日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム1:重症心身障害への医療的支援の現在・過去・未来
基調講演 重症心身障害への医療的支援の現在・過去・未来
−貢献と課題について考える−
北住 映二
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2015 年 40 巻 2 号 p. 192

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抄録

 重症心身障害への医療は、この25余年の間に、病態把握を基礎としながら姿勢管理を中心とした様々な日常的な手だてと手術も含む医学的治療が組み合わされるようになり、学校等での医療的ケアなど医療的支援にかかわる社会的対応の発展と相まって、「支える医療」という内実を発展させてきた。  昭和60年代にパルスオキシメーターの使用が可能となったのを契機に重症心身障害児者(以下、重症児者)の呼吸障害への対策としての腹臥位を中心とする姿勢管理の重要性と意義が共通認識されるようになり、また、日常的な上気道狭窄に対する経鼻エアウェイ法が普及してきた。喉頭気管分離手術が重度呼吸障害と嚥下障害のある重症児者のQOLを大きく改善するものとして普及し、リハビリも呼吸理学療法の応用や姿勢管理の工夫による換気の改善や排痰の促進などをもたらす内容となってきた。これらの発展は今回の学会の主催施設である東京小児療育病院・みどり愛育園の舟橋満寿子氏、鈴木康之氏らのスタッフの熱意と努力によるところが大きい。その後、非侵襲的人工呼吸器治療、インエクスサフレーター(カフアシスト®等)、肺内パーカッションベンチレーターの重症児者への使用も行われるようになってきた。これらの対応は、呼吸が苦しく辛い状態が改善され快適に過ごせるようになる、肺炎になってから治療するのでなく肺炎を予防する具体的な手だてが可能となるなどの結果をもたらし、在宅生活への移行やその維持が安定的に可能となる大きな要因ともなってきた。  さらに、嚥下造影検査などでの病態把握による、姿勢や食物形態の検討と変更などによる経口摂食の継続・経管栄養と経口摂取の合理的組み合わせ、胃食道逆流症などへの外科治療、合理的な栄養管理、その他の様々な医療的な支援の発展があり、これらの発展は、呼吸障害への支援とともに、生命を維持するというだけではなく、安定した生活を支え、教育を支え、拡がりのある生活を支えるものとなってきた。  これと同時に、重症児者への医療的支援の場は、学校、通所などにも広がってきた。初期の段階での横浜、大阪の学校での実践とともに、都立養護学校で教員による医療的ケアを支えその実践を踏まえて提案や理論的整理を行ってきた舟橋氏、鈴木氏らの活動が東京方式の基礎となり、それが文科省の事業に引き継がれ、学校スタッフ(看護師、教員)による医療的ケア実施の体制が全国的に整備されるに至っている。医療的支援をしっかり行うことによって、重症な障害があっても前向きな広がりのある生活ができるように支えていく、家族の過大な負担なしに学校にも安定して通えるように支えていく、社会参加を支えていく、そのような基本的立場でのかかわりの一つが、重症児者医療に携わる多くの医療スタッフの学校等での「医療的ケア」への支援であるが、この点においても、舟橋氏、鈴木氏らの貢献が大きな原動力となっている。  さらに、鈴木氏が提唱し診療報酬に位置付けられるよう奔走した「超重症児者」の概念は、診療報酬においても定着し、医療度の高い重症児者の診療と療育を支える大きな経済的基盤となっている。  重症児者の加齢・高齢化の中での「障害があっても十分な医療を受ける権利(行う義務)と、過剰な医療を拒否する権利(差し控える義務)とのバランスをどのように考えていくか」という基本的テーマなど、医療的支援の課題は多いが、関係者が、舟橋氏、鈴木氏らのスピリットを継承しながら取り組みが進められるよう、舟橋氏、鈴木氏らの貢献をまとめつつ、今後の社会的対応の面も含めた医療的支援の課題を考えていきたい。 略歴 1973年東京大学医学部卒業、1976年より整肢療護園・むらさき愛育園(心身障害児総合医療療育センター)。厚労省「在宅および養護学校における日常的な医療の医学的・法律学的整理に関する研究会」(2004年~2005年)委員、文科省「特別支援学校等における医療的ケアの実施に関する検討会議」(2011年)委員。編著書「医療的ケア研修テキスト」(2006年、新版2012年)、「子どもの摂食・嚥下障害」(2007年)、「重症心身障害児者診療看護ケア実践マニュアル」(2015)。制作担当ビデオ、重度脳性麻痺の呼吸の障害とその対策(1989年)、重症児とともに応用編(全国重症心身障害児者を守る会監修2001年)「1.呼吸障害への取り組み」「2.誤嚥・胃食道逆流などへの対策」。

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© 2015 日本重症心身障害学会
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