抄録
野外における蚊幼虫個体群のピレスロイド感受性の実態を把握し、家庭用に使用されているピレスロイドの有効性を再確認することを目的として、長崎市内中心部に点在する公園(約200カ所)内の雨水升等に発生するアカイエカ群、およびヒトスジシマカ幼虫の採集と、ピレスロイド(アレスリン)に対する感受性調査を2007年6月から9月にかけて実施した。アカイエカとチカイエカの同定は、葛西ら(2005)の方法を参考にして幼虫の全虫体を用いたPCR法によって行ったが、供試した768頭の幼虫の93.4%はアカイエカであり、チカイエカは0.9%にとどまった(他は同定不能)。感受性試験方法は、林ら(2005)が実施した簡易感受性調査法(終齢幼虫のノックダウンを観察)を採用し、KT50を用いた感受性インデックスを算出することによって感受性の違いを評価した。その結果、アカイエカのピレスロイド感受性に大きな変化は見られなかったのに対し、ヒトスジシマカでは若干の感受性低下が見られることが明らかとなった。長崎市の記録では、ヒトスジシマカの発生する場所にピレスロイドを恒常的に散布した経歴はなく、主に有機リン剤の道路側溝への散布と、テメフォホスあるいはフェンチオンによる墓地の水盤、花立ての処理、および暗渠へのDDVP処理が主な処理方法であることから、この感受性低下は、昭和30年代から有機塩素系殺虫剤の使用が禁止になる昭和46年にかけてのDDTの散布の影響ではないかと考えられた。