2012 年 37 巻 3 号 p. 385-391
中等度難聴と推測された重症心身障害者2名に対して、スピーカーによる音楽呈示と体感音響装置を用いた振動を伴う音楽呈示をABABデザインで行い、音楽呈示に伴う行動反応と生理的な反応について分析した。その結果、音楽のみの呈示よりも体感音響装置を用いた音楽呈示において、覚醒を示すと思われる「開眼」が多く見られ、音楽開始時には、刺激に対する定位反応と考えられる心拍の減速反応が認められた。さらに、音楽呈示後、聴覚のみに働きかける呼名に対しても、心拍の減速反応が認められた。一方、体感音響装置を用いた音楽呈示により、ストレスを反映すると思われる唾液アミラーゼ活性値が上がる傾向は認められなかった。以上のことから、体感音響装置を用いた音楽は、重症心身障害者にとって過度なストレスとはならずに、覚醒を促す刺激として受容される可能性が示唆された。そのため、身体状況に配慮しつつ体感音響装置による音楽呈示を定期的・継続的に行うことは、重症心身障害者の身体状況の改善や生活の質の向上に寄与しうるものと考えられた。