2025 Volume 28 Issue 1 Pages 65
『流通研究』(International Journal of Marketing and Distribution, IJMD)第28巻第1号では,「ヤング・スカラー特集」として,4本の論文を掲載する運びとなった。数多くの意欲的な投稿の中から,本誌の今後を担う若手研究者による優れた論考を掲載できたことは,編集部としても大きな喜びである。
宇野論文は,近年の競争環境の変化に伴い多様化が進む営業・販売組織に着目し,それらをクラスター分析により分類することで,その特徴と意義を明らかにしようと試みたものである。欧米の先行研究の多くは,基本的にはマーケティングが戦略策定,販売が戦略実行を担うという分業構造を想定しているが,一部には販売が戦略的な意識決定に関与するような「戦略的販売」に関する研究もおこなわれている。従来から,より多様な特徴を持つといわれる日本のB2B営業・販売組織を対象としたサーベイに基づき,戦略的販売の概念を踏まえて営業・販売組織を分類することで,その現代的な含意について,興味深い考察を行っている。
河股論文は,ブランド・ロゴにおける配色がブランド・パーソナリティ知覚に与える影響と,その適合がもたらす効果を検討したものである。配色の中でも色相差に注目し,色相差の異なる2種類のブランド・ロゴを用い4つの実験を行った。その結果,ブランド・ロゴの配色とブランド・パーソナリティ知覚に適合関係が存在することや,ブランド・ロゴの配色とブランドが訴求するパーソナリティが適合している場合にブランド態度が向上することなどが明らかになった。ブランド・ロゴにおける配色を活用した研究領域を拡張しており,豊かな実務的示唆を提供する意義深い論文である。
宮本論文は,総合スーパー,専門スーパー,コンビニエンス・ストア,薬局・ドラッグストアといったオフラインチャネルと,スマートフォンやPCを通じたオンラインチャネルの使い分けに関する日本の消費者の行動パターンを,共変量を伴う潜在クラス分析によって明らかにした研究である。ここでは,「均一型」「高頻度型」「標準型」「スーパー重視型」「コンビニ重視型」「低頻度型」の6つのパターンが導き出されている。また本研究では,各消費者がある一定の状況で各チャネルを使い分けることと,異なる状況下でチャネルを使い分けることの違いに注目し,小売業者がマルチチャネル戦略を展開する際に直面するカニバリゼーションとシナジーについても興味深い考察をおこなっている。
最後に福地論文は,製造業者が海外市場に進出する際に,チャネル戦略と製品戦略を組み合わせることでいかに企業成果を高めることができるかについて,「最適独自性理論」と呼ばれる統合的な理論枠組みに基づいて分析している。この枠組みでは,制度理論に基づく正当性を獲得する企業行動と,競争戦略論に基づく独自性を獲得する企業行動を調整することが成果に結びつくことが主張され,海外市場で事業を展開する日本の生産財製造業者を対象としたサーベイデータによって検証が行われた。その結果,進出国市場の競争強度が高い場合,あるいは,規制・規範的距離と文化的距離のいずれかが遠い場合,チャネル正当性と製品革新性の双方を高めることが,企業成果をより高めることを明らかにしている。理論的な貢献はもとより,海外市場に展開する製造業者にとって,示唆に富む研究となっている。
巻頭言でも触れたように,本誌における初の「ヤング・スカラー特集」には,15本もの投稿が寄せられた。これは,若手研究者の高い研究意欲と,本誌への強い関心の現れであると受け止めている。今後もこの流れを継続・発展させるべく,学会として若手研究者に対する研究発表の機会を積極的に確保していくことが期待される。