我々は2005年よりマレーシアのサラワクでココナツ農園に発生する蚊類の調査を行ってきた。穴の開いたココナツの実には何種ものArmigeres属の蚊幼虫が、高密度に生息する。Armigeres属はLeicesteriaとArmigeresの 2亜属から成りたち、東南アジアを中心に分布すている。Leicesteria亜属の何種類かの蚊はメスが自らの後脚に卵を産み、孵化するまで卵塊を腹部下に抱えているという珍しい産卵習性を持つことでも知られている。蚊の中でも餌となる有機物が特に豊富な水域に発生するこの属の蚊の生活史を明らかにするために、最大産卵数と考えられる卵巣小管数を調べた。野外から採集してきたLeicesteria亜族の2種、Ar. (L.) flavus、Ar. (L.) digitatus及びArmigeres 亜族の5種、Ar. (A.) confusus、Ar. (A.) jugraensis、Ar. (A.) maiae、Ar. (A.) malayi、Ar. (A.) setiferの幼虫を室内で飼育し、羽化後5日以後の♀成虫を解剖し、卵巣小関数を数えた。同時に身体サイズの指標として羽の長さを測定した。各種の平均卵巣小管数は最小のAr. (L.) digitatus 45.8から最大のAr. (A.) confusus 255.2までと、大きな差が見られた。身体のサイズと卵巣小管の数から7種は3つのグループに分かれた。身体が大きく小管数の多い2種、Ar. (A.) confusus、Ar. (A.) jugraensis、身体が小さく少管数が中位な3種、Ar. (A.) maiae、Ar. (A.) malayi、Ar. (A.) setifer、少管数の少ないLeicesteria亜族の2種、Ar. (L.) flavus、Ar. (L.) digitatusである。