この論文の目的は、革新と競争というカギ概念に注目しながら、小売商業形態論の分析視角とその問題点を議論し、新たな課題を提示することである。小売商業形態論は小売の輪仮説以来、小売商業における業態変動メカニズムの理論的解明を目標としながら、抽象度の高いマクロ理論を構築しようとしてきた。そこでは、小売企業レベルの業態創造と競争のプロセスを小売商業レベルの業態変動に集計化・一般化する一方、小売企業のそうしたミクロ行動はブラック・ボックスとして捨象される。しかし、わが国における大規模小売企業の業態多様化という現状を踏まえたとき、このような分析視角は大きな問題に直面することになる。この問題を克服するための小売商業形態論の新たな展開の方向性は、小売企業の業態創造と競争のプロセスを明示的に組み込んだミクロ基礎をもつマクロ理論を確立することである。