抄録
現在日本のブユ(Diptera: Simuliidae)は5属74種類が記載されている.近年ブユが媒介するフィラリアやロイコチトゾーンは DNA配列で同定できるようになってきているが,ブユをDNA配列で同定するシステムは整備されていない.ブユの中には雌成虫のステージだけでは同定が困難な種が存在することから,媒介種を決定する上でもDNA配列によるブユ種の同定が必要となっている.我々はこれまで日本産74種のうち54種のブユのDNAを抽出しており,それらのミトコンドリア 16S rRNA領域の一部の配列を決定している. しかし Simulium属Nevermannia亜属vernum種グループの内では,この領域での変異が少なく種の同定が難しい. 他の昆虫や他のブユ研究者もよく利用している cytochrome c oxidase subunit I(COI)領域はvernum種グループの種間でも十分に変異が存在する. よってデータベースについてはまず日本産ブユについて COIの全配列を決定していく. また,それらのデータを基に同定に適したCOIの一部を安定的に増幅するPCRをするため,プライマーなどの条件を設定していく. さらに種の同定や近縁種との比較には種内変異のデータも必要となるので,それらについても今後調べていきたい.