抄録
単一細胞のレベルでは内在するmRNA数とタンパク質数とがたえず乱雑に変動している。このため,ひとつひとつの細胞は,たとえ同一のゲノムをもっていても,それぞれが個性的な振る舞いを示す。こうした乱雑さは生物の大きな特徴であり,これを利用することで細胞の分化や異質化を誘導したり,環境変化に対する生物種の適応度を高めたりしていると考えられている。我々は,モデル生物である大腸菌について,単一細胞レベルでの遺伝子発現の乱雑さを,プロテオームレベルおよびトランスクリプトームレベルで定量化し,全遺伝子発現に共通する法則を探ることをめざした。その結果,遺伝子発現の乱雑性は完全にランダムではなく,一定の規則性・法則性の下で生み出されていることが明らかとなった。