日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
第61回日本衛生動物学会大会
セッションID: S1-1
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シンポジウム1「衛生動物対策における現状と問題点」
自治体における現状と問題点
*武藤 敦彦
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抄録
わが国では動物媒介性感染症の発生が少なくなったとはいえ、世界的な新興・再興感染症の発生、ウエストナイル熱、デング熱、チクングニヤ熱など、現在でもこれらの侵入の脅威は続いている。一方で、伝染病予防法の廃止、感染症発生件数の減少などによって、防除態勢は弱体化していると言わざるを得ない。今回、大会長からは「勉強会的なシンポジウムにしたい」とのお申し出があり、衛生動物の防除などの対応に関し、衛生動物を研究対象とする者としての共通認識や問題意識を持つことを目的としたシンポジウムを企画した。演者からは、アンケート調査により明らかとなった自治体の状況について報告し、衛生研究所、殺虫剤や防除業界、教育現場での状況についての報告をそれぞれの関係者にお願いした。今後の方向性が見出せるような有意義な討議が行えれば幸いである。
 日環センターでは、平成19年度に、小林睦生国立感染症研究所昆虫医科学部長を主任研究者とする厚生労働科学研究において、全国の都道府県、市町村に対して「衛生動物に関する対応の現状」に関するアンケート調査を実施した(発送数1,874:回答率62.9%)。衛生動物に対する具体的な取り組みがある自治体は、回答があった都道府県、市町村の合計(以下同様)で51.9%、取り組み例では、薬剤・機材の配布・貸出しが最も多く、次いで防除業者の紹介、防除の実施、費用負担の順であった。自治体が自ら実施している防除としてはハチ類が123、次いで蚊が54、ユスリカが32自治体の順であったが、自ら何らかの防除を実施している自治体は約20%にとどまった。一方で、防除を業者委託している自治体は約45%あったが、その内容や結果の評価を評価している自治体は、委託自治体のうちの約13%にとどまっていた。ウエストナイル熱等の侵入に備えた蚊幼虫の発生源調査や成虫調査を平成18年度の時点で実施していた自治体数はいずれも19(1.4%)で、調査後に幼虫対策のために薬剤処理を実施した自治体は、調査を実施した自治体とほぼ同割合であったが、成虫では2自治体のみであった。また、蚊媒介性疾患発生時の緊急時体制が構築されていると回答した自治体は4.5%、緊急時のマニュアルが作成されていると回答した自治体は3.6%であった。緊急時の対応に関してもPCO等の業者に委託、または協力を得て実施するとした自治体の割合は約30%(検討中と回答した自治体を除くと約40%)と高かった。殺虫剤の備蓄に関しては26.6%の自治体が実施していると回答したが、備蓄量は2t以上から1kg未満までと様々であった。備蓄薬剤としては有機リン剤が最も多かった。散布機器は50%近い自治体が保有していたが、その台数や種類は様々であった。なお、ここ5年の薬剤・機器購入費関連予算の極端な減少はないものの、全体的に減少傾向が認められたが、一方で大規模災害が発生した地域では増加していた。国等への要望事項としては、薬剤や機器購入等のための財政援助に関するものが最も多く、国または都道府県単位での薬剤の備蓄、対応のためのマニュアル作り、情報提供、対応がしやすくなるような法的整備など、様々なものが挙げられていた。
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© 2009 日本衛生動物学会
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