2025 Volume 28 Issue 1 Pages 49-63
製造業者が海外市場に進出する際,進出国の市場環境に適応しつつどのように企業成果を高めるかは重要な意思決定課題である。本研究は,最適独自性理論に基づき,海外市場において製造業者がチャネル戦略と製品戦略をどのように組み合わせることで企業成果を高めることができるかについて,理論的枠組みを提示しその経験的妥当性を確認することを目的とする。最適独自性理論は,制度理論に基づく正当性を獲得する企業行動と競争戦略論に基づく独自性を獲得する企業行動をオーケストレーションすることで企業成果を高めることができると主張する枠組みである。日本を母国とする生産財製造業者を対象とした実証分析の結果,進出国市場の競争強度が高い場合と規制・規範的距離または文化的距離のいずれかが遠い場合,チャネル正当性と製品革新性の双方を高めることで企業成果がより高まることが明らかになった。
When a manufacturer enters an overseas market, an important decision-making issue is how to achieve the firm’s performance while adapting to the environment of the entry market. This study aims to present a theoretical framework, grounded in the optimal distinctiveness theory, to examine how manufacturers can combine channel strategies and product strategies to enhance firm performance in foreign markets, and to validate its empirical relevance. The optimal distinctiveness theory is a framework that argues firms can improve performance by orchestrating actions that acquire legitimacy, based on institutional theory, and those that achieve distinctiveness, based on competitive strategy framework. An empirical analysis targeting Japanese industrial products manufacturers indicates that when the competitive intensity in the target market is high and either the regulatory/normative distance or cultural distance is significant, enhancing both channel strategy legitimacy and product innovativeness leads to higher performance.
近年,グローバル化に伴い,製造業者による海外市場への事業展開が行われており,輸出や海外売上比率は増加傾向にある(経済産業省,2024;税関,2022)。海外市場への進出は,企業に対して製品やサービスの市場を拡大し企業成果を向上させる機会を提供するため(He et al., 2013),企業の成長性を高める上でその重要性を高めている。
海外市場に進出する際,製造業者はどのような流通チャネルを用いるかという意思決定課題に直面する。そこで注目される課題の1つは,現地市場における法的環境や執行メカニズムへの対応(Graça et al., 2021),制度的環境における既存の社会規範や信念への適合(Chelariu et al., 2014),ローカルなビジネス習慣への適合と効率性の確保(Yang et al., 2012)といった,現地市場への適合である。これに対し既存研究は,制度理論(e.g., Scott, 1995)を用いたアプローチをとっている(e.g., Jia et al., 2020;Wang et al., 2020)。制度理論は,進出国市場における制度・制度的環境に注目し,制度により規定される正当性を獲得する企業行動が企業成果を高めると主張し,正当性を獲得する企業行動は同型化すると考える(e.g., DiMaggio & Powell, 1983)。
流通チャネルに関する意思決定と同様に,どのような製品を販売するかも重要なマーケティング上の意思決定課題の1つとして考えられる。グローバル化した市場において注目される製品戦略の1つは,革新的な新製品の展開や競争戦略の実施である(Gabrielsson et al., 2016;Story et al., 2015;Talay et al., 2019)。競合他社と差別化された独自性の高い製品の投入は,企業成果を高めると主張されている(Barney, 1991;Hughes et al., 2010;Porter, 1996)。
既存研究は,海外市場におけるチャネル戦略に関しては制度理論に,製品戦略に関しては独自性の高い差別化された戦略にそれぞれ注目し,どのような戦略が企業成果を高めるかについて検討してきた。その一方で,正当性を獲得しているか,差別化されているかという組織の戦略的側面が,現地流通業者や顧客といった異なるステークホルダーにより多面的に評価され(Zhao et al., 2017;Zhao, 2022)企業成果を規定することや,マーケティング・ミックスにおける要素間の整合性や統合的な管理の重要性(Kotler & Keller, 2006)が指摘されていることを踏まえると,チャネル戦略と製品戦略の組み合わせによる企業成果への影響を検討することは重要であると考えられる。特に,海外市場においては,正当性と独自性の達成に対する圧力への対応は企業が直面する課題であるため(Zhao, 2022),それらを達成する戦略の組み合わせが企業成果に与える影響を検討することの重要性は高いと言える。しかし,既存研究は2つの戦略の組み合わせによる企業成果への影響を検討しておらず,その課題に対する理論的枠組みは提示されていない。
それに加え,上記の課題を検討するためには,企業成果を高める上で同型的な企業行動を仮定する制度理論と,独自性に重点を置く競争戦略論を中心としたアプローチをそれぞれ個別に用いることは不十分であると言えよう。2つの理論を総合的に踏まえた上で,どのような環境下で組み合わせの効果が表れるかについて,新たな理論的枠組みを用いた説明が必要であると考えられる。本研究はこの新たな理論的枠組みとして,制度理論と競争戦略論の融合を図り,状況によっては正当性と独自性の双方を高いレベルで達成することが必要であると主張する最適独自性理論(e.g., Zhao et al., 2017)に着目する。
そこで本研究は,海外市場において製造業者がどのようにチャネル戦略と製品戦略を展開することで企業成果を高めることができるかという問いに対し,最適独自性理論に基づいた理論的枠組みを提示し,その経験的妥当性を確認することを目的とする。
本研究の構成は次のとおりである。第2節では,既存研究で注目されてきた理論的枠組みとそれを用いた研究についてレビューを行い,これまでの主要な知見を明らかにする。第3節では,本研究が依拠する理論的枠組みについて説明を行い,仮説を提示する。第4節では実証分析を行い,第5節で本研究の貢献・示唆と今後の課題を提示する。
海外市場におけるチャネル戦略と企業成果の関係を検討する既存研究では,母国と異なる環境下で非効率な状況に陥りやすいチャネル運営に対し,どのような戦略を用いてその問題を解決し企業成果を高めるかという課題に焦点が当てられてきた(e.g., Jia et al., 2020;Yang et al., 2012)。母国との環境の違いやそれに伴い生じる問題を検討するにあたり,注目されてきた理論は制度理論(e.g., Scott, 1995)である(Yang & Su, 2014)。
制度理論の特徴は2つの側面から捉えられる。1つは,企業があるフィールド1)において,正当性を獲得する行動をとれば,企業成果を高めることができると主張する点である。ここで正当性は,「規範,価値,信念,定義の社会的に構築されたシステムの中で,全体(チャネル・メンバー)の行動が望ましく,妥当で,適切であるという一般化された知覚や仮定」(Grewal & Dharwadkar, 2002, p. 84;Suchman, 1995, p. 574)として定義される。
制度理論に基づくと,あるフィールドにおける正当性を規定する環境は制度的支柱として捉えられ,これは規制的,規範的,文化-認知的という3つの次元から構成される(e.g., Scott, 2014)。規制的制度は,国家の法律や規制に関連し,組織の行動可否を規定する(Yang et al., 2012)。規範的制度は,信念や規範からなり,社会的に望ましい目標を達成するための行動を規定する(Yang et al., 2012)。文化-認知的制度は,特定のフィールドにおいて共有された知識や当然と考えられるビジネス慣行であり,人々が通常とるであろう行動を規定する(Yang et al., 2012)。これは,外部の文化的な枠組みにより規定される(Zhao, 2022)。
制度理論のもう1つの特徴は,正当性を獲得する企業行動が,あるフィールドにおいて同型的なものになるとみなすことである(DiMaggio & Powell, 1983)。同型化は,同じ環境条件に直面する企業が他の企業と似た行動をとるようになるプロセスを意味している(DiMaggio & Powell, 1983)。以上を踏まえると制度理論は,あるフィールドにおいて3つの制度により規定される,他の企業と同型的な正当性を獲得する行動を企業がとることにより企業成果が高まると主張する枠組みとして整理される。
制度理論を用いたチャネル戦略研究のうち,代表的な実証研究は図表1に整理されている。これらの実証研究は大きく2つの潮流に整理できる。1つは,進出国市場において,制度により影響を受けた正当性を獲得する同型的なチャネル戦略と企業成果を検討するものである。その主要な知見は,母国と進出国の制度的距離2)が遠くなることで正当性の問題が顕在化し,その問題に対応するチャネル戦略が企業成果と正の関係にあることである(e.g., Yang et al., 2012)。もう1つは,あるチャネル戦略と企業成果の関係に対する制度の調整的な役割を検討したものである。その主要な知見は,正の関係にあるチャネル戦略と企業成果の関係が制度的環境に対応することにより正に調整されること(e.g., Barry & Graça, 2019;Barry et al., 2021),制度的距離に応じて適合的なチャネル戦略と企業成果の関係が変化することである(e.g., He et al., 2013;Ju et al., 2014)。
| 研究群 | 著者 | 理論の中心的変数 | 従属変数 | その他の変数 | 主要な知見 |
|---|---|---|---|---|---|
| 制度理論を 用いた チャネル戦略 研究 潮流① |
Jia et al.(2020) | 文化的距離a 規制の不確実性b |
機会主義 | 契約の適用 契約デザイン |
文化的距離は,契約の適用を阻害することで機会主義を助長する一方,詳細な契約デザインを強化することで機会主義を抑制する |
| Wang et al.(2020) | 公式・非公式の制度的距離a | 交換成果 | 打算的・関係的信頼の非対称性 過去の相互作用 継続性への期待 |
制度的距離が交換成果に与える影響は,制度のタイプや信頼の種類により異なる | |
| Yang et al.(2012) | 3種類(規制,規範,文化-認知)の制度的距離a | チャネル成果 | 正当性圧力 市場曖昧性 2種類のガバナンス戦略(契約のカスタマイゼーション,関係的ガバナンス) |
3種類の制度的距離は正当性圧力と市場曖昧性を介して2種類のガバナンス戦略に影響を与え,そのうち関係的ガバナンスはチャネル成果と正の関係にある | |
| 制度理論を 用いた チャネル戦略 研究 潮流② |
Barry and Graça(2019) | 制度的環境(ルール,関係,家族に基づくガバナンス環境)の相違b | 関係性の質 | 関係性の質の先行要因(コミュニケーションの質,相互作用の頻度,コンフリクトの解決,関係性の便益) | 関係性の質に対するその先行要因の影響の大きさは,制度的環境の相違に依存する |
| Barry et al.(2021) | 買手国における制度的環境b | 交換成果 | 交換成果の直接的・間接的な先行要因(公式・非公式のコミュニケーション,情報共有,連帯性,慈悲的信頼) | 交換成果に対するその先行要因の影響関係は,買手国における制度的環境に応じて異なる | |
| He et al.(2013) | 制度的距離b | 輸出成果 | 市場志向能力 輸出チャネル形態 |
制度的距離と市場志向能力に応じた輸出チャネル形態の選択は輸出成果と正の関係にある | |
| Ju et al.(2014) | 制度的距離b | 輸出成果 | 関係的ガバナンス 産業の不確実性 |
関係的ガバナンスが輸出成果に与える正の影響は,制度的距離により増幅される | |
| 競争戦略論・ 製品革新性に 注目した 製品戦略研究 |
Martin et al.(2020) | 競争戦略(マーケティング差別化,デリバリー差別化,コスト・リーダーシップ)a | 輸出ベンチャー成果 | マーケティング能力 マーケティング・コミュニケーション 技術の不安定性 |
マーケティング能力はマーケティング・コミュニケーションおよび/または競争戦略を通じて輸出ベンチャー成果を高める |
| Morgan et al.(2004) | 競争戦略(マーケティング差別化,サービス差別化,コスト・リーダーシップ)a | 輸出ベンチャー成果 | 利用可能資源 利用可能能力 ポジション優位性 競争強度 |
利用可能資源と能力は競争戦略を促進し,競争戦略は競争強度が低い場合にポジション優位性を高め,輸出ベンチャー成果を向上させる | |
| Talay et al.(2019) | 製品革新性a | 異常株式 リターン |
製品のタイプ 国の文化的側面 |
製品革新性は異常株式リターンを高める | |
| Walheiser et al.(2021) | 製品革新性a | 知覚された新製品成果 | 組織構造 | 製品革新性は知覚された新製品成果を高める |
注)理論の中心的な変数について,aは独立変数として,bは調整変数として考慮されていることを示す。
海外市場においてどのような製品戦略が企業成果を高めるか検討する際,差別化された独自性の高い戦略は注目される視点の1つとして指摘できる(Boso et al., 2016;Story et al., 2015)。例えば,企業が競争優位性を獲得するための理論的枠組みを提供する競争戦略論は,価値があり,希少で,模倣困難性の高い,代替不能な資源を確立すること(Barney, 1991)や,競合他社と異なることないしは競合他社と同じ活動をより優れた方法で行うこと(e.g., Porter, 2008)で,企業は競争優位性を獲得し企業成果を高められると主張する(e.g., Martin et al., 2020)。特に,Porter(1980)の競争戦略論においては,競合他社と比較してコスト面における優位性を確立することを目指すコスト・リーダーシップ戦略と,競合他社とは異なる独自の価値を提供することを目指す差別化戦略という2つの戦略が考えられている。競争戦略論においては,制度理論とは異なり,競合他社と異なる独自性の高い戦略を実施することが企業成果を高めると考えられている。
海外市場への進出において差別化戦略として独自性を高める企業行動のうち,注目されている製品戦略の1つは,製品革新性を高めることである(e.g., Su et al., 2024)。ここで製品革新性は,「市場にタイムリーに導入される新製品の革新性と意義」として定義される(Wang & Ahmed, 2004, p. 304)。革新的な新製品の投入は,企業の全体的成果や競争力を向上させる重要な戦略的取り組みであると考えられている(Lee et al., 2011;Talay et al., 2019;Walheiser et al., 2021)。
独自性を高める差別化戦略,コスト・リーダーシップ戦略を含む競争戦略,製品革新性と企業成果の関係を検討している実証研究の代表的なものは,図表1の下部にまとめられている。これらの研究は,競争戦略,製品革新性と企業成果の間に正の関係を確認している(e.g., Martin et al., 2020;Walheiser et al., 2021)。
2.3 既存研究に残された課題既存研究から確認されている知見のとおり,海外市場におけるチャネル戦略と製品戦略は,それぞれ制度理論における正当性の視点と独自性を高める戦略という異なる理論的枠組みに基づいて検討が行われてきた。
制度理論を用いたチャネル戦略研究においては,制度により影響を受け,それに対応し正当性を獲得するチャネル戦略と企業成果の間に正の関係を確認している。その中で,市場志向能力などの企業能力と企業成果の関係における制度的環境の調整的な役割を制度理論に基づいて検討している研究はあるものの(He et al., 2013),独自性を高める戦略という側面から製品戦略を含めてチャネル戦略,企業成果との関係を検討している研究は見当たらない。
また,独自性を高めるという視点から製品戦略を捉え,企業成果との関係を検討している研究においては,製品戦略と企業成果の間に正の関係があることが明らかになっている。その中で,国の間の文化的違いなど,制度的環境に注目した研究(e.g., Story et al., 2015;Talay et al., 2019)はあるものの,そこでは制度理論に基づいた正当性に関する議論は行われていない。また,チャネル・ネットワークの構築能力といったチャネル戦略と製品戦略の関係について検討している研究はあるものの(Boso et al., 2013),正当性を獲得するという側面からチャネル戦略を考慮し,企業成果との関係を検討している研究は見当たらない。
以上をまとめると,正当性を獲得するチャネル戦略と独自性を高める製品戦略,それらが組み合わされた場合に企業成果にどのような影響を与えるかについては明らかになっていないと言えよう。企業成果は組織が正当性を獲得しているか,差別化されているかという戦略的側面が複数のステークホルダーから多面的に評価され規定される場合がある(Zhao et al., 2017)。特に,海外市場において企業は正当性と独自性の獲得に対する2つの圧力が空間的に変化する複雑な環境に直面していると考えられる(Zhao, 2022)。このような環境下では,異なるステークホルダーからの要求に同時的に対応することが求められるため(Zhao, 2022),組織の成果を規定する戦略の多面性を考慮することがより重要となる。
このような問題状況は図表2のように整理される。例えば,競争強度の高い市場において,企業は独自性の高い革新的な製品を扱うことにより企業成果の向上を図るかもしれない。一方で,製品を効果的に顧客に販売するためには製品革新性を高めるのみならず,現地流通業者から承認される必要性が生じる可能性が高い。また,制度的距離の遠い市場において,企業は現地市場から正当性を獲得するために,社会通念的に受け入れられている同型的なチャネルを利用し現地流通業者からの承認を得ようとするであろう。しかし,そこでどのように顧客ニーズを満たすべく製品を販売するかについては,競合他社と同型的なチャネルを利用するという対応では不十分である可能性が高く,革新的な製品を投入することが求められるかもしれない。従って,正当性と独自性の獲得という2つの圧力に対し,どのように企業がチャネル戦略と製品戦略を実行し高い成果を上げられるかという課題について,戦略的な枠組みを提示することは,海外市場において事業を展開する企業にとって一定の実務的意義を持つと考えられる。
上記の課題に加え,正当性を獲得する戦略と独自性を達成する戦略が企業成果に与える影響を検討するには,それらがどのように組み合わさることで高い企業成果を得ることができるかについて,新たな理論的枠組みに基づく説明が必要であろう。特に,制度理論に基づく正当性を獲得する同型的な企業戦略と,競争戦略論や製品革新性において注目される独自性の高い企業戦略が,どのようなメカニズムで組み合わさり企業成果を規定するか,その関係性がどのような状況で見られるかについて,制度理論または競争戦略論のみの理論的枠組みに基づいた説明では不十分であると考えられる。そこで,本研究では以下,最適独自性理論(e.g., Zhao et al., 2017)に基づき,正当性・独自性を高める戦略と企業成果の関係について検討する。
最適独自性理論は,企業成果を向上させることに対する2つの異なる理論的主張(e.g., Barney, 1991;DiMaggio & Powell, 1983;Porter, 1996)を踏まえて,新たな理論的枠組みを提示することを目指すものである(Zhao et al., 2017)。その主張の1つは制度理論,もう1つは競争戦略論である。最適独自性理論は,正当性・企業行動の同型性に重きを置く制度理論と企業行動の独自性・差別化を重要視する競争戦略論を総合的に捉え,「差別化と適合性(正当性)という競争的な要求を調整する企業の戦略的ポジショニングについてのステークホルダーのポジティブな認知」(Zhao et al., 2017, p. 93)という最適独自性の達成が企業成果を高めるという枠組みである。これは,正当性の獲得,独自性の達成のどちらかに注力することでなく,状況に応じてはそのどちらをも考慮した企業の戦略的対応が重要であるということを示唆する。
正当性と独自性の達成をどのように実行するべきかという類似の関心に注目した理論的枠組みとして,戦略的均衡(Deephouse, 1999)が挙げられる。これは,企業の性格が単一の戦略的側面により評価されると仮定し,ある戦略について中程度の差別化が企業成果を高めると主張する。他方で,最適独自性理論は,企業が多面的な戦略的側面により評価されると仮定し,正当性を獲得する企業行動と独自性を達成する企業行動が同時的に実現可能であり,それらを統合的に管理することに主眼を置く(Zhao et al., 2017)。特に,戦略的均衡と最適独自性理論の2つの主張の違いは,制度的圧力,競争圧力が複雑に変化するような環境を想定しているか否かに影響されている(Zhao et al., 2017)。制度的圧力,競争圧力があまり大きく変化せず,市場が相対的に静的であれば,単一の戦略に注目し,2つの圧力に対応すべく中程度の差別化が成果を高められるという主張で十分であろう。しかし,海外市場のように母国と異なる環境においては,社会的適合を求める制度的圧力(Yang et al., 2012)やグローバル化により変化の激しい競争環境(Story et al., 2015)における競争圧力のそれぞれの状況に応じた企業の対応が求められる。そこでは,単一の戦略にのみ注目する戦略的均衡の枠組みではなく,最適独自性理論に基づき,正当性を獲得する戦略と独自性を達成する戦略の関係性を検討することが妥当であろう。
3.2 最適独自性の達成メカニズム企業がどのように最適独自性を達成できるのかについて,Zhao et al.(2017)は,戦略の多様な側面をオーケストレーションすることを提示している。オーケストレーションとは,戦略要素間の補完関係の特定,不足要素の購入または構築,およびその後の調整(Teece, 2012)であり,それは統合的オーケストレーションと補償的オーケストレーションの2種類のメカニズムに区別される。統合的オーケストレーションとは,システムレベルの編成メカニズムである。その内容は2つのパターンに区別される。1つは,社会的,慣習的に認知されている正当な個別の企業行動を補完的に組み合わせることで,企業システム全体としてユニークなものとし最適独自性を達成し企業成果を高めるというものである(Zhao et al., 2017)。もう1つは,個別の戦略的意思決定は独自性が高く,それらが産業の規範や慣習から逸脱するとき,他の適合的な戦略的要素と統合された場合に,企業システム全体として正当性を獲得し,最適独自性を達成することで企業成果を高めるというものである(Zhao et al., 2017)。従って,統合的オーケストレーションにおいては,最適独自性の達成のために個別戦略要素の組み合わせよりも戦略全体の結合性が重要視される(Zhao et al., 2017)と言える。
一方で補償的オーケストレーションとは,個別戦略レベルの編成メカニズムを表している。その主張は,企業は多様な戦略の側面で評価されるため,ある側面の逸脱が他の側面の正当性の獲得により補償され,最適独自性を達成し企業成果を高める,または,正当性を獲得する戦略が他の企業と相対的に差別化されていないとき,差別化を達成する戦略を同時に行うことで最適独自性を達成し企業成果を高めるというものである(Bowen et al., 1989;Zhao et al., 2017)。ここでは,統合的オーケストレーションとは異なり,企業全体の戦略編成ではなく正当性と独自性を達成する個別戦略の組み合わせが重要視される。
最適独自性がどちらのメカニズムにより達成されるかについて,Su et al.(2024)では,競争圧力と制度的圧力の状態に応じた戦略的対応が提示されている。具体的には,競争圧力と制度的圧力の高低により同型化戦略,均衡戦略,体系的逸脱戦略の3つの戦略が示されている。
競争圧力,制度的圧力が低い場合は,同型化戦略がとられる。ここでは,競合企業と同型的な行動でも,市場規模の拡大による事業成長や,業界の一般的な慣行に従うことで規制機関や顧客からの認識不足を軽減し,ステークホルダーからの支援を受けることが可能となるため,十分な企業成果を上げることができるとされる(Su et al., 2024)。
競争圧力または制度的圧力が高い場合は均衡戦略が重要となる。競争圧力の高まりは,例えば製品の同質化や価格競争に伴い生じると考えられる(Su et al., 2024)。また,制度的圧力は,規制当局による製品の安全基準の厳格化や消費者の評価基準の変化(Su et al., 2024),国ごとの文化的制度の違い(Zhao, 2022)によって高まるとされる。これは,3つの制度的支柱の個別レベルの変化により,制度的圧力が生じるものと捉えることができよう。いずれかの圧力が高いときは,独自性を達成する戦略と正当性を獲得する戦略を,a)異なるステークホルダーに対して同時的に実行,b)時系列に使い分けて実行することで最適独自性を達成し企業成果を高めることができるとされる(Su et al., 2024)。言い換えると,市場における競争圧力,制度的圧力のどちらかが高い場合には,競争圧力に対応する独自性を達成する戦略,制度的圧力に対応する正当性を獲得する戦略のどちらかを単独で実行するのみならず,独自性,正当性を両方とも獲得するように個別戦略を実行することが重要であることを示唆している。均衡戦略は,個別戦略をオーケストレーションし実行することに焦点を置いているため,Zhao et al.(2017)における補償的オーケストレーションと対応関係にあると整理することができる。
競争圧力と制度的圧力がどちらも高い場合は,体系的逸脱戦略が求められる。これは,リポジショニングやサプライチェーンの再構築を通じて新しいカテゴリーを創出し,新たな正当性基準の確立を実現する戦略である(Su et al., 2024)。ここでは,個別戦略の編成ではなくシステムレベルの企業戦略の編成が想定されるため,統合的オーケストレーション(Zhao et al., 2017)と対応しているといえよう。
本研究は,競争圧力または制度的圧力が高い場合に最適独自性を達成する均衡戦略である,補償的オーケストレーションが有効であるという考えに基づき仮説を提示する。海外市場への進出において,母国と異なる制度的環境やグローバル化による競争環境への対応が求められること(Story et al., 2015;Yang et al., 2012)を踏まえ,本研究は競争圧力と制度的圧力のどちらも低い状況ではなく,いずれかが高い場合の戦略的対応に注目する。また,チャネル戦略と製品戦略は企業の個別戦略レベルの議論であるため,2つの圧力が両方とも高い場合に求められるシステムレベルの戦略編成については,今回は議論の対象外とする。また,本研究は後に単一時点におけるサーベイ・データを中心とした実証分析を行う。従って,均衡戦略の中でも,正当性と独自性を獲得する戦略に関して,時系列ではなく異なるステークホルダーに対して使い分ける状況を想定する。
3.3 仮説の提示本研究は進出国市場の競争強度と,母国との制度的環境の差の状態に注目し仮説を提示する。競争強度が高まるほど,企業に対する競争圧力は高まると考えられる。また,制度的環境が異なるほど,言い換えると,母国と進出国の制度的距離が遠くなるほど(Kostova, 1999),正当性への圧力が高まると捉えられる。本研究では既存研究の操作化に依拠し,制度的距離を,規制・規範的制度の距離(Wang et al., 2023)と文化的距離(Ishii, 2022;Talay et al., 2019)の2つの側面から捉える。また,既存研究において中心的に検討されている概念として,チャネル戦略においては正当性(以下,チャネル正当性)に,製品戦略については差別化戦略の1つである製品革新性に注目する。企業成果としては,企業の販売成果を扱う。これは,調査票への回答において想定される製品の流通チャネルについての市場開拓や売上,販売の効率性の向上などを含むため,製品戦略とチャネル戦略の影響を捉えることが可能な指標であると考える。
3.3.1 競争強度が高い場合進出国市場における競争強度が高い場合,製造業者は差別化された戦略により競争優位性を獲得し成果を高めるために,顧客に新しい価値を提供し市場を先導するような革新的な製品を扱うと考えられる。最適独自性理論に従うと,企業成果を向上させるには,革新的な製品を扱い独自性を達成することにとどまらず,ある戦略の側面で正当性を獲得し,独自性の高い戦略による逸脱を補償することが重要である。製造業者は,製品の流通に関して,社会通念的に受け入れられている流通チャネルを利用し正当性を獲得することで,現地流通業者から進出国市場において製品を販売することが認められ,流通業者の協力を得つつより効率的・効果的な流通が可能になるであろう。以上をまとめると,製造業者は競争強度が高い場合,製品革新性における独自性をチャネル正当性により補償することで最適独自性を達成し,企業成果をより高めることができるであろう。以上より,仮説1を提示する。
H1a:競争強度が高い場合,製品革新性は企業の販売成果に正の影響を与える。
H1b:競争強度が高い場合,チャネル正当性は製品革新性が企業の販売成果に与える影響を正に調整する。
3.3.2 規制・規範的距離または文化的距離が遠い場合本研究は上記のとおり,制度的距離を規制・規範的距離と文化的距離の2つの軸から検討する。本研究が特に注目するのは,規制・規範的距離か文化的距離のいずれかが遠い状況における最適独自性の達成である。
進出国市場における規制・規範的制度または文化的制度が母国と異なる場合,製造業者は制度的圧力に直面するため,正当性からの逸脱によるペナルティを避け企業成果を高めるべく,現地市場において正当であると判断されているチャネルを使用し,正当性を獲得する。最適独自性理論に従うと,企業成果を向上させるには,正当性を獲得する戦略に加え,ある戦略の側面では独自性を達成することが求められる。ここで製造業者は顧客に新しい価値を提供する革新的な製品を投入することで,顧客に選好される製品販売が可能になるであろう。以上をまとめると,製造業者は進出国市場における規制・規範的制度または文化的制度が母国と異なる場合,チャネル戦略における正当性を獲得しつつそれを補う形で革新的な製品を販売することで最適独自性を達成し,より高い企業成果を得ることができるであろう。
一方で,2つの制度的距離が両方とも遠い場合には,次の理由から製品革新性を高める戦略が企業成果と結びつきにくい状況であると言えよう。先進国の1つである日本から見て制度が大きく異なる場合,言い換えると制度的距離の全てが母国と大きく離れるような市場(本研究のサンプルにおけるインドやタイ,メキシコ,ベトナムといった新興国市場)では,新製品が成果を高めるには,知的財産権の侵害の問題が障壁となること(Liu & Atuahene-Gima, 2018)や,企業が政府機関などから資本援助を受ける必要性が指摘されている(Story et al., 2015)。また,政府規制や税制の枠組みの外に存在する非公式企業との競争,模倣の脅威により新製品から生み出される収益が減少するため,新製品の市場への投入自体がためらわれる傾向にある(Wang & Wang, 2024)。それに加え,文化的距離が大きく離れる場合,現地流通業者は製造業者を信頼することに慎重になり,新製品の取り扱いについて強い抵抗感を示す可能性が高い(Armstrong & Yee, 2001;Ishii, 2022)。以上を踏まえると,制度的環境が母国と大きく異なる環境における市場は,仮にチャネル正当性を獲得していても,革新的な製品の投入が有効に成果に結びつきにくい状態であると考えられる。ここから,仮説2を提示する。
H2a:規制・規範的距離または文化的距離のいずれかが遠い場合,チャネル正当性は企業の販売成果に正の影響を与える。
H2b:規制・規範的距離または文化的距離のいずれかが遠い場合,製品革新性はチャネル正当性が企業の販売成果に与える影響を正に調整する。
仮説の経験的妥当性を確認するため,海外市場に事業を展開する日本の生産財製造業者に対し,郵送により調査票への回答を依頼した。回答者は進出国市場におけるチャネル戦略・製品戦略に精通する担当者を想定した。複数の国のチャネル戦略を担当する場合,担当者が最も精通する国を1つ想定してもらい,担当者の所属する事業部が扱う製品を提示してもらった上で回答を依頼した。1,000の事業部を対象に調査票を送付した結果,123票の返送があり,回答率は12.3%であった。このうち,欠損値を含む8サンプルを除き,115が最終サンプルとして分析対象となった。よって,有効回答率は11.5%であった。回答者について,チャネル戦略に関する知識,チャネル戦略への関与を10点リッカート尺度により測定し,それぞれ適切な水準を満たしていることを確認した。具体的に,前者の知識の平均値は8.11(標準偏差は1.91),後者の関与の平均値は8.52(標準偏差は1.94)であった。
4.2 測定尺度本研究の測定尺度は,図表3のとおりである。独立変数であるチャネル正当性はYang et al.(2012)を参考にし,今回の文脈に沿うように一部修正した質問項目を使用した。また,製品革新性はAkgün et al.(2012)を参考にした。これら2つの質問項目に回答してもらう際,重要なステークホルダーを取り上げることを依頼した。これは,最適独自性理論がステークホルダーからの知覚に注目していることを踏まえ,間接的にではあるが現地流通業者や顧客といったステークホルダーから見た自社の戦略の評価を測定するためである。
| 構成概念 | 測定尺度 |
|---|---|
| チャネル正当性(Yang et al., 2012 をもとに作成) (α = 0.978,CR = 0.978,AVE = 0.937) |
貴事業部が当該進出国において海外チャネルを展開するにあたり,重要なステークホルダーを想定した上で, 1.貴事業部が利用する海外チャネルの形態は,重要なステークホルダーから見て望ましい。 2.貴事業部が利用する海外チャネルの形態は,重要なステークホルダーから見て適切である。 3.貴事業部が利用する海外チャネルの形態は,重要なステークホルダーから見て妥当である。 |
| 製品革新性(Akgün et al., 2012) (α = 0.886,CR = 0.888,AVE = 0.852) |
1.新製品やサービスの導入において,貴事業部はしばしば市場を先駆けている。 2.貴事業部の新製品やサービスは,顧客からしばしば斬新なものとして認識される。 3.競合他社と比較して,貴事業部は過去5年間でより革新的な製品やサービスを導入した。 |
| 競争強度(Fürst et al., 2017) (α = 0.724,CR = 0.736,AVE = 0.483) |
1.貴事業部の市場における競争は非常に激しい。 2.貴事業部の市場では,新たな競合他社の動きを耳にすることが多い。 3.貴事業部の市場では,競合他社は新たな市場活動に対して非常に素早く反応する。 |
| 企業の販売成果(Fürst et al., 2017) (α = 0.869,CR = 0.864,AVE = 0.529) |
主要競合他社と比較して,貴事業部の海外チャネル戦略は 1.新しい顧客や市場を開拓する。 2.売上高を増加させる。 3.市場シェアを拡大する。 4.販売の効率性を向上させる。 5.販売収益率を向上させる。 6.相対的な販売の間接費を削減させる。 |
| 市場成長性(Fürst et al., 2017) (α = 0.904,CR = 0.908,AVE = 0.767) |
1.貴事業部の市場は高い成長性を見せている。 2.貴事業部の市場は,販売量の大幅な増加を示している。 3.貴事業部の市場には,売上高の成長に大きな可能性が残されている。 |
| 規制・規範的距離(Wang et al., 2023) | Global Competitiveness Reportで報告されているデータを使用。 ここで, 11の次元は,property rights, Intellectual property right protection, judicial independence, burden of government regulation, efficiency of legal framework, effectiveness of law-making bodies, ethical behavior of firms, strength of auditing and reporting standards, efficacy of corporate boards, protection of minority shareholders’ interests, strength of investor protectionから構成される。 |
| 文化的距離(Ishii, 2022) | ホフステッド指数を使用。 ここで 6つの次元はpower distance, collectivism, uncertainty avoidance, masculinity, long-term orientation, indulgenceから構成される。 |
注)表中の変数のうち,規制・規範的距離と文化的距離を除く変数は全て7点リッカート尺度により測定を行った。
サンプルを分類する変数として,競争強度はFürst et al.(2017)を参考に測定した上で,Kaleka and Morgan(2019)に従い,その中央値(5.17)に基づき競争強度の高いグループと低いグループの2つに分割した。制度的距離を測定する規制・規範的距離と文化的距離はそれぞれWang et al.(2023)とIshii(2022)を参考に,2次データを利用して測定した。収集されたデータを用い,図表4に示される中央値に基づく2つの制度的距離の遠近によりサンプルを分類した。それぞれの国の制度的距離は図表5のとおりである。競争強度と2つの制度的距離の相関係数は低い値を示しているため(それぞれ−0.06,−0.14),競争強度の高いグループに制度的距離が遠いサンプルが集中している状態ではなく,競争強度と制度的距離がサンプルを分類する変数として機能していると考える。
| 文化的距離(中央値=27.52) | |||
|---|---|---|---|
| 遠 | 近 | ||
| 規制・規範的距離 (中央値=1.85) |
遠 | インド,タイ,メキシコ,ベトナム(n = 20) | 中国,韓国(n = 37) |
| 近 | オーストラリア,アメリカ,シンガポール,インドネシア,マレーシア(n = 38) | ドイツ,台湾(n = 19) | |
注)制度的距離の遠近は,サンプル内の中央値を基準として判断された。規制・規範的距離について,エジプトのデータは収集不可であったため,全サンプルから1だけサンプルサイズが減少している。後の分析のモデル7とモデル8では,色塗りされているグループを規制・規範的距離または文化的距離のいずれかが遠い国々として対象としている。
コントロール変数としては企業規模,企業年齢,市場成長性(Fürst et al., 2017)を考慮した。企業規模は従業員数の対数値,企業年齢は設立からの経過年数の対数値によって測定した。
4.2.1 コモン・メソッド・バイアスとノン・レスポンス・バイアス本研究は制度的距離の変数を除き,単一の調査票から収集されたデータを使用するため,コモン・メソッド・バイアスが懸念される。そこでハーマンの単一因子検定と単一因子確認的因子分析,MV法を用いてその問題の検討を行った。ハーマンの単一因子検定では,固有値が1以上の因子が5つ抽出され,第一因子が全体の分散の過半数を説明しないことを確認した(Podsakoff et al., 2003)。単一因子確認的因子分析においては,モデル適合度が基準値を満たさないことを確認した
また,回答を行った企業と行わなかった企業の間に系統的なデータの偏りが生じている可能性がある。そのため,回答の早い企業(3週間以内,n = 38)と遅い企業(n = 71)の主要構成概念について,平均値の差をt検定により比較した。その結果,全ての平均値に差がないことを確認した。加えて,回答を行った企業と非回答企業の間における客観的指標についても,平均値の差をt検定により比較した(Hulland et al., 2018)。その結果,従業員数,企業年齢,資本金,売上高の4つの指標の平均値に差は見られなかった。以上より,ノン・レスポンス・バイアスも重大な問題ではないと判断した(Armstrong & Overton, 1977)。
4.2.2 測定尺度の信頼性と妥当性各構成概念について,クロンバックのαと合成信頼性を算出した。図表3に報告されるとおり,全てが許容値の0.7を超えていることを確認した。また,確認的因子分析を行い,全ての項目がそれぞれの構成概念と有意な因子負荷量を示していることを確認した。標準化負荷量の推定値は,4つの項目を除き全て0.7を超えており,残りの項目は全て0.65を超えていた。モデル適合度については,基準値を概ね満たしていることを確認した
仮説の経験的妥当性を確認するため,重回帰分析を行った。本研究で用いる変数の記述統計量と相関行列は図表6のとおりである。なお,誤差項の不均一分散の問題が生じているかをブルーシュ=ペーガン検定とホワイト検定を行い確認した。全てのモデルにおいてどちらの検定とも非有意であったため,通常の標準誤差を用いた。また,各モデルにおけるVIF最大値は基準値(4~10)を下回るため(VIF ≤ 1.51),重回帰分析における多重共線性は重大な問題ではないと判断した。
| 平均 | 標準 偏差 |
(1) | (2) | (3) | (4) | (5) | (6) | (7) | (8) | (9) | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| (1)チャネル正当性 | 5.11 | 1.29 | .97 | ||||||||
| (2)製品革新性 | 4.38 | 1.30 | .31 | .85 | |||||||
| (3)企業規模(対数) | 7.21 | 1.30 | .21 | .18 | ― | ||||||
| (4)企業年齢(対数) | 4.26 | 0.47 | .12 | .12 | .22 | ― | |||||
| (5)市場成長性 | 4.91 | 1.23 | .30 | .35 | .16 | .21 | .88 | ||||
| (6)競争強度 | 5.06 | 1.17 | −.01 | .06 | .12 | −.10 | .28 | .69 | |||
| (7)規制・規範的距離 | 1.56 | 1.21 | −.03 | −.05 | −.09 | −.17 | −.02 | −.06 | ― | ||
| (8)文化的距離 | 30.18 | 7.51 | −.08 | .00 | −.01 | .08 | −.16 | −.14 | −.13 | ― | |
| (9)企業の販売成果 | 4.56 | 1.02 | .32 | .35 | .19 | .06 | .36 | .28 | −.16 | −.07 | .73 |
注)対角の数値は各構成概念のAVEの平方根を示す。
本研究の推定モデルは次のとおりである。
ここで,
重回帰分析の結果は,図表7に示されている。モデル1,モデル2の結果は,全てのサンプルを用いた分析結果である。モデル3,モデル4は競争強度が中央値より高いサンプルを用いた結果である。モデル3において,製品革新性は企業の販売成果に正の影響を与えることが確認された
| 従属変数:企業の販売成果 | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 全サンプル モデル1 |
全サンプル モデル2 |
競争強度高 モデル3 |
競争強度高 モデル4 |
競争強度低 モデル5 |
競争強度低 モデル6 |
制度的距離遠 モデル7 |
制度的距離遠 モデル8 |
|
| チャネル正当性 | .16(1.74)* | .18(1.98)** | .19(1.36) | .19(1.50) | .11(0.83) | .09(0.65) | .19(1.59) | .23(2.10)** |
| 製品革新性 | .22(2.41)** | .19(2.06)** | .35(2.59)** | .22(1.70)* | .10(0.82) | .11(0.83) | .29(2.65)** | .23(2.02)** |
| チャネル正当性 ×製品革新性 |
.13(1.47) | .40(3.19)*** | −.04(−0.34) | .23(2.13)** | ||||
| 企業規模(対数) | .09(1.12) | .08(0.90) | .02(0.11) | .04(0.34) | .15(1.34) | .16(1.31) | .04(0.48) | −.00(−0.02) |
| 企業年齢(対数) | −.05(−0.73) | −.04(−0.51) | .02(0.12) | .10(0.80) | −.11(−0.90) | −.11(−0.87) | −.11(−1.02) | −.10(−0.91) |
| 市場成長性 | .25(2.71)** | .27(2.88)*** | −.01(−0.12) | −.01(−0.06) | .44(3.31)*** | .43(3.21)*** | .25(2.19)** | .32(2.76)*** |
| F | 6.58*** | 5.90*** | 2.33* | 4.00*** | 4.77*** | 3.93*** | 5.37*** | 5.46*** |
| Adjusted R2 | .20 | .21 | .11 | .25 | .24 | .22 | .23 | .27 |
| AIC | 310.63 | 310.35 | 146.09 | 137.54 | 168.70 | 170.57 | 194.38 | 191.52 |
| VIF最大値 | 1.20 | 1.23 | 1.12 | 1.23 | 1.35 | 1.51 | 1.23 | 1.28 |
| n | 115 | 115 | 55 | 55 | 60 | 60 | 75 | 75 |
注)***p < 0.01,**p < 0.05,*p < 0.1(両側検定),推定値は標準化されたもの,カッコ内はt値をそれぞれ示している。交互作用項に含まれる変数は中心化済み。2つの制度的距離が遠いサンプル,近いサンプル,その両方をサンプルとしたモデルは,F検定の結果,非有意であったため(それぞれF = 1.40,p = 0.29; F = 1.05,p = 0.45; F = 1.97,p = 0.11),報告から除外した。
仮説2については,図表4において色塗りされているいずれかの制度的距離が遠いサンプルを用いたモデル7とモデル8の結果に注目する。モデル7においては,チャネル正当性と企業の販売成果の間に有意な結果は確認されなかった
本研究は,海外市場におけるチャネル戦略,製品戦略と企業成果の関係に対し,その組み合わせに注目した新たな理論的枠組みを提示し,その経験的妥当性を提示した点に新規性がある。特に,チャネル正当性,製品革新性は,競争強度と制度的距離の状態によって双方とも高めることがより高い企業成果につながると,最適独自性理論に基づき説明したことは,海外市場におけるマーケティング戦略の検討において有効な視点の1つを提示するであろう。
また,最適独自性理論を適用する文脈を,海外市場におけるマーケティング戦略に拡張したことも,貢献として考えられる。複数の文脈において正当性と独自性の達成は企業の直面する課題であり(Zhao & Glynn, 2022),国際ビジネスはその中の重要な関心事項の1つに含まれ,最適独自性理論の枠組みを用いた検討を行うことが求められている(Zhao, 2022)。本研究は,その理論的枠組みにおける議論の一部ではあるものの,海外市場におけるチャネル戦略と製品戦略というマーケティング戦略の文脈に理論の説明を拡張した。これは,企業の戦略における正当性と独自性について,同時的に検討することの重要性を示唆し,今後の海外マーケティングに関する研究の発展に貢献できると考えられる。
5.2 実務的示唆本研究の分析結果は,製造業者が海外市場に進出するとき,正当性を獲得するチャネル戦略と革新性を達成する製品戦略をオーケストレーションすることの重要性を示唆している。例えば,現地市場の競争強度が高い状態では,独自性を高める製品戦略として,顧客にとって価値があり競合他社と比較して革新的な製品の投入が求められる。しかし,それに加えてチャネルは進出国市場の(現地流通業者を代表とする)ステークホルダーから見て望ましく妥当であると判断されているものを利用することが,高い企業成果を得る上で重要であることを本研究の結果は示している。もう一方では,母国と比較して規制・規範的制度や文化的制度が異なる市場では,制度的圧力に対応するべくチャネル戦略における正当性を高める必要性が生じるが,それに加え競合他社と差別化された革新的な製品を同時的に扱うことが,高い成果を得る上では重要であることを示唆している。
5.3 限界と今後の課題本研究にはいくつかの限界点が挙げられる。第1に,マーケティング戦略の他の組み合わせや,最適独自性理論の他のメカニズムと企業成果の関係,競争圧力と制度的圧力の異なる組み合わせによる影響を議論の対象外としている。今後は,チャネル戦略と製品戦略のみならず,価格戦略といった他の戦略と企業成果の関係,同型的な製品戦略と独自的なチャネル戦略が有効となる場合の議論,複数の戦略から構成されるシステムレベルでの戦略的要素の統合が企業成果に与える影響など,本研究が取り上げていない要因による企業成果への影響について検討を行う必要がある。それに加え,本研究では,最適独自性理論において注目される独自性の側面のうち,差別化戦略(製品革新性)にのみ焦点を当てて実証分析を行った。競争戦略論の主張を踏まえると,高い競争強度への対応を企業能力やコスト・リーダーシップの側面から捉えることも可能であり,それらの競争戦略と正当性を獲得する戦略がどのように企業成果を規定するかについても,今後の検討課題として考えられる。
また,複数の戦略から構成されるシステムレベルでの戦略的要素の統合と関連して,本研究はサンプルサイズの制約上,分析において競争圧力,制度的圧力が両方とも高い状態にあるサンプルを除いた分析を行っていない。本研究の理論的枠組みに基づくと,2つの圧力が両方とも高い場合には,統合的オーケストレーションに基づく新たな要因に注目した上で,サンプルを競争圧力,制度的圧力のいずれかが高いサンプルとその両方ともが高いサンプルを区別した分析が行われるべきである。従って,推定モデルに対応したサンプルサイズを確保し,体系的逸脱戦略を操作化した上で,圧力の状態によりサンプルを弁別した分析を行うことが必要であろう。
次に,最適独自性理論に基づくステークホルダーからの企業に対する知覚の媒介的役割についても,直接の変数として反映することができていない。例えば,ある製造業者を対象とした実証分析を行う場合,独立変数は製造業者自身のデータ,従属変数は2次データ,媒介変数であるステークホルダーの知覚は製造業者が利用している現地流通業者からのデータをそれぞれ組み合わせるようなリサーチ・デザインが求められる。
それに加え,今後の方向性として,競争圧力と制度的圧力の変化に対応する最適独自性を達成する戦略の動的プロセスの記述・説明は,企業が最適独自性を達成する戦略についての理解を深めるために,有力なアプローチとなるであろう。本研究は,正当性と独自性を達成する戦略を時系列に使い分ける均衡戦略を説明の対象外としている。企業が圧力の動的な変化に対しどのように戦略を使い分けて実行しているかを記述し,最適独自性理論に基づく説明を行うことは,現実の現象をより明確に理解するために有効であると考えられる。
最後に,本研究は生産財製造業者にサンプルが限定されている。今後は消費財製造業者を対象とした実証分析を行うなど,さらなる適用状況の拡張が求められるであろう。
本論の執筆にあたり,本特集号のアリアエディターならびに匿名の2人のレビュアーの先生から,様々な建設的なご意見を賜りました。また,青山学院大学経営学部髙橋郁夫先生,慶應義塾大学商学部髙田英亮先生から多くのご指導を賜りました。さらに,上記の先生方以外の慶應義塾大学の先生からも様々なご指摘を頂きました。なお,本論は慶應義塾大学潮田記念基金による博士課程学生研究支援プログラムの援助を受けたものであります。ここに記し,心からの謝意を表します。