International Journal of Marketing & Distribution
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Editorial
Reflections on Editing the “Young Scholars Special Issue”
Kazutaka Komiya
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2025 Volume 28 Issue 1 Pages 1-2

Details

1. ヤング・スカラー特集について

本号では,「ヤング・スカラー特集」として,若手研究者による論文4本を掲載した。本特集は,学会にとって極めて重要な課題である若手研究者の育成を目的とし,大学院生および大学院修了後5年以内の研究者を対象に,論文の投稿を募ったものである。募集期間が限られていたにもかかわらず,15本の論文が投稿され,今回そのうちの4本を掲載する運びとなった。

本特集の特徴の一つは,論文の刊行予定時期を募集時に明示した点にある。近年の『流通研究』(IJMD)では,丁寧な査読が行われている一方で,査読期間の長期化が課題となっていた。特に,一定の期間内に業績を蓄積する必要がある若手研究者にとっては,投稿しづらい側面があったと思われる。刊行予定時期の明示は,査読プロセスの迅速化を求めるものであり,査読の柔軟性を一定程度制限する側面もあるが,近年の投稿数減少に対応する意味でも重要な試みと捉え,先の「サステナビリティ特集」に続いて今回も導入した。

もう一つの特徴として,今回は論文審査の前段階としてアブストラクト審査を実施し,2段階の審査プロセスを採用した。若手研究者からの投稿を対象とすることを踏まえ,短期間で掲載水準に達するのが難しいと判断されるものはアブストラクトの段階で選別して,投稿者および査読者の負担を軽減するとともに,この時点で査読者からコメントを受けることで,投稿される論文の質の向上を図ることを目的とした。

こうした企画段階での取り組みが功を奏したのか,アブストラクト段階で19件の投稿があり,論文としても15本の投稿を得ることができた。その分,編集部および査読者には大きな負担がかかったものの,企画の趣旨は多くの若手研究者に伝わったものと考えている。

2. 査読体制の成熟

今回,特集の編集に携わる中で,『流通研究』が創刊されてから25年以上の歳月を経て,査読を通じて研究の質を高めていく文化が,学会内に確実に定着してきたことを強く実感した。

『流通研究』が創刊されたのは1998年である。当時,他の研究者による査読を経て,一定の水準に達した論文のみが掲載されるという査読誌の仕組みは,マーケティング,流通・商業,消費者行動といった本学会誌が対象とする研究分野において,少なくとも国内ではまだ一般的とは言えなかった。私自身,当時は大学院博士後期課程の学生であり,査読という仕組みは主に海外の学術誌に見られるものと認識していたため,そのような雑誌に論文を投稿しようという意識すら持っていなかった。日本商業学会において,そのような体制を備えた雑誌が創刊されると聞いたときは,そこに論文を掲載することへの憧れを抱くと同時に,それがどのような経験になるのかについては,正直なところほとんど理解していなかった。

その後,自ら論文を投稿する経験を通じて,従来は得がたかった他の研究者からのコメントに触れる機会を得たことで,研究の世界の広がりや,査読を通じた学びの深さを実感することができた。一方で,当時は査読体制が十分に整っておらず,さまざまな混乱があったとも聞く。まだ多くの研究者にとって,査読というプロセスは手探りの状態であり,本誌も黎明期にあったと言えるだろう。

しかし,ここ20年ほどの間で,国内外の研究環境は大きく変化した。近年では,海外の学術誌に英文で論文を投稿することが一般的となり,国内でも複数の雑誌が査読体制を整備したことにより,研究者が査読を経て論文を公表することや,査読者として他者の研究に関わる機会が,飛躍的に増加した。

今回の特集号においては,そうした個々の研究者がこれまでに培ってきた投稿経験が,査読者のコメントの質の高さにおいて遺憾なく発揮されていた。査読コメントは概ね高い水準にあり,若手研究者の論文をよりよいものにしようという意欲に満ちたものが非常に多かった。

本特集では,若手研究者の投稿を対象としていることから,できる限りディスク・リジェクトを避ける方針をとり,結果として,すべての投稿論文を査読に回すこととした。査読者の皆様には多大なご負担をおかけすることとなったが,投稿者が今回の査読結果から得た成果は非常に大きかったのではないかと考えている。ここで若手研究者が得た経験は,自身が将来査読者として活躍する基盤ともなり,次世代の査読体制を支える貴重な財産となることが期待される。

3. ヤング・スカラー特集のさらなる発展に向けて

もっとも,初めての試みであった本企画には,今後に向けた課題も多く見受けられた。投稿数が多くなったことで,査読者の確保が大きな課題となり,何人かの先生方に複数の論文査読をお願いする結果となった。このことは,今後,若手研究者を含め,査読者を育成する仕組みづくりの必要性を認識させるものであった。また,今回の刊行スケジュールが,大学の業務が集中する年末年始から年度末と重なったことで,編集部,査読者,さらに学会事務局への負荷が増大し,予定していたスケジュールからの遅れも発生した。刊行時期やスケジュールについても検討の余地がある。

現在のところ,次年度に第2回の「ヤング・スカラー特集」の実施を予定している。次期編集部において,今回浮かび上がった諸課題に対処しつつ,本特集が若手研究者の成長の機会となるよう,さらなる充実を図ってもらえるものと期待している。

最後に,本企画にご投稿いただいた皆様,査読にご協力いただいた先生方,そして常に的確なサポートをお寄せくださった日本商業学会事務局の皆様に,改めて深く感謝申し上げる。

 
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