抄録
新潟県において,タヌキから採集された雌雄成虫標本に基づいて原記載されたタヌキマダニIxodes tanuki Saito, 1964は,その後の長期間にわたって幼若期が不明のままであった.1979年になって,若虫期は野鼠寄生性の不明種Ixodes sp. NB by Ono, 1966に一致することが報告された.幼虫期については,Ixodes sp. LY ( = Ixodes sp. Y by Kitaoka, 1977; Ixodes sp. L2 by Takada et Fujita, 1978)が有力候補とされてきたが,形態的に酷似する不明種Ixodes sp. 7 by Asanuma et Sekikawa, 1952(後にヒトツトゲマダニIxodes monospinosus Saito, 1967の幼虫期と確定)と混同されていた時期もあって確定していなかった.われわれは2004年11月に,島根県の野鼠類からIxodes sp. LYを回収する機会を得たので,このうちアカネズミ由来の飽血個体について飼育観察を続け,2005年4月に脱皮した個体をタヌキマダニ若虫と同定した.したがって,Ixodes sp. LYをタヌキマダニの幼虫期と確定した.ちなみに,これまでにIxodes sp. LYの宿主として記録されてきた各種野鼠類がタヌキマダニの宿主リストに正式に加わることになる.