抄録
弁前の圧力が上がると開くタイプの弁,昇圧開型弁(press-open-type valve)が出口に付いた管路-弁系でも自励振動が生じることがある。このタイプの弁は図A1のようにモデル化され,圧力流量特性は図A2の(i)のようになる。管路入口の境界条件P=P_S-B_1(U)を図示すると図A2の(ii)のようになり,両曲線の交点として,平衡点(U_0,P_0)が求まる。この平衡点の安定性を,管路境界における波の反射率を用いた従来の方法で判別すると,常に安定となる。しかるに不安定になるのであるから,弁の運動方程式を含めた安定解析が必要である。ここでは,長さlの一様断面の管路入口(x=0)で圧力P_S一定,出口(x=l)に図A1の弁が付いている管路-弁系の安定解析を行う。平衡点(U_0, P_0)の周りに弁の圧力流量特性を線形化し,さらに弁の運動方程式を含めた境界条件を付加し,管路では波動方程式の一般解を用い,時間に関してラプラス変換して管路-弁系の特性方程式を求めると,双曲線余接関数(coth)を含む超越方程式となり,安定判別が困難で,見通し良い結果は得られていない。そこで新たに考案した中立安定探索法を用いて安定解析を行った。この方法は,正にも負にもなりうる仮想的な減衰比ζ_p,を弁に加えて,丁度中立安定になったとすると,特性方程式の根は純虚数s=ivとなる。これを特性方程式に代入すると,実数部と虚数部は同時にゼロでなければならない。この式はvとζ_pを未知数とする非線形連立方程式となり,繰り返し計算によって,これを満たす1組の(v,ζ_p)求める。このとき,ζ_p<0なら,負減衰を与えて中立安定になるので,この系はもともと安定である。また,ζ_p>0なら,正の減衰を与えて中立安定になるので,この系は不安定領域にあったことが分かる。系のパラメータ(ここでは管路長さ)を変えて,他の(v,ζ_p)を求め,系のパラメータを横軸にとり,ζ_p>0となる範囲をプロットすれば,不安定となる範囲を求めることができる。同時に生じる振動の振動数も求められる。以上の解析より, 1次モードの不安定範囲は,弁系の減衰が小さいとき, 1/2√<1+2K_1><(f_n)/(f_<a1><1 (A1) と表されることが分かった。ここで, f_n:弁の固有振動数,f_<a1>:両端開の管路の1次の固有振動数, K_1=P\0/(P_0-P_m)で, P_0とP_mは図A2に示している。管路が長くなると高次のモードも存在するので,高次モードの不安定領域も同じように求められた。また,複素流体力(圧力)を用いた解析により,ζ_p>0となるとき,弁の運動に対して,流体力に位相遅れ成分が生じ,等価的に負減衰となることが示された。