International Journal of Marketing & Distribution
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Commentary on the publication of No.4, Vol.27 issue
Tomoko KawakamiKazutaka Komiya
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2025 Volume 27 Issue 4 Pages 49

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『流通研究』(International Journal of Marketing and Distribution, IJMD)第4号は,投稿査読論文1本に加えて,巻頭言にもあるとおり,ゲスト編集長として西尾チヅル先生(筑波大学)を迎えた「サステナビリティ」特集の査読論文2本を掲載した。

投稿査読論文として採択された山下・成生論文は,小売業のポイント制が価格差別効果と手数料効果の両方を併せ持つものととらえ,数理モデルで分析した結果,ポイントを利用しない消費者のみならず,すべての消費者に対して悪影響を与える可能性を指摘している。消費者のキャッシュレス決済が増加する中,小売業にも消費者にも重要な示唆を与える論考である。

サステナビリティ特集の査読論文としては,西・西川論文と山崎・庄司論文の2本が掲載されている。西尾編集長の巻頭言に採択のプロセスは詳述されているが,投稿全7本中2本が採択された。

西・西川論文は,地球環境保護にかかわるサステナビリティをテーマとした論文である。この論文では,環境配慮情報を伝達する方法として,QRコード型のラベルの有効性を実験手法で検証している。先行研究では,第三者機関の認証マークの方が企業の独自マークよりも有効性が高いという実証結果が存在していた。それに対して本研究では,より詳細な情報にアクセス可能なQRコードは,製品カテゴリーによっては認証マークよりも有効性が高いという結果を導いている。

一方,山崎・庄司論文は,地方創生という社会課題にかかわる人間社会のサステナビリティをテーマとした研究である。この論文では,山形県のローカルな清酒製造企業を地域プラットフォームの主要アクターととらえ,教育機関である高等学校や地域社会の他のステークホルダーとの創発的価値の創出プロセスをインタビュー調査とSCATによる定性分析を通じて考察している。プレイス・ブランディングにおける地域プラットフォームの役割とその動態的な変化を丹念に論じ,共愉性というキーワードを提起した点も印象的である。

このように,今回の特集では,地球環境のサステナビリティと人間社会のサステナビリティという,持続可能性の2つの側面にそれぞれ関連した論文が1本ずつ掲載される結果となった。採択本数は限られたが,サステナビリティというテーマの幅広さと奥行きの深さは,この2本からも十分伝わってくる。

最後に,今回のサステナビリティ特集は,『流通研究』(IJMD)の投稿減により,定期刊行が危機的な状況にあった中,刊行予定日を決めて募集するという特集企画の第1回だった。そのため,スケジュール的には著者にも査読者にも,ゲスト編集長の西尾先生にも無理をお願いする結果になってしまったことをお詫びしたい。今回の反省を次回以降に活かしていく所存である。

一方,短期間の募集であったにもかかわらず,7本の投稿があったことは,サステナビリティというテーマへの関心の高さを示している。この特集を契機に,この分野の研究がいっそう進展することを願っている。

 
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