日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム1:在宅超重症心身障害児(者)への対応
在宅超重症心身障害児(者)への対応
曽根 翠高橋 由起子
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2011 年 36 巻 1 号 p. 39-40

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抄録
障害児医療の進歩により在宅生活を送る超重症心身障害児(者)(以下、超重症児(者))の人数は年々増加している。また、NICUで重い医療ケアに支えられて生きている乳幼児を在宅へ移行させようという動きが、社会全体の中で強くなりつつある。一方で、訪問看護師からは家庭に戻った超重症児(者)が暖かい家庭環境の中で少しずつ周囲の働きかけに対して反応するようになると報告されており、在宅生活が超重症児(者)にとって大切な経験であることが明らかとなっている。しかし、超重症児(者)が家庭で生活すると、医療ケアと介護の負担が家族に重くのしかかる。小沢ら1)、曽根ら2)の研究によると、母親などの主たる介護者は常に睡眠不足の状態で、美容院や日常の買い物に行く時間すら確保できない状態である。このように介護者が著しく疲労した状態で、介護や医療ケアを毎日続けていくことはリスクマネジメントの観点から見ても非常に危険といえる。 以上より、本人にとっても社会にとっても重要な超重症児(者)の在宅生活を維持するためには、さまざまな支援を提供することが不可欠であるといえる。教育の分野では、平成16年10月に文部科学省通知が出され、全国の特別支援学校で医療的ケアが実施されるように整備されてきたが、たんの吸引、留置されている管からの経管栄養、自己導尿の補助の3行為に限定されており、超重症児が通学できるほど充実したものではない。福祉の分野では多くの重症心身障害児施設で超重症児(者)の短期入所、通所を受け入れているが、ニーズを満たすには至っていない。医療の分野では、健康管理、リハビリテーション、肺炎など急性疾患の治療、在宅医療ケアの負担軽減、医療材料の供給などの在宅超重症児(者)が必要とするいろいろな支援を一医療機関で行うことは不可能な状況である。 このような状況の中で、奥山典子氏より、東京都における在宅超重症児(者)の実態と施策について説明していただき、小沢浩氏より、超重症児(者)を家庭で介護している家族の負担と社会資源の活用状況を東京都、島根県、高知県で比較検討した結果を報告していただいた。小谷とみ子氏からは在宅超重症児を訪問看護する実践の中から明らかになった在宅超重症児(者)と家族が抱える諸問題を提示していただき、緒方健一氏からは、熊本市で在宅人工呼吸器療法を開業医として支える実践の中から得られた支援の鍵を教えていただいた。いずれの発表者も先進的に実践している方々であり、日本の各地域で在宅超重症児(者)の支援を推進する上で参考になる内容が盛り込まれていた。 しかし、在宅超重症児(者)を抱える家族の支えと考えられる短期入所の受け入れ枠が不足している一方で、この事業が訪問看護の経営基盤を脆弱にしていること、超重症児(者)の社会参加のための通所・通園を実現するには、受け入れ施設の医療ケア体制の充実とともに移動中の医療ケアも補償しなければならないこと、ご家族の不安やストレスは大変大きく肉体的な援助だけではなく精神的な援助も重要であること、など多数の問題が挙げられた。そして、重度の医療ケアを継続しつつ暮らす重症心身障害児(者)を支えるには、医療・福祉・療育の分野を包括したネットワークを構築し、医療ケアを含めた在宅生活のマネージャーを置くことが不可欠であると思われた。
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