JSMD Review
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Spillover effect of advertising: The role of the order of market entry
Kaneko Mitsuru
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2019 Volume 3 Issue 2 Pages 37-44

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Abstract

本研究は,ブランドの市場参入順位を考慮した広告の波及効果を検証した。トクホ茶のデータを分析した結果,後発ブランドの広告が先発ブランドの購買意向を高めることが明らかになった。特に,この波及効果は,有職者に対して強く現れる。本研究は,ブランドの参入順位によって非対称の波及効果があることを示した。そして,ブランドの広告活動によって,先発ブランドが競争優位を得る可能性を示した。

1  はじめに

マーケティング研究では,広告効果に関する研究が行われてきた。これまでに行われた研究は,広告が主に自社ブランドの売上や消費者心理に与える影響を検証している(e.g., Clark, Doraszelski, & Draganska, 2009Honka, Hortaçsu, & Vitorino, 2017)。一方,広告が競合ブランドに与える影響(波及効果,Spillover effect)に関する研究も行われている(e.g., Anderson & Simester, 2013Shapiro, 2018Sahni, 2016)。これらの波及効果に関する研究では,正の波及効果の存在が確認されている。しかし,広告をするブランドにとって,失敗が許されない成熟した市場では,正の波及効果はない方が望ましい。したがって,波及効果が正になる条件を明らかにすることは重要である。

本研究では,市場参入順位が広告の波及効果に与える影響に注目する。Sahni(2016)は,市場でポジティブな評価を得ているほど,正の波及効果を得やすいことを示した。したがって,ブランドの評価やその他の特徴によって波及効果が異なると考えられるが,この点について検証した研究は少ない。一般に,市場参入順位が早いブランドの方が,消費者はブランドへの強いポジティブな態度を形成しやすく,またブランドとカテゴリーとの連想(結びつき)を築きやすいため,正の波及効果を得やすいと考えられる。本研究ではこうしたメカニズムを想定し,市場参入順位が広告の波及効果にどのように影響するのかを明らかにする。

アンケートデータを分析した結果,後発ブランドの広告が先発ブランドの購買意向を高めることが明らかになった。そして,この波及効果は,特に有職者に対して強く現れる。

本研究の構成は以下の通りである。最初に,広告効果,市場参入順位に関する先行研究を概観する。次に,本研究の分析対象商品のトクホ茶と使用データについて確認する。そして,分析のためのモデルを定式化し,パラメータの推定を行い,広告効果を検証する。最後に得られた結果を議論する。

2  先行研究

2.1  広告効果

広告は,マーケティングの中心的な役割を果たしてきたこともあり,多くの実務家や研究者が広告効果に関心を持ってきた。そのため,広告効果に関する多くの研究が行われてきた。例えば,広告がブランド認知,知覚品質に与える影響(Clark et al., 2009)や広告がブランド想起などに与える影響(Honka et al., 2017)が明らかにされてきた。

広告が自社ブランドの売上や消費者行動などに与える影響が明らかにされた一方で,競合ブランドに与える影響(波及効果)も明らかにされている。直感的には,自社ブランドの広告は,競合ブランドの売上などに負の影響を与えると考えられる。しかし,自社ブランドの広告が,競合ブランドの売上などに正の影響を与える場合がある(e.g., Anderson & Simester, 2013Shapiro, 2018Sahni, 2016)。例えば,Sahni(2016)は,レストランのインターネット広告では,ポジティブなクチコミを得ているほど,オンラインの検索数で正の波及効果を得やすいことを明らかにした。また,Anderson and Simester(2013)は,アパレル小売を対象とした実験を行い,消費者が自社ブランド製品のサイズ(フィット感)を学習している場合,それがスイッチング・コストとなり,そのブランドは競合ブランドから正の波及効果を得られることを明らかにした。このように,市場で競争優位を得ているブランドは,広告の正の波及効果を得やすいことが示されている。

2.2  市場参入順位

市場参入順位の研究は,マーケティング論,経営戦略論において,中心的な研究テーマであった。市場参入順位の研究は,「企業視点」と「消費者視点」の研究に分かれる。「企業視点」の研究は,先発企業が持つ資源が市場成果に結びつくのかを明らかにする(see, Lieberman & Montgomery, 1998)。これらの研究は,先発企業が技術や資源を独占することなどによって,競争優位が得られることを指摘している(see, Lieberman & Montgomery, 1988)。

一方,「消費者視点」の研究は,市場参入順位と消費者の認知,知覚,行動の関係を明らかにする(e.g., Carpenter & Nakamoto, 1989Kardes & Kalyanaram, 1992Cunha Jr. & Laran, 2009)。例えば,消費者の先発ブランドに関する学習と選好形成(Carpenter & Nakamoto, 1989),提示される情報量と学習(Kardes & Kalyanaram, 1992)の関係が明らかにされている。このような研究から,消費者は,先発ブランドに対してより強い態度や連想を抱くことが明らかにされた。

以上から,消費者が強い態度カテゴリーとの連想を築きやすい先発ブランドは,波及効果の恩恵を受けられると予想される。Sahni(2016)は,あるレストランのインターネット広告が,他のレストランを想起させて,結果としてポジティブな評価を得ているレストランの検索数を増やすことを示した。これと同様に,広告はあるカテゴリーに属する様々な商品を想起させるが,強くポジティブな態度が形成されやすく,カテゴリーとの連想を築かれやすい先発ブランドの方が,波及効果によって消費者の選好がより高くなると考えられる。本研究では,トクホ茶を対象として,市場参入順位が広告の波及効果に与える影響を検証する。

3  トクホ茶市場の概要

1991年にトクホ制度が導入されて以来,トクホの認証を受けた商品が発売された。その中には,脂肪の吸収を抑える便益のある商品が多数ある。ただし,その認証数は増加傾向にあるものの,市場規模は横ばいである(日本健康・栄養食品協会,2018)。したがって,市場は成熟しており,競争が激しくなっていると推測される。

脂肪の吸収を抑えるトクホ食品の代表的なカテゴリーが,トクホ茶である。トクホ茶市場は,2003年にヘルシア緑茶が発売されたことによって生まれた。その後,黒烏龍茶(2006年),からだすこやか茶W(2014年)などが発売された。これらのブランドは当初,中年男性をターゲットとしていた。しかし,黒烏龍茶は,2015年にリ・ポジショニングし,若い女性をターゲットとした。そして,「女性向けダイエット用トクホ茶」という市場を開拓した。また,からだすこやか茶も2018年(調査期間中)に若い女性をターゲットにした。こうした経緯から,「女性向けダイエット用トクホ茶カテゴリー」において,黒烏龍茶が先発ブランド,からだすこやか茶Wが後発ブランドであると捉えることができる。

両ブランドの商品には,類似点と相違点がある。両ブランドが類似するのは,商品の便益,価格,容量,チャネルである。したがって,これらの要因が消費行動に差を生み出す可能性は低い。一方,両ブランドの製品パッケージは異なる。日経デザイン(2015)による評価では,黒烏龍茶のパッケージの方が高く評価されている。そのため,パッケージ・デザインの差が影響していると考えることもできる。しかし,後述する従属変数の購買意向は,広告を見る前と後の評価の差を基にしているため,パッケージ・デザインの差の影響は排除されていると考えられる。また,からだすこやかWは調査期間中にパッケージもリニューアルしているため,パッケージ変更の影響が懸念される。しかし,パッケージのリニューアルはマイナーチェンジに留まることから,パッケージ・デザイン変更の影響は軽微であると考えられる。

4  データの概要と変数

広告の波及効果を検証するため,本研究は,(株)野村総合研究所 Insight Signal シングルソースデータを用いた1)。この調査では,回答者は最初に自身の属性や価値観などを回答した。次に,2018年1月30日(1期)に両ブランドの購買意向を回答した。そして,黒烏龍茶の購買意向を2018年2月27日に,からだすこやか茶Wの購買意向を2018年2月28日(2期)に回答した。また商品の購買意向に加え,調査期間中,視聴したテレビ番組を毎日回答した。

このデータを用いて,本研究は4種類のデータセットを作成した。1つ目のデータセットは,すべてのサンプルを対象として,からだすこやか茶Wの購買意向を従属変数としたデータセットである。2つ目のデータセットは,1つ目のデータセットの消費者のうち,1期の時点で,「過去1ヶ月以内に,からだすこやか茶Wを買ったことがない」消費者のみを含む非購入者に限定したデータセットである。3つ目のデータセットは,すべてのサンプルを対象として,黒烏龍茶の購買意向を従属変数としたデータセットである。4つ目のデータセットは,3つ目のデータセットの消費者のうち,1期の調査の時点で,「過去1ヶ月以内に黒烏龍茶を買ったことがない」消費者のみを含む非購入者に限定したデータセットである。なお,分析で必要なデータが欠損しているサンプルは,事前に削除した。

このデータセットを用いて,以下の通り,従属変数と独立変数を作成した。

従属変数

従属変数は,消費者の購買意向である。購買意向の変数を作るため,最初に,5段階(1:購入したい~5:購入したくない)で聴取した購買意向の値を逆転させ,購買意向が高い時にその値が大きくなるようにした。そして,それぞれのデータセットにおいて,それぞれのブランドの購買意向向上の有無を示す変数PIijを作成した。PIijは以下のように定式化される。

  
PIij= 1         if         PI2ij> PI1ij 0         if         PI2ij PI1ij(1)

PIijは,消費者iのブランドjに対する2期の購買意向PI2ijが,1期の購買意向PI1ijよりも高い場合1となり,そうではない場合0となるダミー変数である。なお,購買意向の差をとることにより,広告効果以外の影響が排除されている。

独立変数

本研究は,消費者の広告接触回数を広告の変数とする。広告接触回数n_exposurei,jは,次のように算出する。まず,テレビ番組aに出稿されたブランドjの広告の回数をn_adsa,jとする。また,消費者のテレビ番組の視聴履歴をviewa,iとする。viewa,iは,購買意向を調査した2回の調査の間で消費者iが番組aを見ていれば1,そうでなければ0となるダミー変数である。そして,これらの2つの変数の積和から各消費者の広告接触回数を算出する。すなわち,各消費者の広告接触回数n_exposurei,jは以下のように算出する。

  
n_exposurei,j=an_adsa,j×viewa,i(2)

広告接触回数は,両ブランドに関して算出する。ここでは,消費者iのからだすこやか茶Wの広告接触回数をn_exposurei,karada,黒烏龍茶の広告接触回数をn_exposurei,kuroとする。

統制変数

取得したデータの中から10個の変数を統制変数として選択した。概要は,以下の通りである。

Agei:年齢

Sexi:性別。女性ならば1,男性ならば0となるダミー変数

Marriagei:未既婚状況。既婚ならば1,未婚ならば0となるダミー変数

Jobi:就業状況。有職ならば1,無職ならば0となるダミー変数

IGi:インスタグラムの利用状況。利用していれば1,利用していなければ0となるダミー変数

TWi:ツイッターの利用状況。利用していれば1,利用していなければ0となるダミー変数

YTi:ユーチューブの利用状況。利用していれば1,利用していなければ0となるダミー変数

Qualityi:品質志向。もし,高価格高品質を好むならば1,低価格低品質を好むならば0となるダミー変数

Healthi:健康志向。もしコレステロール値を気にしていれば1,気にしていなければ0を取るダミー変数

Cati:トクホ茶カテゴリーの購買意向。1買いたくない~4:ぜひ買いたい

5  モデル

本研究では,回帰分析を用いて広告効果を検証する。ここで注意しなければならないのは,マーケティング変数が,内生変数である可能性があるということである(Villas-Boas & Winer, 1999Honka et al., 2017Louviere et al., 2005)。消費者が見るテレビ番組は,消費者のライフスタイルや価値観の影響を受けるため,広告接触回数も内生変数であると考えられる。よって,広告接触の内生性を排除する必要がある。

本研究は内生性を排除するため,コントロール関数アプローチ(Petrin & Train, 2010)を採用する。コントロール関数アプローチでは,内生変数を従属変数,外生変数と統制変数を独立変数として回帰分析を行い,残差を求める(第一段階)。そして,求めた残差を目的のパラメータを推定する効用関数の独立変数に加えることで,内生性を排除する(第二段階)。

第一段階

第一段階では,内生変数である広告接触回数を従属変数とし,外生変数と統制変数を独立変数としてポワソン回帰分析を行う。そして,パラメータの推定結果から残差を計算する。ただし,広告接触回数のデータには0が多く存在するため,ゼロ過剰ポワソン回帰分析を行なう(see, Lambert, 1992)。

外生変数には,「ブルーレイレコーダーの所有状況」と「ゲーム機の所有状況」を選択した。ブルーレイレコーダーの所有状況bluerayiは,もし消費者iがブルーレイレコーダーを持っていれば1,持っていなければ0となるダミー変数である。ゲーム機の所有状況gameiは,もし消費者iが据え置き型ゲーム機を持っていれば1,持っていなければ0となるダミー変数である。なお,これらの外生変数は,広告の視聴回数とは相関するものの,広告の視聴回数とその他の変数を統制した後では,購買意向に影響を与える非観測の変数と相関しないという仮定を置いている。以上より,第一段階のモデルは以下の通りである。

  
Py=n_exposurei,j=π+1-πf0                   if n_exposurei,j=01-πfn_exposurei,j    if n_exposurei,j>0  (3)

where

  
πixi,β=expxi'β1+expxi'β(4)
  
fn_exposurei,jxi,γ=exp-expxi'γexpxi'γn_exposurei,jn_exposurei,j!(5)

where

  
xi'β=β0+n=110βncontrol variablesn,i+β11bluerayi+β12gamei+ε11i(6)
  
xi'γ=γ0+n=110γncontrol variablesn,i+γ11bluerayi+γ12gamei+ε12i(7)

ε11iε12iは,誤差項である。n_exposurei,jは,確率πで0となり,確率1 − πでポワソン分布に従う。また,πiはロジスティック回帰分析,n_exposurei,jはポワソン回帰分析により推定する。そして残差μi,jは,n_exposurei,j-n_exposure^i,jによって求める。なお,からだすこやか茶Wの広告接触回数の残差をui,karada,黒烏龍茶の広告接触回数の残差をui,kuroとする。

第二段階

次に,広告効果を検証するための効用関数を定式化する。からだすこやか茶Wの広告接触回数n_exposurei,karada,黒烏龍茶の広告接触回数n_exposurei,kuroが独立変数である。ただし,本研究では,広告接触の効果が飽和すると仮定する。そこで,独立変数である広告接触回数に1を足した後,その値を対数変換する(see, Hanssens, Parsons, & Schultz, 2003)。また,第一段階の関数に含まれていた10個の統制変数を独立変数とする。そして,第一段階で計算した残差ui,karadaui,kuroを独立変数に加える。以上より,効用関数は以下の通りになる。

  
Ui,j=ζ0+n=110ζncontrol variablesn,i+ζ11logn_exposurei,karada+1+ζ12logn_exposurei,kuro+1+ζ13ui,karada+ζ14ui,kuro+ε2i(8)

ε2iは,第二段階の効用関数の誤差項である。先に定義した購買意向向上の有無を示すダミー変数PIijを用いて,この効用関数のパラメータを推定する。

6  分析結果

各データセットの記述統計量は,表1にまとめられている。最初に,内生性排除のための外生変数の妥当性を確認するため,内生変数である広告接触回数を従属変数とし,外生変数と統制変数を独立変数としたゼロ過剰ポワソン回帰分析を行った(第一段階)。分析の結果,両データセットにおいて,「ブルーレイディスクの所有状況」と「据え置き型ゲーム機の所有状況」の回帰係数は,ロジットモデル,ポワソンモデルともに統計的有意となった(表2)。よって,「ブルーレイディスクの所有状況」と「据え置き型ゲーム機の所有状況」は外生変数として適切であるとみなす。そして,このパラメータの推定結果を用いて,残差を算出した。

表1. 記述統計量
からだすこやか茶W 黒烏龍茶
全サンプル
(N = 2,497)
非購入者サンプル
(N = 2,284)
全サンプル
(N = 2,478)
非購入者サンプル
(N = 2,215)
Mean SD Mean SD Mean SD Mean SD
PI 0.183 0.386 0.184 0.388 0.195 0.396 0.203 0.402
Age 41.441 10.352 41.443 10.389 41.464 10.315 41.513 10.300
Sex 0.468 0.499 0.470 0.499 0.468 0.499 0.473 0.499
Marriage 0.560 0.496 0.557 0.497 0.562 0.496 0.564 0.496
Job 0.594 0.491 0.589 0.492 0.594 0.491 0.588 0.492
IG 0.220 0.414 0.208 0.406 0.215 0.411 0.201 0.401
YT 0.611 0.487 0.610 0.488 0.617 0.486 0.614 0.487
TW 0.346 0.476 0.335 0.472 0.343 0.475 0.333 0.471
Quality 0.181 0.385 0.178 0.382 0.184 0.387 0.179 0.383
Health 0.079 0.270 0.077 0.267 0.079 0.271 0.077 0.267
Cat 2.231 0.997 2.143 0.962 2.231 0.995 2.126 0.957
Blueray 0.464 0.499 0.471 0.499 0.467 0.499 0.466 0.499
Game 0.357 0.479 0.358 0.479 0.360 0.480 0.355 0.478
n_exposurekarada 6.113 7.453 6.065 7.458 6.169 7.483 6.154 7.549
n_exposurekuro 1.913 2.194 1.902 2.187 1.917 2.204 1.907 2.218
表2. Panel A 第一段階の回帰分析の結果:「からだすこやか茶W」の購買意向が従属変数のデータセット
広告接触 全サンプル 非購入者サンプル
からだすこやか茶W 黒烏龍茶 からだすこやか茶W 黒烏龍茶
Logit Poisson Logit Poisson Logit Poisson Logit Poisson
Intercept 0.812*** 1.218*** 1.010*** −0.120*** 0.656** 1.164*** 0.826** −0.137
(0.279) (0.049) (0.321) (0.105) (0.292) (0.052) (0.340)** (0.112)
Control
Variables
Blue-ray −0.624*** 0.155*** −0.627*** 0.086** −0.575*** 0.161*** −0.604*** 0.083**
(0.115) (0.017) (0.123) (0.034) (0.118) (0.018) (0.127) (0.035)
Game −0.430*** 0.133*** −0.436*** 0.118*** −0.416*** 0.131*** −0.410*** 0.106***
(0.123) (0.017) (0.131) (0.034) (0.127) (0.018) (0.136) (0.036)
Panel B 第一段階の回帰分析の結果:「黒ウーロン茶W」の購買意向が従属変数のデータセット
広告接触 全サンプル 非購入者サンプル
からだすこやか茶W 黒烏龍茶 からだすこやか茶W 黒烏龍茶
Logit Poisson Logit Poisson Logit Poisson Logit Poisson
Intercept 0.872*** 1.209*** 1.131*** −0.058 0.777*** 1.183*** 1.014*** −0.103
(0.284) (0.050) (0.322) (0.106) (0.300) (0.053) (0.342) (0.115)
Control
Variables
Blue-ray −0.615*** 0.162*** −0.604*** 0.087*** −0.616*** 0.157*** −0.610*** 0.092***
(0.117) (0.017) (0.122) (0.034) (0.122) (0.018) (0.128) (0.036)
Game −0.336** 0.124*** −0.382*** 0.109*** −0.293** 0.123*** −0.332** 0.107***
(0.123) (0.017) (0.129) (0.034) (0.129) (0.018) (0.135) (0.036)

*p < .10,**p < .05,***p < .01

一部の分析結果を省略している。詳細は筆者に確認されたい。

次に,広告効果を推定するため,第二段階のモデルでロジスティック回帰分析を行った。分析の結果,表3モデルの(1),(4)が示す通り,からだすこやか茶Wの購買意向は,両ブランドの広告接触(n_exposurekarada,n_exposurekuro)によって向上しなかった。また,広告効果に対する年齢(Age),職業(Job)の調整効果を確認した。モデル(2),(5)が示す通り,年齢の調整効果は確認されなかった。一方,モデル(3)が示す通り,黒烏龍茶の広告接触(n_exposurekuro)と職業(Job)の交互作用項が統計的有意であった。この結果は,購入者と非購入者をプールした場合,有職者が黒烏龍茶の広告に接触すると,からだすこやか茶Wの購買意向が下がることを示している。

表3. 回帰分析の結果
従属変数 からだすこやか茶W 黒烏龍茶
サンプル 全サンプル 非購入サンプル 全サンプル 非購入サンプル
モデル (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12)
Intercept −1.521*** −1.751*** −1.503*** −1.723*** −1.921*** −1.710*** −1.325*** −1.540*** −1.315*** −1.594*** −1.746*** −1.581***
(0.300) (0.204) (0.353) (0.350) (0.217) (0.363) (0.286) (0.199) (0.326) (0.337) (0.216) (0.358)
Age −0.005 −0.005 −0.006 −0.004 −0.005 −0.005 −0.006 −0.005 −0.006 −0.004 −0.004 −0.004
(0.006) (0.006) (0.006) (0.007) (0.007) (0.007) (0.006) (0.006) (0.006) (0.006) (0.006) (0.006)
Sex 0.216* 0.218* 0.204 0.241* 0.241* 0.230* 0.299*** 0.299** 0.312** 0.296*** 0.299** 0.307**
(0.131) (0.13) (0.132) (0.137) (0.136) (0.136) (0.121) (0.121) (0.121) (0.126) (0.128) (0.126)
Marriage −0.140 −0.137 −0.157 −0.107 −0.103 −0.119 0.012 0.009 0.009 0.089 0.086 0.084
(0.113) (0.113) (0.114) (0.114) (0.117) (0.117) (0.113) (0.112) (0.112) (0.115) (0.118) (0.118)
Job 0.143 0.150 0.150 0.211 0.218 0.216 0.237** 0.229* 0.233* 0.226* 0.222* 0.221*
(0.124) (0.126) (0.129) (0.133) (0.134) (0.132) (0.120) (0.121) (0.121) (0.126) (0.128) (0.124)
IG 0.131 0.130 0.134 0.160 0.159 0.161 0.121 0.127 0.121 0.191 0.193 0.192
(0.143) (0.143) (0.142) (0.156) (0.151) (0.15) (0.140) (0.138) (0.137) (0.148) (0.148) (0.148)
YT −0.033 −0.030 −0.029 0.024 0.027 0.026 −0.178 −0.182 −0.183 −0.172 −0.175 −0.178
(0.116) (0.115) (0.115) (0.123) (0.122) (0.121) (0.113) (0.112) (0.114) (0.118) (0.117) (0.118)
TW −0.040 −0.034 −0.038 −0.034 −0.027 −0.031 0.118 0.109 0.107 0.181 0.173 0.171
(0.133) (0.137) (0.128) (0.141) (0.139) (0.137) (0.127) (0.125) (0.126) (0.129) (0.129) (0.129)
Quality −0.160 −0.160 −0.160 −0.146 −0.146 −0.145 −0.114 −0.116 −0.123 −0.194 −0.195 −0.199
(0.144) (0.144) (0.145) (0.150) (0.151) (0.15) (0.141) (0.139) (0.138) (0.148) (0.146) (0.147)
Health −0.150 −0.153 −0.147 −0.212 −0.216 −0.210 0.164 0.166 0.149 0.136 0.139 0.125
(0.214) (0.214) (0.218) (0.231) (0.225) (0.233) (0.195) (0.194) (0.197) (0.207) (0.204) (0.210)
Cat 0.074 0.073 0.073 0.107* 0.107* 0.107* −0.054 −0.052 −0.052 0.035 0.036 0.038
(0.054) (0.054) (0.055) (0.058) (0.058) (0.058) (0.055) (0.056) (0.055) (0.059) (0.059) (0.060)
n_exposurekarada −0.016 −0.007 −0.103 −0.048 −0.040 −0.107 0.263** 0.253** 0.068 0.259** 0.254** 0.074
(0.123) (0.126) (0.161) (0.129) (0.133) (0.171) (0.121) (0.120) (0.152) (0.128) (0.126) (0.158)
n_exposurekuro 0.060 0.055 0.356 0.127 0.126 0.344 −0.285 −0.287 −0.083 −0.322 −0.329 −0.127
(0.240) (0.240) (0.288) (0.251) (0.259) (0.309) (0.242) (0.244) (0.282) (0.254) (0.258) (0.298)
n_exposurekarada*Age 0.004 0.006 −0.010 −0.008
(0.007) (0.007) (0.007) (0.007)
n_exposurekuro*Age −0.001 −0.003 0.007 0.007
(0.011) (0.011) (0.010) (0.010)
n_exposurekarada*Job 0.108 0.071 0.334** 0.314**
(0.149) (0.156) (0.152) (0.159)
n_exposurekuro*Job −0.441*** −0.332 −0.301 −0.286
(0.212) (0.224) (0.208) (0.22)
ukarada 0.036 0.033 0.047 0.054 0.051 0.062 −0.108 −0.105 −0.109 −0.107 −0.106 −0.106
(0.066) (0.067) (0.069) (0.070) (0.072) (0.074) (0.066) (0.066) (0.066) (0.070) (0.069) (0.07)
ukuro −0.032 −0.029 −0.049 −0.082 −0.082 −0.091 0.058 0.059 0.048 0.081 0.084 0.069
(0.133) (0.135) (0.143) (0.145) (0.146) (0.144) (0.144) (0.142) (0.150) (0.152) (0.154)
Observations 2497 2497 2497 2284 2284 2284 2478 2478 2478 2215 2215 2215
Log Likelihood −1179.840 −1179.600 −1177.214 −1083.158 −1082.695 −1081.739 −1179.840 −1179.600 −1177.214 −1083.158 −1082.695 −1081.739

*p < .10,**p < .05,***p < .01

Age,n_exposure は,中心化されている。括弧内の値は,標準誤差を示す。標準娯差の計算にはブートストラップ法(B = 5,000)を用いた。

一方,黒烏龍茶の購買意向は,モデル(7),(10)が示す通り,からだすこやか茶Wの広告(n_exposurekarada)により統計的有意に高まった。これは,広告の正の波及効果が生じていることを示している。また,広告効果に対する年齢(Age),職業(Job)の調整効果を確認した。モデル(8),(11)が示す通り,年齢の調整効果は確認されなかった。一方,モデル(9),(12)が示す通り,黒烏龍茶の広告接触(n_exposurekarada)と職業(Job)の交互作用項が統計的有意であった。この結果は,有職者がからだすこやか茶Wの広告に接触すると,黒烏龍茶の購買意向が上がることを示している。これは,有職者の方が日常でトクホ茶を目にする機会が多く,先発ブランドに対して強い連想を持っているためと思われる。

次に,Swait and Louviere(1993)が提案した方法で,モデル(1)と(7)(全サンプル)とモデル(4)と(10)(非購入者)で回帰係数を統計的に比較した。その結果,両サンプルにおいて,異なる係数を持つモデルであることが確認された(全サンプル:χ2(31) = 11.167,p < 0.001,非購入者サンプル:χ2(31) = 9.961,p < 0.001)。この分析は,競合ブランドの広告の係数を直接比較したわけではない。しかし,競合ブランドへの広告効果が両ブランドでは大きく異なることから,後発ブランドの広告によって先発ブランドの購買意向が高まることが強く示唆される。

7  議論

広告研究には,競合ブランドに与える影響(波及効果)を検証した研究がある。しかし,波及効果は様々な要因によって,その影響が調整されることが指摘されている。本研究では,市場参入順位が広告の波及効果に与える影響を検証した。分析の結果,後発ブランドの広告が先発ブランドの購買意向を高めることが明らかになった。特に,この波及効果は,有職者に対して強く現れる。

本研究は,二つの理論的貢献を有している。第一の貢献は,広告の波及効果に関する研究への貢献である。本研究は,後発ブランドの広告が先発ブランドの購買意向を高めることを明らかにした。Sahni(2016)は,レストランの広告が競合レストランの検索数を増やすことを明らかにした。特に,ポジティブなクチコミを得ているお店が,その恩恵を受けられることを示した。本研究はさらに,消費者がポジティブな態度を形成しやすく,商品カテゴリーとの連想を築きやすい先発ブランドが,広告の正の波及効果を得られることを示した。したがって,広告の波及効果の新たな調整要因を示した。

第二の貢献は,市場参入順位の研究への貢献である。市場参入順位の研究は,先発ブランドが様々な恩恵を受けられることを明らかにしてきた。しかし,広告の波及効果との関連性は,明らかにされてこなかった。本研究は,先発ブランドが,広告の正の波及効果を得られることを示した。したがって,先発優位性の一つに広告の波及効果があることを本研究は示した。

一方,本研究には,いくつかの限界がある。第一に,本研究はアンケートデータを分析している点である。使用したデータは消費者の自己申告であるため,データと実際の購買行動,広告視聴が乖離している可能性がある。今後は,消費行動の履歴データを用いた分析が求められる。

第二に,トクホ茶カテゴリーにある全てのブランドを分析していない点である。「トクホ茶カテゴリー」には,2003年に発売されたヘルシア緑茶がある。ヘルシア緑茶は,今回分析した2ブランドよりもさらに先に発売されており,リーダーブランドである。今回は,ヘルシア緑茶を分析対象としていないが,ヘルシア緑茶の存在が消費者行動に影響を与えているかもしれない。そのため,「トクホ茶カテゴリー」を対象とした分析が求められる。

謝辞

本稿の作成においては,編集長と2名の匿名レビューアーの先生より貴重なコメントをいただいた。ここに記して,謝意を表したい。

1)  データの概要やデータの収集方法などの詳細は,次のURLのサイトで確認されたい。https://www.is.nri.co.jp/contest/2018/data.html.

参考文献
 
© 2019 Japan Society of Marketing and Distribution
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