ハマダラカ属Leucosphyrusグループは現在20既知種が記載されており、東南アジアにおける森林マラリアの主要媒介蚊(Anopheles dirus s.s. [= species A]やAn. baimai [=species D]、An. barabacensis など)および非媒介蚊を含んでいる。このグループでは外部形態が種間でもしばしば重複するために、分子生物学的な種同定が必要とされることが多い。ベトナムにおいては、An. takasagoensis Morishita, 1946と疑われる種やAn. leucosphyrus Con Son Form Peyton, 1989などが1970年代以降報告されてきたが、生物地理学的・分類学的な整理は遅れていた。そこで本研究では、ベトナム産Leucosphyrusグループを分子系統学的に整理し、ベトナム国内における分布を確認することを目的とした。ミトコンドリアDNA COI 遺伝子座部分配列225bpの解析によって、(1) An. dirus s.s. とAn. leucosphyrus Con Son Formは同一の塩基配列を示し、後者は少なくともdirus種群に含まれる(あるいは同種である)と考えられること、(2)ベトナムでAn. takasagoensisとされてきた種がdirus種群に含まれない新種だと考えられること、を昨年度我々は報告したが、今回の発表では、An. macarthuri と疑われる個体も加えて、ミトコンドリアDNAのCOI ・ND6 およびリボソーマルDNAのITS2 遺伝子座ついてDNAシーケンスした結果を報告する。