抄録
背景
急性虫垂炎は、小児期の急性腹症の原因として最多である。典型的には1−2日の経過で、発熱・食思不振・嘔吐・腹痛といった症状を呈する。重症心身障害児においては、自覚症状の訴えが困難であり、腹痛の有無やその部位を把握することが難しく診断遅延につながると考えられる。今回、急性虫垂炎を発症した重症心身障害児3例について報告する。
症例1
9歳女児。滑脳症、てんかんあり。発熱、炎症反応上昇あり入院。入院時、腸蠕動音は低下し、腹部触診で心拍数上昇し啼泣あり、腹部CTで急性虫垂炎の診断に至り、虫垂切除術を行った。
症例2
5歳男児。低酸素性虚血性脳症、てんかんあり。胃瘻造設後、気管切開術後。発熱、頻脈、末梢循環不全、炎症反応上昇あり入院。感染源は不明だったが抗菌薬投与を開始した。第4病日から水様下痢あり、第6病日に腸蠕動音減弱し、腹部触診で苦悶様顔貌あり、腹部CTで急性虫垂炎の診断に至り、虫垂切除術を行った。
症例3
13歳女児。超低出生体重児からの脳性麻痺。胃瘻造設後。入院5日前より発熱あり、入院2日前に嘔吐、入院前日に水様下痢を認め、当院受診。血液検査で炎症反応上昇あり入院し細菌性腸炎の暫定診断で抗菌薬投与を開始した。入院翌日に腹部膨満・腸蠕動音亢進あり、腹部X線でイレウス所見あり持続減圧され、入院4日目に腹部触診で苦悶様顔貌あり、腹部CTで急性虫垂炎の診断に至り、虫垂切除術を行った。
考察
症例1は第1病日に診断に至ったものの、症例2・3はそれぞれ第7病日・第9病日に診断に至った。また、3例はいずれも腹部触診での表情・心拍数の変化という腹部圧痛を示唆する所見から、腹部CTが行われ虫垂炎の診断に至った。重症心身障害児の場合、自覚症状としての腹痛の察知は困難だが、腹部膨満・胃残の増加、また全身の丁寧な診察の中での腹部触診での表情・心拍数の変化などのわずかな所見も重要視する必要がある。