日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム1:重症心身障害への医療的支援の現在・過去・未来
重症児者の健康と生活のための姿勢支援の実践報告
染谷 淳司
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2015 年 40 巻 2 号 p. 194

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抄録
 今回は35年間重度・重症児者の生活環境改善に従事させていただいてきた一理学療法士として、2テーマ「腹臥位系姿勢」と「ポスチュアリング」を表題にして報告する。 プロローグ  1970年代はまだ重症児者の姿勢支援を認める制度がほぼ皆無と言っていい時代だった。前職場で交流したMちゃんは入所1年後の1978年にある国療重心病棟で他界する。治療の際に片肺は機能していないのが分かり、一方の機能肺が重症肺炎でそれが死因だった。私が現職場の肢体不自由部門に就職した1980年頃の重症児部門みどり愛育園は開設10年目であったが、年間に複数の入所利用者が他界されていた。 あえて1980年代とは  時運である。東京練馬で「でく工房」が1975年に起業。生活ニーズで個別対応する姿勢環境支援の草分けであり、私も1980年でく竹野廣行氏らと共働し始めた。当園でも親・病棟スタッフの熱い想いと要望の中1983年リハスタッフ専任化が開始となる。そして1984年リーダー医師の就任があり、チーム療育が開始される。そんな中当時の基礎的な実践を、高橋・藤田編『障害児の発達とポジショニング指導』ぶどう社1986年に報告した。当時大阪でボバースCP 9週間基礎コースに参加するが重症児者領域はまだ対象外であり、むしろ東京の小児神経科医が中心であった。後記の助成を頂き、医師の助言と生活スタッフとの情報交換を基に臥位系を主に姿勢保持研究を行い文献化および生活化し始める。図書では、梶浦一郎監訳『ナンシー・R・フィニー脳性まひ児の家庭療育第2版』医歯薬出版1976年や高松鶴吉・繁成剛『障害児のためのテクノエイド』ぶどう社1988年等があった。一方、車椅子製作者との共働にて腹臥位系新型車椅子などを開発し始めていたが、1980年代の障がい児者の姿勢保持関連では座位に話題が集中されていた。 提示1 腹臥位系姿勢-積極的な健康づくりとして有能な一姿勢である-  読売光と愛の事業団「愛のプレゼント」助成での主たる姿勢保持研究は、第16回・17回「呼吸の問題を伴い、緊張性姿勢反射の影響下にある重度重複障害児の日常生活姿勢保持用具の研究」1987・1988。第21回「気管切開児の呼吸機能の改善を目的とした姿勢保持装置の有効性について」1992、一部は『新版医療的ケア研修テキスト』クリエイツかもがわ2012.第3章呼吸障害、図38である。関連文献類はCiNeeで無料入手可能。そして、最近の文献『原著:染谷淳司ほか「日常生活に腹臥位系姿勢を組み込んで−26年間の実態調査−」日重障誌38巻3号、421-430頁、2013年』はみどり愛育園の長年の実績であり、今回はこれらを中心に話題を展開する。加えて、通園部門や地域通所センターでの腹臥位系活用例を紹介したい。また、腹臥位系ではリスク管理は必須であり、組織的または個人的経験を報告する。東京都では2015年度から主に重症心身障害児者の入所施設で新規特別処遇支援加算として腹臥位(プローンキーパー等)での姿勢管理が対象となった。 提示2『姿勢の選定(ポスチュアリング)』-根本は適応可能な多様な姿勢の生活化-  1987年から私は「posturing ポスチュアリング」を提唱し始めた。臥位から立位までの多様な姿勢から適切な体位と構えの両者を選定して生活化することの意義は深い。1990年「“姿勢”でなく“座位”保持装置」の名称で補装具改定がなされた。多様な姿勢を保障したい。側臥位系姿勢は重症児において、活動とともに就寝時姿勢となる。同「愛のプレゼント」姿勢保持研究で、第18・19回「年長アテトーゼ児(者)の緊張性姿勢反射を抑制するとともに上肢機能を発揮させるための姿勢保持具(側臥位保持用具)の研究」1989・1990。後に、第26回「呼吸機能の改善を目的とした夜間姿勢保持の研究」1997(この報告書は読売光と愛の事業団でコピー提供可能)は側臥位姿勢研究であり、上肢活動や呼吸機能での有効性を提案できた。 略歴 1975~79年保護者・職員による自主運営「心身障害幼児通所施設八王子つくしんぼの会」(現在「すぎな愛育園」)児童指導員として勤務。1980年専修学校社会医学技術学院理学療法学科夜間部卒業。 同年、社福法人鶴風会「東京小児療育病院」入職。1984年同法人重症児施設「みどり愛育園」専任し現在に至る。1987年重心協・医療技術管理コース・リハビリスタッフ部門発足リードと初期運営。1999~2004年同法人訪問看護ステーションたんぽぽ兼務。地域派遣では、近隣市町成人障がい者や高齢者通所、都立特別支援学校へ。現在は成人共同作業所でリハビリ支援中。私的には1999年~医療的ケアを有する重度運動障がい児(者)の水泳活動支援グループ「らっこ支援者の会」代表。
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