日本重症心身障害学会誌
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第41回日本重症心身障害学会学術集会開催にあたって
重症心身障害支援の現在・過去・未来 -課題と貢献について考える-
椎木 俊秀
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2015 年 40 巻 2 号 p. 155

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抄録

 今年は戦後70年で、多くの催し物や報道がなされています。当学会も40周年の節目に当たり、それを記念して40年間の総括と今後の課題を特に「貢献」という視点から検討したいと考えました。今後を考えるためには現状を直視し、過去に真摯に向き合い、そこから教訓を引き出すことが必要になります。過去から現在に至る過程には、多くの成果もありますが、それ以上の過ちもあります。その中には二度と繰り返してはいけない過ちもあります。現在の到達点に立ち、過去から現在に至る幾多の失敗からも学び、より高い峰を目指して歩みを継続する必要があります。  障害児者の方の願いには健康な人が当たり前と思っているようなことも含まれます。いろいろなところに自由に行きたい、いろいろなおもちゃで遊びたい、おいしいものを口から安全に食べたい、楽な呼吸がしたい。つまり障害児者支援とは突き詰めて考えてみると、当たり前のことが当たり前にできるように手助けすることだと気づきます。重度の障害ゆえにその当たり前なことができない方々に、いかに当たり前に近く生きてもらえるのか、専門家としての力量が問われます。特に障害を持っている方の中でも極めて重症度が高い重症心身障害児者の支援に携わっている者には、人間存在に対する深い洞察力と高度の専門性が要求されます。そのために全国で蓄積されてきた経験と成果を共有し、互いに学び励ましあう場として、本学術集会は40年間にわたり大変重要な役割を果たしてきたと言えます。  今回の学術集会は4つのシンポジウム、1つの教育講演、3つのランチョンセミナー、228題の一般演題(口演85題、ポスター143題)、そして恒例のファッションショーから構成されています。抄録を見る限り、どれも素晴らしい内容になると期待が膨らみます。  詳細は抄録をご覧になっていただければと思いますが、シンポジウム、教育講演、ランチョンセミナーには、いくつかの特徴が認められます。第一の特徴は、障害児者支援にかける演者の方の熱い思いです。何のための支援なのかが明瞭に語られています。第二の特徴は、その思いを実現するための強い意志です。理念や哲学といってもよい強い意志が感じられます。そして第三の特徴は、思いだけでなく、しっかりした根拠や論理に基づいた診療や療育を追及されようとしている点です。「情」、「意」、「知」がそろった議論が多いというのも、生活を支援するために医療、福祉、教育が協働する重症心身障害療育ならではの特徴だと思います。シンポジウムでは討論の時間を多く取りました。質疑応答だけでなく、会場の参加者を交えて活発な議論が展開されることを期待します。  一般演題も重症心身障害に関わる諸問題について、広く取り上げられ、興味深い演題がたくさん出されています。ポスター演題は発表や議論が聞き取りやすいように、1会場で1セッションごとに進行する形をとりました。  ファッションショーはモデルになっていただく利用者の負担の軽減と、できるだけ多くの方に参加していただけるよう、2日目のお昼前に企画しました。昼食が一層おいしくなるようなショーにするため鋭意検討中です。  運営について一つお願いがあります。本学会は多職種の学会員によって構成されていますので、公平・平等を期すために学術集会における敬称は「氏」または「さん」に統一させていただきたいと思います。ご理解・ご協力の程よろしくお願いします。  今、国会では安全保障関連法案、沖縄の普天間基地移設問題、原発再稼働問題、新国立競技場建設問題などが大きな争点になっています。特に安全保障関連法案では憲法がクローズアップされています。憲法とは国家の理念であり、いわば価値体系です。妥協を許さない激しい対立は価値観の対立でもあります。障害児者の支援はどのような価値観に基づいて行われるべきなのでしょうか。個人の尊厳という共通の価値観を土台に、その上に多元性、多様性を認め合う社会がそれにふさわしい社会のような気がします。具体的な支援の方法の開発、改良と同時に、支援の基本になっている価値観についても意識しながら日々取り組むことが重要に思えます。本学術集会では多くの具体的な学びと同時に、これからの障害児者支援を考える上で多くの示唆や気づきを得ていただければと思います。  最後になりましたが、読売光と愛の事業団様より今年もご寄付をいただきましたことをご報告いたします。長年にわたり支援し続けていただいていることに心から感謝申し上げます。われわれも読売光と愛の事業団様と同じように重症心身障害児者への支援を息長く続けて行きたいと思っています。 第41回日本重症心身障害学会学術集会会長 東京小児療育病院院長 椎木 俊秀

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