日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム4:障害者虐待の現状と対策について考える
障害者虐待の現状と対策について考える(座長抄録)
奈須 康子
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2015 年 40 巻 2 号 p. 205

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抄録

 2012年10月1日に施行された、障害者虐待防止法(障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律)では、国や地方公共団体、障害者福祉施設従事者等、使用者などに障害者虐待の防止等のための責務を課すとともに、障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者に対する通報義務を課すなどとしています。  重心医療・療育の現場の対象は、利用者さまの年齢幅も0歳から高齢まで、また本人支援のみでなく家族支援と、地域および病院や施設における育ちあるいは育児環境・生活環境としての地域支援および「まちづくり」を、権利意識を持ち、考える必要があります。利用者さまの背景としても、虐待の結果、重症心身障害児者となられた方もいらっしゃいますし、育ちにくいあるいは育てにくいお子さんがさらに虐待を受けたり、関係性障害のため状態が変化された方、また重症児の育ちに苦慮し虐待環境に陥ってしまうご家族、そして施設内での虐待など、さまざまです。児童虐待防止法や障害者虐待防止法にて謳われる以前より、療育専門施設では療育支援としての家族支援に、家族の育児負担軽減や、障害受容等の療育専門施設としてできることに熱心に携わり、必要とされるサービスを具体的に行ってきたことで、おのずと虐待防止活動に取り組んできました。2000年以降医療機関における虐待防止委員会や対応対策に関する規約や会議を持つことが勧奨され、福祉施設(特に医療型障害児入所施設)でも虐待防止に関する対応対策のための委員会が設置されてきています。子どもの権利条約はじめ人権に配慮することや子どもと家族一人ひとりをいつくしみ大事に思うことなどの療育の基本概念とあわせ、療育専門施設として、児童福祉法改正や児童虐待防止法さらには、障害者虐待防止法にそくした対応を行うことが時代の要請です。教育界でも合理的配慮が、また職場においても障害者差別禁止が明文化されるなど、障害ある子どもから大人まで人権が保障されるための法整備がすすんできています。  本シンポジウムでは、これらを総合的にとらえ、学会の全体テーマであります「重症心身障害支援の現在・過去・未来 −貢献と課題について考える−」を念頭におき、シンポジストには、医療の視点より山田 不二子先生(山田内科胃腸科クリニック)、ソーシャルワーカーの視点より加藤 雅江先生(杏林大学医学部付属病院 医療福祉相談室)、研究者の視点より宗澤 忠雄先生(埼玉大学 教育学部 社会科教育講座)にご登壇いただき、療育・医療・福祉・教育・地域・社会全体が子育て環境として機能するために、私たちにできることとさらに重心医療・療育・支援の未来に向かう課題について議論いたします。   略歴 小児科医・療育医。埼玉医大福祉会医療型障害児入所施設「カルガモの家」副施設長。1991年鹿児島大学医学部卒業。静岡県立子ども病院ジュニアレジデントを経て、同新生児・未熟児科、および女子医大周産母子センターNICU新生児科医としての経験を基盤に、障害児医療の歴史的中核を担う東京小児療育病院を療育の拠点とし、療育医として障害児医療・療育の地域支援・在宅支援を行う。2001年に発足した虐待防止みやざきの会発足メンバーであり理事。2010年東京小児療育病院院内CAPS設立など虐待防止活動に取り組む。

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