International Journal of Marketing & Distribution
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A Commentary on the First Issue of the Integrated Journal
Tomoko KawakamiKazutaka Komiya
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2024 Volume 27 Issue 1-2 Pages 73

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『流通研究』(略号:IJMD,英文名:International Journal of Marketing & Distribution) 第27巻第1・2号合併号は,2誌統合により生まれ変わった本誌の創刊号でもある。統合の手続きを経て,合併号として刊行された結果,和文4本,英文1本を掲載し,和英混載の雑誌としてもバランスのよい形で新たなスタートを切ることができた。

バランスという点においては,単に言語だけではなく,内容的にもバラエティに富んだ論文が並んでいる。

第1論文の杉谷・唐沢論文は,企業の社会貢献活動の成果に対し,消費者の2つの道徳基盤,すなわち「個人尊重」「集団結束」のいずれがより強く影響するかについて,3つの実証研究を通じて,実証的に明らかにした論文である。政治学や社会心理学の分野で関心を集めている道徳基盤理論を,当該理論に関する研究蓄積の少ない消費者行動分野に応用した点でオリジナリティが高い。加えて,個人尊重という道徳基盤を有する消費者への訴求がより効果的であることが複数の経験的証拠とともに示されている。社会貢献活動を通じ持続可能な社会の実現に寄与することは,多くの企業にとって近年,最も重要な経営課題の1つであり,本論文は,理論的にも実践的にも時宜を得た研究の成果といえる。

第2論文の須賀・西岡・南論文は,製造業のサービス化が進む中,組織資源としての企業間関係と組織能力としての市場感知能力が与える影響を検証した実証研究である。製造業対象に質問票調査を行った結果,情報通信技術,市場感知能力,顧客関係,サプライヤー関係といった要因がサービス化に影響することが明らかになっている。とりわけ,顧客関係とサプライヤー関係との間の非対称性,市場感知能力とサプライヤー関係との交互作用の発見などに独自の貢献が認められる。マーケティング研究としての観点からは,市場感知能力の重要性が強調されている点も興味深い。DXを推進する企業にとって,内向きではなく外向きの資源や能力が重要であると示唆された点も,実務上の大きな意義がある。

第3論文の原田論文は,ブランド志向と成果との関係を媒介する組織内のブランド・アイデンティティ共有の因果メカニズムに焦点を当てている。本研究は,マツダ株式会社を事例とし,理論構築型の過程追跡法を用いてメーカーのみならず販売店に至るまで,かつ1996年から2018年までの22年間という長期間を対象に,おもにブランド・アイデンティティの共有プロセスと訴求,その阻害要因および克服方法を分析している。第1・第2論文が定量的研究であったのに対し,原田論文は定性的研究であるが,4年間にわたり68名にインタビューを実施し,興味深い命題を導出した骨太の研究といえる。

そして,英文の田中論文は,ソーシャルメディア上の企業のブランドに関する投稿に対して,消費者の,いいね!,シェア,リプライといったエンゲージメント活動を増加させる要因を,日本の電子機器メーカーのTwitter投稿を分析することで検証している。本論文では,先行研究によって指摘された娯楽的なコンテンツと投稿の双方向性が消費者のエンゲージメント活動の促進に重要であることを指摘するとともに,ブランドのアカウントを擬人化したブランドアカウントパーソナリティの存在も,消費者のエンゲージ活動を促進させることを示した。先行研究の指摘する要因を日本で普及するTwitterのデータで実証したこと,また従来それほど注目されてこなかったブランドアカウントパーソナリティの影響を示したことは,理論的・実践的に示唆がある。

以上のように,新生『流通研究』(IJMD)の創刊号ともいえる本号では,言語もテーマも方法論も多様で,実務的にも時宜に即した4本の意欲作を刊行することができた。本号がより多くの読者の関心に沿うものであることを願っている。

 
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