日本重症心身障害学会誌
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一般演題
O-2-G30 悪性腫瘍を患った身寄りのないA氏に緩和ケアを選択した経緯(第2報)
足立 輝美国家 豊臣釘宮 千鶴牧山 美鶴江
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2015 年 40 巻 2 号 p. 250

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抄録

はじめに 悪性腫瘍と診断された身寄りのないA氏に緩和ケアを選択した経緯について第1報で報告した。方針決定後より「A氏がA氏らしく過ごす」を目標に緩和ケアに努めた。終末期に移行した頃より、A氏に精神面での援助の必要性を感じるようになり、A氏の「ベストインタレスト(最善の利益)」は何か考えた結果、不安感から誰かに側に居て欲しい気持ちを感じ、「家庭の雰囲気をあじわう」を企画・実行した。 症例 57歳 男性 脳性麻痺 食道がん 30歳まで母親と自宅療養していたが、母親の死去に伴い施設入所。X年3月食道がんと診断、倫理委員会で検討の結果、緩和ケアを選択するに至った。 経過および実施内容 倫理委員会での方針決定後より、腹痛や吐き気に対する緩和ケアを行いながら日常生活を送っていた。終末期に移行し、ベッド上での時間が多くなるにつれ、昼夜逆転し、夜間に特定のスタッフを探し、声を出して呼ぶようになった。側に寄り添い手を握ると入眠する様子から、A氏の不安を感じ取り、A氏の不安の軽減と少しでも活気と笑顔を取り戻してもらうため、居室でない場所で家庭の雰囲気を感じてもらえるよう一晩を過ごした。 考察 イギリスの意思決定能力法では「ベストインタレスト」を模索するうえで、本人の過去および現在の希望や心情、信念や価値観その他本人が大切にしている事柄を考慮しなければならないとある。A氏の動作や表情から、A氏の「ベストインタレスト」は母親への思いではないかと考え、今回の試みに至った。A氏は長年共に過ごしたスタッフに対し、母親のような感情を抱いており、そのスタッフとにぎやかな家族だんらんの一晩を過ごすことで精神面の安定を図れた。活気、気力の無かったA氏に活力と笑顔がみられたことで、今回の選択はA氏にとって「ベストインタレスト」のひとつであったと考える。

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© 2015 日本重症心身障害学会
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