日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
Print ISSN : 1343-1439
ランチョンセミナー1
抗てんかん薬の体内動態:重症心身障害児(者)への応用
三浦 寿男
著者情報
ジャーナル フリー

2010 年 35 巻 1 号 p. 93-99

詳細
抄録
重症心身障害児(者)は難治なてんかんを合併することが多く、ほとんどの場合、多剤治療(polytherapy)が行われている。わが国では新薬の治験開始後の承認が著しく遅れ、ようやく2006年にgabapentin(GBP)、2007年にtopiramate(TPM)、2008年にlamotrigine(LTG)が承認、発売された。さらに、現在levetiracetam(LEV)が承認申請中である。「新規抗てんかん薬」の明確な定義はないが、一般的には1990年代以降に発売された抗てんかん薬を指すことが多い。 新薬が発売されても、carbamazepine(CBZ)とsodium valproate(VPA)は広く使用されるが、両者を併用するとVPAの血中濃度が低下する。一方、CBZにVPAを併用すると、CBZの遊離型血中濃度の比率が増加し、さらに代謝物carbamazepine-10,11-epoxide(CBZ-E)の総血中濃度が上昇するのに加え、その総血中濃度に対する遊離型血中濃度の比率も増加する。このため、両剤の併用時には、とくにCBZ-Eに由来する眠気、ふらつきなどの副作用が出現する可能性がある。 わが国で開発され、1989年に発売されたzonisamide(ZNS)にCBZを併用すると、ZNS血中濃度は有意に低下する。しかし、ZNSの併用がCBZならびにCBZ-E血中濃度に及ぼす影響はない。 これら抗てんかん薬間の相互作用はほとんどがcytochrome P450(CYP)の代謝活性を介する肝での代謝過程に関わるものであるが、GBPは血漿蛋白と結合せず、CYPによる代謝を受けずに、未変化で腎から排出されるため、既存の抗てんかん薬との相互作用がない。しかし、腎機能障害のある患者への投与には注意を要する。  TPMはCYP3A4により代謝されるため、この酵素誘導作用があるphenytoin(PHT)、CBZなどとの併用で血中濃度が低下する。また、CYP2C19の酵素阻害を示し、PHTの血中濃度が上昇する。ただし、本剤も腎排泄型で60%が腎から排出される。LTGは、VPAと併用すると肝でのグルクロン酸抱合で競合し、クリアランスが低下して血中濃度が上昇する。これに対して、PHT、CBZなどとの併用ではグルクロン酸抱合が促進され、血中濃度が低下する。このため、LTGの初回投与量、維持量は併用薬によって異なる。
著者関連情報
© 2010 日本重症心身障害学会
前の記事 次の記事
feedback
Top