JSMD Review
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The effect of background colors on consumers’ products’ haptic images and preferences: Focusing on products’ anthropomorphism
Mayuko NishiiTakeshi Moriguchi
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2019 Volume 3 Issue 1 Pages 1-10

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Abstract

本研究は,オンライン店舗の画面に呈示される商品画像の背景色が,擬人化しやすい商品に対する消費者の商品評価および選好にどのような影響を及ぼすかを明らかにする。2つの実験を行った結果,商品画像の背景を暖色にした場合,白色(統制)と比べて,擬人化しやすい商品をより温かく,そしてより柔らかいと知覚することが確認された。さらに,背景が暖色の場合に白色と比べて,擬人化しやすい商品に対する親しみやすさおよび購買意向が高まることが確認された。本研究の結果は,商品を直に手にとって確かめることが難しいオンライン・ショッピングにおいて,消費者に商品の魅力を伝えるマーケティング・コミュニケーションの一施策となり得る可能性を示している。

1  はじめに

日本国内市場におけるEC化率は依然右肩上がりで成長しており(経済産業省,2018),オンライン・ショッピング・サイトにおける消費者行動の特徴を把握することは,企業にとって重要な課題である。オンライン・ショッピングでは,消費者は商品を直に触ることができないため,商品の触り心地に関する情報は,商品を説明する文章や商品画像など,視覚情報から得ることが多い。しかし,商品の触り心地の良さを消費者が重視する場合や,売り手側がそれを訴求ポイントとする場合も少なからずある。したがって,ショッピング・サイトの視覚情報が,消費者が感じる商品の触覚イメージにどのような影響を与えるのかを知ることは,実務の観点から大きな意義があると考えられる。

消費者の五感を刺激するマーケティングであるセンサリー・マーケティング(sensory marketing)に関する研究において,五感の中でも触覚に関する検討は,Peck and Childers(2003)朴・石井・外川(2016)などで扱われているものの,視覚や聴覚などの研究に比して研究蓄積が乏しい(石井・平木,2016)。また近年,センサリー・マーケティング関連の研究領域では,一種類の感覚を扱った研究だけではなく,視覚と味覚など,異なる種類の感覚間の相互作用に着目した研究がなされてきている(例えば,Spence, Puccinelli, Grewal, & Roggeveen, 2014Sunaga, Park, & Spence, 2016)。しかしながら,視覚と触覚の相互作用に関する検討はあまりなされていない(Xu & Labroo, 2014)。

本研究では,商品周辺の背景色という視覚に訴える刺激が,画面を通じて消費者が感じる商品の触覚に関する知覚の印象形成および選好に及ぼす影響について検討する。人が触覚の知覚において得る情報には手触り,硬度,温度,重量の4種類がある(Peck, 2010)。そのなかでZwebner, Lee, and Goldenberg(2014)は,気温や室温という温かさの知覚が商品の選好に影響を及ぼすことを確認している。この根拠として,消費者は商品を擬人化(anthropomorphism)して捉える傾向があるため,温かさを知覚すると商品に対して感情的な温かさを抱き,選好が高まることをあげている。

しかし,オンライン・ショッピングを行っている消費者が身を置く環境の温度をマーケターが調整するのは難しい。したがって,オンライン・ショッピング画面の色を調整することで,商品の選好に影響を及ぼしうるのかを検討することは,学術的意義と実務的意義の双方があると考えられる。さらに,詳細は後述するが,触覚情報である温かさと柔らかさには強い結びつきがあるため,背景色の温かさが商品の温かさおよび柔らかさという触覚に関する印象形成にも影響を及ぼすと想定される。本研究では2つの実験を行い,背景色の温かさが商品の選好および触覚評価に及ぼす影響について検討する。

2  理論的背景および仮説

2.1  感覚間の相互作用における感覚転移が消費者行動に及ぼす影響

複数の感覚が相互に影響を及ぼす性質を感覚間の相互作用と呼ぶ(Spence, 2012)。感覚間の相互作用について,Krishna and Morrin(2008)およびPiqueras-Fiszman and Spence(2015)は,ある感覚刺激が他の種類の感覚に影響を及ぼす「感覚転移」(perceptual transfer)によるものだと説明している。例えば,Harrar, Piqueras-Fiszman, and Spence(2011)は,同じ味のポップコーンであっても,ポップコーンを入れる皿の色が赤いとより甘いと知覚され,皿の色が青いとより塩辛いと知覚されることを確認している。ポップコーンという商品の背景にある皿の色がポップコーンの味という商品に対する知覚に影響を及ぼしうるのであれば,商品の背景色が商品の触覚に関する知覚イメージに影響を及ぼしうると推測できるだろう。

また,Babin, Hardesty, and Suter(2003)は,橙(オレンジ)色は温かさと結びつくことを指摘している。ここから,商品画像の背景が橙色の場合,橙色から知覚する温かさが商品画像に関する知覚に転移して,商品をより温かいイメージだと知覚するのではないかと考えられる。

さらに,温かさ,柔らかさはそれぞれ生き物を連想させるため(Horowits & Bekoff, 2007),温かさは柔らかさと強い結びつきがあることが指摘されている(Tai, Zheng, & Narayanan, 2011)。概念として,人は温かさと柔らかさに強い結びつきを感じていることも確認されている(西井,2017)。以上より,温かさを連想させる背景色は,商品の柔らかさに関する知覚イメージにも影響を及ぼす可能性がある。

2.2  触覚の知覚が消費者に及ぼす影響

触覚の中でも温かさの知覚に焦点をあてると,物理的な温かさの知覚が人に対して抱く感情的な温かさの認知に結びつき(Williams & Bargh, 2008),その結果,消費行動に影響を及ぼす可能性が指摘されている(Hong & Sun, 2012Rai, Lin, & Yang, 2017)。さらに,物理的な温かさの知覚は,他者への心理的な距離を縮めることが確認されている(Ijzerman & Semin, 2009Huang, Zhang, Hui, & Wyer, 2014)。これらの知見を購買場面に適用して検討しているZwebner et al.(2014)は,外気温や室温という物理的な温かさを消費者が知覚すると,商品の購買意向や最大支払い意向額が高まることを確認している。消費者は身の回りの物を擬人化する傾向があり,物理的な温かさを知覚すると,商品に対人的な温かさを抱くために商品に対する親しみやすさが増す結果,購買意向や最大支払い意向額が高まるというのだ。しかしながら,Zwebner et al.(2014)では,商品個別にみると一貫した結果を得られておらず,商品の特性に着目した更なる検証の必要性が指摘されている。

2.3  擬人化

擬人化(anthropomorphism)とは,人間的な性格,意図,行動を非人間的な対象物に帰属させる傾向を示す(Aggarwal & Mcgill, 2007Leyens, Cortes, Demoulin, Dovidio, Fiske, Gaunt, Paladino, Rodriguez-Perez, Rodriguez-Torres, & Vaes, 2003)。人は,対象物の形状や動きなどが一定の特徴を有していると,対象物を人間のスキーマに結びつけやすくなるために擬人化が生じるとされている(Aggarwal & Mcgill, 2007Tremoulet & Feldman, 2000)。擬人化は,無意識に起こる錯覚の一種であり,例えば岩や雲の形が人の顔に見える場合にも,擬人化は起こる(Aggarwal & Mcgill, 2007)。

商品の擬人化は,消費者の商品に対する判断や行動に好ましい影響を及ぼすと指摘されている(Aggarwal & Mcgill, 2007Burgoon, Bonito, Bengtsson, Cederberg, Lundeberg, & Allspach, 2000)。たとえば,人の顔に見える商品デザインは消費者の感情に訴える力が強く,その結果,売上げの増加に影響を及ぼすことが指摘されている(Welsh, 2006)。

従来,消費者行動の分野において擬人化の研究は,主に擬人化されたブランドの効果に関心が寄せられてきた(Aaker, 1997;Aggarwal, 2004;Puzakova, Kwak, & Rocereto, 2013)。しかし近年では,商品の特徴としての擬人化性が及ぼす影響について関心が寄せられてきている(Kim & Mcgill, 2011Wan, Chen, & Jin, 2017)。擬人化しやすい商品の特徴として,商品の正面部分に2つの目および1つの口が模されていて人間の顔のように見えやすいデザイン(Aggarwal & Mcgill, 2007Wan, Chen, & Jin, 2017)や,ロボット掃除機のように動きのあるものが挙げられる(Tremoulet & Feldman, 2000)。

しかしながら,商品の擬人化に関する議論において,商品の触覚イメージを検討する研究は,我々の知る限り未だない。そこで,本研究では商品の「擬人化性」に着目し,商品の触覚イメージと選好に対する背景色の影響の仕方が,商品の擬人化性によってどのように異なるのか検討する。前述した,環境の温かさの知覚による対象の温かさの知覚や親しみやすさへの影響は,対人的なものである。また,背景色から感じる温かさは物理的な温かさではなく,心理的な温かさである(Choi, Chang, Lee, & Chang, 2016)。そのため,擬人化しやすい商品であれば,背景色による温かさの知覚が,対象商品をより温かく,柔らかいイメージだと知覚することにつながるのではないかと想定される。そして商品に対する親しみやすさが増し,購買意向が高まると想定される。以上から,以下の仮説を導出する。

 

H1 橙色は白と比べて,より温かいと知覚される。

 

H2a 背景が橙色の場合,白の場合と比べて,擬人化しやすい商品はより温かいと知覚される。

H2b 背景が橙色の場合,白の場合と比べて,擬人化しやすい商品はより柔らかいと知覚される。

 

H3a 背景が橙色の場合,白の場合と比べて,擬人化しやすい商品はより親しみやすいと評価される。

H3b 背景が橙色の場合,白の場合と比べて,擬人化しやすい商品はより購買意向が高まる。

 

H4 商品の温かさに対する知覚は,商品の柔らかさに対する知覚に影響を及ぼす。

 

さらに,背景色の温かさの知覚が擬人化しやすい商品に対する親しみやすさを高めるという影響は,商品に対する温かさの知覚が媒介すると想定される。前述の通り,人が温かさを知覚すると目の前の人や物に対する心理的距離が縮まり,親しみやすさを抱く(Ijzerman & Semin, 2009Huang et al., 2014Zwebner et al., 2014)。人や物に対する親近感は,その対象に抱く温かさと深い親和性があると考えられる。したがって,物理的な温かさの知覚が人に対して抱く感情的な温かさの認知に結びつくのであるならば(Williams & Bargh, 2008),対象物に対する温かいイメージは対象物に対する親しみやすさを向上させると考えられる。さらに,対象物に対する温かいイメージは,背景色が商品の購買意向に及ぼす影響も媒介すると考えられる。そこで,仮説5aおよび仮説5bを導出する。

 

H5a H3aにおける背景色が商品の親しみやすさに及ぼす影響は,商品の温かさの知覚が媒介する。

H5b H3bにおける背景色が商品の購買意向に及ぼす影響は,商品の温かさの知覚が媒介する。

 

以上の仮説を検証するために,本研究では2つの実験を実施する。上述の通り,商品の正面部分に2つの目と1つの口があるように見えるデザインは,人の顔にみえやすいために,擬人化されやすい(Aggarwal & McGill, 2007Wan, Chen, & Jin, 2017)。そこで,実験1と2ではそれぞれ,人の顔にみえやすい商品と人の顔にみえにくい商品とを比較して検討を行う。

3  実験1

3.1  設計と手続き

インターネット調査を用いて,一般消費者427名1)を対象とした質問紙実験を行った。実験は背景色の2条件(橙色/白)×商品の擬人化性の2条件2)(擬人化しやすい商品3)/擬人化しにくい商品)の被験者間要因計画であり,実験参加者は各条件にランダムに割り当てられた。

実験は,3ステップで行われた。最初に背景色がついている商品画像(参考資料1)に対する知覚および評価(温かさ,柔らかさ,親しみやすさ,購買意向)を回答してもらった。続いて,割り当てられた背景色と同じ色を見せ,色から感じる温かさおよび柔らかさについて質問した。最後に,実験参加者がいる環境の暑さについて質問した。質問は全てリッカート式7点尺度(7:非常にそう思う-1:全くそう思わない)で回答してもらった。

3.2  分析結果

はじめに,得られたデータについてコモンメソッドバイアス(Podsakoff, MacKenzie, Lee, & Podsakoff, 2003Mackenzie & Podsakoff, 2012)の問題がないかを確認した。結果,コモンメソッドバイアスによる大きな影響はないことが確認された4)

次に,背景色(橙色/白)に感じる温かさに差があるか否かを確認するためにt検定を行った。その結果,橙色(M = 5.62,SD = 0.81)と白(M = 3.04,SD = 1.28)とで有意差がみられた(t(350.49) = 24.40,p < .001;d = 2.39)。このように,橙色は白よりも温かいと知覚され,仮説1は支持された。

さらに,商品に対する触覚イメージの評価を分析したところ,商品の温かさおよび柔らかさについて,擬人化しやすい商品においてのみ背景色間で有意差が見られた。擬人化しやすい商品では,橙色(M = 5.37,SD = 0.89)の場合に白(M = 4.98,SD = 1.22)よりも温かいと評価され(t(201) = 2.57,p = .011;d = 0.36),柔らかさについても橙色(M = 5.66,SD = 0.89)の場合に白(M = 5.34,SD = 1.21)よりも高く評価された(t(190.46) = 2.17,p = .032;d = 0.30)。しかし,擬人化しにくい商品については,温かさの評価(橙色:M = 2.40,SD = 1.39,白:M = 2.24,SD = 1.21;t(197) = 0.90,p = .‍367;d = 0.12)および柔らかさの評価(橙色:M = 1.95,SD = 1.33,白:M = 1.79,SD = 1.05;t(197) = 0.91,p = .362;d = 0.13)ともに背景色による有意差はみられなかった。以上より,仮説2aおよび2bは支持された。

続いて親しみやすさについて,擬人化しやすい商品においては背景色による有意差がみられたが(橙色:M = 5.23,SD = 0.88,白:M = 4.95,SD = 1.07;t(201) = 2.04,p = .042;d = 0.28),擬人化しにくい商品では有意差がみられなかった(橙色:M = 4.07,SD = 1.35,白:M = 3.78,SD = 1.35;t(197) = 1.50,p = .14;d = 0.21)。同様に,購買意向についても擬人化しやすい商品においてのみ有意差がみられ(橙色:M = 3.45,SD = 1.17,白:M = 3.05,SD = 1.38;t(199.06) = 2.24,p = .‍026;d = 0.31),擬人化しにくい商品については有意差がみられなかった(橙色:M = 3.76,SD = 1.38,白:M = 3.57,SD = 1.55;t(476) = 1.41,p = .161;d = 0.13)。以上から,仮説3aおよび3bは支持された。

さらに,仮説4の検証としてHayesのPROCESS macroを使用して媒介分析を行った(Model 4;Hayes, 2013,ノンパラメトリック・ブートストラップ法,5,000サンプル生成(Zhao, Lynch, & Chen, 2010))。その結果,擬人化しやすい商品においては,背景色が商品の柔らかさの知覚に及ぼす影響は商品の温かさの知覚が媒介していることが確認された(間接効果:0.241,95%信頼区間:[0.059,0.453](0を含まず))。一方,擬人化しにくい商品においては,背景色が商品の温かさの知覚に及ぼす効果が有意でなく(p = .367),商品の温かさの知覚による媒介効果を確認できなかった(図1)。したがって,仮説4は支持される結果となった。

図1.

仮説4の媒介分析(媒介変数:商品の温かさの知覚)

また,背景色と商品に対する親しみやすさに及ぼす影響について,商品の温かさの知覚が媒介しているかどうか,仮説4の検証と同様に媒介分析を行った。その結果,擬人化しやすい商品においては,親しみやすさに及ぼす背景色の効果を商品の温かさの知覚が媒介していることが確認された(間接効果:0.227,95%信頼区間:[0.056,0.435](0を含まず))。一方,擬人化しにくい商品においては,背景色が商品の温かさの知覚に及ぼす効果が有意でなく(p = .367),商品の温かさの知覚による媒介効果を確認できなかった(図2)。以上より,仮説5aは支持された。

図2.

仮説5aの媒介分析(媒介変数:商品の温かさの知覚)

さらに,背景色が商品の購買意向に及ぼす影響について,商品の温かさの知覚が媒介しているかどうかについても媒介分析を行った。その結果,擬人化しやすい商品においては,間接効果は5%水準で非有意となったが,有意傾向がみられた(間接効果:0.105,90%信頼区間:[0.034,0.218](0を含まず))。一方で擬人化しにくい商品においては,背景色が商品の温かさの知覚に及ぼす効果は有意でなかった(p = .367)。以上より,仮説5bは支持されなかったが,有意傾向がみられることを確認した(図3)。

図3.

仮説5bの媒介分析(媒介変数:商品の温かさの知覚)

3.3  考察

人のようにみえるデザインの商品の場合,背景が橙色であると白(統制)と比較して,商品に対する温かさおよび柔らかさの知覚イメージが高いことが確認された。さらに,親しみやすさが増し,購買意向が高まることが明らかになった。

ここで,ぬいぐるみとゴミ箱を比較すると,前者は後者に比して,人が温かさと柔らかさを知覚しやすいと考えられる。その結果,暖色との親和性が高いことが影響して実験1の結果となった可能性がある。そこで,実験2では,同一の商品を用いた追加検証を行い,実験1の結果が擬人化性の違いによるものかどうかを検討する。

4  実験2

4.1  設計と手続き

実験は2(背景色:橙色/白)×2(椅子:擬人化しやすい/擬人化しにくい5))の被験者間要因計画でデザインされ(参考資料2を参照),一般消費者444名6)を対象とし,インターネット調査を用いて実施された。

4.2  結果

はじめに,コモンメソッドバイアスの問題を確認したが,大きな影響はないことが確認された7)。背景色による温かさの知覚を比較した結果,橙色(M = 5.48,SD = 0.97)と白(M = 3.19,SD = 1.22)の間に有意差がみられ(t(393.76) = 21.34,p < .001;d = 1.92),仮説1は再度支持された。

商品の触覚イメージの評価についても,仮説は支持された。仮説2aの温かさについて,擬人化しやすい椅子では白よりも橙色の方が有意に高い評価であった(橙色:M = 4.73,SD = 0.96,白:M = 4.40,SD = 1.14;t(207) = 2.23,p = .027;d = 0.31)。一方で,擬人化しにくい椅子については背景色による有意差はみられなかった(橙色:M = 4.49,SD = 1.25,白:M = 4.68,SD = 1.27;t(213) = −1.10,p = .272;d = 0.15)。また,仮説2bの柔らかさについても擬人化しやすい椅子では橙色(M = 4.73,SD = 1.10)と白(M = 4.39,SD = 1.13)の間に有意差がみられたが(t(207) = 2.16,p = .032;d = 0.31),擬人化しにくい椅子では有意差がみられなかった(橙色:M = 4.37,SD = 1.33,白:M = 4.58,SD = 1.30;t(213) = −1.17,p = .243;d = 0.16)。

さらに,擬人化しやすい椅子では,親しみやすさ(橙色:M = 4.89,SD = 0.96,白:M = 4.54,SD = 1.10;t(195.80) = 2.48,p = .014;d = 0.34)および購買意向(橙色:M = 3.54,SD = 1.17,白:M = 3.18,SD = 1.39;t(192.67) = 1.99,p = .026;d = 0.28)において背景色の違いによる有意差がみられた。しかし擬人化しにくい椅子については,親しみやすさ(橙色:M = 3.94,SD = 1.14,白:M = 4.21,SD = 1.24;t(213) = −1.66,p = .099;d = 0.23)および購買意向(橙色:M = 3.12,SD = 1.16,白:M = 3.42,SD = 1.28;t(213) = −1.78,p = .077;d = 0.25)のいずれも有意差がみられなかった。

続いて仮説4の検証をするため,実験1と同様の媒介分析を行った。その結果,擬人化しやすい椅子において5%水準で非有意となったが,有意傾向がみられた。(間接効果:0.138,90%信頼区間:[0.012,0.294](0を含まず))ものの,擬人化しにくい椅子においては,背景色が商品の柔らかさの知覚に及ぼす効果が有意でなく(p = .243),商品の温かさの知覚による媒介効果を確認できなかった。以上から,仮説4については再度支持されなかったが,有意傾向がみられた(図1)。

最後に,背景色が商品に対する親しみやすさに及ぼす影響について,商品の温かさの知覚が媒介しているか,実験1と同様の媒介分析を行った。その結果,擬人化しやすい椅子においては,温かさの知覚の間接効果について5%水準で非有意となったが,有意傾向がみられた。(間接効果:0.118,90%信頼区間:[0.010,0.255](0を含まず))。一方,擬人化しにくい椅子においては,背景色が温かさの知覚に及ぼす効果が有意でなく(p = .272),商品の温かさの知覚による媒介効果を確認できなかった。以上より,仮説5aは再度支持されなかったが,有意傾向がみられた(図2)。

また,背景色が商品の購買意向に及ぼす影響を商品の温かさの知覚が媒介しているか,実験1と同様の媒介分析を行った。その結果,擬人化しやすい商品においては,間接効果は5%水準で非有意となったが,有意傾向がみられた(間接効果:0.108,90%信頼区間:[0.011,0.246](0を含まず))。しかし,擬人化しにくい椅子においては,背景色が温かさの知覚に及ぼす効果が有意でなく(p = .272),商品の温かさの知覚による媒介効果を確認できなかった。したがって,仮説5bは再度支持されなかったが,有意傾向にある結果となった(図3)。

5  総合考察

5.1  まとめと本研究の意義

本研究では,商品の背景色から知覚する温かさが,擬人化しやすい商品の温かさおよび柔らかさという触覚に関する知覚イメージを高めることを確認した。また,商品背景の暖色が,擬人化しやすい商品に対する親しみやすさを増し,購買意向を高めることを確認した。そしてこれらの影響は,商品の背景色から転移した商品に対する温かさのイメージが媒介している可能性が十分にある。

本研究の学術的意義は,Zwebner et al.(2014)が課題として指摘した,温かさの刺激によって影響を受けやすい商品とそうでない商品についての検討を行ったことである。先行研究が指摘する擬人化しやすい商品の特性に着目し,2つの実験を行った結果,擬人化しやすい商品は擬人化しにくい商品よりも背景色による温かさの影響をより強く受ける可能性を示すことができた。

本研究の実務的意義として,以下の2点を挙げられる。一点目に,オンライン・ショッピングというユーザーの環境をコントロールしづらい状況において,Zwebner et al.(2014)の知見の活用可能性を示唆したことがあげられる。商品画像の背景色であれば企業のマーケターはデザインできる。背景色によって温かさを演出することが,擬人化しやすい商品に対する評価や購買意向を高めるという知見は,様々なマーケティング施策への活用が可能だと思われる。さらに,本研究から得られた示唆は,商品だけでなく企業やブランドのロゴにも適用可能だと考えられる。たとえば,総合オンライン・ショッピング・サイトのAmazonは,人の口元が微笑んでいるように見える線を,橙色と組み合わせてロゴマークとして用いている(Amazon, 2018)。人の顔を連想させやすいロゴマークのデザインと暖色は,幅広い消費者を対象とした総合サイトの親密性を演出するのに役立っているかもしれない。

二点目として,オンライン・ショッピング・サイトをデザインする際には商品特性の知覚に対する背景色の影響を考慮する必要性を示唆したことがあげられる。この点については,次節で詳細を述べる。

5.2  本研究の限界と課題

本研究では,2つの実験を行うことで,擬人化しやすい商品に対する消費者の反応に,商品画像の背景色が及ぼす影響を確認した。しかしながら,背景色が商品の選好および購買意向に及ぼす影響における商品の温かさの知覚による媒介効果は,有意傾向がみられるにとどまった(実験1,実験2)。第2章で述べたように,対人関係における温かさの知覚がもたらす影響は,擬人化しやすい商品においてもみられると充分に考えられる。別の変数の存在を検討するなど,更なる検証が必要であろう。

本研究は,商品の擬人化について人の顔にみえやすいというメカニズムを用いたが,他にも商品を擬人化する方法は考えられる。例えば,商品のネーミングやパッケージデザインにキャラクターを利用することなどが挙げられる。これらの方法を用いて擬人化された商品においても同様の結果が得られるのかは,本研究では確認できていない。

さらに,商品の属性を考慮した更なる検証が必要であろう。クールなイメージを強みとする商品や,堅固性または冷却性を訴求する商品であっても,擬人化性が強い場合には暖色を背景色に用いることが温かさや柔らかさの知覚を高めるのであろうか。また,そのことが選好にどのような影響をもたらすのかを確認する必要がある。

最後に,実店舗で実際に商品に触れることができる場合に,ディスプレイの背景色によって商品を実際に触ったときの知覚に影響を与えるのかを確認する必要がある。これらの課題に今後取り組むことで,本研究で得られた知見の更なる理論的発展に繋がるであろう。

1)  分析においては,25名分の回答を除外して行った。ダミー質問に対する回答が論理的に矛盾した回答者10名,外気温の影響を避けるために質問項目「現在の体感温度は次のうちどれに最も当てはまりますか」(7「非常に暑い」-4「ちょうどいい」-1「非常に寒い」)に対する回答のうち,7「非常に暑い」,6「暑い」,2「寒い」,1「非常に寒い」を選択した15名の総計25名分である。

2)  実験用の商品画像を選定するため,大学院生29名を対象として,質問紙による予備実験を行った。総合ショッピング・サイトであるAmazonの商品カテゴリーを参考に,見た目で選好を判断できそうな17種類の商品画像が用いられた。商品自体の色と背景色との相互作用による影響を最小限にとどめるため,商品は出来る限り無色に近い商品を選んだ。

これらの対象商品に対して,「人間らしいと感じるか」についてリッカート尺度を用いて質問した(7:非常にそう思う-1:全くそう思わない)。その結果,平均値が最も高かったのが「くまのぬいぐるみ」(M = 5.07,SD = 1.02)であり,平均値が最も低かったのは「ゴミ箱」(M = 3.20,SD = 1.73)であった。そこで次に,一般の消費者218名を対象に「くまのぬいぐるみ」と「ゴミ箱」の擬人化性に差があるか否かを確認するために,被験者間要因計画の予備実験を行った。擬人化性(人のようにみえる,自由な意志を持っているようにみえる;1=全くそう思わない-7:非常にそう思う(Kim & Mcgill, 2011を参考に作成);α = .‍47)について質問を行った。その結果,擬人化性に統計的有意差がみられた(「くまのぬいぐるみ」(M = 2.59,SD = 1.21),「ゴミ箱」(M = 1.90,SD = 1.06);t(216) = 4.53,p < .001;d = 0.61)。一方で,「くまのぬいぐるみ」と「ゴミ箱」それぞれに対する好意度には有意差がみられなかった(「くまのぬいぐるみ」(M = 4.77,SD = 1.28),「ゴミ箱」(M = 4.53,SD = 1.13);t(216) = 1.44,p = .‍151;d = 0.20)。したがって,「くまのぬいぐるみ」を擬人化しやすい商品,「ゴミ箱」を擬人化しにくい商品として,実験1で用いることにした(参考資料1を参照)。

3)  一般に動物のぬいぐるみは,その動物そのものではなく,人の顔に見えるようにデザインされている。

4)  確認方法としては,Harmanの単一因子検定を行った(Harman, 1967)。全観測変数に対して,主因子法を伴った探索的因子分析を行った。その結果,3つの因子が抽出された。また,第一因子のみによって説明される全観測変数の分散の割合は,37.37%と過半数に至らなかった。以上のことから,コモンメソッドバイアスによる大きな影響はないことが確認された。

5)  画像を選定するための予備実験を,一般の消費者204名を対象に被験者間要因計画(椅子の画像:A,B;参考資料2を参照)で行った。実験参加者は,無作為に各条件へ割り当てられた。実験参加者は,椅子の画像について擬人化しやすいかどうか質問に答えた(質問項目は実験1の予備実験と同様;α = 0.73)。各質問項目は,無作為な順序で表示された。2種類の椅子の画像について,上記2項目の回答データを集約して擬人化しやすいかどうかについてt検定を行った結果,人のようにみえる椅子(M = 3.69,SD = 1.40)と人のようにみえにくい椅子(M = 2.47,SD = 1.18)に有意差がみられた(t(202) = 6.73,p < .001,d = 0.94)。さらに,画像の椅子を好ましく思うか(1=全くそう思わない-7:非常にそう思う)についてt検定を行ったところ,人のようにみえる椅子(M = 4.33,SD = 1.53)と人のようにみえにくい椅子(M = 4.38,SD = 1.14)に有意差はみられなかった(t(182.94) = −0.24,p = .81,d = 0.04)。そこで,Aの椅子を擬人化しやすい商品,Bの椅子を擬人化しにくい商品として使用することにした(参考資料2を参照)。

6)  分析においては,20名分の回答を除外して行った。ダミー質問に対する回答が論理的に矛盾した回答者12名,さらに外気温の影響を避けるために質問項目「現在の体感温度は次のうちどれに最も当てはまりますか」(7「非常に暑い」-4「ちょうどいい」-1「非常に寒い」)に対する回答のうち,7「非常に暑い」,6「暑い」,2「寒い」,1「非常に寒い」と回答した8名を合わせた20名分である。

7)  実験1と同様,全観測変数に対して主因子法を伴った探索的因子分析を行った。その結果,3つの因子が抽出された。また,第一因子のみによって説明される全観測変数の分散の割合は,37.58%と過半数に至らなかった。以上から,コモンメソッドバイアスによる大きな影響はないことが確認された。

謝辞

本研究は,科学研究費基盤B(16H03675)および平成29年度プロモーショナル・マーケティング学会研究助成による成果の一部である。また,本稿の掲載にあたっては,編集長および2名の匿名レビュワーの先生方より,多くの貴重なご示唆を頂いた。ここに記して,感謝の意を表する。さらに,本研究を進めるにあたり,早稲田大学消費者行動研究所の皆様より多くの貴重なコメントを頂いた。ここに記して,感謝申し上げる。

参考文献
 
© 2019 Japan Society of Marketing and Distribution
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