抄録
はじめに
脊椎側弯症に対してボトックス治療が提唱されており、薬剤会社の情報提供書サイトには凹側傍脊柱筋への施注する方法が記されている。しかし実際の場面では凹側よりも凸側の緊張が強いと感じることがある。さらにCT画像では多くの例で凹側の傍脊柱筋が黒く抜けている(CT値が低い)ことに気づき、凹側筋を弛緩させる方法に疑問を感じたため調査した。
方法
(1)当センターのある1病棟の入所者23名のうちCT検査のない3例を除外した20名を対象とした。CT画像を用い2スライス毎に傍脊柱筋の面積と同範囲のCT値の平均を記録し、同時に脊柱偏位率:(胸郭右端から椎体前端の距離)÷(胸郭横径)を計測した。(2)個人ごとに脊柱偏位率とCT値の左右差や傍脊柱筋の面積の左右差との線形回帰分析を行った。(3)20名の頂椎付近のCTスライスでの計測値をまとめて線形回帰分析を行った。p値0.05以下を有意とした。
結果
(1)コブ角測定では軽症(0−30度)6名、中等症(30−50度)4名、(重症)50度以上10名。S字型が3名。(2)傍脊柱筋CT値左右差と脊椎偏位率の間の有意な相関(凹側でCT値が低い)は軽症例で2/6、中等症で4/4、重症で9/10名に認めた。傍脊柱筋の左右差と脊椎偏位率の間の有意な相関(凹側で大)は軽症例で1/6、中等症で4/4、重症で6/10名に認めた。(3)20名のコブ角と頂椎付近の傍脊柱筋CT値の左右差の間には強い相関を認めた(p = 2E−10)。コブ角と傍脊柱筋の面積の左右差の間にも有意な相関を認めた(p = 0.02)。一例ではMRI検査を利用でき、CT値の低下部分はT1低下、T2低下であり脂肪変性と考えた。
考察
重症児(者)の強い側弯と凹側傍脊柱筋の脂肪変性の間には強い相関があり、従来の考えとは逆に、むしろ凸側傍脊柱筋の筋力が勝っているという印象を裏付ける結果であった。凸側筋力が凹側より勝る場合に脊椎側弯が発生するかどうかについては、今後、力学的な説明が必要である。