抄録
目的
声門閉鎖術は近年注目されている誤嚥防止術である。今回、脳内出血後の誤嚥に対し声門閉鎖術を施行し経口摂取が可能となった症例を経験したので報告する。
症例
18歳男性。成長発達に特記すべきことなし。14歳時、脳動静脈奇形から脳内出血を来した。脳室内穿破し水頭症を合併したためV-Pシャント術を施行したが、抜管困難から気管切開に至った。脳内出血後遺症による痙性四肢麻痺のため寝たきりで在宅移行した。18歳時に全身機能評価目的で当院に入院した際は、意識清明で、意思表示は瞬目と顔の表情でのみ可能で、誤嚥のため経管栄養だった。母から本人の経口摂取希望を聞き、本人からも希望を確認出来たため摂食機能評価をした。開口および咀嚼は困難も嚥下は可能だったため、本人の希望するプリンを1回1mlで経口摂取させたが、嚥下直後に気管孔からほぼ全量吸引された。声帯麻痺があり恒久的に発声不能と考えられたため、ご本人ご家族の希望で声門閉鎖術を施行した。術後合併症なく、術後7日目から経口摂取を開始でき、最終的にペースト食で200gの摂取が可能となった。本人の満足度は高かったが、開口動作での疲労があり、食事の1回量を70g程度に減量することで継続的な経口摂取が可能となった。摂食開始後に誤嚥はなく、気管吸引も1時間数回から1日数回まで減少した。
考察
声門閉鎖術は、誤嚥防止術として感染症罹患や吸引回数の減少等が期待できるが、嚥下機能が保持されている症例ではさらに経口摂取の再開が期待できる。味覚の刺激が得られることは生活の質の向上にも寄与できると考える。また、声門閉鎖術は喉頭気管分離術と比較し、食道とその近辺の筋肉は術野とならないため術前に持っていた嚥下機能を保持しやすく、術後の頸部安静の必要性が低いため早期に経口摂取を開始できる可能性があり、摂食再開を視野に入れる症例では推奨される手術とも考えられる。