抄録
製造業おける開発期間短縮や設計品質の向上の為のCAE活用は,ものづくりの為の必須手段として定着してきてはいるものの,ムーアの法則に代表されるコンピュータ性能の継続的な向上に対し,スピードをキャッチアップ出来ているかという点もまた重要な観点である.デンソーでは10年以上前から,「設計者が常套手段としてCAEを活用できる」ことを目指す姿として取り組んできており,基幹システムに組み込んだCAEシステムを,現在の筆者が所属する部署が中心になって,開発・運用維持管理,ユーザーサポートなど実施してきた.しかしハードウェアの飛躍的な性能向上に伴い,かつてスパコンでしかできなかったような大規模で複雑なCAEが手元のパソコンで処理可能になってきた.このような技術革新のなかで,商用CAEソフトウェア価格がシステム構築費用の大半を占めるようになってきており,ここにオープンソースCAEという,ライセンス費用の不要なソフトウェアも台頭しはじめている.商用ソフトウェアの分野ではマネーゲームを彷彿させる寡占化が進む中,新たな火種が生じてきたと言ってもよいだろう.オープンソースCAEは,ライセンス不要という,ユーザーにとって嬉しい面だけが強調されがちであるが,商用ソフトに比べ導入や操作が難しく,簡単に利用できない.判らない・困ったことがあった場合のサポートやリスク問題がある中で,自己責任とどう折り合いをつけるのか,特に企業の中で使おうとすると,情報セキュリティの観点からの障害も大きい.しかし,これら弱点をうまく補えば商用ソフト以上にCAEを活用できる領域も多く存在する.著者はこれまで7年間,国内外のオープンCAEに関わる公開情報とオープンコミュニティでの活動を通して,これらの活用技術を研讃してきた.ここ数年はリーマンショックに起因した経費削減という追い風(?)もあって,ようやく定着した仕組みも出来つつある.本講演では,社内教育や実業務での活用例をとりあげ,展開に最しての考え方や課題を具体的に紹介する予定である.