日本重症心身障害学会誌
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P-2-D3-03 亜鉛欠乏による食欲低下が疑われた高齢の脳症後遺症の1例
永田 仁郎佐藤 聡子
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2012 年 37 巻 2 号 p. 349

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抄録
はじめに 亜鉛は人にとって必須の微量元素の一つであり、欠乏症状として、成長遅延、味覚異常、食欲低下、免疫力低下、皮膚障害、生殖機能障害などの多彩な症状が知られている。今回われわれは、血清亜鉛が軽度低下を示し、亜鉛補充で短期間に食欲が改善した症例を経験したので報告する。 症例 71歳女性。生後6カ月頃から中耳炎を繰り返し、1年以上通院治療を受け治癒したが、その頃から発達の遅れに気付かれる。発語はないが簡単な言葉の理解可。支持歩行可。食事はスプーンを持って自力で可。71歳時、10月頃から食欲低下進行。それまで楽しみにしていた食事を残し、口に入れてもすぐに吐き出し自力摂取も困難となる。誤嚥はない。腹部・頭部CT、内視鏡(食道、胃)では食欲低下の原因となるものなし。摂食方法の工夫や食形態の変更で摂取量は幾分改善するが不十分。12月からは経腸栄養剤の注入併用開始。微量元素チェックで血清亜鉛が53μg/dlと軽度低値を示したため12月中旬から亜鉛高含有ドリンク(ブイ・クレス®1本)注入追加。10日後頃から自力摂食がみられるようになり40日後には経腸栄養剤注入中止。2カ月後頃にブイ・クレス®の飲みが悪くなり一時的に自力摂食にムラがでて介助を要するようになったためプロマックD2錠®/日内服に変更。3日後からは再び自力摂食可能となり以降は良好な摂食状態が続いている。 考察 消化管や中枢神経障害を疑って検査するも食欲低下の原因となる異常がなく、当初は高齢化による老人性うつ病や認知症などの精神疾患を疑っていたが、血清亜鉛値が軽度ながら低下していたため亜鉛補充療法を開始したところ短期間かつ著明に症状の改善が見られたことから亜鉛欠乏が原因であった可能性が高いと考えられる。加齢に伴って血清亜鉛が低下することは知られており、原因不明の食欲低下のある場合、特に高齢者においては亜鉛欠乏を考慮する必要があると考えられる。
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© 2012 日本重症心身障害学会
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