International Journal of Marketing & Distribution
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Original article
The Moderating Effect of Customer Satisfaction on the Impact of Increased Uncertainty on Firm Performance
Kei Shigematsu
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2024 Volume 27 Issue 3 Pages 19-37

Details
Abstract

過去20年の間に,不確実性を増大させる出来事が複数発生し,その度に消費の減退や企業成長の停滞が引き起こされてきた。本研究は,そのような状況で顧客満足度がどのような効果を持つかを明らかにする試みである。マーケティング-ファイナンス・インターフェイス研究分野では,顧客満足度が企業業績にポジティブな効果をもたらすことは広く認識されているが,不確実性が変動する中でのその効果は十分に理解されていない。本研究では,不確実性を定量的に評価した指標である,経済政策不確実性指数(EPU Index)を用いたパネルデータ分析を通じて,不確実性と売上高成長率の関係性に対する顧客満足度の効果を検証した。その結果,不確実性が高まると売上高成長率は低下する一方,顧客満足度がそのネガティブな影響を緩和することが明らかとなった。これは,強固な顧客関係は不確実性が高まる状況での業績悪化を防ぐ防波堤となり得ることを示唆する。

Translated Abstract

Over the past two decades, several events have increased uncertainty, each of which has caused a decline in consumption and stagnation of firm growth. This study attempts to clarify the effects of customer satisfaction under such circumstances. In the field of marketing-finance interface research, it is widely recognized that customer satisfaction has a positive effect on firm performance. However, its effect under fluctuating uncertainty still needs to be fully understood. In this study, we examine the effect of customer satisfaction on the relationship between uncertainty and sales growth rate through a panel data analysis using the Economic Policy Uncertainty Index (EPU Index), which is a quantitative measure of uncertainty. The results revealed that sales growth rate decreases with uncertainty, while customer satisfaction moderates the negative effects of uncertainty. These findings suggest that strong customer relationships can serve as a bulwark to prevent performance deterioration under conditions of increased uncertainty.

1  はじめに

この20年ほどの間,世界は2008年の世界金融危機,2012年頃の欧州債務危機,2020年のCOVID-19パンデミックなど,不確実性を急上昇させる出来事に直面してきた。不確実性とは将来予測の困難性を指し,不確実性が高まると,消費者は支出を減らし,生活必需品や安価な商品の購入に重点を置くため,市場が縮小する。企業にとっては売上高の維持が難しくなり,また経済の先行きが不透明なため,投資を延期する。このように,不確実性は企業に大きな影響を及ぼすため,企業は平時から不確実性の高まりに備えつつ,実際に高まった際には,消費行動の変化に対応し,需要が低迷する市場環境の中で競争力を維持するための意思決定を,柔軟かつ迅速に判断する必要がある。

直近で最も不確実性が高まったCOVID-19パンデミックの期間,ロックダウンに伴う実店舗の閉鎖などにより,多くの企業で売上高が下落したことは記憶に新しい。しかし,そのような状況下でも売上高を維持・向上させた企業が存在する。例えば,フィットネスウエアLululemonを展開するLululemon Athletica社は,顧客関係の強化を通じて,2020年度の売上高を前年比で11%増加させた。同社はCOVID-19の発生以前からウェブサイトやモバイルアプリの改良など,消費者一人ひとりに合わせた消費体験の提供に多額の投資を行い,またパンデミック期間中には自宅でのトレーニングを余儀なくされた顧客に合わせ,オンラインのヨガクラスやフィットネスセッションを強化した。これらの施策を通じて顧客関係を強化した結果,競合他社が売上高を落とす中でも,着実な成長を遂げることができた1)

マーケティング研究では,ブランドや顧客関係などに代表される市場ベースの無形資産が,企業の競争力と株主価値の向上に寄与するとされてきた(Srivastava, Shervani, & Fahey, 1998)。そして,この市場ベース資産理論にもとづき,マーケティング活動や資産が株主価値や業績指標に与える影響を検証するマーケティング-ファイナンス・インターフェイス研究分野が拡大している(Aksoy, Cooil, Groening, Keiningham, & Yalçın, 2008Borah & Skiera, 2021)。当該研究分野において,顧客満足度は顧客関係の健全性を示す指標として捉えられ(Bhattacharya, Morgan, & Rego, 2021Gruca & Rego, 2005),一般的に顧客満足度は株式関連指標や業績指標の向上に寄与することが共通認識となっている。不確実性が高まる期間においても,Lululemonのように,強固な顧客関係が売上高の落ち込みを抑制できるのであれば,顧客満足度は将来の予測が困難な状況に対する企業の備えを評価する指標としても機能するはずである。

表1には,顧客満足度と株式関連指標,または主要な業績指標との関係性を検証した代表的な先行研究をまとめた。この表から,顧客満足度が株式関連指標および業績指標へ与える影響は広く検証されており,株式関連指標との関係性については,経済的状況を踏まえた顧客満足度の効果が検証されていることがわかる。具体的には,投資家センチメントが悲観的な期間,すなわち投資家が将来の経済状況に不安を感じて株式市場が急落した期間に焦点を当てた検証がなされている。これらの先行研究‍2)を総合すると,株式市場が急落した期間に,顧客満足度は企業の固有リスクの上昇を抑え,その結果株価の急落を防ぐ効果を持つことが示唆される。固有リスクの上昇を抑える理由については,全体的に業績の下落が予測される中,顧客満足度はキャッシュフローの下落を緩やかにすると投資家が期待するためと考えられている(Tuli & Bharadwaj, 2009)。

表1.異なる企業を分析単位とし,顧客満足度と株式関連指標,および業績指標の関係性を検証した主な先行研究

従属変数に用いた
主要な指標
経済状況を
踏まえた検証
顧客満足度の
データソース
データ期間
株式関連指標との関係性を検証した研究
Aksoy et al.(2008) ・異常リターン ACSI 1996–2006年
Anderson, Fornell, and Mazvancheryl(2004) ・トービンのq ACSI 1994–1997年
Balasubramanian, Mathur, and Thakur(2005) ・異常リターン J. D. Power and
Associates Awards
1996–2002年
Fornell, Mithas, Morgeson III, and Krishnan(2006) ・異常リターン ACSI 1994–2002年
Fornell, Mithas, and Morgeson III(2009) ・異常リターン ACSI 2000–2009年
Fornell, Morgeson III, and Hult(2016) ・異常リターン ACSI 2000–2014年
Himme and Fischer(2014) ・信用スプレッド
・市場リスク
ACSI 1994–2006年
Huang and Trusov(2020) ・株主総利回り
・経営者のトータル報酬...など
ACSI 1995–2017年
Ittner and Larcker(1998) ・時価総額
・将来の残余利益
・異常リターン
ACSI 1994–1995年
Ivanov, Joseph, and Wintoki(2013) ・異常リターン ACSI 1995–2006年
Jacobson and Mizik(2009) ・異常リターン ACSI 1996–2006年
Larivière et al.(2016) ・トービンのq
・異常リターン
ACSI 2000–2009年
Luo, Homburg, and Wieseke(2010) ・異常リターン
・企業固有リスク
ACSI 1995–2006年
Luo, Zhang, Zhang, and Aspara(2014) ・異常リターン
・企業固有リスク
ACSI 1995–2009年
Malshe, Colicev, and Mittal(2020) ・異常リターン YouGov 2007–2017年
Merrin, Hoffmann, and Pennings(2013) ・株式リターン ACSI 1994–2010年
Mittal, Anderson, Sayrak, and Tadikamalla(2005) ・トービンのq
・年率換算した株式リターン
ACSI 1994–2000年
Morgeson III et al.(2024) ・異常リターン
・固有リスク
ACSI 2007–2008年と
2019年(1)
O’sullivan, Hutchinson, and O’Connell(2009) ・異常リターン ACSI 1994–2006年
Peng, Lai, Chen, and Wei(2015) ・超過リターン
・異常リターン
ACSI 1994–2010年
Sorescu and Sorescu(2016) ・異常リターン ACSI 1995–2015年
Swaminathan, Groening, Mittal, and Thomaz(2014) ・トービンのq ACSI 1995–2003年
Tuli and Bharadwaj(2009) ・市場リスク
・企業固有リスク
ACSI 1994–2006年
業績指標との関係性を検証した研究
Agag et al.(2023) ・売上高成長率
・粗利益率
・トービンのq
ACSI 2005–2020年
Anderson, Fornell, and Lehmann(1994) ・ROI(2) SCSB(3) 1989–1990年
Anderson, Fornell, and Rust(1997) ・ROI SCSB 1989–1992年
Edvardsson, Johnson, Gustafsson, and Strandvik(2000) ・売上高成長率
・収益性(4)
SCSB 1995–1997年
Gruca and Rego(2005) ・キャッシュフロー成長率
・キャッシュフロー変動性
ACSI 1994–2002年
Guenther and Guenther(2021) ・売上高
・粗利益率
・マーケティング&顧客獲得費率...など
ACSI 2001–2015年
Ittner, Larcker, and Taylor(2009) ・売上指標(総資産回転率)
・利益指標(当期純利益率)
・ROA...など
ACSI 1995–2006年
Lim, Tuli, and Grewal(2020) ・販売費 ACSI 1994–2013年
Luo and Homburg(2007) ・広告・プロモーション効率
・人的資本パフォーマンス
ACSI 2002–2003年
Morgan and Rego(2006) ・売上高成長率
・粗利益率
・営業キャッシュフロー
ACSI 1994–2000年
Rust, Moorman, and Dickson(2002) ・ROA
・調整済み株式リターン
米国企業への
アンケート調査
 
本研究 ・売上高成長率 ACSI 1995–2020年

(1)2007–2008年のデータで世界金融危機に起因する株式市場急落期の影響を,2019年のデータでCovid-19に起因する株式市場急落期の影響を検証した

(2)各企業がスウェーデン国内で保有している資産(資本)に限定して,その投資利益率(ROI)を算出

(3)SCSB:The Swedish Customer Loyalty Barometerの略称

(4)利益,償却前利益,使用資本利益率の潜在変数

しかし,これらの研究はすべて,投資家の選好や期待に依存する株式市場の指標に対する顧客満足度の効果を検証したものである(Bamberger, Homburg, & Wielgos, 2021Kleine, Friederich, & Paul, 2024)。このアプローチでは,実際の業績指標への影響をカバーしないため,業績指標の説明責任を有する企業にとって重要な洞察を欠くという指摘がある(Guenther & Guenther, 2021)。また,投資家センチメントは業績などのファンダメンタルズから離れた信念にもとづくもので(Baker & Wurgler, 2007),特に悲観的なセンチメントの期間では,投資家は未来を過度に悲観して,キャッシュフローを低く見積もりリスクを過大評価する傾向があるという指摘もある(Mian, Sharma, & Gul, 2018)。このように,先行研究は,株式市場の急落という短期的反応に対する顧客満足度の影響を捉えているが,急落には至らなかったが不確実性は高まった期間など,より広範な経済状況の影響を十分に考慮しているとは言えない。また,実際の業績指標への影響に関しては,経済状況を踏まえた検証はされておらず,経済状況と業績指標の関係性に対する,顧客満足度の効果は十分に評価されているとは言えない。

そこで本研究は,経済状況の変化に対する企業の備えとして,強固な顧客関係が有効であるかを評価することを目的とし,不確実性と業績指標の関係性に対する,顧客満足度の効果を明らかにする。本研究では,米国企業を対象に,1995年から2020年までの米国顧客満足度指数(ACSI)を用い,主要な業績指標として売上高成長率を,不確実性の指標として経済政策不確実性指数(Economic Policy Uncertainty Index,EPU Index)を採用した。そして,企業レベルと産業レベルの要因,および企業の固定効果をコントロールし,パネルデータ分析の手法である固定効果推定法を用いて分析を行った。その結果,不確実性が高まると売上高成長率は下落する一方で,顧客満足度はこのネガティブな影響を緩和する効果があることが示された。この結果は,不確実性の指標や企業レベルのコントロール変数を変更するなど,複数の追加分析を行った上でも頑健であった。

本研究の貢献は次の通りである。まず,顧客満足度と業績指標の関係性を検証した先行研究は,多様な経済状況にわたる一般的な両者の関係性に焦点を当てているのに対し,本研究は,不確実性が変動する中での両者の関係性に焦点を当てた。そして,顧客満足度の高さ,すなわち強固な顧客関係は,平時の業績向上のみならず,不確実性の高まりに直面した際の業績低下を防ぐ有効な手段であることを示した。さらに,本研究の結果は,顧客満足度が売上高の下落に伴うキャッシュ・インフローの下落を緩和する可能性を示唆しており,その点で投資家センチメントが悲観的な期間に焦点を当てた先行研究の知見を補完する。具体的には,全体的に業績下落が予測される中で顧客満足度はキャッシュフローの下落を緩やかにする,という投資家の期待に関する仮説を,実際の業績指標である売上高成長率を通じて裏付けたと言える。

また,本研究は,不確実性が変動する中での顧客満足度の効果を包括的に評価している点で,投資家センチメントが悲観的な期間に焦点を当てた先行研究に比べ,より広範な経済状況下での顧客満足度の効果を検証している。そして,投資家センチメントが悲観的な状況に限らず,不確実性が高まる中で,顧客満足度は業績を維持するための重要な資産であることを確認した。このように,本研究は先行研究を拡張しつつ,顧客満足度の効果に関する理解を深める知見を提供する。

以降,本稿は次の順序で議論を進める。2章では,先行研究の整理を通して本研究の仮説を導出する。そして,3章で分析に用いるデータと分析方法を示した後,4章で検証の結果を示す。最後の5章にて,結論として本稿の理論的・実務的な貢献と研究の限界を示す。

2  仮説の導出

2.1  顧客満足度が業績指標に与える効果

マーケティング-ファイナンス・インターフェイス研究分野において,顧客満足度は非財務的3)な市場ベース資産として位置づけられている(Edeling & Fischer, 2016Srinivasan & Hanssens, 2009)。市場ベース資産とは,企業が市場環境において競争優位を築くために活用できる資源や能力を指し,ブランド,顧客関係,流通ネットワークなどが含まれる。これらの資産は,キャッシュフローの向上やボラティリティの低下を通じて,株主価値を増大させると考えられている(Srivastava et al., 1998)。当該研究分野では,顧客満足度に関する研究は30年以上にわたって関心を集めており,Otto, Szymanski, and Varadarajan(2020)Mittal et al.(2023)のメタ分析,重松(2022)のレビューにて,顧客満足度は株式関連指標や,売上高や利益関連指標など主要な業績指標の向上に寄与することが示されている。

市場ベース資産理論にもとづくと,顧客満足度が株主価値を向上させるメカニズムは次の通りである。強固な顧客関係を持つ企業,すなわち顧客満足度が高い企業は,顧客の好みや需要に精通しており,それに応じた製品やサービスを提供することが可能である。この深い顧客理解は,価格設定の柔軟性を生み,より高い価格での販売を可能とするため,売上高の成長に繋がる。また,強固な顧客関係は,新規顧客獲得に要するマーケティングや販売促進活動のコストを削減する効果も持つ。さらに,満足した顧客は,ブランドに対して高い忠誠心を持ち,繰り返し購入する傾向があるため,顧客維持コストも低減する。この一連のメカニズムを通じて,企業の収益性は向上し,キャッシュフローの安定性も高まる。その結果,投資家のリスクは軽減され,最終的に株主価値の向上に繋がる。

2.2  不確実性の高まりによる消費行動と企業行動の変化

不確実性とは,消費者や経営者などが将来を予測する際に,確率が既知でなく,将来を予測することが困難な状況を指す概念であり,消費や企業の投資活動など,さまざまな経済活動に影響を与える(Bloom, 2014)。具体的には,不確実性は「予備的貯蓄」と「リアル・オプション」という二つの観点から,家計の消費や企業の投資意欲に影響を与え,経済を下押しすると考えられている(篠原・奥田・中島,2020)。

予備的貯蓄とは,将来の不確実性に備えるため,消費を減らし,貯蓄を増やす行動を指す(Leland, 1968)。不確実性が高まると,特に耐久消費財のような高額で不要不急の購入が減る傾向が強まる(Bloom, 2014篠原他,2020)。また,価格が購入決定の主要な要因となり(Calvo-Porral, Stanton, & Lévy-Mangin, 2016Hampson & McGoldrick, 2013),製品の原産地や品質よりも重視されることが示されている(Rabadán et al., 2020)。さらに,消費者が価格に敏感になることで,ブランドメッセージへの関心が薄れ,ブランドへの忠誠心が低下することも指摘されている(Grundey, 2009)。このように,商品の選択が厳選され,価格が購買決定の主要因となる中,企業は価格を割引くことでなんとか需要を喚起しようとする(Ang, 2001Grossberg, 2009Grundey, 2009)。

リアル・オプションとは,企業は投資の選択を一連のオプションとみなし,投資の決定を一度に行うものではなく,時間をかけて柔軟に対応できる複数の選択肢(オプション)として捉える考え方を指す(Bloom, 2014)。具体的には,不確実性が高まる状況下で,企業は即時に投資を行うべきか,あるいは不確実性が解消されるまで投資を延期すべきか,という選択に直面する。この状況においては,投資の意思決定を保留することの価値が高まり,企業は投資や雇用などを先送りする傾向が強まる(篠原他,2020)。景気後退時のマーケティング投資の先送りも,リアル・オプションの視点から論じられている(Srinivasan, Rangaswamy, & Lilien, 2005)。

2.3  不確実性が高まる中での顧客満足度の効果

ただし,不確実性が高まり,消費者の行動が上記のように変化しても,顧客満足度の高い企業は,競争上の優位性を保持する可能性が高いと考えられる。

顧客満足度の高い企業は,顧客の好みや需要を深く理解しているため,不確実性の高まりが引き起こす消費行動の変化にも柔軟に対応できる可能性を持つ。顧客満足は長期間にわたる顧客と企業間の深い関係を築く「好意の貯え」として機能し,顧客は直面する問題に対して,企業が特別な対応をしてくれると期待する(Morgeson III, Hult, Mithas, Keiningham, & Fornell, 2020)。例えば,Morgeson III et al.(2024)によると,COVID-19によるロックダウン期間中,多くの企業はサービス提供を中断せざるを得なかったが,一部の企業は必要に応じて一時的に品質をダウングレードした製品を市場に投入した。このように,顧客満足度の高い企業は,不確実性が高まっても顧客の期待に沿って製品やサービスを調整し,競争上の優位性を維持できると想定される。

また,価値やブランドへの信頼を重視する満足度の高い顧客は,不確実性が高まっても低価格オファーに惑わされず,引き続き当該製品を購入すると期待される。Homburg, Hoyer, and Koschate(2005)Stock(2005)によると,満足度の高い顧客は価格に敏感でなく,より高い価格プレミアムを支払う意思があることが示されている。Tuli and Bharadwaj(2009)も,景気後退期の魅力的な低価格オファーに直面しても,満足度の高い顧客は企業や製品へのコミットメントを維持し,他社製品への乗り換えを避ける傾向にあると述べている。

加えて,不況時には,消費者は信頼できるブランドや商品を安全な選択肢として好む傾向があり,信頼している企業やブランドへの依存度が増すことが示唆されている(Quelch & Jocz, 2009)。この傾向は,不確実性が高まる期間にも見られると考えられ,結果として,顧客満足度とロイヤルティの関係性が相対的に強化される可能性がある。具体的には,満足度の高い顧客は,不確実な状況下でも満足している企業が適切な対応をしてくれると期待し,他社への乗り換えを避ける行動が促進される。このように,不確実性が高まる状況では消費者は満足している企業との関係を優先することで,ロイヤルティが相対的に強化され,その結果,売上高の維持に差が生じると考えられる。

さらに,企業がマーケティング投資を先送りしたとしても,満足度の高い顧客が発するポジティブな口コミは,売上高の維持に重要な役割を果たす可能性を持つ。Luo and Homburg(2007)によると,これらの口コミは,実質的に無料のプロモーションとして機能する。市場ベース資産理論では,コスト低減の観点から,顧客満足度のこのような効果を論じているが,企業がマーケティング投資を先送りする状況では,次の理由から,売上高の維持に貢献すると予想される。広告などのマーケティング投資を先送りする場合でも,満足度の高い顧客によるポジティブな口コミは,引き続き無料のプロモーションとしての機能を果たす。一方で,顧客満足度が低い企業は,このような恩恵を享受できないため,マーケティング投資が先送りされる時には,顧客満足度が高い企業とそうでない企業の間で,売上高の維持に差が生じると予想される。

このように,不確実性が高まったとしても,顧客満足度が高い企業は競争上の優位性を維持でき,顧客満足度の低い企業と比べて,売上高の落ち込みが緩やかであることが想定される。よって,不確実性,売上高指標,顧客満足度の関係性について,次の仮説を設定した:

不確実性が高まると企業の売上高成長率は下落するが,顧客満足度の高い企業では,低い企業に比べて,その下落が緩やかである

3  データとモデル

3.1  データソースとサンプル

分析に用いたデータについて,顧客満足度データはACSIのWEBサイトから,不確実性指数データはセントルイス連邦準備銀行が運営するオンラインデータベースFederal Reserve Economic Dataから,企業の財務・会計データは財務・会計データベースであるOsiris,およびS&P Capital IQから,それぞれ取得した。そして,1995年から2020年までの各企業のACSIスコアを4),対応する年度の財務・会計データと関連づけ,分析に用いるパネルデータを作成した5)。その際,Lim et al.(2020)Huang, Yang, and Zhu(2021)などに従い,製造業やサービス業などの業種と財務構造が大きく異なるという理由から,金融サービス業と公共事業の企業を除外した。また,会計基準が米国会計基準でない場合や,決算期の変更などで決算月数が12か月でない場合も分析対象から除外した6)。最終的な分析対象は,175社26年分である。なお,極端な観測値が推定結果に与える影響に対処するため,Rego, Morgan, and Fornell(2013)Guenther and Guenther(2021)などに従い,すべての変数を上下1%水準でウィンソライズした。

表2は,本研究の分析対象について,SICコードによる業種分類別と,年度別にその傾向を示したものである。業種別に見ると,食品および関連製品,総合スーパー,通信,飲食店,航空輸送,その他小売は,それぞれが全サンプルの7%以上であり,合計で全サンプルの約57%を占める。また,年度別に見ると,時間の経過とともにACSIのカバレッジが拡大していることを反映し,サンプル数が増加していることを伺える。なお,巻末の別表1には本研究の分析対象企業を示した。

表2.サンプルの分布(SICコードによる業種分類別,年度別)

業界分類とSICコード2桁 Obs % 年度(t) Obs %
食品および関連製品 Food & Kindred Products 20 307 13.71 1996 60 2.68
総合スーパー General Merchandise Stores 53 235 10.49 1997 56 2.50
通信 Communications 48 208 9.29 1998 54 2.41
飲食店 Eating & Drinking Place 58 204 9.11 1999 53 2.37
航空輸送 Transportation by Air 45 176 7.86 2000 54 2.41
その他小売 Miscellaneous Retail 59 163 7.28 2001 60 2.68
ビジネスサービス Business Services 73 122 5.45 2002 66 2.95
食料品店 Food Stores 54 111 4.96 2003 71 3.17
化学・関連製品 Chemical & Allied Products 28 82 3.66 2004 75 3.35
ホテル・その他宿泊施設 Hotels & Other Lodging Places 70 80 3.57 2005 70 3.12
アパレル・アクセサリー店 Apparel & Accessory Stores 56 75 3.35 2006 78 3.48
産業機械・設備 Industrial Machinery & Equipment 35 73 3.26 2007 79 3.53
アパレル・その他繊維製品 Apparel & Other Textile Products 23 62 2.77 2008 92 4.11
輸送用機器 Transportation Equipment 37 49 2.19 2009 95 4.24
建築資材・園芸用品 Building Materials & Gardening Supplies 52 40 1.79 2010 94 4.20
タバコ製品 Tobacco Products 21 34 1.52 2011 95 4.24
電子・その他電気機器 Electronic & Other Electric Equipment 36 32 1.43 2012 96 4.29
家具・インテリアショップ Furniture & Homefurnishings Stores 57 31 1.38 2013 95 4.24
ゴム・プラスチック製品 Rubber & Miscellaneous Plastics Products 30 26 1.16 2014 90 4.02
石油・石炭製品 Petroleum & Coal Products 29 25 1.12 2015 96 4.29
輸送サービス Transportation Services 47 25 1.12 2016 112 5.00
トラック輸送・倉庫 Trucking & Warehousing 42 24 1.07 2017 116 5.18
印刷・出版 Printing & Publishing 27 20 0.89 2018 117 5.22
自動車販売店・サービスステーション Automative Dealers & Service Stations 55 16 0.71 2019 126 5.62
映画 Motion Pictures 78 13 0.58 2020 121 5.40
卸売業-非耐久財 Wholesale Trade – Nondurable Goods 51 5 0.22 2021 119 5.31
計器・関連製品 Instruments & Related Products 38 2 0.09
合計 2,240 100 合計 2,240 100

3.2  分析に用いた変数

・売上高成長率:

従属変数である業績指標には,売上高成長率を用いた。売上高成長率は,消費行動の変化と直接関連しており,全体的な消費が落ち込む中で,顧客満足度がどの程度効果的かを示すことができる指標と言える。なお,追加分析として営業利益率を用いた分析も行った。

・顧客満足度:

独立変数である顧客満足度指標には,顧客満足度研究で広く採用されているACSIスコアを用いた。ACSIは,製造業やサービス業を含む40以上の業種にわたる顧客満足度を,0から100の尺度でスコア化しており,高い値は良好な顧客関係を表す。1994年からデータが提供され,顧客満足度と売上高成長率の関係性を長期間にわたって検証するのに適する。なお,複数の事業やブランドがACSIでカバーされている企業については,Luo and Homburg(2007)Malshe and Agarwal(2015)などに従い,各事業やブランドのスコアを平均し,企業レベルのスコアとした。

・不確実性:

不確実性を表す指標には,Baker, Bloom, and Davis(2016)によって考案された経済政策不確実性指数(EPU Index)の年次データを用いた。EPU Indexは,新聞記事の内容分析を通じて不確実性を測定し,高い値は不確実性の高まりを示す。人々がメディアとの接触を通じて感じる不確実性の高まりを捉える指標であり,実務や実証研究で広く用いられている(Luo & Zhang, 2020篠原他,2020)。

・コントロール変数:

次節「3.3 モデル」にて詳細を示すように,本研究は固定効果推定法を用いて分析を行った。その際,企業の固定効果ではコントロールしきれない,時間で変動する企業や産業の特徴をコントロール変数として選定した。具体的には,企業レベルの変数として,企業規模・財務の柔軟性・販売費および一般管理費(SG&A)の割合・企業の存続年数の4つを,産業レベルの変数として,産業の競争環境・産業の成長率の2つである。以下に示す理由から,これらの変数をコントロールすることは,顧客満足度と売上高成長率の関係性を評価する上で不可欠であると考える。

-企業規模:

企業規模が大きい企業は,多様な顧客ニーズに対応するための資源が豊富であることが想定され,規模が小さい企業に比べて,顧客関係の強化に向けた施策を実施しやすい可能性がある。一方で,すでに企業規模が大きい企業は,小さい企業に比べて,高い売上高成長率を達成するのは困難であると想定される。そのため,総資産の対数を用いて,企業規模をコントロールした。

-財務の柔軟性:

財務の柔軟性とは,活動資金を負債に依存する度合いを示す。負債が増加すると財務の柔軟性は低下し,過度に柔軟性が低下した場合,顧客関係強化のための投資を制限することが想定される(Malshe & Agarwal, 2015)。同時に,売上高成長に向けた投資も制限し,成長の機会を逃す可能性がある。そのため,財務レバレッジ7)を用いて,財務の柔軟性コントロールした。

-SG&Aの割合:

マーケティング活動は,顧客の知覚や行動に直接影響を与える活動であり,どれだけマーケティング支出をしているかにより,顧客満足度および売上高成長率に差が出ることが想定される。そのため,厳密にはマーケティング以外の項目を含むものの,SG&Aをマーケティング投資とみなし(Dutta, Narasimhan, & Rajiv, 1999Mizik & Jacobson, 2007),売上高に対するSG&Aの割合を用いて,マーケティング支出をコントロールした。

-存続年数:

存続年数が長い企業は,短い企業に比べて,豊富な知識や資源を保有している可能性がある(Homburg & Wielgos, 2022)。例えば,顧客対応や製品・サービスの品質管理に関するノウハウが蓄積されていることが考えられ,それが顧客満足度に影響を与える可能性がある。また,存続年数の長さは,企業の安定性や信頼性を示す要素となり,投資家や消費者からの信頼を得やすくなる。従って,この信頼性が競争優位となり,売上高成長率に差が出ると考えられる。

-産業の競争環境:

競合企業が多く競争が厳しい産業とそうでない産業では,顧客のスイッチングの容易さが異なるため,企業の顧客対応意識に差が出ることが想定される。また,競争が厳しい産業では顧客の奪い合いから,高い売上高成長を見込むことが難しい可能性がある。そのため,産業の集中度を示すハーシュマン・ハーフィンダール指数(HHI)を用いて,産業の競争環境をコントロールした。

-産業の成長率:

産業が成長するにつれて,消費者の期待は高まる傾向にあり,ポジティブな口コミや価格に対する感応度の低下など,顧客満足がもたらす便益は増大する可能性がある(Lim et al., 2020)。さらに,産業全体の成長が続くことで,その産業に属する企業の売上高成長率も上昇する可能性が高まる。

表3-aは,分析に用いた各変数の定義や算出を示したものである。また,表3-bは各変数に関する記述統計量と相関を示したものである。相関マトリックスからは,各変数間には高い相関は見られず,多重共線性が本研究の結果に深刻な影響を与えることはないと考えられる。

表3.検証に用いた変数,記述統計量と相関関係

パネルa:分析に用いた各変数の定義や算出
変数 算出方法など データソース 先行研究
売上高成長率t (当年度の売上高-前年度の売上高)÷前年度の売上高 Osiris Morgan and Rego(2006)
顧客満足度t−1 ACSIスコア ACSIのWEBサイト Anderson et al.(2004)
経済の不確実性指数t 年次のEPU Index Federal Reserve Economic Data Jiang, Jia, and Chapple(2023)
企業規模t− 総資産の対数 Osiris Anderson et al.(2004)Guenther and Guenther(2021)
財務の柔軟性t−1 財務レバレッジ(長期負債÷総資産) Osiris Guenther and Guenther(2021)Lim et al.(2020)
SG&Aの割合t−1 販売費および一般管理費÷営業収益(Ope.Rev.) Osiris Huang and Trusov(2020)Rego et al.(2013)
存続年数t−1 企業の存続年数の対数 S&P CAPITAL IQ Dotzel, Shankar, and Berry(2013)
産業の競争環境t−1 SICコード2桁から算出したHHI Osiris Guenther and Guenther(2021)Mian et al.(2018)
産業の成長率t−1 SICコード2桁から算出した産業の売上高成長率 Osiris Swaminathan, Groening, Mittal, and Thomaz(2014)
パネルb:記述統計量と相関マトリックス
変数 Obs Mean Std. dev. Min Max 1 2 3 4 5 6 7 8 9
1.売上高成長率t 2,240 0.07 0.18 −0.47 0.91 1
2.顧客満足度t−1 2,240 76.70 6.18 58.00 87.00 −0.049 ** 1
3.EPU Indext 2,240 114.10 55.21 57.99 303.72 −0.114 *** 0.022 1
4.企業規模(対数)t−1 2,240 16.38 1.46 12.60 19.55 −0.023 −0.148 *** 0.038 * 1
5.財務レバレッジt−1 2,240 0.29 0.25 0.00 1.66 −0.053 ** −0.181 *** 0.031 −0.174 *** 1
6.SG&Aの割合t−1 2,240 0.25 0.13 0.03 0.63 0.056 *** 0.047 ** 0.027 −0.107 *** −0.090 *** 1
7.存続年数(対数)t−1 2,240 4.02 0.83 1.61 5.37 −0.238 *** 0.309 *** −0.028 0.178 *** −0.002 −0.042 ** 1
8.HHIt−1 2,240 0.13 0.11 0.03 0.48 −0.030 −0.004 0.068 *** 0.100 *** −0.102 *** 0.004 0.088 *** 1
9.産業の成長率t−1 2,240 0.02 0.03 −0.09 0.09 −0.029 −0.079 *** −0.091 *** −0.001 −0.086 *** −0.053 ** −0.156 *** −0.033 1

*** p < 0.01,** p < 0.05,* p < 0.1

3.3  ベースモデル

本研究の分析モデルは式1の通りであり,パネルデータ分析の手法である固定効果推定法を用いて分析を行った。企業の固定効果をモデルに組み込むことで,例えば経営者の能力や企業文化など,時間で変化しない観測できない企業固有の特性をコントロールすることができる。なお本研究で注目するのは,顧客満足度と経済的な不確実性の交差項の係数β3である。

【式1】

売上高成長率i,t =

α0 + β1顧客満足度i,t−1 + β2 EPU Indext + β3顧客満足度i,t−1 × EPU Indext + β4総資産(対数)i,t−1 + β5財務レバレッジi,t−1 + β6 SG&Aの割合i,t−1 + β7存続年数(対数)i,t−1 + β8 HHIi,t−1 + β9産業の成長率i,t−1 + μi + εit

添え字のiは企業,tは時間(年度)を示し,μは企業の固定効果,εは誤差項を示す。なお,同時性と逆因果性の問題に対処するため,Guenther and Guenther(2021)などに従い,顧客満足度とコントロール変数には1年のラグ値を用いた。顧客満足度指数と業績指標の関係性を検証する場合,両者にはタイムラグがあるとするのが通常であると小野・小川・森川(2021)が指摘している通り,多くの先行研究で同様の対処方法が用いられている。

4  検証結果

4.1  ベースモデルにもとづく分析結果

前章で示したベースモデルにもとづいて,不確実性,売上高成長率,顧客満足度の関係性を検証した結果は表4の通りである8)。なお,誤差項の不均一分散と系列相関に対処するため,分析では企業レベルでクラスター化したクラスター標準誤差を用いた。

表4.ベースモデルの分析結果

従属変数:売上高成長率t (1) (2) (3) (4)
顧客満足度t−1 0.00288 * 0.00346 * 0.00318 * 0.00370 *
(0.00169) (0.00207) (0.00166) (0.00207)
EPUIndext −0.00050 *** −0.00044 *** −0.00051 *** −0.00045 ***
(0.00008) (0.00009) (0.00008) (0.00009)
顧客満足度t−1 × EPU Indext 0.00003 ** 0.00003 **
(0.00002) (0.00002)
総資産(対数)t−1 −0.02590 ** −0.02690 **
(0.01200) (0.01200)
財務レバレッジt−1 −0.00711 −0.00987
(0.03400) (0.03380)
SG&Aの割合t−1 0.30000 *** 0.29700 ***
(0.10700) (0.10700)
存続年数(対数)t−1 −0.08200 −0.07690
(0.05230) (0.05270)
HHIt−1 0.28000 0.28800
(0.17600) (0.17700)
産業の成長率t−1 −0.24200 *** −0.24600 ***
(0.06050) (0.06030)
Constant −0.09530 0.51100 * 0.06830 *** 0.72300 ***
(0.12900) (0.29400) (0.00011) (0.24400)
企業の固定効果 Yes Yes Yes Yes
Observations 2,240 2,240 2,240 2,240
R-squared 0.250 0.283 0.253 0.286
Adj R-squared 0.186 0.219 0.189 0.222
Within R-squared 0.029 0.072 0.033 0.076

括弧内はクラスター標準誤差

*** p < 0.01,** p < 0.05,* p < 0.1

検証は(1)–(4)の順で段階的に行った。まず(1)と(2)は,顧客満足度とEPU Indexの交差項を含めないモデルである。(1)では,売上高成長率を顧客満足度とEPU Indexのみに回帰した。この結果から,売上高成長率に対し,顧客満足度はポジティブな影響を与え,EPU Indexはネガティブな影響を与えることがわかる。そして(2)では,企業レベルと産業レベルのコントロール変数を含めた。コントロール変数を含めた後も,顧客満足度の係数はポジティブであり,10%水準で統計的に有意であった(β = .00346,p = .089)。この結果は,一般的に顧客満足度は売上高成長率を高める傾向があることを示し,市場ベース資産理論が示したメカニズムと一致する。また,EPU Indexの係数はネガティブであり,1%水準で統計的に有意であった(β = −.00044,p = .000)。この結果は,不確実性が高まると業績は悪化するという一般的な理解と一致する。

(3)と(4)は,顧客満足度とEPU Indexの交差項を含めたモデルである。なお,交差項をモデルに含める場合,主効果の解釈が困難になったり,多重共線性の問題が発生したりする可能性があるため,顧客満足度とEPU Indexの両変数に対して中心化を施した。(3)では,売上高成長率を顧客満足度,EPU Index,および両変数の交差項に回帰した。この結果から,売上高成長率に対し,顧客満足度はポジティブな影響を,EPU Indexはネガティブな影響を,交差項はポジティブな影響を,それぞれ与えていることがわかる。そして,(4)は,企業レベルと産業レベルのコントロール変数を含めたフルモデルである。その結果,交差項をモデルに含めた後も,主効果である顧客満足度の係数は引続きポジティブであり,10%水準で統計的に有意であった(β = .00370,p = .076)。この結果は,EPU Indexが平均値の場合に顧客満足度スコアが1ポイント上昇すると,売上高成長率が約0.4%ポイント上昇することを意味している。また,EPU Indexの係数も引き続きネガティブであり,1%水準で統計的に有意であった(β = −.00045,p = .000)。この結果は,顧客満足度スコアが平均値の場合にEPU Indexが1ポイント上昇すると,売上高成長率が約0.05%ポイント低下することを意味している。そして,本研究が注目する,顧客満足度とEPU Indexの交差項の係数も引き続きポジティブであり,5%水準で統計的に有意であった(β = .00003,p = .031)。この結果は,不確実性が高まると企業の売上高成長率は下落するが,顧客満足度の高い企業では,低い企業に比べて,その下落が緩やかであるという仮説を支持すると言える。

そして,図1は,EPU Indexが売上高成長率に与える平均限界効果を,顧客満足度の異なるレベルで示したものである。最も高い顧客満足度レベルの場合こそ統計的に有意ではないが,この図から,顧客満足度レベルが高まるにつれ,不確実性が売上高成長率に与えるネガティブな影響が緩和されることを読み取れる。

図1.

EPU Indexの平均限界効果(95%信頼区間付き)

なお,固定効果推定量が一致性を持つためには,厳密な外生性が成り立っている必要がある(千木良・早川・山本,2011)。そのため,Wooldridge(2010)松浦・マッケンジー(2012)で提案されている方法に従い,顧客満足度について一期先のリード変数をモデルに入れて,厳密な外生性についての検定を行った9)。その結果,顧客満足度が厳密な外生性を満たすとする帰無仮説を棄却する統計的証拠を得られなかったため,本モデルではこの仮定が成り立っていると考えられる(詳細は別表2を参照)。

4.2  追加分析の結果

ベースモデルにもとづく分析結果の頑健性を検証するために,複数の追加分析を実施した。それら追加分析の結果は表5の通りである。

表5.追加分析の結果

従属変数:売上高成長率t 従属変数:営業利益率t
(0)ベースモデル (1)企業レベルのコントロール変数を変更 (2)経済の不確実性指数を変更 (3)マクロ要因を追加 (4)従属変数を営業利益率に変更
顧客満足度t−1 0.00370 * 顧客満足度t−1 0.00326 * 顧客満足度t−1 0.00284 顧客満足度t−1 0.00373 * 顧客満足度t−1 0.00318 ***
(0.00207) (0.00188) (0.00215) (0.00213) (0.00116)
EPU Indext −0.00045 *** EPU Indext −0.00044 *** MU Indext −0.11400 *** EPU Indext −0.00044 *** EPU Indext −0.00028 ***
(0.00009) (0.00009) (0.03440) (0.00009) (0.00006)
顧客満足度t−1 × EPU Indext 0.00003 ** 顧客満足度t−1 × EPU Indext 0.00004 ** 顧客満足度t−1 × MU Indext 0.00941 * 顧客満足度t−1 × EPU Indext 0.00003 ** 顧客満足度t−1 × EPU Indext 0.00001
(0.00002) (0.00002) (0.00494) (0.00002) (0.00001)
総資産(対数)t−1 −0.02690 ** 従業員数(対数)t−1 −0.02370 * 総資産(対数)t−1 −0.02780 ** 総資産(対数)t−1 −0.03430 ** 総資産(対数)t−1 −0.00204
(0.01200) (0.01330) (0.01210) (0.01320) (0.00912)
財務レバレッジt−1 −0.00987 流動比率t−1 0.03380 *** 財務レバレッジt−1 −0.00943 財務レバレッジt−1 −0.02350 財務レバレッジt−1 0.02010
(0.03380) (0.01200) (0.03370) (0.03530) (0.01810)
SG&Aの割合t−1 0.29700 *** 広告宣伝費の割合t−1 −0.00428 SG&Aの割合t−1 0.30300 *** SG&Aの割合t−1 0.32300 *** SG&Aの割合t−1 −0.13400
(0.10700) (0.38300) (0.10900) (0.11200) (0.09000)
研究開発費の割合t−1 0.06850
(0.62400)
存続年数(対数)t−1 −0.07690 存続年数(対数)t−1 −0.07540 存続年数(対数)t−1 −0.09150 * 存続年数(対数)t−1 −0.11600 * 存続年数(対数)t−1 0.08450 ***
(0.05270) (0.05080) (0.05330) (0.06430) (0.03190)
HHIt−1 0.28800 HHIt−1 0.28600 * HHIt−1 0.24000 HHIt−1 0.15800 HHIt−1 −0.07350
(0.17700) (0.17200) (0.17600) (0.18500) (0.06900)
産業の成長率t−1 −0.24600 *** 産業の成長率t−1 −0.24900 *** 産業の成長率t−1 −0.22200 *** 産業の成長率t−1 −0.23500 *** 産業の成長率t−1 0.00508
(0.06030) (0.06510) (0.06040) (0.06040) (0.02100)
一人当たりGDP(対数) 0.22100 **
(0.10200)
Constant 0.72300 *** Constant 0.55500 ** Constant 0.80000 *** Constant −1.39200 Constant −0.17200
(0.24400) (0.25400) (0.24100) (0.86700) (0.14200)
企業の固定効果 Yes 企業の固定効果 Yes 企業の固定効果 Yes 企業の固定効果 Yes 企業の固定効果 Yes
Observations 2,240 Observations 2,139 Observations 2,240 Observations 2240 Observations 2,240
R-squared 0.286 R-squared 0.278 R-squared 0.274 R-squared 0.289 R-squared 0.625
Adj R-squared 0.222 Adj R-squared 0.215 Adj R-squared 0.209 Adj R-squared 0.226 Adj R-squared 0.592
Within R-squared 0.076 Within R-squared 0.074 Within R-squared 0.061 Within R-squared 0.0805 Within R-squared 0.087

括弧内はクラスター標準誤差

*** p < 0.01,** p < 0.05,* p < 0.1

まず,企業レベルのコントロール変数として用いた3つの変数を次の通りに変更して分析を行った。企業規模に用いる変数について,総資産の対数から,Huang and Trusov(2020)Luo and Bhattacharya(2006)などが用いた従業員数の対数に変更した。財務の柔軟性に用いる変数について,財務レバレッジから,Grewal, Chandrashekaran, and Citrin(2010)Luo et al.(2014)などが用いた流動比率に変更した。マーケティング支出として用いる変数について,SG&Aの割合から,Ivanov et al.(2013)Vadakkepatt, Arora, Martin, and Paharia(2022)などが用いた売上高に対する広告宣伝費の割合と,Malshe and Agarwal(2015)Rego et al.(2013)などが用いた研究開発費の割合の2つに変更した。なお,広告宣伝費と研究開発費は欠損値の割合が高いため(Huang & Trusov, 2020),Kashmiri and Mahajan(2017)Vadakkepatt et al.(2022)などに従い,企業が広告宣伝費や研究開発費を報告していない場合は0として,それぞれの割合を算出した。この追加分析の結果は表5(1)に示した通りで,コントロール変数を変更しても,ベースモデルにもとづく分析結果と大きく異なるものではなく,本研究が注目する交差項の係数はポジティブであり,5%水準で統計的に有意であった(β = .00004,p = .019)。

次に,不確実性をEPU Indexと並んで代表的な不確実性指数の一つに挙げられるマクロ経済不確実性指数(Macroeconomic Uncertainty Index,MU Index)に変更して分析を行った。同指標は,金融関連の指標を含めた経済指標に対する予測値と実現値の予測誤差をもとに定量化されるもので,Jurado, Ludvigson, and Ng(2015)に従って計算される(篠原他,2020)。この追加分析の結果は表5(2)に示した通りで,不確実性の指標を変更しても,本研究が注目する交差項の係数はポジティブであり,10%水準で統計的に有意であった(β = .00941,p = .058)。

さらに,不確実性の指標では捉えられないマクロ要因を補完する目的で,経済全体を反映する指標と言える,一人当たり実質GDPの対数をベースモデルに追加して分析を行った。EPU Indexは不確実性を捉える指標であるが,それだけでは顧客満足度と売上高成長率に影響を与え得るマクロ要因を十分にカバーできていない可能性がある。一人当たり実質GDPは,特定の国の一般的な経済活動の代理として広く使用される指標であり(Lamey, Deleersnyder, Dekimpe, & Steenkamp, 2007),より広範なマクロ要因をコントロールする役割を果たす。この追加分析の結果は表5(3)に示した通りで,マクロ要因を追加しても,ベースモデルにもとづく分析結果と大きく異なるものではなく,本研究が注目する交差項の係数はポジティブであり,5%水準で統計的に有意であった(β = .00003,p = .048)。

最後に,売上高以外の業績指標への効果を確認するため,従属変数を営業利益率に変更して分析を行った。この追加分析の結果は表5(4)に示した通りである。主効果である顧客満足度の係数はポジティブであり,1%水準で統計的に有意であった(β = .00318,p = .007)。この結果は,利益指標への影響を検証したIttner et al.(2009)Mittal et al.(2023)のメタ分析の結果と整合的である。ただし,本研究が注目する,顧客満足度とEPU Indexの交差項の係数はポジティブであるが,統計的な有意性は確認できなかった(β = .00001,p = .297)。この理由として,不確実性が高まる状況では,営業利益率のような効率性の指標は,企業ごとの戦略的対応に大きく依存することが考えられる。不確実性が高まると,多くの企業は投資の先送りやコスト削減といった防衛策を講じる傾向にあるが,一方で,こうした対応を取らずに成長戦略を維持する企業も存在する。このように企業ごとの戦略的対応が異なるため,不確実性が高まる状況下での営業利益率に対する顧客満足度の効果は,統一的なパターンとして捉えにくく,その結果,交差項の係数について統計的な有意性が確認できなかったと解釈できる。

5  結論

一般的に,不確実性が上昇する期間には,消費者は支出を控えて市場全体が縮小し,その結果,企業は売上高の維持が困難となる。このような売上高下落の危機に対して,企業と顧客との関係性はどのような効果を持つのか,という問いが本研究の中心的な問題意識である。この問題意識にもとづき,本研究では,不確実性を定量的に捉えた指標であるEPU Indexを用いて,不確実性と売上高成長率の関係性に対する顧客満足度の効果を,パネルデータ分析の手法を用いて検証した。その結果,不確実性が高まると売上高成長率は下落する一方で,顧客満足度はこのネガティブな影響を緩和する効果があることが明らかになった。これは,売上高の下落に伴うキャッシュ・インフローの下落を抑えることを示唆している。また,高い顧客満足度,すなわち強固な顧客関係は,不確実性の高まりに直面した際の業績低下を防ぐ有効な手段であることを示唆している。

5.1  貢献

不確実性が高まると売上高成長率は下落する一方で,顧客満足度はこのネガティブな影響を緩和する,という発見は次の点で理論的な貢献を果たす。

まず,顧客満足度と業績指標について,不確実性が変動する中での顧客満足度の効果を示した点である。先行研究では,顧客満足度と,投資家の選好や期待に依存する株式関連指標との関係性について,経済状況を踏まえた検証が行われていた。しかし,実際の業績指標との関係性については,多くの先行研究が多様な経済状況にわたる一般的な関係性に焦点を当てており,経済状況を踏まえた検証はされてこなかった。本研究の発見は,顧客満足度が平時の業績向上のみならず,不確実性の高まりに対する企業のレジリエンス(回復する力)を強化することを示している。これは,顧客満足度と業績指標の関係性についての理論的背景である市場ベース資産理論について,理解を深化させたと言える。

さらに,本研究の発見は,投資家センチメントが悲観的な期間に焦点を当てた先行研究の知見を補完する。これらの先行研究では,投資家センチメントが悲観的な期間,すなわち株式市場が急落する期間において,顧客満足度は企業の固有リスクを抑え,株価の急落を防ぐ役割を果たすことが示唆されている。固有リスクの上昇を抑える理由として,全体的に業績下落が予測される中で,顧客満足度はキャッシュフローの下落を緩やかにすると投資家が期待するためと考えられている。しかし,この投資家の期待に関する仮説は検証されていなかった。本研究の発見は,顧客満足度は,売上高の下落に伴うキャッシュ・インフローの下落を緩和する効果を示唆しており,上記の仮説を裏付けるものと言える。これは,投資家のリスク判断が単なる感覚的な期待に留まらず,実際のパフォーマンスに基づく合理的な判断であることを示唆すると言え,この点で先行研究の知見を補完する。

次に,顧客満足度と不確実性の交差項をモデルに含める分析アプローチを用いて,不確実性が変動する中での顧客満足度の効果を包括的に評価した点である。先行研究は,投資家センチメントが悲観的な期間に焦点を当てており,株式市場の急落には至らなかったが不確実性は高まった期間など,より広範な経済状況を踏まえた顧客満足度の効果は見過ごされている可能性があった。本研究は,このアプローチを用いることで,より広範な経済状況下での顧客満足度の効果を評価し,そして,投資家センチメントが悲観的という状況に限らず,不確実性が高まっている場合に,顧客満足度が業績下落を緩和することを示した。このように,本研究は先行研究の知見を拡張し,顧客満足度が不透明な経済環境下で業績を維持するための重要な資産であることを強調することで,顧客満足度の効果に関する理解を深めた。

実務への貢献:

本研究の発見は,次の点で実務的な貢献を果たす。まず,不確実性の変化に対応しつつ競争上の地位を維持・向上するための顧客関係の投資について洞察を提供する。不確実性が高まる状況では,リアル・オプションの観点から,投資を先延ばしすることが一般的であるように,そのような状況でのマーケティング投資の判断には,慎重さを求められる。しかし,景気後退期にマーケティング予算を削減することは,長期的には消費者の認識や満足度を低下させ,最終的に企業の業績に悪影響を及ぼすリスクが指摘されている(Gulati, Nohria, & Wohlgezogen, 2010Lamey et al., 2007)。また,既に確立されたブランドや優れたサポート・サービスを有する企業は,景気後退期におけるマーケティング支出の効果を享受しやすいという指摘もある(Srinivasan et al., 2005)。本研究の結果が示すように,顧客満足度が高い企業は,売上高の下落に伴うキャッシュ・インフローの下落を抑えるため,満足度が低い企業に比べて,資金をより柔軟に運用できる可能性は高い。そして,上記で示した知見を考慮すると,不確実性が高まる中であっても,顧客満足度が高い企業は,マーケティング投資を先延ばしするのではなく,むしろ強化することが有効であると考えられる。例えば,「1 はじめに」で言及したLululemonが,Covid-19の期間中であっても顧客関係を強化し,競合が売上高を落とす中でも着実な成長を遂げたように,その投資効果を享受しやすく,結果として競争優位をさらに確固たるものにできる可能性がある。したがって,不確実性が高まる状況において,顧客満足度の高い企業はマーケティング投資の延期や削減に走るのではなく,長期的な視点で投資戦略を再考することが求められる。

また,本研究の発見は,企業が投資家に対して無形資産としての顧客関係の価値を正しく伝えることをサポートする。不確実性が増している昨今のビジネス環境において,無形資産の効果を投資家に正しく伝えることは,適正な株価の維持や企業の信頼性,透明性の向上に寄与する。先行研究では,顧客満足度を株主価値に貢献する重要な無形資産であると認識し,その開示を推奨している(Bayer, Tuli, & Skiera, 2017Malshe et al., 2020など)。しかし,投資家は企業の説明責任として,株主価値への影響だけでなく,個別の業績指標に関する詳細な報告も求めている(Guenther & Guenther, 2021)。このような背景を踏まえると,本研究の結果が示す,顧客満足度が不確実性の高まりによる売上高成長率の下落,すなわちキャッシュ・インフローの下落を緩和する効果を持つことを理解することは,投資家とコミュニケーションする上で重要な意味を持つ。この理解にもとづき,顧客関係が不確実性の変化に対応するための重要な資産であることを投資家に伝えることで,不確実性が高まった場合でも,投資家は顧客関係性を正しく評価し,適正な株価の維持につながると期待される。投資家に対して,不確実性が高まる中での顧客満足度の重要性とその効果を伝えることは,上記に示したマーケティング投資の強化の正当性を示すうえで不可欠である。近年,投資家からのマーケティング効率向上プレッシャーは強まっており,不確実性が高まる期間にはその要求は増大すると考えられる。そのため,投資家に対して不確実な状況下でのマーケティング投資の効果について理解を促進し,投資の強化を支持してもらわなければ,企業が投資を強化するのは難し‍い。

5.2  本研究の限界と今後の研究課題

本研究は,不確実性,売上高成長率,顧客満足度の関係性を探求したが,以下の点で限界が存在する。

まず,本研究はACSIの公開データを用いており,非公開データとして収集されているロイヤルティ指標を分析に用いていない。この制約により,不確実性が高まる中で,どのようにして顧客満足度が売上高成長率の下落を緩和するかというメカニズムまでは検証しておらず,この点は本研究の限界である10)。今後,ロイヤルティ指標を用いて顧客満足度の調整メカニズムを分析することで,不確実性,業績指標,顧客満足度の関係性について,より深い理解が得られることが期待される。

次に,ACSIを用いた研究に共通する限界として,分析対象はACSIスコアを有する米国企業に限定され,またB to C企業を中心とする点である。今後の研究課題として,日本など米国以外の企業を対象に分析を行い,国や地域による顧客満足度の効果の違いや特性を把握し,より広範で包括的な理解を深めることが期待される。これにより,グローバルな市場環境での企業のマーケティング投資に対する示唆が得られるはずである。

また,本研究では,不確実性が高まった背景や特性にもとづく顧客満足度の影響の違いを分析していない。例えば,本研究の分析対象期間である1995–2021年の間,米国では3回の景気後退が発生しているが,これらの景気後退の原因は異なる。今後の研究では,Morgeson III et al.(2024)のように,景気後退期ごとに顧客満足度の影響を比較検証し,景気後退期の原因や持続期間による影響の違いなどを明らかにすることが期待される。

最後に,本研究は年度ベースのデータを用いているため,COVID-19に起因するパンデミックのように,短期的に不確実性が変動した場合の顧客満足度の影響を捉えることは難しい。今後の研究では,より短期の財務データを用いて,顧客満足度の影響を詳しく理解することが望まれる。このアプローチは,本稿が示した年度ベースの結果を補完し,顧客満足度の影響をより包括的に理解することを可能とする。

 謝辞

本研究に対する貴重なご意見とご助言をいただきました匿名の査読者の方々,そして編集者の皆様に心より感謝申し上げます。皆様から丁寧なご指摘と改善のためのコメントを賜り,本論文の質を向上させることができました。また,いただいたご助言は本研究にとどまらず,今後研究を進めていく上でも大きな学びとなりました。この場を借りて,深く御礼申し上げます。

1)  この点については,同社の年次報告書やファッションおよび経済メディアでも言及されている(Ballard, 2020Ell, 2020Lululemon Athletica, 2021)。なお,2020年度のフィットネスウェア競合他社の売上高の前年比を見ると,Nikeが−4%,Under Amourが−15%,アパレル大手のGapも−16%であった(各社のAnnual Reportを参照)。

2)  Morgeson III et al.(2024)は,リーマンショックとCOVID-19に起因する株式市場の急落時において,顧客満足度は企業の固有リスクを低下させる効果を報告した。同様に,Tuli and Bharadwaj(2009)も,株式市場が下落している期間(株式市場リターンがリスク・フリー・レートを下回る日)において,顧客満足度は企業の固有リスクを低下させる効果を報告している。また,Merrin et al.(2013)Peng et al.(2015)は,投資家センチメントが悲観的な期間に,顧客満足度の高い企業のポートフォリオ群は,低い群に比べて,株価は安定的でリターンも高いことを報告した。

3)  Edeling and Fischer(2016)によると,市場ベース資産は,顧客エクイティやブランド・エクイティなど財務的なものと,顧客満足度やブランド態度など非財務的なものに分類される。

4)  ACSIスコアは2021年9月にACSIのホームページから取得した。スコアの公表は業種ごとに年数回行われるため,全業種のスコアが揃い,また分析に用いた各変数が揃う1995年から2020年までを対象とした。

5)  本研究では,ACSIデータを用いた先行研究と同様に,ACSIスコアと企業レベルの業績指標を紐づけて分析した。しかし,このアプローチには,ACSIがカバーする範囲が必ずしも企業の主要事業に該当するわけではない,という制約を伴う。例えば,ACSIがガソリンスタンドのカテゴリでカバーする企業は,SICコード29に分類される石油精製を主業としており,企業の多様な事業領域を完全には反映していないと言える。

6)  分析対象であるNorthwest Airlinesの1997年度のデータについて,Osirisデータでは売上高や原価などの財務数値が示されている中,販売および一般管理費のみが0と示されているため,外れ値として分析対象から除外した。

7)  財務レバレッジは,一般的に「総資産÷自己資本」で算出されるが,先行研究では「長期負債÷総資産」を財務レバレッジとして扱っている。本論文でも先行研究に合わせてこの表記を用いた。

8)  分析には,STATA18.0を用いた。

9)  厳密な外生性とは,誤差項が,独立変数の過去,現在,未来の値に対して独立であるという仮定である。この仮定を確認する最もシンプルな方法として(Su, Zhang, & Wei, 2016),この仮定が疑われる変数について,一期先のリード変数をモデルに入れる方法が提案されている。そして,リード変数の係数が統計的に有意でないという結果は,厳密な外生性の仮定が破られていない,すなわち,誤差項が独立変数と独立であることを示唆する。

10)  異なる企業を分析単位とする満足度スコアを用いた先行研究(典型的にはACSIを用いた研究)では,データ取得の難しさなどから,ロイヤルティ指標を含む関係性ではなく,株主価値指標や業績指標との直接的な関係に焦点が当てられてきたことが指摘されている(Larivière et al., 2016)。

別表1 分析対象となった企業

企業名   企業名
1 1-800 FLOWERS.COM, INC. 89 JOHNSON & JOHNSON
2 ABERCROMBIE & FITCH CO 90 KELLOGG CO
3 ADVANCE AUTO PARTS, INC. 91 KEURIG DR PEPPER INC
4 ALASKA AIR GROUP, INC. 92 KOHLS CORPORATION
5 ALBERTSONS COMPANIES, INC. 93 KRAFT HEINZ COMPANY (THE)
6 ALLEGIANT TRAVEL COMPANY 94 KRAFT HEINZ FOODS COMPANY
7 ALPHABET INC. 95 KROGER CO
8 ALTABA INC. 96 LA QUINTA HOLDINGS INC.
9 ALTICE USA, INC. 97 LEVI STRAUSS & CO.
10 ALTRIA GROUP, INC. 98 LOWE’S COMPANIES, INC.
11 AMAZON.COM, INC. 99 LUMEN TECHNOLOGIES, INC.
12 AMERICAN AIRLINES GROUP INC. 100 MACY’S INC.
13 APPLE INC. 101 MARRIOTT INTERNATIONAL INC
14 ASCENA RETAIL GROUP, INC. 102 MAY DEPARTMENT STORES COMPANY (THE)
15 AT&T INC. 103 MCDONALD’S CORPORATION
16 AUTOZONE INC 104 META PLATFORMS, INC.
17 BARNES & NOBLE, INC. 105 MICHAELS STORES, INC.
18 BARNESANDNOBLE COM INC 106 MICROSOFT CORPORATION
19 BATH & BODY WORKS, INC. 107 MOBIL CORP
20 BELLSOUTH CORP 108 MOLSON COORS BEVERAGE COMPANY
21 BEST BUY CO, INC 109 MOTOROLA MOBILITY HOLDINGS INC
22 BEYOND INC 110 NABISCO GROUP HOLDINGS CORP.
23 BIG LOTS, INC. 111 NBCUNIVERSAL MEDIA LLC
24 BJ’S WHOLESALE CLUB HOLDINGS, INC. 112 NETFLIX, INC.
25 BOOKING HOLDINGS INC. 113 NEW YORK TIMES CO
26 BORDERS GROUP INC 114 NIKE INC
27 BP AMCO CORPORATION 115 NORDSTROM INC
28 BRINKER INTERNATIONAL INC 116 NORTHWEST AIRLINES CORP
29 BURGER KING HOLDINGS, INC. 117 O REILLY AUTOMOTIVE INC
30 BURLINGTON STORES, INC. 118 ODP CORPORATION
31 CAMPBELL SOUP CO 119 OFFICEMAX INCORPORATED
32 CHARTER COMMUNICATIONS, INC. 120 OLD COPPER COMPANY, INC.
33 CHEVRON CORPORATION 121 ORBITZ WORLDWIDE, INC.
34 CHIPOTLE MEXICAN GRILL INC. 122 PAPA JOHN’S INTERNATIONAL INC
35 CHOICE HOTELS INTERNATIONAL INC 123 PARAMOUNT GLOBAL
36 CIRCUIT CITY STORES INC 124 PEPSICO INC
37 CLOROX CO 125 PETCO HEALTH AND WELLNESS COMPANY, INC.
38 COCA-COLA COMPANY (THE) 126 PINTEREST, INC.
39 COLGATE PALMOLIVE CO 127 PROCTER & GAMBLE CO
40 COMCAST CORPORATION 128 PUBLIX SUPER MARKETS, INC.
41 COMPAQ COMPUTER CORP 129 QUAKER OATS CO
42 CONAGRA BRANDS, INC. 130 QWEST COMMUNICATIONS INTERNATIONAL INC
43 CONOCOPHILLIPS 131 RED ROBIN GOURMET BURGERS, INC.
44 COSTCO WHOLESALE CORP 132 REYNOLDS AMERICAN INC.
45 CRACKER BARREL OLD COUNTRY STORE, INC. 133 RITE AID CORP
46 CVS HEALTH CORPORATION 134 ROSS STORES INC
47 DARDEN RESTAURANTS INC 135 RUBY TUESDAY INC
48 DELL TECHNOLOGIES INC. 136 SAFEWAY INC
49 DELTA AIR LINES, INC. 137 SBC COMMUNICATIONS INC.
50 DENNY’S CORPORATION 138 SEARS HOLDINGS CORPORATION
51 DICK’S SPORTING GOODS, INC. 139 SEARS, ROEBUCK AND CO.
52 DILLARD’S INC 140 SNAP INC.
53 DISH NETWORK CORPORATION 141 SOUTHEASTERN GROCERS, INC.
54 DOLE FOOD COMPANY, INC. 142 SOUTHWEST AIRLINES CO.
55 DOLLAR GENERAL CORP 143 SPIRIT AIRLINES, INC.
56 DOLLAR TREE, INC. 144 SPRINT COMMUNICATIONS, INC.
57 DOMINO’S PIZZA, INC. 145 STAPLES INC
58 DUNKIN’ BRANDS GROUP, INC. 146 STARBUCKS CORP
59 EBAY INC 147 STARWOOD HOTELS & RESORTS WORLDWIDE, LLC
60 EMERSON ELECTRIC CO 148 SUPERVALU INC
61 ENABLE HOLDINGS, INC 149 TARGET CORP
62 ETSY, INC. 150 TEXACO INC
63 EXPEDIA GROUP, INC. 151 TEXAS ROADHOUSE, INC.
64 EXXON MOBIL CORP 152 TIME WARNER CABLE INC.
65 FEDERATED DEPARTMENT STORES, INC. 153 TJX COMPANIES INC
66 FEDEX CORP 154 T-MOBILE US, INC.
67 FOOT LOCKER INC. 155 TRIPADVISOR, INC.
68 FORD MOTOR CO 156 TWITTER, INC.
69 FOX CORPORATION 157 TYSON FOODS INC.
70 FRONTIER COMMUNICATIONS PARENT INC 158 ULTA BEAUTY, INC.
71 GAMESTOP CORP. 159 UNITED AIRLINES HOLDINGS, INC
72 GAP INC 160 UNITED PARCEL SERVICE INC
73 GATEWAY INC 161 UNITED STATES CELLULAR CORP
74 GENERAL ELECTRIC COMPANY 162 US AIRWAYS GROUP, INC.
75 GENERAL MILLS INC 163 V. F. CORPORATION
76 GENERAL MOTORS COMPANY 164 VERIZON COMMUNICATIONS INC
77 GROUPON, INC. 165 VONAGE HOLDINGS CORP.
78 GTE CORP 166 WALGREENS BOOTS ALLIANCE, INC.,
79 HANESBRANDS INC. 167 WALMART INC.
80 HERSHEY COMPANY (THE) 168 WALT DISNEY COMPANY (THE)
81 HILLSHIRE BRANDS COMPANY (THE) 169 WAYFAIR INC.
82 HILTON WORLDWIDE HOLDINGS INC. 170 WENDY’S COMPANY (THE)
83 HOME DEPOT INC 171 WHIRLPOOL CORP
84 HP INC. 172 WHOLE FOODS MARKET, INC.
85 HYATT HOTELS CORPORATION 173 WINDSTREAM HOLDINGS, INC.
86 INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORP 174 YUM! BRANDS, INC.
87 JACK IN THE BOX INC 175 ZENITH ELECTRONICS CORPORATION
88 JETBLUE AIRWAYS CORPORATION
別表2 厳密な外生性についての検定結果(ハイライト部分がリード変数)

従属変数:売上高成長率t (2) (4)
顧客満足度t 0.00221 0.00256
(0.00251) (0.00251)
EPU Indext+1 −0.00003 −0.00003
(0.00006) (0.00006)
顧客満足度t × EPU Indext+1 0.00000
(0.00001)
顧客満足度t−1 0.00231 0.00239
(0.00170) (0.00174)
EPU Indext −0.00038 *** −0.00039 ***
(0.00009) (0.00009)
顧客満足度t−1 × EPU Indext 0.00004 **
(0.00002)
総資産(対数)t−1 −0.03628 *** −0.03747 ***
(0.01268) (0.01256)
財務レバレッジt−1 −0.04705 −0.04942
(0.03344) (0.03304)
SG&A割合t−1 0.06253 0.05855
(0.11488) (0.11569)
存続年数(対数)t−1 −0.07724 −0.07179
(0.05533) (0.05570)
HHIt−1 −0.07061 −0.06316
(0.15297) (0.15503)
産業の成長率t−1 0.00403 0.00186
(0.05983) (0.05974)
Constant 0.67406 * 0.97178 ***
(0.36933) (0.26540)
企業の固定効果 Yes Yes
Observations 2,031 2,031
R-squared 0.312 0.315
AdjR-squared 0.246 0.250
Within R-squared 0.081 0.087

括弧内はクラスター標準誤差

*** p < 0.01,** p < 0.05,* p < 0.1

Wooldridge(2010)でも言及されているように,リード変数を含めるため最終年度のデータが失われる

参考文献
 
© 2024 Japan Society of Marketing and Distribution
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