抄録
著者らは既報において,複数の圧電フィルムを積層してブリッジ回路に組み込み,セルフセンシングアクチュエータを構成する手法を提案し,フィルムの形状,極性,配向角といったパラメータを変えたメカニズムについて,自由振動の制御実験を行った結果,はり及び平板について1次振動モードの制御効果が得られることを報告した.本実験では,実際には回路に組み込むアクティブおよびダミーフィルムの面積,厚さといったパラメータを完全に一致させることは困難であり,これによりブリッジのバランスは容易に崩れ,制御性能が大幅に劣化するため,回路内の可変抵抗を微調整する必要があった.しかし,この作業は試行錯誤で行わなければならない部分もあり,非常に煩雑であった.一方, ColeらはLMSアルゴリズムにより圧電素子の静電容量を同定する方法を提案し, Vippermanらはこの方法を応用して, DSPとアナログ乗算器を用いてブリッジ回路を構成し,圧電素子と参照コンデンサの静電容量の差を実時間で適応的に補償するシステムを構築,さらに圧電セラミックスを用いて片持ばりの自由振動の制御実験を行い,この手法の有効性を示した.以上を背景として,本研究では,煩雑な調整作業を回避するため,過去に提案した圧電フィルム積層型セルフセンシングアクチュエータに,LMSアルゴリズムによる回路の調整機能を付与して,積層圧電フィルムからなる自己調整機能を持つ分布型スマートダンパを開発することを目的とし,スマートダンパの自己調整機能及び振動制御性能を検証するために実験を行った.図A1(a)のように4枚の圧電フィルムを用いてアクティブ及びダミーフィルムを構成し,これらを制御対象である片持ばりに一体として積層,貼付して図A1(b)に示したDSPとアナログ乗算器を用いて構成されたブリッジ回路に組み込むことによって自己調整機能を持つ分布型スマートダンパを実現した.まず,自己調整機能を検証するため,制御ループを開いた非制御状態でブリッジ回路に微弱な白色雑音を入力し,自己調整機能を作動させた.ここで,アナログ乗算器の出力電圧v_<out>の2乗平均値が最小となるように, DSPの出力電圧v_<DSP>はLMSアルゴリズムに基づいて調整され,一定値に収束することを確認した.次に,振動制御性能を検証するため,自己調整機能を停止させ,収束したv_<DSP>をアナログ乗算器に入力した状態で,はり先端に衝撃入力を与えて,励起された1次モードの自由振動制御を行った.この実験結果を図A2(a)に,また同図(b)には参考のためにv_<DSP>を手動調整した場合の結果を示した.図中の破線は非制御時,実線は制御時のはり先端変位の時刻歴応答であり,両者はほぼ同等の制御効果が十分に得られていることが確認できる.これらの実験結果により,本研究では,アナログ乗算器とDSPを用いることで圧電フィルム積層型セルフセンシングアクチュエータを積層圧電フィルムからなる自己調整機能を持つ分布型スマートダンパを実現し,煩雑な可変抵抗の調整作業を回避できることを示した.