2025 年 28 巻 1 号 p. 3-18
本論文は,営業・販売組織の多様性を捉え,B2B市場において事業戦略に沿った顧客の取捨選択と,新製品開発への顧客関与の促進に寄与するような組織の特徴を明らかにする。近年のB2B市場では競争優位獲得のために顧客との共創関係がますます重要になり,それに伴って戦略的販売の重要性も増している。欧米で提唱された戦略的販売は企業の戦略的意思決定に関与し,選び抜いた顧客との価値共創を促す組織を指し,従来はマーケティングの担っていた戦略策定領域を侵食してきた。一方で,日本では営業が欧米におけるマーケティングと販売の意味を含み,戦略的販売と類似した特徴を持つ。営業・販売組織の分類を構築した先行研究は,マーケティングとの従来型の分業を前提としてきた。しかし営業・販売組織の役割の変化と戦略領域への拡大を考慮し,営業・販売組織の在り方のグラデーションを捉えることが求められる。そこで本論文は,先行研究から導き出した戦略的販売の特徴を表す9つの変数を用いてクラスター分析を行う。分析の結果,5つのクラスターが特定された。
This study explores the diversity of sales organizations and identifies organizational characteristics that contribute to customer selection aligned with business strategy and to promoting customer involvement in new product development. In recent BtoB markets, co-creation with customers is increasingly critical for competitive advantage, highlighting the importance of strategic sales. In Western contexts, strategic sales refers to an organization involved in strategic decision-making and value co-creation with selected customers, encroaching on strategic roles traditionally held by marketing. In Japan, however, “eigyo” often encompasses both marketing and sales functions, showing similarities to Western strategic sales. Previous studies on classifying sales organizations have assumed a traditional division between marketing and sales. However, given the evolving roles and strategic expansion of sales organizations, a more nuanced understanding of this spectrum is needed. Thus, this study conducts a cluster analysis using nine variables derived from prior research that reflect characteristics of strategic sales. The analysis identifies five distinct clusters.
本論文の目的は2つある。第一に,営業・販売組織の多様性を捉えることである。第二に,business-to-business(B2B)市場において事業戦略に沿った顧客の取捨選択と,新製品開発への顧客関与の促進に寄与するのは,役割・構造・能力に関してどのような特徴を備えた営業・販売組織であるかを特定することを目指す。
戦略的販売とは,長期的・俯瞰的視点を持って企業や事業部レベルの戦略的意思決定に関与し,選び抜いた顧客との価値共創を促す組織を指す(e.g. Kindstrom et al., 2015;Piercy, 2010)。近年のB2B市場では競争優位を獲得するために顧客企業との共創関係がますます重要になり(Chen et al., 2021;Corsaro & Maggioni, 2022),それに伴って戦略的販売の重要性も増している。戦略的販売は,特にB2B市場の企業が直面している市場環境や製品・サービスの変化,顧客からの要求の高まりへの対処を背景として販売研究領域で生まれた販売組織の体制に関する新しい概念であり,従来はマーケティングの担っていた戦略策定領域を侵食してきた(Keszey & Biemans, 2016)。
マーケティング研究領域では,歴史的にマーケティングが戦略策定,販売が戦略実行を担うという分業構造を想定してきた(Homburg et al., 2015;Homburg et al., 1999;Terho et al., 2012)。本論文では,このような分業構造下の販売組織を伝統的販売と呼ぶ。伝統的販売は,マーケティング組織の策定した戦略の実行を担う手足であり,豊富な市場知識を持つものの短期志向で俯瞰的視点に欠ける傾向にある(Beverland et al., 2006;Homburg & Jensen, 2007;Rouziès et al., 2005)。先行研究では戦略的販売と伝統的販売の2つが対比的に示されているが,実務世界はもう少し複雑な状況であり,日本における営業組織のように,この2つに当てはまらない組織も存在しているようである。
日本では,営業が欧米におけるマーケティングと販売の意味を含み(廣田,2004;本下・佐藤,2017;佐藤・本下,2018;山内,2020),営業組織と営業組織研究は独自の発展を遂げてきた。しかし,自ら意思決定して事業活動を牽引する,顧客の予想を超えた提案をする,社内外の調整の役割を果たすといった特徴(石井・嶋口,1995;田村,1999;山下他,2012)は,戦略的販売に期待される特徴と一致する。なお,本論文ではsalesの翻訳語としてのみ「販売」を用い,日本の営業と区別している。
本論文の第一の目的に関して,営業・販売組織の多様性についての体系的な調査はこれまで限定的であった。しかし,例外的研究として,第2節で詳述するようにBiemans et al.(2010)とHomburg et al.(2008)は販売とマーケティングに関して様々な配置(configuration)が存在することを確認した。彼らの議論は,学術界において販売とマーケティングの分業構造が画一的に描写されてきたことに対する疑問から生じた。ただし,彼らは販売とマーケティングの志向の違いや役割分担に焦点を当てており,戦略的販売に関する議論は含まれていない。戦略的販売研究は,マーケティングと販売の伝統的分業構造が,主要な顧客からの高まる需要や,競合他社からの強まるプレッシャーに対応する際に十分ではないと主張している(Piercy, 2010)。従って,営業・販売組織の役割の変化と戦略領域への拡大(Corsaro & Maggioni, 2022)を考慮し,営業・販売組織の在り方を体系的に捉えることが求められる。
第二の目的に関して,顧客の取捨選択と新製品開発への顧客関与は,戦略的販売が貢献を期待されている領域である(Balboni & Terho, 2016;Clarke et al., 2017;Keszey & Biemans, 2016;La Rocca et al., 2016;Marcos-Cuevas et al., 2014)。戦略的販売は,B2B市場において企業が目指すべき理想的な組織として非常に説得力がある。しかし,企業規模や成長率,製品,産業,組織構造によって販売とマーケティングの在り方には違いがあること(Biemans et al., 2010;Homburg et al., 2008;Kotler et al., 2006)を考慮すると,あらゆる企業が戦略的販売を目指すべきかどうかは不明である。例えば,日本の環境では営業組織が非常に大きな影響力を持ち,販売以外に戦略策定,予算管理,製品開発などの幅広い役割を担っている(Fukutomi et al., 2021)。先行研究は欧米の環境を念頭に置き,戦略実行だけを担ってきた販売組織からの脱却を目指して戦略的販売を提唱したが,そもそも欧米における伝統的販売の枠に当てはまらない営業・販売組織も戦略的販売を目指すべきなのだろうか。さらに,戦略的販売の特徴として複数の要素が挙げられている(e.g.戦略的意思決定への関与,市場感知能力)。多様な営業・販売組織の中には,戦略的販売の特徴を部分的に備えた組織も存在しているはずである。顧客関係管理を戦略的に行い,有望な顧客の新製品開発への関与を促進するためには,戦略的販売が唯一にして最善の解決策ではなく,戦略的販売の特徴を部分的に備えた営業・販売組織も十分な解決策になり得る可能性がある。従って,本論文の調査では,先行研究から導き出した戦略的販売の特徴を表す9つの変数を用い,産業横断的な営業・販売組織のマネージャーから得たデータに対してクラスター分析を行う。その後,追加の変数として顧客関係管理行動,新製品開発への顧客関与,新製品開発の市場成果を用い,クラスターごとの差を知るために多変量分散分析を行う。
最後に,本論文はB2B市場の営業・販売組織に限定して調査を行った。その理由は2つある。第一に,本論文が焦点を当てる戦略的販売は,B2B市場において提案された組織である。第二に,企業における営業・販売及びマーケティングの在り方には,B2B市場とbusiness-to-consumer市場の間に違いがあるため(Keszey & Biemans, 2016;Verhoef & Leeflang, 2009),これらを区別して考える必要がある。
次節以下,本論文は戦略的販売の定義と貢献,販売とマーケティングの分類に関する先行研究,クラスター変数及び追加の変数の順に論じ,実証結果をもとに本論文から得られたインプリケーションについて論じる。
戦略的販売とは,長期的・俯瞰的視点を持って戦略的意思決定に関与する組織である。戦略的意思決定とは,企業または事業部の中長期的な戦略,顧客の取捨選択に関する戦略,どの製品・サービスに注力し,どの顧客を開発プロセスに関与させるかに関する戦略を策定する意思決定を意味している。戦略実行を担う伝統的販売から,戦略的販売への進化を引き起こす要因は,企業が顧客の問題を解決するような価値創造を求められるようになり,効率的・効果的に成果を出すために,顧客との関係を個別に,かつ短期的な視点で捉えるのではなく,顧客リスト全体の一部として位置付けて顧客ポートフォリオの管理を目指すようになったためである(Kindstrom et al., 2015;Piercy, 2010;Piercy & Lane, 2005;Sheth & Sharma, 2008)。
戦略的販売研究は,販売組織が顧客関係管理と新製品開発の領域で事業活動に貢献すると示している。具体的に取り上げられている活動は,投資すべき顧客の取捨選択(Balboni & Terho, 2016;Clarke et al., 2017;Marcos-Cuevas et al., 2014;Storbacka, 2012)と,開発プロセスへの顧客関与の促進(de Jong et al., 2014;Keszey & Biemans, 2016;La Rocca et al., 2016)である。戦略的販売が貢献を期待されるこの2つの領域は密接に関係しており,切り離すことはできない。どちらの領域においても,橋渡し役として販売が企業内外での相互作用を促進し,調整役として貢献することは共通している。販売が独自に生み出す市場・顧客についてのインテリジェンスを戦略的意思決定に反映させるという点が,戦略的販売と伝統的販売の最も重要な違いである。
2.2 販売とマーケティングの分類営業・販売組織の多様性についての体系的な調査は限定的だが,マーケティング組織研究の領域では,販売とマーケティングの配置というテーマの実証研究が存在する。欧米の学術界では,マーケティングが戦略策定,販売が戦略実行を担うという分業構造が前提とされる場合が多い(Homburg et al., 2015;Homburg et al., 1999;Terho et al., 2012)。しかし,Biemans et al.(2010)とHomburg et al.(2008)は,学術界における分業構造の画一的な描写に現実世界との乖離があると考え,販売とマーケティングの配置には多様性があることを明らかにした。配置とは,販売とマーケティングの機能的分離,役割,責任,情報共有の仕方,志向の組み合わせを意味する。彼らの研究は,戦略的販売の視点から行われたものではないが,販売組織の多様性を捉えた例外的研究であり,本論文と照らし合わせて議論することができる。
Homburg et al.(2008)は5種類の配置を示し,その中でマーケティングが高い市場知識を持つ配置と,販売が長期志向を持つ配置が市場・財務成果に優れていると主張した(図1)。この一方,Biemans et al.(2010)はB2B企業に限定して4種類の配置を示し,販売とマーケティングの統合が直線的に進化すると述べた。初期段階では,販売が個別顧客に焦点を当て,戦略が不在で一貫性が欠如している。しかし,マーケティングが部門として確立すると,販売がその戦略に従い,最終的には両者が価値のデザイン・提供で協力し,市場の潜在ニーズに対応する。Homburg et al.(2008)の「販売支配」とBiemans et al.(2010)の「販売主導のマーケティング」は類似しており,成果が限定的だった。これは販売が市場知識を活用して事業活動を主導する一方,マーケティングは販売のサポートにとどまり,販売の短期志向に流されたためである。
マーケはマーケティングの略
配置の種類を特定した2つの先行研究は,販売とマーケティングの画一的な描写には疑問を呈しているものの,分業構造を前提としている。しかし,この前提が当てはまらない2つの現象が存在する。第一に,販売がマーケティングに取って代わるような根本的再編を迫られているという侵食現象(Keszey & Biemans, 2016)が発生している。Homburg et al.(2015)によると,かつてはマーケティング組織が意思決定に影響力を持っていた流通戦略,新しい地理的市場への拡大,新製品開発,事業部の戦略的方向性,主要な資本的支出に関して,販売組織が代わりに影響力を獲得している。第二に,日本企業における影響力の強い営業組織である。多くの日本企業では,単なる販売活動に留まらない幅広い種類の活動を営業組織が担っており,マーケティング組織よりも営業組織が強い影響力を持つ,あるいはマーケティング組織が存在しない場合があると言われている(石井・嶋口,1995;小林・南,2004;山下他,2012)。以上の背景を踏まえ,本論文では,画一的な分業構造に当てはまらない企業が多く存在すると期待される日本で収集したデータを用い,営業・販売組織の役割の変化と戦略領域への拡大を考慮し,営業・販売組織の在り方のグラデーションを明らかにすることを目指す。また,次節で述べるように,販売とマーケティングの区別を明確にするためのクラスター変数ではなく,顧客関係管理行動や新製品開発への顧客関与の促進に繋がる営業・販売組織の特徴を示すクラスター変数を基に,分類の再構築に取り組む。
本論文は,戦略的販売を切り口として,役割・構造・能力の観点から日本のサンプルで営業・販売組織の多様性を捉えることを目指している。そこでまず,Piercy and Lane(2005)とPiercy(2010)の提示した戦略的販売の役割・構造・能力に関わる5つの要件をクラスター変数に取り入れた。それは,⑴企業及び事業の戦略的意思決定への関与,⑵機能横断的協力関係の構築とマネジメント,⑶企業内で顧客の支援者として働くこと,⑷顧客関係を長期的にマネジメントするための顧客に基づくチーム構造・プロセスの構築,⑸市場感知能力による戦略形成と顧客に対する付加価値形成のための市場知識の構築である。この中で⑴企業及び事業の戦略的意思決定の関与については,後述する通り3つに分けて定義している。この5要件により,戦略的販売に該当する組織を確実に捉えることができる。次に,日本の営業は戦略的販売と類似した特徴の他に,顧客に対する迅速かつ柔軟できめ細やかな対応を強みとしてきた(石井・嶋口,1995;小林・南,2004;田村,1999)。後述するように市場感知能力が長期的・俯瞰的な視点を重視するのに対し,顧客対応の能力は短期的・即応的な視点を重視する。この対照的な性質を考慮し,クラスター変数に両方を採用することでバランスを取ることができる。計9つの変数により,役割,組織構造,能力の面から戦略的販売,対になる伝統的販売,部分的に戦略的販売の特徴を備えた日本的営業といった多様な組織を捉えることに繋がる。
ここから9つの変数の定義を順番に述べる。最初の変数は「企業及び事業の戦略的意思決定への関与」を3つに分けた変数である。この定義は,営業・販売組織を事業戦略及びマーケティング戦略の議論の中心に置き,営業・販売の業務を戦略的方向性に合わせることである(Keszey & Biemans, 2016;Piercy, 2010)。ただし,一口に「戦略的意思決定」と言っても様々な種類の意思決定が存在している。本論文では,特に戦略的販売に関わる3種類の意思決定,すなわち「戦略関連タスク」,「顧客関連タスク」,「製品関連タスク」に焦点を当てる。戦略関連タスクは企業戦略や事業戦略の策定,顧客関連タスクは顧客ポートフォリオの管理,製品関連タスクは新製品・サービスの企画や導入を指す(Homburg et al., 2008)。以上の3変数は,営業・販売組織が戦略的意思決定に関与する度合いを示すものであり,営業・販売組織の役割を捉える指標である。従って,これらの値が高い場合,その組織は当該領域の戦略的意思決定において中心的役割を果たしていると言える。
次に,顧客との関係構築や価値創造を実現するための組織構造として次の3点がある。1点目は「機能横断的協力関係の構築」で,その定義は,顧客に対して優れた価値を提供するために,機能横断的に情報と資源を共有し,コミュニケーションを取り,協力できるということである(Kindstrom et al., 2015;Piercy, 2010)。2点目は,「営業・販売が顧客の支援者として働く」で,その定義は,顧客に対するシームレスな価値提供のために,営業・販売組織が社内の人々に対して顧客の主張を代弁し,説得し,協力を引き出せるということである(Piercy, 2010)。3点目は「顧客別組織構造」で,その定義は,地理的類似性ではなく産業や製品の使用状況などによって関連付けられる顧客グループに沿って組織構造が構築されていることである(Mu, 2015)。これにより,顧客ごとに関係構築と価値創造を行い,製品ではなく顧客ごとに費用対効果を追跡できるようになる(Lee & Day, 2019;Piercy, 2010)。
次の変数は「市場感知能力」である。その定義は,自社のビジネスエコシステムから集めた情報に基づいて,将来の市場の進化を予測し,新しい機会を発見する能力(Mu, 2015)で,未来志向,長期志向,マクロで探索的な(exploratory)情報処理という特徴を持つ。
最後に顧客対応の能力としての2つの変数は「顧客対応の速さ」と「顧客対応の専門知識」である。前者は顧客ニーズに対する組織の対応が迅速な度合い,後者は組織の対応が顧客ニーズを効果的に満たしている度合いを指す(Jayachandran et al., 2004)。この2つは,今まさに目の前にいる顧客の示す要望やニーズに対して迅速かつ効果的に対応する能力で,現在志向,短期志向,ミクロで活用的な(exploitative)情報処理という特徴を持つ。市場感知能力は,潜在的な機会と脅威に対応するための市場に対する俯瞰的な視点を強調しているが,顧客対応の速さと専門知識も,顧客との長期的関係構築や価値創造のために極めて重要である(Nam et al., 2019;Setia et al., 2013)。
3.2 追加の変数クラスター変数に加えて,本論文ではクラスター分析によって分類された営業・販売組織の特徴を捉えるための変数として顧客関係管理行動を構成する5点,新製品開発への顧客関与,新製品開発の市場成果という計7つの概念を取り入れた。これらの変数はクラスター分析には含まれない。これらの変数の採用は,本論文の目的である顧客の取捨選択と,新製品開発への顧客関与の促進に繋がる営業・販売組織を見つけるために必要である。また前述したように,戦略的販売は顧客関係管理と新製品開発の面で特に貢献を期待されており,戦略的販売を切り口として分類したクラスターごとに違いが生じると考えられるため,クラスター分析の結果の信頼性と妥当性を高めるために行う分散分析にこれらの追加変数を用いることができる。
第一に,適切な顧客を取捨選択する「顧客関係管理行動」として,本論文ではMitrega et al.(2012)の定義した「企業の便益のために事業関係を開始,発展,終結させる,組織レベルで実行される一連の活動及び組織的ルーティン(p. 741,筆者訳)」の概念を採用する。この概念は5つのサブ概念で構成されている。すなわち,特定の特徴に着目して価値ある潜在顧客を選定すること(i.e.顧客関係開始行動―選択),選定した潜在顧客を惹きつけるために体系的にアプローチすること(i.e.顧客関係開始行動―魅了),顧客との関係を発展・管理・強化すること(i.e.顧客関係発展行動),好ましくない顧客を選定すること(i.e.顧客関係終結行動―準備),好ましくない顧客との関係を体系的に停止すること(i.e.顧客関係終結行動―実行)である。
顧客関係管理行動の概念とその測定尺度は多くの先行研究が開発してきた。Mitrega et al.(2012)の概念は次の2つの点でその他の概念及び測定尺度と区別できる。第一に,関係の動的性質を捉え,関係の開始や発展だけではなく終結の要素も含めている。伝統的販売とは異なり,戦略的販売では短期的売上よりも長期的な観点から顧客関係を終結させることも重要な選択肢として含まれるようになっている。第二に,相互作用的で価値創造に取り組む顧客関係を想定している。前者の側面については,Reinartz et al.(2004)が開始から終結を同時に検討した例外的研究として挙げられるが,Mitrega et al.(2012)は,同研究はシステムと技術に焦点を当て,無機的関係を想定している点で重要な違いがあると指摘している。本論文において想定する顧客関係は,新製品開発への顧客関与に繋がる価値創造や課題解決に取り組むことができる密な関係である。
次は,「新製品開発への顧客関与」である。これは,新製品開発プロセスにおいて顧客が活発に貢献すること(Greer & Lei, 2012;Keszey & Biemans, 2016)を意味する。顧客は情報源あるいは共同開発者として開発プロセスの各段階に関与する可能性が考えられる(Chen et al., 2021;Fang, 2008;Lin & Huang, 2013)。顧客関与を成功裏に実現するためには,販売組織が適切な顧客を選択し(Greer & Lei, 2012;Keszey & Biemans, 2016;Lagrosen, 2005;Petri & Jacob, 2016),企業内及び企業-顧客間の様々な軋轢を調整すること(Oinonen et al., 2018)が必要である。従って,顧客関与は適切な顧客関係管理と切り離すことができない。
最後は,「新製品開発の市場成果」である。これは,競合他社と比較した新製品の新奇性,市場からの反応,成功度合い(Keszey & Biemans, 2016)を指す。新製品開発の成果には投資収益率や技術的な競争優位性,品質水準など様々な基準が考えられるが,本論文では営業・販売組織のマネージャーの視点から重要度が高く,回答可能な基準を採用した。
本論文は,市場調査会社を通じたオンラインの質問票調査によってデータの収集を行なった。対象者は従業員数300人以上の企業に勤める法人顧客を担当する営業・販売組織のマネージャーと設定した。質問票は,2021年11月13日から19日の間に1,762名に配布され,288名から回答を得た。データの質を確保するために回答時間が150秒以内の回答者を除外し,最終的に216名から回答を得た。表1は,回答者の詳細情報を示している。
勤続年数 | % | 従業員数 | % | 業界 | % |
---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 0.0 | 301~500名 | 12.0 | エネルギー資源 | 0.5 |
1~3年未満 | 2.3 | 501~1,000名 | 17.1 | 鉄鋼・非鉄 | 2.3 |
3~5年未満 | 1.4 | 1,001名以上 | 70.8 | 食品 | 2.8 |
5~10年未満 | 6.0 | 電力・ガス | 2.8 | ||
10~20年未満 | 25.9 | 運輸・物流 | 2.8 | ||
20年以上 | 64.4 | 小売 | 3.2 | ||
自動車・輸送機 | 3.7 | ||||
不動産 | 4.2 | ||||
建設・資材 | 5.6 | ||||
機械 | 5.6 | ||||
銀行 | 5.6 | ||||
金融(除く銀行) | 5.6 | ||||
医薬品 | 6.0 | ||||
素材・化学 | 6.5 | ||||
電気・精密 | 6.5 | ||||
商社・卸売 | 13.4 | ||||
情報通信・サービスその他 | 23.1 |
従業員数300人以上の企業に勤める法人顧客を担当する営業・ 販売組織のマネージャーを対象とした
質問票調査では前述の通り9つのクラスター変数と7つの追加変数の計16の概念を測定した。各概念はリッカート7点尺度を用いて測定された。これら全ての概念は,英語から日本語に翻訳されたものである。英語から日本語への翻訳の正確性と,表面的妥当性の評価のために,専門知識を備えた2名の研究者及び2名の実務家に確認を依頼した。その結果,顧客対応の速さに関して1項目が表面的妥当性を満たしていないとの指摘を受けこれを削除した。新製品開発への顧客関与に関して,本論文の関心対象を正確に回答者に伝えるために,「新製品開発」を「製品・サービスの改善及び開発」という表現に変更し,これには「既存の製品・サービスに手を加えてバージョンアップすること,ラインナップを増やすこと,新たな製品・サービスを開発することが含まれている」という但し書きを加えた。これは,企業や産業によって「新製品開発」という語が指す範囲が異なるためである。また,顧客関係開始/発展/終結行動に関するMitrega et al.(2012)とMitrega et al.(2017)のオリジナルの項目では,顧客だけでなくサプライヤーも含めた全ての事業関係を想定して「パートナー」という表現を使用しているが,本論文では顧客との関係に焦点を当てるため「顧客」という表現に置き換えた。質問票調査に用いた全ての項目とその因子負荷量,確証的因子分析の結果は付録に示している。
4.2 信頼性・妥当性測定尺度の信頼性及び妥当性を評価するため,クラスター変数と追加変数について確認的因子分析を実施した(表2)。因子負荷量が0.68未満であった5項目を削除し(Hair et al., 2019),クラスター変数と追加変数の両方でSRMRが0.08以下(Hu & Bentler, 1998;1999)を示した。また,Cronbachのα係数,McDonaldのω係数,合成信頼性は全て0.8以上,平均分散抽出(AVE)は全て0.5以上であり,測定尺度の信頼性(内的整合性)及び収束的妥当性について十分な値が得られた(Hair et al., 2019;McDonald, 2013)。一方で,顧客対応の速さと専門知識,顧客関係開始行動―魅了と顧客関係発展行動については,因子間の相関がAVEの平方根を下回らず,弁別的妥当性を示せなかった。顧客対応の速さと専門知識については,理論的重要性を踏まえ,クラスター分析に含めることとした。また,次節で述べるように,複数のクラスター分析に加え,7つの追加変数を用いた分散分析により,クラスター間の有意な差が確認されたことから,クラスター構造には一定の妥当性があると判断した。顧客関係開始行動―魅了と顧客関係発展行動の2変数については,クラスター分析には用いておらず,残りの5つの追加変数の弁別的妥当性は確認されている。従って,追加変数を用いた分散分析によるクラスター構造の有意性検定の意義は一定程度保たれていると考えられる。次に,多重共線性が存在するかを確認するため,分散拡大係数(VIF)の値を調べた結果,多重共線性が認められる基準である10.00を下回っていた(Hair et al., 2019)。
ME | SD | α | ω | CR | AVE | 4. | 5. | 6. | 7. | 8. | 9. | 10. | 11. | 12. | 13. | 14. | 15. | 16. | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1.戦略関連タスク(formative) | 4.36 | 1.41 | |||||||||||||||||
2.顧客関連タスク(formative) | 4.38 | 1.40 | |||||||||||||||||
3.製品関連タスク(formative) | 4.08 | 1.39 | |||||||||||||||||
4.機能横断的協力関係の構築 | 4.10 | 1.10 | 0.88 | 0.89 | 0.89 | 0.61 | 1.00 | ||||||||||||
5.顧客の支援者として働く | 4.53 | 1.11 | 0.86 | 0.86 | 0.86 | 0.68 | 0.60 | 1.00 | |||||||||||
6.顧客別組織構造 | 4.25 | 1.07 | 0.91 | 0.91 | 0.91 | 0.67 | 0.77 | 0.65 | 1.00 | ||||||||||
7.市場感知能力 | 4.31 | 0.99 | 0.91 | 0.91 | 0.91 | 0.63 | 0.72 | 0.62 | 0.73 | 1.00 | |||||||||
8.顧客対応の速さ | 4.54 | 1.04 | 0.88 | 0.88 | 0.88 | 0.65 | 0.62 | 0.61 | 0.69 | 0.78 | 1.00 | ||||||||
9.顧客対応の専門知識 | 4.28 | 1.06 | 0.87 | 0.87 | 0.87 | 0.69 | 0.64 | 0.52 | 0.71 | 0.69 | 0.83 | 1.00 | |||||||
10.顧客関係開始行動―選択 | 4.15 | 1.13 | 0.88 | 0.88 | 0.88 | 0.71 | 0.57 | 0.45 | 0.65 | 0.63 | 0.68 | 0.70 | 1.00 | ||||||
11.顧客関係開始行動―魅了 | 4.48 | 1.05 | 0.90 | 0.90 | 0.90 | 0.69 | 0.60 | 0.63 | 0.70 | 0.68 | 0.75 | 0.74 | 0.69 | 1.00 | |||||
12.顧客関係発展行動 | 4.56 | 1.03 | 0.85 | 0.85 | 0.85 | 0.65 | 0.60 | 0.61 | 0.69 | 0.69 | 0.75 | 0.71 | 0.64 | 0.84 | 1.00 | ||||
13.顧客関係終結行動―準備 | 4.16 | 1.13 | 0.89 | 0.89 | 0.89 | 0.66 | 0.56 | 0.49 | 0.58 | 0.67 | 0.66 | 0.65 | 0.72 | 0.71 | 0.70 | 1.00 | |||
14.顧客関係終結行動―実行 | 4.22 | 1.06 | 0.84 | 0.84 | 0.84 | 0.57 | 0.52 | 0.50 | 0.52 | 0.60 | 0.62 | 0.57 | 0.61 | 0.69 | 0.67 | 0.74 | 1.00 | ||
15.新製品開発への顧客関与 | 4.15 | 1.06 | 0.90 | 0.90 | 0.90 | 0.65 | 0.56 | 0.49 | 0.63 | 0.62 | 0.67 | 0.68 | 0.65 | 0.71 | 0.79 | 0.71 | 0.62 | 1.00 | |
16.新製品開発の市場成果 | 4.13 | 1.12 | 0.91 | 0.92 | 0.92 | 0.73 | 0.55 | 0.46 | 0.64 | 0.62 | 0.68 | 0.73 | 0.62 | 0.72 | 0.68 | 0.67 | 0.64 | 0.74 | 1.00 |
ME = mean;SD = standard deviation;α = Cronbach’s alpha;ω = McDonald’s omega;CR = composite reliability;AVE = average variance extracted
分析ソフトウェアはRを使用し,Hair et al.(2019),Ketchen and Shook(1996),Punj and Stewart(1983)に基づいて以下の手順で行った。複数のクラスター分析と分散分析の組み合わせにより,信頼性と妥当性を確保した(Ketchen & Shook, 1996)。
(1)階層的クラスター分析(e.g.ウォード法,群平均法,最短距離法,最長距離法)を行い,予備的な分析結果を得る。クラスター分析には上述した9つのクラスター変数を用いる。
(2)予備的な分析結果からクラスター数の候補と,除外すべき外れ値を特定する。
(3)(1)と(2)に基づいて階層的クラスター分析を繰り返す。
(4)非階層的クラスター分析を行う。
(5)(4)に基づいてクラスター分析の結果を解釈し,クラスター分析に用いた変数に基づいて各クラスターに名前を付ける。
(6)分散分析を通じて7つの追加変数との有意性を検定する。
これらに加えて,クラスター分析の結果について研究者及び実務家からの評価を受けて妥当性を確認した。
表3及び4には各クラスターの統計的情報をまとめている。以下では,5つのクラスターの解釈を説明し,追加変数を用いた分散分析の結果,クラスターの構成比について整理する。
全体 平均 |
1 形式化業務 中心の 伝統的販売 |
2 自律的・ 積極的営業 |
3 戦略先行の 官僚的営業 |
4 緩慢な 場当たり的 営業 |
5 戦略的販売 |
|
---|---|---|---|---|---|---|
100% n = 216 |
28% n = 61 |
16% n = 35 |
29% n = 62 |
8% n = 18 |
19% n = 40 |
|
クラスター変数 | ||||||
戦略関連タスク | 4.36 | 3.75 | 3.57 | 5.16 | 1.67 | 5.95 |
顧客関連タスク | 4.38 | 3.89 | 3.60 | 5.05 | 1.61 | 6.00 |
製品関連タスク | 4.08 | 3.54 | 3.34 | 4.66 | 1.78 | 5.68 |
機能横断的協力関係の構築 | 4.10 | 3.59 | 4.02 | 4.25 | 2.36 | 5.50 |
顧客の支援者として働く | 4.53 | 3.91 | 4.50 | 4.91 | 2.85 | 5.64 |
顧客別組織構造 | 4.25 | 3.60 | 4.39 | 4.35 | 2.64 | 5.69 |
市場感知能力 | 4.31 | 3.76 | 4.43 | 4.46 | 2.70 | 5.51 |
顧客対応の速さ | 4.54 | 3.77 | 4.94 | 4.63 | 3.17 | 5.84 |
顧客対応の専門知識 | 4.28 | 3.52 | 4.82 | 4.32 | 2.87 | 5.57 |
追加変数 | ||||||
顧客関係開始行動―選択 | 4.15 | 3.52 | 4.37 | 4.20 | 3.02 | 5.37 |
顧客関係開始行動―魅了 | 4.48 | 3.84 | 4.49 | 4.63 | 3.25 | 5.79 |
顧客関係発展行動 | 4.41 | 3.86 | 4.42 | 4.50 | 3.33 | 5.58 |
顧客関係終結行動―準備 | 4.16 | 3.51 | 4.22 | 4.32 | 3.10 | 5.32 |
顧客関係終結行動―実行 | 4.22 | 3.70 | 4.29 | 4.35 | 3.14 | 5.22 |
新製品開発への顧客関与 | 4.16 | 3.64 | 4.37 | 4.18 | 3.00 | 5.28 |
新製品開発の市場成果 | 4.13 | 3.49 | 4.56 | 4.12 | 2.89 | 5.33 |
合計 | 1 形式化業務 中心の 伝統的販売 |
2 自律的・ 積極的営業 |
3 戦略先行の 官僚的営業 |
4 緩慢な 場当たり的 営業 |
5 戦略的販売 |
|
---|---|---|---|---|---|---|
100% n = 216 |
28% n = 61 |
16% n = 35 |
29% n = 62 |
8% n = 18 |
19% n = 40 |
|
勤続年数 | ||||||
1~3年未満 | 5 | 2(40%) | 1(20%) | 1(20%) | 0 | 1(20%) |
3~5年未満 | 3 | 1(33%) | 1(33%) | 0 | 0 | 1(33%) |
5~10年未満 | 13 | 4(31%) | 2(15%) | 3(23%) | 2(15%) | 2(15%) |
10~20年未満 | 56 | 16(29%) | 6(11%) | 19(34%) | 6(11%) | 9(16%) |
20年以上 | 139 | 38(27%) | 25(18%) | 39(28%) | 10(7%) | 27(18%) |
従業員数 | ||||||
301~500名 | 26 | 8(31%) | 4(15%) | 6(23%) | 2(8%) | 6(23%) |
501~1,000名 | 37 | 9(24%) | 3(8%) | 15(41%) | 4(11%) | 6(16%) |
1,001名以上 | 153 | 44(29%) | 28(18%) | 41(27%) | 12(8%) | 28(18%) |
業界 | ||||||
食品 | 6 | 2(33%) | 2(33%) | 1(17%) | 1(17%) | 0 |
エネルギー資源 | 1 | 0 | 1(100%) | 0 | 0 | 0 |
建設・資材 | 12 | 4(33%) | 2(17%) | 4(33%) | 2(17%) | 0 |
素材・化学 | 14 | 6(43%) | 2(14%) | 2(14%) | 0 | 4(29%) |
医薬品 | 13 | 3(23%) | 1(8%) | 3(23%) | 1(8%) | 5(38%) |
自動車・輸送機 | 8 | 1(13%) | 2(25%) | 3(38%) | 1(13%) | 1(13%) |
鉄鋼・非鉄 | 5 | 2(40%) | 0 | 1(20%) | 1(20%) | 1(20%) |
機械 | 12 | 6(50%) | 3(25%) | 1(8%) | 0 | 2(17%) |
電気・精密 | 14 | 6(43%) | 1(7%) | 6(43%) | 0 | 1(7%) |
電力・ガス | 6 | 0 | 1(17%) | 2(33%) | 1(17%) | 2(33%) |
運輸・物流 | 6 | 3(50%) | 1(17%) | 2(33%) | 0 | 0 |
商社・卸売 | 29 | 10(34%) | 4(14%) | 8(28%) | 2(7%) | 5(17%) |
小売 | 7 | 1(14%) | 3(43%) | 1(14%) | 1(14%) | 1(14%) |
銀行 | 12 | 1(8%) | 2(17%) | 3(25%) | 1(8%) | 5(42%) |
金融(除く銀行) | 12 | 4(33%) | 0 | 5(42%) | 1(8%) | 2(17%) |
不動産 | 9 | 0 | 2(22%) | 2(22%) | 4(44%) | 1(11%) |
情報通信・サービスその他 | 50 | 12(24%) | 8(16%) | 18(36%) | 2(4%) | 10(20%) |
このクラスターは全クラスター変数の値が全体平均以下であり,特に製品関連タスク(i.e.新製品・サービスの企画や導入に関する戦略的意思決定への関与),機能横断的協力関係の構築,顧客対応の専門知識が低い。従って,このクラスターの組織は受注業務が中心で,製品・サービスについての関わりや知識が乏しいと解釈できる。形式化された受注業務をこなすことに注力すると,顧客の要望に応えるために社内の関係部門を巻き込んで活動する必要はなく,機能横断的協力関係の構築の度合いが低くなる。このクラスターでは,欧米の環境において一般的であった伝統的分業構造と一致して,販売組織は戦略実行を担う手足であり(Terho et al., 2012),マーケティングや経営管理の組織が戦略策定とそのために必要な情報の収集・整理・解釈の役割を担っている(Homburg et al., 1999)と考えられる。
5.2 自律的・積極的営業クラスターこのクラスターは戦略的意思決定への関与に関する3つのクラスター変数の値が他のクラスター変数と比較しても,全体平均と比較しても低い。顧客対応の速さと顧客対応の専門知識の値がやや高く,残りのクラスター変数の値は平均程度である。従って,このクラスターの組織は顧客の御用聞きに注力し,広く長い視点よりも狭く短い視点で行動していると解釈できる。個々の顧客への効率的で効果的な対応はできるが,戦略立案に弱みを持つ。Homburg et al.(2008)は「販売支配」の組織が市場・財務成果の面で低いと報告した。Biemans et al.(2010)は販売とマーケティングの配置の進化論の中で「販売主導のマーケティング」を初期の未熟な段階として位置付けた。これら先行研究の示した組織は,販売が製品と市場に関する豊富な知識を活用している一方で,戦略が欠如しているという点で,自律的・積極的営業クラスターと共通している。また,日本企業を調査した山下他(2012)は,自律的で積極的な営業活動を通じて個々の顧客への柔軟できめ細かい対応ができるが,戦略立案に弱みを持ち,部分最適に陥ってしまう組織の存在を指摘している。
5.3 戦略先行の官僚的営業クラスターこのクラスターは戦略的意思決定への関与に関する3つのクラスター変数の値が高く,機能横断的協力関係の構築,顧客別組織構造,顧客対応の専門知識の値はこのクラスター内の他の変数と比べて相対的に低い傾向にあり,また戦略的販売クラスターと比較しても低い値である。従って,このクラスターの組織は,戦略的意思決定に関与し,事業部全体の活動を牽引しているが,顧客に適応した効果的な対応は必ずしも実現できていないと考えられる。組織が顧客別組織構造でない場合,顧客関係を管理することへのアカウンタビリティが生まれない(Reinartz et al., 2004;Shah et al., 2006)。また,顧客に適合したユニット内で顧客へのコミットメントが共有されず,顧客についての洞察は深まらない(Homburg et al., 2000)。このクラスターは,営業組織が戦略策定にまで影響力を広げている。しかし,明確な事業戦略を販売戦略へ落とし込んで実行していくというトップダウンの官僚的体制を築いていると解釈できる。営業は市場・顧客の状況を柔軟に汲み取ることよりも,予め決められた戦略に沿うことに注力する。
5.4 緩慢な場当たり的営業クラスターこのクラスターは,全てのクラスター変数の値が大きく平均を下回り,特に戦略的意思決定への関与に関する3つのクラスター変数の値が低いが,顧客対応の速さは他のクラスター変数よりは高い。従って,このクラスターの組織は顧客の不満や苦情が表れた場合には対応するが,先回りして行動することはできず,場当たり的な対応に留まると考えられる。
5.5 戦略的販売クラスターこのクラスターは全てのクラスター変数の値が大きく平均を上回り,特に戦略関連タスク(i.e.事業戦略や中長期的戦略の策定への関与)と顧客関連タスク(i.e.顧客ポートフォリオ全体のマネジメントへの関与)が高い。従って,販売組織が主体的に戦略策定に関わり,その戦略と合致した方針で顧客ポートフォリオのマネジメントを行なっている。また,市場・顧客との関わりを通じて得た知見に基づき,企業内の協力を得ながら柔軟かつ効果的に顧客ニーズに対応することもできる。これは,戦略的販売に関する先行研究(e.g. Piercy, 2010)が理想として掲げた組織である。
5.6 クラスターの追加的描写7つの追加変数について分散分析と多重比較の結果,自律的・積極的営業クラスターと戦略先行の官僚的営業クラスターの間には,新製品開発の市場成果だけに有意な差が見られた。伝統的販売クラスターと緩慢な場当たり的営業クラスターの間には,顧客関係終結行動―準備に関して有意な差がなかった。それ以外の比較については,全てのクラスター間に有意な差があることが確認された(表5)。
値 | 自由度 | 分子 自由度 |
分母 自由度 |
F値 | p値 | |||
Pillai’s Trace | 0.68 | 4 | 28 | 832 | 6.11 | 0.00 | ||
Hotelling-Lawley’s Trace | 1.59 | 4 | 28 | 814 | 11.53 | 0.00 | ||
Wilks’s lambda | 0.37 | 4 | 28 | 740.56 | 8.46 | 0.00 | ||
自由度 | 平方和 | 平均平方 | F値 | p値 | ω2 | クラスター間の多重比較(ホルム法) | ||
顧客関係開始行動―選択 | 4 | 108.43 | 27.11 | 34.37 | 0.00 | 0.38 | 1 < 2 ***,1 < 3 ***,1 < 5 ***,2 < 5 ***,3 < 5 ***, 4 < 2 ***,4 < 3 ***,4 < 5 *** |
|
残差 | 211 | 166.44 | 0.79 | |||||
顧客関係開始行動―魅了 | 4 | 122.55 | 30.64 | 56.26 | 0.00 | 0.51 | 1 < 2 ***,1 < 3 ***,1 < 5 ***,2 < 5 ***,4 < 1 **, 4 < 2 ***,4 < 3 ***,4 < 5 *** |
|
残差 | 211 | 114.89 | 0.54 | |||||
顧客関係発展行動 | 4 | 95.00 | 23.75 | 49.17 | 0.00 | 0.47 | 1 < 2 ***,1 < 3 ***,1 < 5 ***,2 < 5 ***,3 < 5 ***, 4 < 1*,4 < 2 ***,4 < 3 ***,4 < 5 *** |
|
残差 | 211 | 101.92 | 0.48 | |||||
顧客関係終結行動―準備 | 4 | 101.72 | 25.43 | 31.44 | 0.00 | 0.36 | 1 < 2 ***,1 < 3 ***,1 < 5 ***,2 < 5 ***,3 < 5 ***, 4 < 2 ***,4 < 3 ***,4 < 5 *** |
|
残差 | 211 | 170.66 | 0.81 | |||||
顧客関係終結行動―実行 | 4 | 78.44 | 19.61 | 25.31 | 0.00 | 0.31 | 1 < 2 **,1 < 3 ***,1 < 5 ***,2 < 5 ***,3 < 5 ***, 4 < 1 *,4 < 2 ***,4 < 3 ***,4 < 5 *** |
|
残差 | 211 | 163.49 | 0.77 | |||||
新製品開発への顧客関与 | 4 | 92.20 | 23.05 | 35.27 | 0.00 | 0.39 | 1 < 2 ***,1 < 3 ***,1 < 5 ***,2 < 5 ***,3 < 5 ***, 4 < 1 **,4 < 2 ***,4 < 3 ***,4 < 5 *** |
|
残差 | 211 | 137.89 | 0.65 | |||||
新製品開発の市場成果 | 4 | 116.08 | 29.02 | 40.34 | 0.00 | 0.42 | 1 < 2 ***,1 < 3 ***,1 < 5 ***,2 < 5 ***,3 < 2 *, 3 < 5 ***,4 < 1 *,4 < 2 ***,4 < 3 ***,4 < 5 *** |
|
残差 | 211 | 151.78 | 0.72 |
p < 0.05 *;p < 0.01 **;p < 0.001 ***
形式化業務中心の伝統的販売クラスターは,新製品開発の市場成果を含む全ての追加変数が全クラスターの中で2番目に低かった。この組織は受注業務が中心であり,その枠から外れる知識やコミュニケーション活動を必要とする顧客関与を促すことは困難だと考えられる。また,このクラスターは営業・販売組織が戦略策定の中心ではなく,市場・顧客との関わりを通じて得た知見が新製品開発をはじめとする戦略に反映されにくいが,必ずしも事業部全体として戦略を持たない訳ではない。従って,このクラスターに当てはまる企業はマーケティングや経営管理など営業・販売以外の組織が戦略策定を担っているか,固定的な取引関係が多数を占めている場合が例として考えられる。特に後者の場合,顧客関係を動的に管理する必要性は低い。
自律的・積極的営業クラスターは,新製品開発の市場成果が全クラスターの中で 2番目に高い値を示した。類似した特徴を持つ組織をBiemans et al.(2010)が未熟な段階として位置付け,Homburg et al.(2008)が特に成果の低い分類として位置付けていたことに反して,良い結果を示したと言える。この違いの原因として考えられるのは,第一に,本論文のサンプルは活発な営業・販売活動の強みによる効果が強く出たタイミングを捉え,先行研究は自律性を持った営業・販売が狭い範囲や短期的な成果を高めようとして部分最適に陥ったタイミングを捉えた可能性である。第二に,顧客関係管理と新製品開発の面では現場で培った知見に基づく自律的顧客対応ができる組織が望ましい可能性がある。戦略先行の官僚的営業クラスターと比較して新製品開発の市場成果が高い値を示したことも踏まえると,現場で得た知見に基づく顧客理解度の高さの重要性が,戦略タスクへの関与を上回ることがあると推察される。新製品開発の市場成果以外の追加変数については,このクラスターと戦略先行の官僚的営業クラスターの値が2番目と3番目に高く,この2つのクラスターの間には有意な差が認められなかったため,顧客関係管理の面からは,営業・販売組織の自律性と戦略性は同程度に重要であると考えられる。
戦略先行の官僚的営業クラスターは,新製品開発の市場成果の値が5つのクラスター中3番目であった。この結果からは,営業・販売組織が戦略的であることは悪い結果をもたらさないが,市場・顧客に関する知見に基づく柔軟な対応がない場合,必ずしも高い成果を得られる訳ではないと考えられる。
緩慢な場当たり的営業クラスターは,新製品開発の市場成果もその他の追加変数も全クラスターの中で最も低い値を示した。例えば,競争環境に置かれていない組織がこのクラスターに当てはまる例として挙げられる。このような組織は新製品開発に積極的に取り組みながらそこに顧客を関与させる必要性も,顧客関係を動的に管理する必要性も低い。
最後に戦略的販売クラスターは全ての追加変数で最も高い値を示した。従って,多様な営業・販売組織の中でも,戦略的販売は普遍的に目指すことのできる組織だと見なすことができる。
5.7 クラスターの構成比最後に,各クラスターを構成するサンプルサイズを確認する。まず,形式化業務中心の伝統的販売クラスターは28%(n = 61),戦略的販売クラスターは19%(n = 40)を占め,2番目と3番目に大きなクラスターであった。従って,日本のサンプルにおいても戦略的販売を確認でき,戦略的販売と伝統的販売の対比は欧米中心に行われてきた議論ではあったが,日本においても少なくない数が存在していることが分かった。
次に,自律的・積極的営業クラスターは16%(n = 35)であった。このクラスターの特徴は,先行研究において描写されてきた日本企業の典型的な営業組織に当てはまると考えられるが,29%(n = 62)と最も大きな割合を占める戦略先行の官僚的営業クラスターや,戦略的販売クラスターよりも少数であった。それを踏まえると,例えば日本企業の状況について,自律的・積極的営業から戦略的販売への変化の転換点にある組織が,戦略先行の官僚的営業クラスターとなっている可能性が考えられる。戦略立案に関する弱みを補完しようと営業・販売組織に事業部全体を統括させるよう組織を変革した場合に,顧客対応の速さや専門知識よりもトップダウンで戦略を落とし込んでいく体制が強く現れたということである。
本調査結果と単純比較できるような先行研究は存在しないが,ドイツ企業を対象としてクラスター分析を行ったHomburg et al.(2008)では,自律的・積極的営業クラスターと類似の特徴を持つ「販売支配」が14%存在していた。本調査結果における自律的・積極的営業クラスターは先行研究が描写した典型的な日本企業の営業組織と一致する特徴を持つが,日本だけに存在する組織ではなく,また,日本のサンプルにおいて最大の割合を占める組織でもない。上述したように,戦略先行の官僚的営業クラスターや戦略的販売クラスターへの移行が発生した可能性が考えられる。この可能性を検証するため,限界と展望の項において述べるように,今後の研究は長期的観点に立ち,異なる時点でのデータを収集して分類を行うことが求められる。
本論文では,営業・販売組織の多様性を捉えながら,B2B事業において適切な顧客の取捨選択を行う顧客関係管理行動と,新製品開発の顧客関与を促進するのは,役割,構造,能力に関してどのような特徴を備えた営業・販売組織か,という問いに取り組んできた。以下では本論文の理論的貢献,実務的示唆,限界と展望を述べる。
6.1 理論的貢献本論文の理論的貢献は次の2点である。第一に,クラスター分析を通じて実務世界における営業・販売組織の多様性の存在を確認し,分類を築いた。具体的には,先行研究の示していた戦略的販売と伝統的販売の2つに加えて,3種類の営業・販売組織を特定した。この調査結果によって,営業・販売組織の在り方についての固定観念に囚われ,実務世界の状況と乖離し,必ずしも効果的ではない分析や意見を発するという危険を回避することができる。多様性を捉えるという目的のため,本論文では様々な国をルーツに持つ企業が存在する日本において産業横断的データを収集した。また,日本のデータを用いて戦略的販売を特定することができ,その戦略的販売が他の営業・販売組織と比較して追加変数として用いた顧客関係管理と新製品開発の面で最も良い数値を出す組織だと示された。従って,戦略的販売を普遍的に目指すことのできる組織と捉え,欧米を中心に行われてきた戦略的販売を推奨する研究の一般化と精緻化にも貢献している。日本においては,単なる販売を担っていた組織がマーケティングに取って代わり意思決定に関わるようになるという議論ではなく,元々自律的に活動していた営業組織にどのように戦略性・一貫性を付与するのか,あるいは強みである自律的活動をどのように強化するかについて議論が進められていた(山下他,2012)。販売組織が市場・顧客との関わりを通じて得た知見を俯瞰的に解釈して戦略に組み込むことを目指している戦略的販売の議論を,日本の営業についての議論と統合することは,日本の営業組織に戦略性・一貫性を付与しようとする議論を強化することに繋がる。
第二に,特定した5つのクラスターについて,計7つの追加変数を用いて違いを明らかにした。先行研究は,顧客の適切な取捨選択と新製品開発への関与を成功裏に行う営業・販売組織の特徴をいくつか挙げているが(e.g. Keszey & Biemans, 2016;Piercy, 2010),その特徴を包括的に整理し,優先順位を検討した研究はまだなかった。本調査では,戦略的意思決定への関与の程度が低いが,顧客対応の速さと専門知識の程度が高い自律的・積極的営業クラスターが高い追加変数の値を示していることを確認した。この結果から,長期的・俯瞰的視点から戦略的意思決定に関与することは確かに重要だが,今まさに目の前にいる顧客の示す要望やニーズに対して迅速かつ効果的に対応する能力を培うことは,さらに重要であると言える。本論文ではクラスター変数と追加変数の間の厳密な因果関係は検証していないため,次の段階の研究として市場の混乱度(Jaworski & Kohli, 1993)のような影響要因も考慮に入れた理論的フレームワークを構築し,検証することが求められる。
6.2 実務的示唆本調査結果は,営業・販売組織の改革についての実務家に対する示唆を有している。第一に,9つのクラスター変数を用いた本調査結果は,営業・販売組織の役割,構造,能力に関するデザインを検討する際に何を問うべきかを示している。より具体的には,実務家は次のような疑問を考えるべきである。「営業・販売組織はどの程度よく製品のことを知っているのか」,「営業・販売組織はどの程度よく市場や顧客のことを知っているのか」,「顧客ニーズに迅速に対応するための社内の構造は整備されているか」。新製品開発の市場成果について,戦略的意思決定への関与の程度が低いが,顧客対応の速さと専門知識の程度が高い自律的・積極的営業クラスターが相対的に優れた値を出し,戦略的意思決定への関与の程度が高いが,顧客対応の速さと専門知識の程度が低い戦略先行の官僚的営業クラスターがそれを下回る値を出したという調査結果を踏まえると,顧客と接する現場における営業・販売組織の機動力を損なわないよう注意が必要である。
第二に,追加変数として用いた顧客関係管理行動,新製品開発への顧客関与,新製品開発の市場成果に関して,戦略的販売クラスターが最も優れた値を示し,次いで自律的・積極的営業クラスター及び戦略先行の官僚的営業クラスターが,他のクラスターと比較して相対的に高い値を示した。本論文では,これらの変数についての因果関係を厳密に検証したわけではない点に留意する必要があるが,この結果は,実務家が目指すべき営業・販売組織を定める助けになる。一方で,値の低いクラスターは,実務家が避けるべき組織の特徴を示唆している。これにより,本論文は実務家がより現実的な戦略的販売への道筋を検討するための手掛かりを提供している。
6.3 限界と展望本論文では,クラスター分析を通じて5種類の営業・販売組織を特定し,戦略的販売クラスターが普遍的に目指すことのできる存在であると確認した。最後に,本論文の調査の限界と将来の研究の方向性を4点述べる。第一に,調査会社のモニター登録者の中の営業・販売組織のマネージャーを対象としたため,216名のサンプルの中には同一企業に属するマネージャーが複数名含まれる可能性を否定できない。従って今後の研究では,より大きなサンプルサイズを確保して調査を実施するか,回答者の属する企業が重複しない方法でデータ収集を行う必要がある。
第二に,各クラスターに当てはまる組織について,追跡調査を実施し,クラスターのより詳細な描写を明らかにすることが求められる。本調査ではクラスター分析の結果について研究者及び実務家からの評価を受けることで妥当性を確認している。しかし,追跡調査を行うことで,なぜ・どのように現在の営業・販売組織が形成されたのか,どのような困難に直面し,今後はどのような営業・販売組織を目指しているのか,といった問いの答えを得ることができる。例えば,緩慢な場当たり的営業クラスターについて,競争環境に置かれていない組織がこのクラスターに当てはまる可能性が考えられ,追跡調査によって実際に確認できる。
第三に,本論文は一時点でのデータを用いて営業・販売組織の分類を行ったが,今後の研究は長期的観点に立ち,異なる時点でのデータを収集して分類を行うことが求められる。それによって,あるクラスターからは戦略的販売クラスターへの進化が容易だが,別のクラスターからの進化は難しいといった新たな発見を得られる可能性がある。
第四に,本論文では戦略的販売が貢献を期待されているという理由から,顧客関係管理行動,新製品開発への顧客関与,新製品開発の市場成果を追加変数として用いてクラスターごとの差を調査した。しかし,今後の研究では営業・販売組織の貢献が期待できるその他の追加変数を取り入れるべきである。例えば,企業の市場志向の度合いなど,間接的に企業成果に貢献することが示されてきた概念(e.g. Narver & Slater, 1990)や,直接的に企業の財務成果を取り入れることが挙げられる。それによって,営業・販売組織の特徴と得られる成果の関係をより多面的に捉えることができる。
クラスター変数 | 因子負荷量 | |
χ2 = 562.442,d.f. = 300;CFI = .930;TLI = .920;IFI = .931;RNI = .930;RMSEA = .073;SRMR = 0.046 | ||
戦略的意思決定への関与(Homburg et al., 2008に基づき作成) | ||
戦略関連タスク(e.g.事業戦略,中長期戦略の策定)について営業組織が議論の中心にあり,営業活動の現場で得た知見を反映している。 | ― | |
顧客関連タスク(e.g.顧客ポートフォリオ全体のマネジメント)について営業組織が議論の中心にあり,営業活動の現場で得た知見を反映している。 | ― | |
製品関連タスク(e.g.新製品・サービスの企画,導入)について営業組織が議論の中心にあり,営業活動の現場で得た知見を反映している。 | ― | |
機能横断的協力関係(Narver & Slater, 1990) | ||
顧客についての情報は企業全体で自由に伝達されている。 | 0.714 | |
対象顧客のニーズを満たすために,様々な機能が,統一的な様式で働いている。 | 0.857 | |
顧客価値を提供するために,それぞれの機能の従業員がどのように貢献できるかをマネージャー層は理解している。 | 0.080 | |
異なる事業部間および機能間でリソースを共有している。(例:人材,情報) | 0.843 | |
異なる機能のマネージャーが定期的に顧客を訪問している。 | 0.687 | |
顧客の支援者として働く(Piercy & Lane, 2005;Piercy, 2010に基づき作成) | ||
営業組織は,顧客に対するスムーズな製品・サービスの提供を支えるような社内の非営業部門の人々からの協力を得るために,社内において働き掛けを行なっている。 | 0.807 | |
営業組織は,社内の非営業部門の人々が顧客のことを理解できるよう,社内において顧客の主張を代弁している。 | 0.873 | |
営業組織は,社内の非営業部門の人々の優先事項と顧客の優先事項が異なる場合に,顧客の主張を代弁して社内の人々を説得している。 | 0.789 | |
顧客別組織構造(Mu, 2015) | ||
我々の組織構造は顧客セグメントに対応している。 | 0.773 | |
我々は製品や機能ではなく,顧客に基づいて会社を組織している。 | 0.819 | |
我々の組織において,マネージャーはリソース(予算,人員)を市場ターゲットに合わせて使用している。 | 0.871 | |
我々の組織構造は顧客を中心に設計されている。 | 0.811 | |
我々の事業部は収益性の異なる顧客グループに最適に対応するように設計されている。 | 0.824 | |
市場感知能力(Mu, 2015) | ||
新たに発生する市場のトレンドや出来事を継続的に注意深く調査することができる。 | 0.731 | |
変化する市場の状況に対して非常に警戒している。 | 削除 | |
営業組織の誰もが,市場における潜在的な問題や機会に耳を傾けることに敏感である。 | 0.814 | |
市場のトレンドや出来事が完全に明らかになる前に,正確に予測することができる。 | 0.838 | |
複数の情報源からの情報に基づいて,市場情報の裏付けをとることができる。 | 0.817 | |
市場における重要なやり取りに対して効果的に耳を傾け,理解し,迅速に反応することができる。 | 0.890 | |
顧客対応の速さ(Jayachandran et al., 2004) | ||
新しい顧客ニーズを特定した時,それに迅速に反応している。 | 0.798 | |
顧客の苦情は迅速に対応される。 | 0.763 | |
製品・サービスのニーズに対する適合性に関して顧客が不満を持っていると分かった時,直ちに製品・サービスの是正処置をとっている。 | 0.852 | |
市場の需要を形成するためには,後手に回るのではなく先手を打つべきだと考えている。 | 削除 | |
顧客が製品・サービスの修正を望んでいると分かった時,関係部門が協力してそれに取り組んでいる。 | 0.800 | |
顧客対応の専門知識(Jayachandran et al., 2004) | ||
新しい顧客ニーズを容易に満たすことができる。 | 0.797 | |
顧客ニーズを満たすことにおいては,競合他社よりも自社に非常に高い優位性がある。 | 0.824 | |
顧客の要求に効果的に応えることに定評がある。 | 0.863 | |
追加変数 | ||
χ2 = 758.949,d.f. = 303;CFI = .905;TLI = .890;IFI = .906;RNI = .905;RMSEA = .083;SRMR = 0.050 | ||
顧客関係開始行動-選択(Mitrega et al., 2012;Mitrega et al., 2017) | ||
どの潜在的顧客が自社にとって魅力的かを特定するための,社内の正式なシステムがある。 | 0.807 | |
見込みに基づいて潜在的顧客を評価し,絞り込んでいる。 | 0.861 | |
潜在的顧客の好ましい特徴について社内で正式なリストを作成している。 | 0.854 | |
顧客関係開始行動-魅了(Mitrega et al., 2012;Mitrega et al., 2017) | ||
過去の顧客・現在の顧客に関する成功事例を潜在的顧客に対して売り込んでいる。 | 0.829 | |
「信頼できるビジネスパートナー」として自社のイメージを体系的に構築している。 | 0.817 | |
潜在的顧客に対して自社の製品・サービスについての情報を体系的に伝えている。 | 0.852 | |
新しい顧客を引きつけるために既存の顧客からの推薦を体系的に用いている。 | 0.834 | |
顧客関係発展行動(Mitrega et al., 2012;Mitrega et al., 2017) | ||
顧客との協力の方法・態勢を,顧客に応じてカスタマイズしようとしている。(例:技術,製品,プロセス) | 0.792 | |
自社と協力関係にある顧客を囲い込もうとしている。 | 0.802 | |
自社の製品・サービスを開発する際に顧客と密に協力している。 | 0.820 | |
自社では,顧客企業の担当者が参加する社交イベントを定期的に開催している。 | 削除 | |
自社では,顧客企業の担当者との緊密で個人的な取引関係を築くことを推奨されている。 | 削除 | |
自社では,顧客企業の担当者と関係構築のためのイベントで交流することを推奨されている。(例:見本市,専門的な業界セミナー) | 削除 | |
顧客関係終結行動-準備(Mitrega et al., 2012;Mitrega et al., 2017) | ||
重要業績評価指標(KPI)や合意をしたマイルストーンが満たされていない顧客を特定するための社内の正式なシステムを確立している。 | 0.786 | |
既存の顧客との関係によって生じる利益とコストを評価するための社内の正式なシステムがある。 | 0.834 | |
業績に応じて顧客を体系的に評価している。 | 0.817 | |
顧客との関係の終結に伴う直接的および間接的なコストを分析している。(例:新しい顧客の探索,新しい投資,ペナルティ) | 0.809 | |
顧客関係終結行動-実行(Mitrega et al., 2012;Mitrega et al., 2017) | ||
望ましくない顧客との関係を解消するための社内の正式な手順を確立している。 | 0.734 | |
顧客との契約において取引関係の終結に関する条件を明示している。 | 0.789 | |
顧客との関係を解消する必要がある場合,まず関係の解消に繋がる状況と理由について,相互理解を得られるよう努めている。 | 0.786 | |
顧客とのもはや望ましくない関係を段階的に解消するための手順を確立している。 | 0.712 | |
新製品開発への顧客関与(Keszey & Biemans, 2016) | ||
製品・サービスの改善および開発活動は顧客からのフィードバックによってその大部分が影響を受けている。 | 0.734 | |
製品・サービスの改善および開発のアイデアを顧客が共有するためのインタフェースやチャネルを持っている。(例:ウェブサイト,顧客連絡窓口) | 削除 | |
製品・サービスの改善および開発プロセスに顧客が関与している。 | 0.839 | |
イノベーションの方向性を決定することに顧客が関与している。 | 0.823 | |
製品・サービスの改善および開発のアイデアを生み出す際に顧客が重要な役割を果たしている。 | 0.838 | |
改善あるいは開発された製品・サービスをテストし,評価することに顧客が関与している。 | 0.779 | |
新製品開発の市場成果(Keszey & Biemans, 2016) | ||
競合他社と比較して,製品・サービスの改善および開発プロジェクトに関して自社は先駆的である。 | 0.790 | |
競合他社と比較して,製品・サービスの改善および開発プロジェクトが成功している。 | 0.883 | |
競合他社と比較して,製品・サービスの改善および開発プロジェクトが新奇的で革新的である。 | 0.859 | |
競合他社と比較して,製品・サービスの改善および開発プロジェクトに対する市場の反応が良好である。 | 0.885 |
CFI = comparative fit index,TLI = Tucker-Lewis index,IFI = incremental fit index,RNI = relative noncentrality index,RMSEA = root mean square error of approximation;SRMR = standardized root mean square residual.