,操作変数として,図表5の尺度群と同じタイミングで収集した以下の3尺度を用いることにした(いずれもリカート法7点尺度で測定,α = .84)。

所属部署(御社)において,「ポジショニング」という用語がどのような意味として捉えられているか?

IV1:ポジショニングとは,顧客の脳内に自社製品固有の価値やイメージを刻み込むことである。

IV2:ポジショニングとは,「〇〇(製品カテゴリー)と言えば××(自社製品)」というように,顧客が真っ先に自社製品を思い浮かべてくれる状態を作り出すことである。

IV3:ポジショニングとは,自社製品のみが占有(独り占め)可能な,ユニークで魅力的な提供価値を設計することである。

以上の尺度群は,調査協力者の所属組織が,ポジショニングを独自性ポジショニングの観点から定義・共有している度合いを意味している。これらの尺度の平均値を,(ポジショニングにおける)「独自性準拠度」と呼ぶことにしよう。

内生性の疑われる独立変数「独自性ポジショニング」の測定尺度(図表5を参照)と,操作変数となる「独自性準拠度」の測定尺度(IV1~IV3)は酷似しているが,その意味内容は大きく異なる。独自性ポジショニングは「マーケティング戦略策定時に,何を重視しているのか」を測定している一方で,独自性準拠度は「ポジショニングとは何を意味しているか」を測定している。またサーベイに際しては,両者を混同した回答を避けるべく,まず質問票の前段において,(ポジショニングという言葉を一切用いずに)「独自性ポジショニング」に関する質問項目を提示し,次に従属変数に関する質問項目を挟んだ上で,最後のセクションにおいて,(ここで初めてポジショニングという用語に言及して)「独自性準拠度」の質問に回答してもらっている。

独自性準拠度は,ポジショニングの遂行方針に強い影響を及ぼすはずである。すなわち,ポジショニングを独自性の観点から定義している企業であれば,マーケティングの実践段階においても独自性ポジショニングが励行されるはずである。もちろん論理的には,「ポジショニングを独自性の観点から定義しているが,ポジショニングという作業それ自体を軽視・省略しているがゆえに,独自性ポジショニングを実践しない」という企業も存在するかもしれない。しかし,本論のサンプルとほぼ同様の業種構成(飲食料品を中心とする,サービス業も含めた日本の消費財企業)からなるサーベイ・データを分析した山下他(2012)は,サンプルに含まれるほとんどの企業が製品差別化のためにポジショニングを重視していることを報告している(図表2-1(p. 68),図表3-1(p. 89),および2.3(p. 93)を参照)。そのため,この知見が本論の文脈においても適用できるならば,「ポジショニングそれ自体の軽視ゆえに,ポジショニングを独自性の観点から定義しながらも,それを実践しない」というケースが発生する可能性は低くなると予想され‍る。

以上の議論に基づき,本論は「独自性準拠度が独自性ポジショニングの実践を促す」という対応関係を想定するが,他方で独自性準拠度は,あくまで「ポジショニングが組織内でどのように定義されているか」を捉えた概念であり,その定義自体が製品差別化を直接左右することは,論理的に考えにくい。独自性準拠度が製品差別化に影響を及ぼすとすれば,それは,「独自性に準拠してポジショニングが定義・共有されているゆえに,実践においても独自性ポジショニングが重視され,その結果として製品差別化が高まる」という因果経路を辿るはずである。そのため独自性準拠度は,操作変数として適切であると考える。

Wooldridge(2013)による内生性検定の手順を本論の文脈に即して示せば,次のようになる。検定の焦点は,下記(1)式(図表8のModel 2に対応)における独自性ポジショニングと誤差項uの相関である。

製品差別化 = β 0 + β 1 独自性ポジショニング + β 2 x 1 + + u  (1)

そこで(2)式のように,独自性ポジショニングを従属変数,独自性準拠度と外生変数群(xi)を独立変数とする誘導型を推定する。

独自性ポジショニング = π 0 + π 1 独自性準拠度 + π 2 x 1 + + v  (2)

独自性ポジショニングとuの間に相関があるとすれば,それは(2)式のvと(1)式のuの間に相関が認められる場合となる。裏を返せばこれは,(3)式においてδ1 = 0の場合に,uvが無相関であることを意味する。

u = δ 1 v + e  (3)

δ1を検定する最も簡単な方法は,(1)式に追加的な独立変数としてvを投入し,その係数についてt検定を行うことであるが,vそのものは観察不能である。しかしながら,われわれは(2)式を通じて残差 v ^ を求めることができるため,これを用いた(4)式を推定することで,H0:δ1 = 0の検定が可能となる。

製品差別化 = β 0 + β 1 独自性ポジショニング + β 2 x 1 + + δ 1 v ^ + e  (4)

以上の手続きに則り,(2)式のモデルから v ^ を求め,それをModel 2に加えた回帰式を推定した結果,δ1は非有意であった(t = −1.18)。また(2)式の推定において,独自性ポジショニングに対する独自性準拠度の効果は正であり,その係数は0.1%水準で有意であった。よって,独自性ポジショニングに関する内生性の問題は,Model 2の推定に深刻な影響を及ぼしていないものと判断された。なお逆の因果性が疑われる場合,一般的には操作変数を用いた2段階最小二乗推定が行われる(IV推定量)。しかしIV推定量は,OLS推定量よりも分散が非常に大きくなるため,独自性ポジショニングと誤差項が無相関であるならば,効率性の観点から見てIV推定量を用いるべきではない(Wooldridge, 2013)。そのため,本論ではIV推定を行わないことにした。

参考文献
 
© 2023 日本商業学会
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