抄録
はじめに
重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))では、筋肉運動によるエネルギー産生が少なく、低体温が生じやすい。冷え緩和対策として、靴下の重ねばきなら簡便であり、継続して行えるのではないかと考えた。靴下の2枚ばきを実施し、冷え緩和対策として有効であるか検討した。
方法
対象者は20〜30代の下肢冷感のある呼吸器を使用している男性利用者3名。A氏 福山型筋ジストロフィーB氏 低酸素性虚血性脳症C氏 頭蓋内出血後遺症、中枢性呼吸不全靴下の1枚、2枚ばき時に9時半〜20時半までの間、皮膚表面温度を計測する。9時半に靴下を履き、18時に脱ぐ。綿100%の靴下を使用する。データ収集期間は2017年5月〜9月 。20回ずつデータ収集を行った。
結果
A氏は1枚より2枚の方が皮膚温の上昇が大きい。1枚では脱いだ直後、平均2.12℃上昇がみられたが、2枚では+2.97℃であった。B氏は脱いだ直後、2枚より1枚の方が高かったが(その差0.18℃)、1枚ばきでは脱いでから皮膚温が下がっていったのに対し、2枚では温度を下げず維持できた。C氏は、脱いだ直後の時点で1枚ばきの方が2枚ばきに比べて皮膚温が高かった。また、2枚ばきでは脱いだ直後から皮膚温が低下している。
考察
A氏、B氏は2枚ばきによる効果が得られたと考えられる。そのため、靴下の間に空気層ができ、断熱効果が生まれたことで、2枚ばきによる保温効果が得られたと考える。一方、C氏のみ2枚ばきの方で靴下を脱いだ際に、ゴムの跡が付いていることがあり、他2名より靴下がきつかった。A氏、B氏はゴムの跡がついていることはなく、靴下で血流が停滞することがなかった。本研究では3名とも同じ靴下を使用したが、ゆとりのあるサイズの靴下を選択すると、より有効な結果を得られた可能性がある。重症児(者)に靴下の2枚ばきは保温効果があると示唆された。