抄録
震災後の津波被災地で採集したイエバエ,アカイエカを用いて殺虫剤感受性を評価した.石巻港周辺で採集したイエバエは,成虫に対する微量滴下法でフェニトロチオンとベルメトリン(いずれも原体)に対して,感受性系統に比べ,いずれも10倍程度の抵抗性を示した.製剤による任意接触法(有効成分量 250mg/m2)でも,感受性系統に比べるとノックダウンが遅い傾向が見られ,特にピレスロイド系では処理面への接触回数や接触時間が少ない傾向が見られた.円筒内直撃法では,所定の希釈濃度で標準的な残留処理量に相当する量を処理すれば,100%の致死率が得られた.製剤の培地混入法によるイエバエ幼虫の羽化阻止効果を50%阻止濃度(IC50)で見ると,フェニトロチオンで約80倍,プロペタンホス,エトフェンプロックスで2~10倍の抵抗性が見られたが,ピリプロキシフェンでは標準量相当で高い羽化阻止効果が得られた.一方,アカイエカについては宮城県,福島県の被災地数カ所から採集した幼虫を増殖させて,浸漬法により感受性を評価した.このうち石巻の個体群はフェニトロチオンおよびエトフェンプロックスに対して,10倍程度の抵抗性を示したのを筆頭に,気仙沼および仙台市内で採集した個体群も若干の抵抗性を示した.石巻系はIGR系薬剤に対しても抵抗性を獲得しているものと見られた.採集地域と薬剤グループによって感受性は異なり,各地のハエ蚊の感受性を定期的にチェックすることが必要であろう.