1932 年 35 巻 184 号 p. 766-771
特殊鋼の中先づニッケル鋼、ニッケル・クロム鋼、硅素鋼に就きA_1點以下の焼入による時效硬化現象を研究した。何れの鋼に於ても炭素量は0・1%位の低炭素のものでクロムは0・4%, ニッケルは3%, 硅素は4・6%以下である。以上の特殊鋼はA_1點以下の焼入により常温時効中硬化し、約1個月の時效後之を加熱すれば50℃に於て稍々硬度の増加を示すがそれ以上の温度によつて硬度は急激に減少し200°〜450℃ではその減少は緩となる。比重測定竝に示差膨脹試験の結果によれは焼鈍状態に比しA_1點以下よりの焼入によつて膨脹を伴ひ、時效中は收縮が起る。又電気抵抗は焼入によつて増加し、時效中は増加の傾向にある。有溝衝撃試驗に於ては吸收勢力は時效中次第に減少することを認めた。以上の現象は鐵・ニッケル又は鐵・硅素のα固溶體中の炭化物の溶解度が温度によつて變化あることに基因するものである。而して時效硬化の説明としてはA_1點以下の焼入によつて炭素を過飽和せるα固溶體が得られ、常温時效中はこの過飽和固溶體中の炭素原子の移動集合が起り、時效後の加熱によつて炭化物分子が折出し、250℃以上では炭化物固有の空間格子の形成が起るものとし、これによつて實驗結果の説明を試みた。