抄録
防振ゴムは,ばね要素と減衰要素を備えたマウントであるが,支持系の共振に対してはその制振に必要な減衰を実現できない場合がある.このため,要求される制振性能を達成するために液体封入マウントが採用されることが多い液体封入マウントは特定の周波数領域において防振ゴムでは得られないような大きな減衰を発生できるのが特長であり,この減衰特性を利用して防振マウントシステムの制振生能の向上が図られている.例えば自動車のエンジンマウントシステムにおいては良好な乗り心地性能を達成するために液体封入マウントを採用するのが一般的である。液体封入マウントは防振ゴムに比べて優れた制振性能を持つが,その構造の複雑さとそれにともなう高いコストが課題である.本研究では,液体封入という技術を用いずに特定の周波数で高い減衰特性を実現するマウントの開発を目的にして,図A1に示される,先端に剛体マスを取り付けた板ばねと支持ゴムから成るマウント構造の基礎的な検討を行った.マウントは円柱形のゴムA,Bと先端に剛体マスMを取り付けた板ばね(ばね鋼)から成る.構造物の支持点はゴムAにあり,静的には支持点の上下変位W_eに対して剛体マスMはゴムBを支点にして逆位相で変位する.(以下,このマウントをカウンターマスマウントと呼ぶ)一方,液体封入マウントの減衰特性は,流体質量力少量であってもその運動量が増幅されてダイナミックダンパー効果を生じる,「てこのモデル」で表される.本研究で提案するカウンターマスマウントの構造は,この理論モデルに類似しており,板ばねの先端に取り付けた剛体マスが液体封入マウントにおける流体質量に相当する.しかし,てこのアームに相当する部材は剛体ではなく板ばねであり,板ばねの曲げ変形が加わって剛体マスMを振らせるようにしている.カウンターマスマウントの解析モデルをFig. A2に示す.解析モデルでは,板ばね,ゴム部,剛体マスをそれぞれBernoulli-Eulerのはりモデル(縦弾性係数E,断面二次モーメントI),複素ばね定数k^*_1,k^*_2, k^*_<θ2>,慣性モーメントJを持つ質量Mで表した.また,カウンターマスマウントの動的特性を計測し,特定の周波数で損失係数にピークが生じることを示した.さらに,解析モデルを用いて,設計パラメーター(ゴムBのばね定数と損失係数,剛体マスMの質量,板ばねの長さ)が動的特性におよぼす影響を調べた.制振性能としては,乗り心地性能の一つであるエンジンシェーク(12Hz前後)の制振に注目する.シャシーローラー上での実車試験により,カウンターマスマウントのエンジンシェークに対する制振効果を確認した.図A3に実車試験結果を示す.