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デジタル・サービタイゼーション:企業間関係および市場感知能力が製造業のサービス化へ与える影響
須賀 涼太西岡 健一南 知惠子
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2024 年 27 巻 1-2 号 p. 19-36

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Abstract

本論文の目的は,製造業がデジタル・トランスフォーメーションを背景にサービス化を推進する際に,組織資源である企業間関係,組織能力である市場感知能力がいかに影響を与えるかを明らかにすることにある。製造業勤務者に質問紙調査を行い,サービス化程度を従属変数とし,情報通信技術,サプライヤーとの関係性,顧客との関係性,市場感知能力,さらに市場感知能力と企業間関係との交互作用を説明変数候補とするモデルを階層的重回帰分析により検証した。分析結果から,情報通信技術,顧客関係,市場感知能力がサービス化に影響することが示され,また,サプライヤーとの関係性は単独では影響を持たないが,市場感知能力との交互作用によりサービス化に影響することが示された。これらの結果により,製造業のサービス化は,従来の研究では看過されてきた企業間関係と市場感知能力というマーケティングに関する資源が重要な役割を果たすことが明らかになった。

1  はじめに

製造企業が遠隔制御サービスを機械・設備に導入する,あるいは製品本体を販売せず,製品の使用に応じた従量制課金方式を取ることなど,ビジネスモデルをサービスにシフトしていく現象は,製造業のサービス化,もしくはサービタイゼーション(servitization)と呼ばれ,とりわけインダストリアル・マーケットで関心を集めてきた。

近年,デジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation:以下DX)が,製造業のサービス化を促進する傾向にあり,一層産業界の関心を集めている。DXとは,デジタル技術を活用したビジネスモデルの変革を意味し(Ritter & Lettl, 2018),IoT(Internet of Things)やビッグデータ,AI(Artificial Intelligence:人工知能),ロボットなどのデジタル技術が生産工程や機械の保守運用へと導入され,製造業が製品生産や供給体制,メンテナンスにおいて,製品とサービスとを統合する動きが着目されている。こうした現象はデジタル・サービタイゼーション(Kohtamäki, Parida, Patel, & Gebauer, 2020)と捉えられる。

製造業のサービス化は,「新たな競争優位の源泉をサービスに求め,製品とサービスとを統合して販売しようとするために,組織の能力とプロセスを変革すること」と定義される(Baines, Lightfoot, Benedettini, & Kay, 2009, p. 555)。初期の先行研究では,製品とサービスの統合形態の類型化議論が盛んであったが,サービス化が組織の能力とプロセスの変革に関わることから製造業のサービス化の決定要因(determinants)の特定化が多くの関心を集めてきた。製造業がサービスを統合したビジネスへと変化していく際に,どのような志向,能力,組織的調整がサービス化させる決定要因となるのかについて研究が蓄積されてきた。例えばサービス志向(e.g. Gebauer, Edvardsson, & Bjurko, 2010),サービスの設計・開発能力(e.g. Ulaga & Reinartz, 2011),組織的調整(e.g. Baines et al., 2009)の観点からアプローチされてきた。

製造業のサービス化の決定要因を議論する研究の多くは,リソース・ベースト・ビュー(Barney, 1991)つまり組織の成果を資源に求める立場を取り,サービス化を促進する資源や業績に繋がる成果を上げる資源を特定してきた。なかでも製造業のサービス化においていかなる技術資源が必要となるかについて研究の焦点が集まる傾向にある(e.g. Baines & Lightfoot, 2013)。しかしながら,競争優位を実現するための資源としては組織資源も重要であるにも関わらず,十分に組織資源に焦点を当ててこなかったことが指摘される。

製造業のサービス化は,製造企業のビジネスモデルを変えるものであり,製造と保守・運用の統合化による,顧客企業への直接的なアプローチ(Paiola & Gebauer, 2020)や,新規サービス開発など,マーケティング分野においては重要な戦略変更を伴うにも関わらず,企業間関係という組織資源が先行研究においては等閑視されてきたことが指摘される。またマーケティングの観点からは,市場での成果を達成するためには,組織能力において,市場ニーズを感知し,市場開発を行う能力が必要と思われるが,そうした能力については,市場機会探索研究(Kindström, Kowalkowski, & Sandberg, 2013)のみで扱われている。つまり,製造業のサービス化研究においては,リソース・ベースト・ビューに基づきながらも,1)サービス化の決定要因として,組織資源のうち企業間関係という組織資源がサービス化にいかなる影響を与えるかについて実証的に明らかにしていない,2)組織としての市場機会探索へのアプローチや能力がサービス化や成果に与える影響について明らかにしていない,という点においてリサーチ・ギャップがあると認識される。また,DXにより製造業のサービス化が進行しつつあると観察されるが,デジタル化技術に加え,製品間の連結,組織内外の調整及び連結に影響を与えると想定されるICT(Information and Communication Technology:ICT,以下ICT)のサービス化への影響についても実証研究が蓄積されていないという現状がある。

そこで,本研究は上記のリサーチ・ギャップを埋めるために,製造業のサービス化の決定要因を明らかにすることをリサーチ・クエスチョンとする。より具体的には製造業のサービス化を従属変数とし,ICT,企業間関係,市場感知能力を独立変数とするリサーチモデルを構築し,さらに市場感知能力と企業間関係が交互作用を持つ場合にサービス化に影響を与えることを実証することを目的とする。本研究は,データ収集としてBtoB製造企業に対するオンラインの質問紙調査を実施し,上記のリサーチ・クエスチョンを実証的に明らかにするものである。

次節以下,本稿は製造業のサービス化現象に注目する意義,製造業のサービス化に関する先行研究,理論的背景,仮説導出の順に論じ,実証結果をもとに本論文から得られたインプリケーションについて論じることにする。

2  先行研究

2.1  製造業のサービス化の意義

製造業のサービス化現象に対しては,オペレーションズ・マネジメントのProduct Service System(以下PSS)研究分野とインダストリアル・マーケティング分野において研究が行われてきた。近年デジタル化の進展に伴い,デジタル・サービタイゼーション研究が行われてきている。

製造業へのサービス化への注目は,製品のコモディティ化に対するサービスによる製品付加価値の向上という観点と,製品をサービス化することによる環境対応という観点とがある。

前者においては,製造業のサービス化は,製品コモディティ化への対策として関心を集めている。初期研究では,多くの製造業において,製品のコモディティ化によって,高機能製品の開発といった戦略が,競争優位の源泉とならない状況への関心から製造業のサービス化への段階的移行研究が注目されてきた(Oliva & Kallenberg, 2003)。同一製品セグメント内で差別化が困難になり,製品属性の差がほとんどないと知覚されると,企業戦略としては価格競争に陥ることになり,製造業の利益率は下落する。製造業にとっては,製品よりサービスから得られる利益率の方が相対的に高いという主張(e.g. Gebauer, Fleisch, & Friedli, 2005)から製造業のサービス化への注目は高まってきたと言える。

一方,製造業のサービス化が環境負荷を下げるという方向性はとくにPSS研究における大きな関心事であった(Baines & Lightfoot, 2013)。製造業がサービス提供を強化することで,顧客企業の生産効率を向上することによる資材使用の抑制,あるいは,製品の効果をサービスとして提供することで製品の生産量を削減することが可能となり,これにより環境への負荷を軽減することができる。PSS研究分野は,とりわけ資源の効率的な利用と事業の持続可能性を求めることに強い関心があり,当該分野において研究を蓄積してきている(Tukker, 2015)。

上記に述べてきた通り,製造業のサービス化現象は,製品の付加価値向上と環境負荷の削減という実務上の大きな関心から研究を蓄積してきている。さらに,近年の顧客からのサービスに対する期待の向上,つまり従来の基本的な保守サービスだけでなく,自社事業の生産性向上への支援期待といった傾向(Kowalkowski, Gebauer, & Oliva, 2017)から,製造業のサービス化への関心が高まっており,研究の意義が高まっていると言える。

2.2  製造業のサービス化の要件

製造企業がサービス化を促進する背景としては,製品の付加価値向上,環境負荷の削減動機があることを述べた。これは実務的な関心をもとにアカデミックな研究が蓄積されてきたといえる。製造企業がサービス化を促進し,サービス化を実現させること,サービス化により成果を出すことにはどのような要件が必要かについてアプローチされてきた。

サービス化の要因として,サービス志向,市場機会探索,組織的資源,諸要因の複合的な組み合わせという観点から研究が行われてきた。

サービス志向研究に関しては,サービス志向(Gebauer et al., 2010),製品とサービス・イノベーションのバランス,サービス志向モデル(Kindström et al., 2013)が挙げられる。サービス化への誘因として志向が存在するという前提が置かれる。

サービス志向とともに注目されるのが市場機会探索能力というサービス化への決定要因である。この領域の研究として,サービス感知能力,サービス・システム感知能力,社内サービス感知能力,サービス事業を実現するための技術探索能力(Kindström et al., 2013),サービス市場参入能力(Oliva & Kallenberg, 2003),サービス事業機会の活用と探索(Fischer, Gebauer, Gregory, Ren, & Fleisch, 2010)が挙げられる。サービス化を促進し,実現するための技術ベースの能力,すなわちサービス開発能力(Martin & Horne, 1992Ulaga & Reinartz, 2011Sjödin, Parida, & Kohtamäki, 2016),サービス設計能力(Ulaga & Reinartz, 2011)が影響を持つことが明らかにされてきた。製造業のサービス化は,製品にサービスを組み合わせるのではなく,製品それ自体にサービスを統合するために,製品とサービスを統合する設計自体が重要となる。

また,サービス開発後の販売,提供に関する研究も行われてきた。この領域については,サービス営業能力(Ulaga & Reinartz, 2011),アフターサービスやライフサイクル・ソリューションといったサービスの販売能力(Paiola, Saccani, Perona, & Gebauer, 2013),アフター・セールス・ソリューションやトータル・ソリューションといった統合型のサービスの複数要素を統合し編成する能力(Paiola et al., 2013),サービス提供ネットワーク開発能力(Paiola et al., 2013)の研究が行われてきた。例えばPaiola et al.(2013)は,製造業のサービス化においては,既存流通の中間業者の位置づけが代わり,製造企業自体が直接顧客にアプローチするための営業やソリューションにおける新たな能力獲得や,ビジネスモデル設計能力が必要であることを,複数事例分析をもとに論じている。

製造業のサービス化が製造企業の組織変革のプロセスであるということにおいて,組織的な調整に関する研究も行われてきている。比較的早い段階の研究では,Gebauer et al.(2005)が,(1)市場志向と明確に定義されたサービス開発プロセスの確立,(2)顧客への価値提案に焦点を絞ったサービス提供,(3)リレーションシップ・マーケティングの開始,(4)明確なサービス戦略の定義,(5)サービス組織を創造し,サービス文化を作る能力という,組織的な調整とプロセス面での要件を概念的に説明している。

PSS研究分野では製造業のサービス化の移行過程,サービス化への誘因,組織的な調整への注目がある(Mont, 2002)。さらに,サービス設計,組織設計,組織変革に役立つツールや技術を開発する能力(Baines et al., 2009),製造重視からサービス重視に,全体的な提供物を転移させ,バリューチェーンにおけるポジションを移行する上で,マーケティング,サービス提供プロセス,製品設計及び生産,企業関係といった諸場面における課題を管理する能力(Brax & Jonsson, 2009)がサービス化における要件として明らかにされてきた。

サービス化の要件としての組織能力に関しては,他にもマス・サービス・カスタマイゼーション能力(Sjödin et al., 2016),新しい収益メカニズムの採用能力(Kindström et al., 2013),データ処理及び解釈の能力(Ulaga & Reinartz, 2011),新たな価値観を生み出す能力(Fischer et al., 2010)が主張されてきている。

組織的調整に加え,サービスに関する管理能力への注目もある。サービスを制御する能力(Martin & Horne, 1992),遂行リスクの評価及び低減能力(Ulaga & Reinartz, 2011),業績評価指標の設定(Barquet, de Oliveira, Amigo, Cunha, & Rozenfeld, 2013),サービス提供プロセスの管理(Kindström et al., 2013)研究がこの領域の研究として挙げられる。

また,組織資源のうち,とくに人的資源については,人的資源の採用能力,評価能力,戦略策定のプロセスに適応させる能力(Neu & Brown, 2005),人材管理面におけるサービス志向(Homburg et al., 2003)など,サービス化への要因研究が行われてきた。

2.3  製造業のサービス化と資源

製造業のサービス化の決定要因を識別しようとする研究群のうち,多くの研究の理論的な支柱となっているのはリソース・ベースト・ビューである。

資源とは,企業組織内に固有に存在し,企業の生産能力や成長を説明するものとして概念化される(Penrose, 1959)。Dierickx and Cool(1989)によれば,企業の戦略上の優位性を説明するうえで,企業毎に異なる資源が存在し,資源は企業内に固着し,模倣困難な資源こそが競争優位をもたらすという考え方はリソース・ベースト・ビューと呼ばれる(e.g. Barney, 1991)。

Barney(1991)は,資源と持続的競争優位との関係において,企業に存在する様々な資源を物理的資本に関する資源,人的資本に関する資源,組織的資本に関する資源の3種類に分類する。この3種類は物的資源,人的資源,組織資源と略称するが,物的資源には,物理的な技術,生産設備,資材が含まれ,人的資源には企業内の個々の従業員や管理職の研修,経験,インテリジェンスなどが含まれる。組織資源は,組織内の指示報告系統の構造や公式的,非公式的な計画,制御,調整システムを指す。さらに,企業内の集団間の関係および,外部環境の企業との関係を含む。また,資源には有形資源と無形資源とがある(Constantin & Lusch, 1994)。

製造業のサービス化の先行研究においては,これら資源との関連でサービス化の要件が論じられており,物的資源のうち,とくにICT資源が注目されてきた。

製造業のサービス化において焦点となる人的資源は,サービス人材を採用するための評価基準の変更や,サービス人員をいかに配置するかの検討である(Johnstone, Wilkinson, & Dainty, 2014)。組織資源のうち,組織構造については,サービス提供組織(Gebauer et al., 2010)を新たな利益や損失に責任を持つ組織として設けることの効果が実証されている(Kohtamäki, Hakala, Partanen, Parida, & Wincent, 2015)。また,ICT資源の導入が,サービス事業の実現を可能にするものとして検証されてきた(Kohtamäki et al., 2020)。

一方,無形資源として,組織能力,組織文化や志向がサービス化の決定要因として重要となる。組織能力において,特にサービスの開発・提供のために必要となる能力を広義ではサービス・ケイパビリティと呼ぶ(Gebauer, Saul, Haldimann, & Gustafsson, 2017)。サービス志向の醸成には,組織文化や志向が重要となる(Gebauer et al., 2010)。より具体的には,Ulaga and Reinartz(2011)は,製造業のサービス化を促進する要因として,四つの有形資源と五つの無形資源を複数事例分析によって識別している。有形資源として,既存設置製品の運用データ,製品開発・製造に関する資源,製品の営業部と流通ネットワーク,フィールド・サービス組織を識別している。データ処理および解釈の能力,遂行リスクの評価・低減能力,サービスのための設計能力,サービス営業能力,サービス開発能力はサービス化への無形資源として捉えられている。

上記に述べてきたように,製造業のサービス化研究において,決定要因を識別するうえで,組織資源については注目されており,企業組織内部の構造や,サービス組織に焦点が当てられているものの,外部組織との関係性に関する研究は少なく,実証研究がされていないという現状がある。製造業のサービス化には組織的な変革を伴い,この変革の範囲は,既存のチャネルといったバリューチェーンの枠組みにも及ぶとする議論が展開され始めているものの(Paiola & Gehauer, 2020),企業間関係という組織資源が,サービス化にいかなる役割をもたらすかは必ずしも研究の焦点となってこなかったことが指摘され‍る。

2.4  製造業のデジタル化とサービス化

企業の競争戦略上,物的資源のうち製造業においては技術資源や生産設備が重要性を持つが,とくにDXの台頭を受けて,製造業のデジタル化とICTの持つ役割は重要となる。デジタル化とICTとは,製造業の生産工程や保守・運用上,密接な関係を持つ。具体的には,DXにおいて注目されるIoTは,ハードウェアにセンサーを装着し,通信機能を持たせる技術を指すが,ハードをネットワークで連結させるのはICTであり,その意味でICTは,製造業がデジタル化を進めるうえで不可欠と言える。

デジタル化に伴うICT利用に関しては,ICTをサーバやデータベースなど有形資源として捉えるべきか,それとも企業の持つ様々な有形・無形の資源を活用するための能力,つまりイネーブラー(enabler)という無形資源として捉えるかという議論がある(e.g. Bharadwaj, 2000)。後者の立場では,企業が持つ様々な資源をICTにより活用することで,新たなビジネスモデルや顧客価値を産み出すことのできるイネーブラーとしての能力に着目することになる(Dong, Xu, Zhu, & Xiaoguo, 2009)。

製造業のデジタル化の活動は,デジタイゼーション(Digitization)とデジタライゼーション(Digitalization)に分けることができる(Ritter & Pedersen, 2020)。前者は,アナログデータのデジタルデータ化を指し,あらゆる非構造的情報のデータ化を目的とする活動である。対して,後者は,デジタルデータ化された様々なデータを活用することで,企業の事業をアップグレードする活動である。デジタル化により,無形資源のデータ化およびデータ活用による事業のアップグレードという目的を遂行していけば,製造業に価値創造と収益創造の機会が生まれることになる(Sklyar, Kowalkowski, Tronvoll, & Sörhammar, 2019)。

さらに近年見られる工作機械における人的なアナログ制御からアプリケーション制御への進行は,アプリケーション制御というデジタル化により,機械の稼働がデジタルデータ化され,データの入手や可視化が可能になり,製造業にとってはデータをもとに様々な顧客アプローチが可能となっている事実がある(Gandhi, Thota, Kuchembuck, & Swartz, 2018)。

また,総じて製造業にとってデジタル化は,パフォーマンスにポジティブな影響をもたらすことが明らかになりつつある(e.g. Ahmadova, Blanca, & Luis, Enrique, 2021)。一方で,デジタル化は,企業内の既存の資源とルーチンの変更を伴うという研究があり(Papadopoulos, Singh, Spanaki, Gunasekaran, & Dubey, 2022),また組織の持つ既存文化や慣性により,資源とルーチンの変更が妨げられる可能性が示唆されている(Mikalef, van de Wetering, & Krogstie, 2021)。

デジタル化による製造業のサービス化は,デジタルサービス化(digital servitization)として概念化される(Kohtamäki, Parida, Oghazi, Gebauer, & Baines, 2019)。デジタルサービス化とは,「純粋な製品や製品に付加的なサービスの提供から,スマートで製品とサービスを統合したサービス・システムへの移行プロセス」と定義される(Kohtamäki et al., 2019, p. 383)。

製造業のデジタルサービス化において,デジタル技術の高度利用により,既存サービスの効率的な提供方法が開発されること,顧客との関係性を変化させることで新たなビジネスモデルの開発が可能になることが強調されている(Paschou, Rapaccini, Adrodegari, & Saccani, 2020)。近年では,製品に付帯するサービスを中心とするビジネスモデル(例えば,高度な製品メンテナンス)から,ソリューション提供など,サービス中心のビジネスモデルへ変換しようとする事業変革において,デジタル化の役割の重要性を示唆する研究が増えてきている(e.g. Abou-foul, Ruiz-Alba, & Soares, 2021)。例えば,デジタルサービス化による,サービス提供コストの削減(Grubic & Jennions, 2018),メンテナンスの効率性と効果の向上(Rakyta, Fusko, Herčko, Závodská, & Zrnić, 2016),そして製品のパフォーマンスと可用性の向上(Wan, Li, Gao, Roy, & Tong, 2017)などが実証されている。さらに,Coreynen, Matthyssens, and Van Bockhaven(2017)は,事例研究により,装置部品の製造のみを行っていた企業が,ソフトウェアの提供へとビジネスモデルを大きく変化させた,電気制御盤製造企業のデジタルサービス化の変革を示してい‍る。

一方で,デジタルサービス化では,複雑性が増大するため,組織の統制と柔軟さをいかにバランスさせるか,ガバナンスに関わる課題が大きくなる(Vendrell-Herrero, Bustinza, & Opazo-Basaez, 2021)。さらに,デジタルサービス化は,企業組織内の関係にも複雑さをもたらし,調整コストの増加(Suppatvech, Godsell, & Day, 2019),権限構造の変化(Tronvoll, Sklyar, Sörhammar, & Kowalkowski, 2020),組織内と組織間の緊張関係(Tóth et al., 2022)などをもたらすことが指摘されている。組織内にはデジタル化に伴うマネジメント問題が発生するが,組織間ではプラットフォームを基盤とする企業間における競争という問題が現出することや,デジタルと非デジタルの手段間および事業ネットワークにおいて様々な利害の衝突が生まれることが指摘されている(Kohtamäki et al., 2019)。

ここで製造業のサービス化とDXとの関連についてあらためて整理すると,製造業にとって,デジタル化を進めることは,自らのビジネスモデルのサービス化へシフトするための前提条件となる(Gebauer, Paiola, Saccani, & Rapaccini, 2021)。そしてサービスをビジネスとして顧客に提供するためには,デジタル技術を高度に活用することが求められることになる(Kohtamäki et al., 2020)。本論は,ここまでの議論を踏まえ,BtoB製造業の,開発,生産,製品の供給体制(設置,運用含む)において,制御や運用などがデジタルに置き換わることによってサービスとして製品に統合されていく現象を製造業のサービス化として捉える。

2.5  サプライヤー関係と製造業のサービス化

本節では,製造業のサービス化における資源のうち,企業間関係という組織資源に焦点を当てることにする。サプライヤーとの関係が製造業にもたらす影響についてまず整理する。製造業において,焦点となる企業とサプライヤーとの関係は,相互依存性,市場に関するリスク共有,補完的な資源へのアクセスという観点からアプローチされてきた。

先行研究では,製造業にとって,サプライヤーとのコミュニケーションを円滑に行い,関係を深化させることは,長期的なビジネス上の見返り,信頼関係,さらに相互依存性が増すことが明らかにされてきた(Yeniyurt, Henke, & Yalcinkaya, 2014)。相互依存性が高まるにつれ,新たなアイデアを創出でき,サプライヤー側にとっては,顧客企業の嗜好がよく分かるようになり,さらには不確実性が減ることにより,新たな顧客価値の追求が期待されることになる(Wu, Wu, & Si, 2016)。サプライヤーとの関係は,市場に関するリスク共有(Kogut & Singh, 1988)や,製造業にとっての補完的資源へのアクセス(Dwyer, Schurr, & Oh, 1987),生産性向上(Klein & Rai, 2009)を実現可能にするものとして捉えられてきた。

サプライヤーとの関係とデジタル化の関係においては,サプライチェーンのデジタル化の効果が注目を集めているが,ICTの高度利用により,サプライヤー企業の持つ資源とパートナー企業の資源とが統合され,企業のオペレーションの効率性向上と,それに伴う企業の競争優位源泉の創出へと繋がることが主張されている(Melville, Kraemer, & Vijay, 2004)。ICTはイネーブラーとして,サプライチェーンにおける情報のより広い可用性と相互の優れたコミュニケーション,コラボレーションを可能にすることが主張されてきている(e.g. Büyüközkan & Göçer, 2018)。

こうした製造業におけるサプライヤーとの関係の持つ役割は,製造業のサービス化において,製造企業がサプライヤーへの技術資源にアクセスできること,ICTにより,両者の資源統合が促進されるという前提では,製造業のサービス化においては,促進的な効果を持つことが想定される。

2.6  顧客関係と製造業のサービス化

本節では,顧客企業との関係が製造業のサービス化にもたらす影響について整理する。先行研究では,顧客との企業間関係は企業の戦略上,正と負の影響,両面で議論がされてきている。

顧客関係の正の側面について注目すると,一般的には,顧客との関係性を深めることで,より顧客の要望に対応でき,企業は様々な製品やサービスを開発することが可能になる(Cannon & Perreault, 1999)。また顧客関係自体が競争企業に対する競争優位源泉にもなりえることが指摘される(Day, 1994

製造業のサービス化と顧客関係においては,Windahl and Lakemond(2010)は,サービス化研究領域のうち,統合ソリューションにおいて,製造企業がソリューションサービスを構築,提供するうえでの,製造企業と顧客企業との相互依存性に注目する。ここでは顧客企業のビジネスプロセスに製造企業が統合されることから,顧客との関係の相互依存性と役割が強調されている。

一方,顧客関係の負の側面について注目すると,顧客との深い関係性により,企業活動の様々な効果を制限する隠れたコストの存在が指摘されている(Selnes & Sallis, 2003)。強固な顧客依存関係があると,顧客の要望に応じて製品・サービス開発を行うことになり,新たなビジネス分野や技術の開発よりも,既存技術を元に既存顧客への対応に注力しがちであることが指摘されている(e.g. Christensen, 1997)。さらに顧客との関係性が長期化することで,徐々に負の側面が増え(Anderson & Jap, 2005),短期的に得られていたメリットが徐々に失われていくことが指摘されている(Moorman, Zaltman, & Deshpande, 1992)。

顧客関係の持つ負の側面は,製造業のサービス化という局面でも看過できない課題をもたらす。顧客は協同生産者であるという認識に焦点を当て,関係性の負の側面に関する課題について議論が行われている(Brax & Jonsson, 2009)。例えば,サービス化による取引形態の変化,特に,契約期間が長期化するために起きる課題が指摘されている(Korkeamäki & Kohtamäki, 2020)。製品の売り切り型のビジネスモデルと比較して,サービス化においては契約期間が長くなる傾向にあり(Kleemann & Essig, 2013),長期的取引慣行への企業側の対応に問題が生じること(Matthyssens & Vandenbempt, 2010)などが指摘されている。

2.7  市場感知能力と製造業のサービス化

製造業がサービス化を推進するには,製品にサービスを統合し,サービス財として提供し,販売するために,新規事業開発や市場開拓を行う能力に注目する必要がある。Kindström et al.(2013)は,製品を主力とする製造業がサービスをビジネスに加え,変革を遂げることをサービス・イノベーションの文脈で捉え,インタビューに基づく定性的調査をもとにダイナミック・ケイパビリティ(Teece, Gary, & Amy, 1997)に依拠して必要なケイパビリティについて明らかにしている。

リソース・ベースト・ビューは,競争優位の源泉として企業に固有かつ模倣困難な資源に注目するが,外部環境の脅威や機会に対して通時的にいかに資源を発展させるかについては言及していない。それに対し,ダイナミック・ケイパビリティ概念は企業が内部資源をいかに統合し,活性化させ,競争優位に導くかに焦点を当てるものである。

Kindström et al.(2013)は,ダイナミック・ケイパビリティ概念が資源の取得や開放,統合や再構築を説明する概念であることに依拠し,またTeece(2007)の主張する競争優位を獲得するためのケイパビリティである市場感知能力(sensing),市場機会の捕捉力(seizing)および再構築能力(reconfiguration)に着目し,製品主体の製造企業がサービス・イノベーションを起こすために必要なケイパビリティを概念的に整理している。

市場感知能力とは,新たな事業機会を発見する能力であると定義される(Day, 1994)。また市場感知能力とは,様々な個人及び公的な情報源から,公式的,非公式的なメカニズムを通じて得られる市場情報を利用する企業能力とも捉えられてきた(Maltz & Kohli, 1996)。

Day(2002)によれば,市場感知能力には,センシング,センス・メイキング,レスポンスの3つのサブ・プロセスに分けることができる。センシングとは,消費者,競合他社,他のチャネル・メンバーに関する情報を得ることである。センス・メイキングとは,集めた情報を過去の経験や知識に照らして解釈することである。レスポンスとは,収集・解釈した情報をマーケティングに関する意思決定に活用することである。

BtoB製造業の場合,顧客との関係性に基づく開発志向が強く,顧客や直接競合者を市場環境とみる傾向が強い。一方で,市場感知能力は,それらの考え方とは異なり,市場機会の探索により市場の変化の兆しを認識し,新たな事業機会を発見する能力として概念化されている(Day, 1994)。

市場感知能力は,顧客,競合企業,チャネル・メンバーについて,定式化された調整プロセスによって学習することを示す,組織的学習能力である(Lindblom, Olkkonen, & Kajalo, 2008)。市場に焦点を当てた情報の取得と解釈による組織学習能力は,競争優位の重要な源泉であると考えることができる(Weerawardena, Mort, Salunke, Knight, & Liesch, 2015)。市場の動きが速い環境下において,組織のイノベーションを発生させる能力とともに,市場感知能力を活用することで,企業業績へ良い影響を与えることが検証されている(Zhou, Mavondo, & Saunders, 2019)。

本章では,製造業のサービス化への注目の背景と研究の意義,製造業のサービス化の先行研究におけるサービス化の決定要因に関する議論,リソース・ベースト・ビューに基づく,資源の分類とそれに基づく先行研究について論じてきた。

製造業のサービス化とは,製造業が製品とサービスを統合することによりビジネスを変革していくプロセスであり,サービス志向や,技術開発力,組織調整力に関する研究が行われてきたことを確認した。一方で,組織資源のうち,企業間関係のサービス化への影響については研究が発展していないこと,またサービス化における市場探索において市場感知能力が重要と思われるものの,一部の研究に留まっていることを確認した。デジタル化の進展する近年の製造業を取り巻く環境下では,まずデジタル化とICTという技術資源が持つ影響も検証する必要がある。そこで本研究は,これまでのレビューを踏まえ,次節以降,ICT技術に関する有形・無形資源,企業間関係におけるサプライヤー関係,顧客関係の資源,さらに市場感知能力が製造業のサービス化実現の決定因となるかについて仮説形成を行う。

3  仮説導出

3.1  ICT利用程度とサービス化

製造業のサービス化においては,製品どうしを連携させる役割と,製品から生成される電子データを通信する技術としてICTが必須になると想定される。さらにデータ上の通信や連携のみならず,組織としていかに部署間や顧客企業との間で情報伝達を行うかという点もより重要となる。

製造業にとって,ICTは,もともと組織間の統合化や協働化の機能を持つことが指摘されてきたが,更なる発展として,即時性,最適化,そして自律性を実現する新たな能力を持つことが着目されている(Rymaszewska, Helo, & Gunasekaran, 2017)。製造業のサービス化研究において,先行研究により,ICTの高度な利用により,製造業のサービス化が促進されることが既に指摘されている(Belvedere, Grando, & Bielli, 2013)。

製造業は,こうしたICTの持つ即時性,最適化,自律性という新たな能力を用いることで,個々の顧客の要望や課題に対して,顧客価値提案をサービスとして行うことが可能となる。例えば,ICTの持つ能力である即時性は,製品を遠隔監視し,異常状態を即時に知らせることを可能にすることから,製品の遠隔監視サービスの提供を可能にしている。最適化は,取得したオペレーション上のデータを分析し,課題の発見とその解決方法を分析することを可能にする。自立性は,即時性による製品の遠隔監視やデータの取得,そして最適化による分析に対して,システムが自律的に動作し対応することを可能にする。

このようにICT利用程度は,製造業がサービス化を促進するための,直接的な影響を与えると考えられる。従って以下の仮説が導出される。

仮説1:ICT利用程度は製造業のサービス化と正の関係がある

3.2  サプライヤー関係とサービス化

既に述べてきたように,企業間関係は組織資源として捉えられるが,企業間関係においてはサプライヤーとの関係と,顧客企業との関係は区別して分析する必要があると想定される。前章で先行研究をレビューした際に,サプライヤー企業との関係は資源へのアクセスというポジティブな関係性が主張される一方,顧客関係においては正負の関係性が明らかになってきているからである。

サプライヤー企業との関係は,これまで指摘されてきた技術資源へのアクセス(Dwyer, Schurr, & Oh, 1987)や,資源の共同利用といった観点で,製造業のサービス化と関連が高いと想定される。

サプライヤーと製造業との相互依存性の高さ(Yeniyurt, Henke, & Yalcinkaya, 2014)から,製造業がビジネスを変革する上で,サプライヤーの存在を無視することは難しい。さらに,製造業のサービス化の要件として,製品開発・製造に関する技術的な物的資源やサービス開発能力といった無形資源が重要になるため(Ulaga & Reinartz, 2011),焦点となる製造業がビジネス自体をサービス化することを促進し,実現するには,サプライヤーの関与が必要不可欠であると考えられる。従って以下の仮説が導出される。

仮説2:サプライヤーの関与は製造業のサービス化と正の関係がある

3.3  顧客関係とサービス化

製造業のサービス化における顧客関係では,顧客関係の相互依存的な関係がポジティブに機能すると想定される(e.g. Windahl & Lakemond, 2010)。

先行研究では,製造業のサービス化において顧客関係が与える影響について以下のような想定がされている。より深く広範囲な顧客情報を取得することは,事業開発の精度を上げ,事業化による失敗のリスクを分散させ,企業業績への好影響が期待される(Gebauer et al., 2005)。また,製造業が事業変革によって,より複雑なサービスを提供するためには,顧客に関する知識がさらに必要となる(Kowalkowski, Kindström, Alejandro, Brege, & Biggemann, 2012)。

サービス化の文脈に依らず,従来の企業間関係研究における知見として,次の点が強調されてきた。メーカーと販売チャネル間の関係性において,相互依存の高い企業どうしは,その関係を維持するために,相互の価値を追求する傾向がある(Dwyer et al., 1987)。この関係性が長期に渡って継続することで,この企業間関係そのものが競争優位源泉(Anderson & Weitz, 1989)となるが,それは相互の信頼性とともに相互が関係性を続けるべくコミットすることが大きな要因となる。

生産財メーカーがサービス化を促進するためには,顧客企業への直接的なアプローチとともに代理店などの中間業者との関係も見直す必要があり,既存のチャネル関係を適切に管理することがサービス化の前提条件となる(e.g. Paiola & Gehauer, 2020)。従って以下の仮説が導出される。

仮説3:強い顧客関係は製造業のサービス化と正の関係がある

3.4  市場感知能力とサービス化

製造業において,市場感知能力は,消費者,競合他社,他のチャネル・メンバーに関する情報を得る能力であり,このような情報収集能力それ自体が競争優位源泉となる(Davis & Golicic, 2010)。市場感知能力に関する先行研究では,製造業が市場感知能力を持つことは,製品開発の効率性をあげるとともに,革新的な製品開発を促進することが明らかになっている(Liang & Frösén, 2020)。また,変化する顧客のニーズにより敏感になり,それによって,新製品開発と顧客の嗜好との間の適合性を高めることが指摘されている(Kim & Atuahene-Gima, 2010)。

さらに市場感知能力により,企業内部の資源を統制し,外部ネットワークを通して市場に関する様々な情報と必要な資源が得られることで,企業は,活動を革新させることができるということが実証されている(Lin, Xie, Hao, & Wang, 2020)。さらに,製造業のサービス化を推進する上では,市場感知能力における,センシングが重要な要件になると考えられる。センシングが市場や競合企業の情報を獲得するプロセスであることから,既存ビジネスへの拘泥による事業変革への阻害(Gebauer et al., 2005)を克服するために働くと考えられる。従って以下の仮説が導出される。

仮説4:市場感知能力は製造業のサービス化と正の関係がある

3.5  市場感知能力とサプライヤー関係

BtoB製造企業にとっては,事業開発や市場開拓において,サプライヤーの持つ技術資源を基盤とするところが大きい。サプライヤーの持つ要素技術について,組み立て側の製造企業は,市場に向けた製品として構築していくことになる。製品とサービスとの統合においては,顧客企業の需要するもの,例えば故障予知や稼働率の向上,生産設備の最適化などを感知して,サービス化された財として顧客に提案し,提供していくことになる。ここでサービス化を実現していくためには,サプライヤーが技術面で関与し,さらに市場で求められるものを当該の企業が感知していることの両面が必要となると想定される。

そこで,本研究では,市場感知能力とサプライヤーの関与が,サービス化に交互作用効果が働くことを仮定する。サービス化により,企業は製品ではなく,製品とサービスを統合することで,顧客の抱えている課題や新しい価値の提案を行うことになる。既存顧客が抱える潜在的な課題を明らかにすること,新しい顧客に対して価値を提案するためには,市場需要を知る,すなわち市場感知能力が必要となるが,その価値を提案するための資源を柔軟に持ち,顧客の課題に応じてソリューションを提供することが求められる。すなわち市場感知能力とサプライヤーとの関係の両方を有することがサービス提供には必要であると考えられる。従って以下の仮説が導出され‍る。

仮説5:サプライヤーの関与と製造業のサービス化の正の関係は,市場感知能力が高いほど強まる。

3.6  市場感知能力と顧客関係

組織資源としての関係資源と組織能力の交互作用効果を想定した仮説のうち,市場感知能力と顧客関係の交互作用効果については,新たな市場機会を感知する能力を示す市場感知能力はサービス化を促進すると考えられるものの,一方で主要顧客との関係が強い場合は,顧客との関係外にさらに新しい顧客市場を探索するのはむしろ困難であると想定される。つまりこれまで指摘されてきた顧客関係の負の側面(Anderson & Jap, 2005Christensen, 1997),を考慮すると,市場感知能力と顧客関係との相互作用は負の関係を持つことが想定される。つまり,顧客との強い関係に基づき新たな市場開発をするための市場感知能力を構築するというより,顧客との強い関係性は,顧客自体が当該の企業にとっては市場需要の全てとなり,顧客への依存や適合性を高めていくことは,むしろ他の市場需要への感知能力を阻害すると想定される。従って以下の仮説が導出される。

仮説6:顧客関係の強さと製造業のサービス化の正の関係は,市場感知能力が高いほど弱まる

4  研究方法

4.1  調査概要

仮説検証を行うために,製造業勤務者を調査対象とする質問紙調査をオンラインで行い,最小二乗法による階層的回帰分析を行った。概念モデル図は,図1にまとめている。

図1. 概念モデル図

質問紙調査の対象について,調査会社が持つ法人パネルを用いて標本抽出を行った。調査会社は,パネル登録者65,767人に対して調査協力依頼を行い,得られた回答数は736であった。調査期間は,2022年03月14日から2022年03月17日である。調査対象とした業種は,国際標準産業分類を基に,大別すると素材(繊維,化学,医薬品,鉄鋼),機械・機器(機械,電気機器,輸送用機器,精密機械),その他製造業,情報通信産業の4業種である。情報通信産業については,素材,機械・機器と比較して,回答数が極端に少なく,分析結果への影響が考えられたため,最終的には分析より除外した。それに伴い,本調査に使用したサンプルサイズは718票である。その他製造業には,上述の業種以外の食品などの業種を含んでいる。調査対象者の特性は,経営・経営企画の担当者が30.4%,営業推進・営業企画担当者が28.9%,営業(外販)担当者が39.1%,顧客サービス・サポート担当者が13.7%であった。企業規模については,従業員数を基準として,全ての回答者の所属企業従業員数が300人以上であることから大企業の範疇に入る。その内訳については,300~499人が8.3%,500~999人が16.2%,1000~1999人が15.3%,2000~2999人が6.8%,3000~4999人が13.2%,5000~人が39.9%であった。

4.2  変数定義

構成概念の測定尺度については先行研究に依拠して作成し,主として欧文文献での尺度を日本語に翻訳して用いた。本論文においては,「サービス化」について,サービスによる新事業の進展と捉えている。新事業たる部分は,製造業が元来担う,製品を中心とした売り切り型の事業モデルとは異なるという点にある。サービスから得られる収益比率の高まり,提供サービス数や種類の増加といった,サービス化の取り組み成果を測定した。測定尺度は,Calabrese, Levialdi Ghiron, Tiburzi, Baines, and Ziaee Bigdeli(2019)の尺度を用いている。「ICT」は,所有しているICT資源を示し,測定尺度は,Miao, Wang, and Jiraporn(2018)を用いている。「サプライヤー関与」は,あるサプライヤーが焦点としている企業と直接的にその企業活動に参加している程度を示す(Jean, Sinkovics, & Hiebaum, 2014)。測定尺度は,Miao et al.(2018)の尺度を用いている。「顧客関係」は,主要顧客との結びつきとして概念化し,測定尺度は,Palmatier(2008)の尺度を用いている。「市場感知能力」は,Lindblom et al.(2008)の尺度を用いている。また,本論文においては,Day(2002)が市場感知能力として説明する学習プロセスの内,先行するセンシングのみを測定している。これは,製造業のサービス化研究においては,いかに市場機会を捉えるかという側面が重要となると考えられるためである。統制変数としての「事業環境」は,事業環境への認識を示し,測定尺度は,Auh and Menguc(2005)の尺度を用いている。それぞれリッカートの7段階のマルチスケールを用いて測定した。業種ダミーとしての「素材ダミー」は,素材(繊維,化学,医薬品,鉄鋼)に所属すれば1,そうでないなら0をとるダミー変数である。「機械・機器ダミー」は,機械・機器(機械,電気機器,輸送用機器,精密機械)に所属すれば1,そうでないなら0をとるダミー変数である。「企業規模」は,従業員規模を300~499人,500~999人,1000~1999人,2000~2999人,3000~4999人,5000~人の6つのカテゴリによる変数である。構成概念及び測定尺度については表1にまとめてい‍る。

表1.測定尺度

構成概念 質問項目 平均 標準
偏差
サービス化
α = 0.89,
AVE = 0.82,
CR = 0.93
X01.過去3年間で,サービスから得られる収益の比率が高まった。 4.26 1.24
X02.過去3年間で,提供するサービス品目の数が増えた。 4.30 1.21
X03.過去3年間で,提供するサービスの種類が増えた。 4.29 1.20
ICT
α = 0.94,
AVE = 0.86,
CR = 0.96
X04.わが社は,積極的に最先端の情報通信技術を探索し,習得している。 4.21 2.40
X05.わが社は,取引先企業と意思疎通を図るために,最先端の情報技術を使っている。 4.19 1.35
X06.わが社は,最高の情報通信技術を維持するために必要な知見とスキルを持っている。 4.10 1.38
X07.わが社の情報通信システムでは,市場に関する知識を増やすために,全ての事業部・部門間でビジネス関するデータを共有することができる。 4.13 1.37
サプライヤー
関与
α = 0.90,
AVE = 0.77,
CR = 0.93
X13.わが社は,自社の製品・サービス開発プロセスにおいて,主要な取引業者が関与している。 4.78 1.13
X14.主要な取引業者は,わが社の製品・サービスの開発プロセスに参加している。 4.52 1.24
X15.わが社は,自社の事業活動の継続的な改善のために,重要な取引業者からの情報を求めている。 4.83 1.10
X16.わが社の製品やサービス向上のために,わが社は重要な取引業者と協働している。 4.85 1.09
顧客関係
α = 0.92,
AVE = 0.80,
CR = 0.94
X17.通常,担当する顧客企業では,自分自身は,自社の製品やサービスについて意思決定できる人と対応している。 4.78 1.27
X18.通常,担当顧客企業で自分が有している契約によって,自分自身は,非常に効果的に顧客と協働できる。 4.67 1.18
X19.通常,担当する顧客企業では,自分自身は多様な部門を横断して人々を知っている。 4.71 1.19
X20.担当する顧客企業では,意思決定の鍵となる利害関係者を特定するために,大きな努力をしている。 4.75 1.15
市場感知能力
α = 0.90,
AVE = 0.73,
CR = 0.93
X08.わが社の主要な市場における出来事やトレンドを積極的に感じ取っている。 4.86 1.11
X09.市場の情報を収集する方法は,体系的に行われる。 4.62 1.17
X10.異なる情報源から定期的に市場に関する情報を収集している。 4.83 1.14
X11.積極的に取引先や顧客企業と情報交換をしている。 4.96 1.05
X12.積極的に自らの業界内外の企業や大学と情報交換している。 4.58 1.20
事業環境
α = 0.75,
AVE = 0.56,
CR = 0.83
X21.自社が所属する産業の競争環境は熾烈である。 5.08 1.17
X22.価格競争の激しさがこの業界の最たる特徴である。 4.78 1.25
X23.ほとんど毎日のように新しい競合他社について耳にする。 4.18 1.49
X24.わが社のターゲット市場において,多くの競合他社が存在する。 4.89 1.26

4.3  分析モデル

提唱した各仮説を検証するため,階層的重回帰分析を想定し,最小二乗法により推定を行っている。第一モデルでは,統制変数として,競争環境,業種ダミーとして素材ダミー及び機械・機器ダミー,企業規模の6カテゴリのうち最小カテゴリをベースとした企業規模ダミーを扱う。第二モデルでは,ICT,サプライヤー関与,顧客関係,市場感知能力の4つを説明変数とする。第三モデルは,関係資源と組織能力の交互作用項を加えることにより,調整効果を見る。また,仮説5における市場感知能力とサプライヤー関与の交互作用項が有意であったため,下位検定として単純傾斜分析を行っている。単純傾斜分析の方法については,Cohen, Cohen, West, and Aiken(2013)及びDawson(2014)を参照している。

5  分析結果

5.1  測定尺度の合成変数化と信頼性および妥当性の確認

それぞれの構成概念は,複数の測定尺度を含むため,合成変数化の手続きをとっている。まず分析手順として,個別の測定尺度の天井効果及び床効果を確認し,分析に使用する測定尺度には,天井効果及び床効果がないことを確認した。次に,全ての測定尺度を用いて探索的因子分析を行った。主因子法により因子抽出を行い,プロマックス回転を行い,固有値1以上となる6つの因子を抽出した。それらの累積寄与率は,77.12%であった。また,その内,第一因子の寄与率は46.50%である。第一因子の寄与率は高い傾向があるものの,Podsakoff and Organ(1986)の説明に倣い,50%に満たないことから,コモン・メソッドバイアスは,問題となる水準でないと判断した。探索的因子分析の結果を踏まえ,それぞれの構成概念の測定尺度は合成変数化することにおいて問題がないことを確認し,各構成概念を構成する測定尺度間の平均値を用いて合成変数化を行った。また,交差項を含む分析を行うため,それぞれの変数について中心化を行った。

次に,構成概念の信頼性について確認した。信頼性を確認するための基準値については,先行研究の推奨する基準値に従っている(Bagozzi & Yi, 1988)。構成概念の信頼性を示すCronbachのα係数はそれぞれ,基準値となる0.70を上回ったことから,構成概念の信頼性において問題がないと判断した。加えて,合成信頼性を示すCR(Composite Reliability)は,いずれの合成変数も基準値である,0.60を上回っていたことから,構成概念の合成信頼性に関して問題がないことを確認した。

最後に,構成概念の収束妥当性及び弁別妥当性を確認した。収束妥当性を示すAVE(Average Variance Extracted)は,いずれの合成変数も基準値となる0.50を満たしていることから,収束妥当性は分析上問題がないと判断した。弁別妥当性については,まず探索的因子分析の結果より,構成概念間は,適切な水準で弁別されることを確認している。さらに,それぞれの構成概念間の相関係数を確認した。相関係数は表2に示す。また,VIF(Variation Inflation Factor)を確認したところ,サービス化(1.43),ICT(1.80),サプライヤー関与(1.94),顧客関係(1.07),市場感知能力(1.88),事業環境(2.71)と低い値を得たことから,多重共線性の問題は認められなかった。

表2.相関係数

サービス化 ICT サプライヤー
関与
顧客関係 市場感知
能力
事業環境
サービス化 1
ICT 0.54 1
サプライヤー関与 0.44 0.52 1
顧客関係 0.43 0.48 0.55 1
市場感知能力 0.54 0.64 0.64 0.61 1
事業環境 0.33 0.36 0.46 0.41 0.38 1

合成変数の信頼性及び妥当性を示す,Cronbachのα係数,CR,AVE及び,測定尺度の記述統計については,表1に記す。

5.2  分析結果

階層的重回帰分析結果を表3に示す。第三モデルの自由度修正済み決定係数の値は,0.37を示しており,他のモデルに比べて高い値となっている。それぞれの仮説については,仮説2及び6を除いて,統計的に有意な結果が示された。

表3.階層的重回帰分析結果

説明変数 被説明変数 サービス化
OLS
Step1 Step2 Step3
Coefficient Coefficient Coefficient
ICT 0.26*** 0.24***
サプライヤー関与 0.07* 0.06
顧客関係 0.10*** 0.09**
市場感知能力 0.27*** 0.29***
市場感知能力
×サプライヤーの関与
0.06**
市場感知能力
×顧客関係
−0.01
事業環境 0.36*** 0.56
素材ダミー −0.00** −0.01*
機械・機器ダミー 0.19 0.14
従業員規模
500~999人ダミー
−0.54 −0.01
従業員規模
1000~1999人ダミー
−0.86 −0.03
従業員規模
2000~2999人ダミー
0.00 0.01
従業員規模
3000~4999人ダミー
0.03 0.09
従業員規模
5000~人ダミー
0.13 −0.05
_cons −0.12 −0.00 −0.07
F値 13.28 105.60 31.74
Prob > F 0.00*** 0.00*** 0.00***
R-squared 0.13 0.37 0.38
Adj R-squared 0.12 0.36 0.37
Number of obs 718

注)***は1%水準,**は5%水準,*は10%水準で有意であることを示す。

第三モデルにおいて,第一に,ICTは,1%水準で,サービス化に対して統計的に有意であった(β = 0.24,p < 0.01)。これは,ICT資源の保有,また,ICT資源の利活用の水準の高さが,サービス化を促進することを示している。第二に,顧客関係は,5%水準で,サービス化に対して統計的に有意であった(β = 0.09,p < 0.05)。これは,顧客との関係を強固にすることによるポジティブな側面がサービス化の促進に影響していると解釈できる。第三に,市場感知能力は,1%水準で,サービス化に対して統計的に有意であった(β = 0.29,p < 0.01)。これは,新たな市場機会を探索する能力が製造業のサービス化を促進させることを示している。第四に,市場感知能力とサプライヤーの関与の交互作用項については,5%水準で,サービス化に対して統計的に有意であった(β = 0.06,p < 0.01)。交互作用項の下位検定として,単純傾斜分析を行った結果,1%水準で統計的に有意な差が認められた。第三モデルにおいて,サプライヤーの関与の主効果については,統計的に有意な結果は得られなかったものの(β = 0.06,p > 0.10),市場感知能力が高い場合に,サプライヤーの関与が高いことが,サービス化に正の影響があることが示された。これは,サービス化にはサプライヤーの関与だけでは効果を持たず,市場感知能力が高いことは,サービス化の成果を実現する上で重要であるのみならず,サプライヤーの関与をポジティブな影響にさせる効果を持つことを示唆する。単純傾斜分析の結果は図2及び表4に示す通りである。第五に,市場感知能力と顧客関係の交互作用項については,サービス化に対して負の影響を持つと想定したが,統計的に有意な結果は得られなかった。これは,調査対象企業が,顧客関係が負の影響を持つことで新市場に対する感知能力を持つことが阻害されるかもしれないが,一方で顧客関係を通じて市場についての感知能力が高まる可能性もあり,相反する影響が表れている可能性や,顧客関係に内包される様々な関係性によって影響が相殺されている可能性が考えられる。

図2. 単純傾斜分析結果
表4.単純傾斜分析結果

Pair of slopes Slope difference t-value p-value
低 市場感知能力 0.29 3.01 0.00
高 市場感知能力 0.40 3.03 0.00

6  結論とインプリケーション

6.1  本論文の発見物

本論文は,製造業のサービス化現象の決定要因について,先行研究では多様に論じられているものの,決定要因が実証的に示されていないことから,要因を明らかにすることを目的とする実証研究を行った。オンラインの質問紙調査でBtoB製造企業に勤務する回答者からのデータ収集を行い,製造業のサービス化を従属変数とし,ICT,企業間関係,市場感知能力,さらに市場感知能力と企業間関係との交互作用を説明変数とする階層的重回帰分析を行った。

分析結果から,ICTという技術資源,顧客関係という組織資源,市場感知能力という組織能力がサービス化に影響することが明らかになった。また,サプライヤー関係は単独ではサービス化に影響を持たないが,市場感知能力との交互作用がサービス化に正の影響を与えることが明らかになった。

これらの結果により,製造業のサービス化は,組織資源としては従来の研究では看過されてきた企業間関係と市場感知能力というマーケティングに関する組織能力が重要な役割を果たすことが明らかになった。そのことは,製造業のサービス化においてビジネスモデルを変革するために,先行研究において指摘されてきたサービス設計開発といった技術資源や,組織調整の観点のみならず,企業間関係という組織資源や組織能力が重要性を持つことを示したという点で,製造業のサービス化研究にあらたな知見を導出したといえる。

6.2  理論的貢献

本論文は,三点の理論的貢献がある。第一の点は,リソース・ベースト・ビューにおいて想定されてきた組織資源のうち,外部環境に存在する企業との関係という資源が製造業のサービス化現象において,サプライヤーとの関係はサービス化に影響を持たないことに対し,顧客企業との関係はサービス化に影響するといった異なる影響を持つことを示し,リソース・ベースト・ビューに基づく先行研究が看過してきた資源の影響を識別したことである。さらに本研究によって得られた結果は,製造業のサービス化においては,サプライヤーとの関係と顧客との関係が同じではないことが示唆される点において,当該分野において貢献があると思われる。

第二の点は,サプライヤーとの関係は仮説的には技術資源へのアクセスという点でサービス化の要因になると想定されたものの,実証結果では,サプライヤーとの関係は単独ではサービス化が実現されないこと,一方で市場感知能力が高めるとサービス化が促進されることが明らかになった。このことは,サプライヤーとの関係という組織資源と,市場感知能力という組織能力とが関連を持つことを明らかにしたことである。

顧客との関係を基盤として製造業がサービス化を進めることのみならず,サプライヤーとの関係性が,市場感知力を持っていることにより,さらに強化されるということになる。つまり下流の市場情報に対する感知力を有していることが,上流のサプライヤー企業との関係においてポジティブな効果を持ち,それがサービス事業開発という結果を生み出すということになる。このことは製造業がサプライヤーとの関係性をより深化することによって,業績にポジティブな影響が生まれるとする先行研究の発見とは異なる結果を得た(Dubey et al., 2019)。この結果は,サービス化といった新たな事業機会の獲得に関してはサプライヤー関係のみでは促進されないことを示すという点で含意がある。

第三の点は,市場感知能力が,サービス化を促進する可能性を示した点である。先行研究が示すように,ICT資源はサービス化を促進する重要な資源であるが,それのみでサービス化が促進されるわけではなく,市場感知能力を通して,事業機会を捕捉することが,サービス化において重要であると考えられ,製造業のサービス化においてマーケティング的な視点の重要性が示唆される。

6.3  実務的含意

本論文の実務的含意としては,昨今のDXの取り組みの方向性において視座を与えるという点が強調される。日本の製造業において,DXに関する取り組みが,社内で完結する「内向け」に終始する傾向が課題としてある(総務省,2021)。対して本論文は,製造業のサービス化現象について,DXに関連するものとして調査を進めた結果,マーケティング・システムにおける上流と下流との企業間関係がサービス化に関連することを示唆した。さらに,市場感知能力が,サービス化を促進する可能性を示した。これらの事は,製造業がDXを推進するにあたって,単にデジタル技術導入が重要であるというより,事業変革の目的設定が重要であり,新規事業開拓には市場感知能力といった組織能力が重要であること,また事業推進には内部的な調整に加え,変更に伴って影響の生じる対象,つまりサプライヤーや顧客企業との関係調整が重要となることを示唆するものである。

6.4  限界と今後の課題

本論文は,二点の限界がある。第一は,調査手法において,自己回答形式による主観的な測定尺度を用いている点である。本調査においては,調査対象者の実務家としての,観察に基づく判断を重視し,測定尺度として用いた。しかし近年は,データ収集において,質問紙調査によって企業活動と成果の関係を捉えることへの課題が指摘される。また,調査対象者の所属企業が弁別できないことから,同一企業所属者が回答を行っている可能性を否定できない事は大きい限界点であると考えられる。

第二は,企業間関係に内包されるいくつかの重要な概念,すなわち信頼,コミットメント,依存関係といった先行研究において議論されてきた点を識別してそれらの個々の影響について検証していないという点である。本研究では,焦点となる企業から見た上流と下流の企業間関係について分析対象としたが,企業間関係を扱ううえでは,上記の概念についての研究も進めるべきであると考える。

今後の課題として,第一の限界に対して,今後はサービス化や企業の行動についてのより客観性を意識したデータ収集,そして企業成果を扱う上での厳密性を追求すべきと考えている。

第二の限界に対して,企業間関係のより詳細な分析を行うことで,製造業のサービス化に与える影響において,前提条件や促進要因を含め,全体的なフレームワークを構築できるのではないかと考える。とはいえ,本研究は製造業のサービス化領域の研究としては数少ない実証研究であり,本研究から得られた結果を支持・強化することで当該分野の研究が発展することを期待しつつ,本稿を閉じる。

 付記

本論文の研究過程でご助言をいただきました先生方,および本論文の審査において大変有益なご助言をいただきましたアリアエディタおよび2名の査読者の先生方には,この場をお借りして深くお礼申し上げます。

本研究はJSPS科研費 JP22K01645の助成を受けたものです。

参考文献
 
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