日本重症心身障害学会誌
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Print ISSN : 1343-1439
シンポジウム2:家族と暮らす・地域で暮らす −重症心身障害児者の在宅医療・家族支援−
「家族と共に・地域と共に」みんなで関わる早期療育が地域を作る
梶原 厚子
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2018 年 43 巻 1 号 p. 43-44

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抄録
0歳から100歳を越える方々まで「なんでもご相談ください!」。こんな言葉をキャッチフレーズに愛媛県松山市とその周辺、約人口55万人ほどのエリアで地域支援や訪問看護を16年間経験しH24年から現職に就いている。 地域支援や在宅医療に携わったこの20年間は、地域福祉が措置から契約に変わり、介護保険法や総合支援法の施行、児童福祉法の改正などを当事者とその家族と共に暮らしが変わっていくことを体感した。暮らしの支え方は多様であり、いつでも変わることができ、主役はそこで暮らす人であり子どももその一部分である。私たち支援者もまたそこで暮らす人であり、支援する側とされる側という関係性ではない。人と人との関係性の中でお互いに成長しあう感覚であろう。 子どもたちとその家族から頂いたものは「心が揺さぶられる体験」「何度思い出しても微笑んでしまう愛情あふれるその場面と記憶」である。その体験から訪問看護師がすべきことは以下の3点だと考える。 ①NICUなどからの退院時からの関わりにおいて 早期療育の視点を持ち医療を暮らしになじませる ②社会とのつながりを作ったりつなぎなおしたりする ③本人と家族への伴走的な支援を行う(図1) 暮らしを支える医療に必要なのは、何も起こらない、普通の日常を組み立てていくことだ。そのために訪問診療や訪問看護があり、予防的に介入することでより健康的に体調を整えて、暮らしの楽しみ方を一緒に探していく。訪問の仕事は外出する、自宅以外の居場所を見つけるための基礎作りをする。 家庭が持つ4つの機能を多職種連携により支えていくが、このことは、医療デバイスなどを必要とする子どもたちだけではない。「育てにくい」と感じたらすぐにでも支援が必要である。「育てにくい、育ちにくい」は療育者によっても感じ方が様々なので、訪問看護を利用することで予防的な介入となり「育てやすい環境調整」を支援できれば良いと願っている。 家庭の支えを基盤として子どもたちが健やかに成長するためには、発達を促す関わり方が重要なので、地域全体で早期療育に取り組めるように訪問看護を提供するのである。 在宅における早期療育の視点は以下の5点だと考える。 ①呼吸を整える ②栄養(食事・食欲・腸内環境) ③感覚統合(固有受容覚・前庭覚・触覚) ④抗重力姿勢(運動・循環・排せつ) ⑤考える感じる脳(体の栄養・心の栄養・GO-NO/GO) 多くの子どもたちを在宅で看ていると発達の段階で経験ができなかったことは自ら育ちなおしをしていこうとする、人としての基本的な欲求を持っているようである。その欲求を理解して成長発達を促すケアや関わり方は、本人の持っている力を引き出し家族が子育てに対する自信を持つきっかけにもなる。 家族が子育てに自信を持つと、医療的ケアから育児・子育てと、暮らしにあった関わり方に変化し多様になっていく。その多様性は医療的ケアに関わる多くの職種の人たちとの交流をスムーズにして子どもに対する支援が届きやすくなる。 早期療育により健康が整えば、外出する機会も増える。医療的ケアが必要な子どもたちが地域に出ていくということは、その子どもたちに関わる人が増え社会資源が整うということである。それはその地域で暮らしやすくなることであり、地域包括ケアを支える重要な社会資源を育てていることにもなる。 その子どもと家族が多くの知り合いを作りそれが地域を巻き込み、それが生きる力になる。 「家族と共に、地域と共に」子どもたちとの関わりを大切にして訪問看護に取り組みたいと思う。
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