日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム1 重症心身障害児(者)の受け入れ体制と医療連携
障害福祉分野における新型コロナウイルス感染症への対応について
米澤 祐介
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2021 年 46 巻 1 号 p. 17-19

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抄録
Ⅰ.はじめに 障害児者やその家族の日常生活や社会生活を支えるため、障害者総合支援法等に基づき、様々なサービス(入所サービス、通所サービス、訪問サービス等)を提供している。そのため、新型コロナウイルス感染症が猛威を奮っている状況下でも、できる限りサービスを継続していただくことが重要である。 本稿では、障害分野における新型コロナウイルス感染症への対応状況について概説する。 Ⅱ.障害福祉分野における新型コロナウイルス感染症への主な対応について 令和2年度第一次及び第二次補正予算や、障害福祉サービス等報酬の柔軟な取扱い等によって、下記のような様々な対応を行っている。 1.施設・事業所における感染防止の徹底等 1)感染防止のための留意点の周知、かかり増し費用の補助 感染拡大防止に係る取組や感染者が発生した場合等における具体的な留意点について、「社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について(その2)」(令和2年4月7日付厚生労働省健康局結核感染症課ほか連名事務連絡、同年10月15日付一部改正)等においてサービス類型ごとに周知している。 また、サービス提供を継続する観点から、令和2年度第一次補正予算により、感染が発生した場合の職員の確保に関する費用や衛生用品の費用などのかかり増し経費を補助している。 2)マスク、消毒用エタノール、防護具等の優先供給 令和2年3月下旬から4月下旬にかけては、国内のマスク不足の状況に鑑み、再利用可能な布製マスクを国が一括購入し、地方自治体の協力も得つつ、各社会福祉施設等に少なくとも1人1枚は行き渡るように配布した。また、消毒用エタノールについては、優先供給の仕組みを構築している。さらに、防護具については、国が一括購入し、都道府県等に備蓄用として配布し、感染が発生した施設等に対してすみやかに放出できる仕組みを設けている。 3)障害者支援施設内で療養する場合の対応の周知 令和2年3月下旬には、障害者支援施設において、大規模なクラスターが発生した。その際の対応から、障害特性を踏まえると、障害者支援施設内で軽症者等が療養することも考えられることから、その場合の具体的な対応について整理し、周知している(「障害者支援施設における新型コロナウイルス感染症発生時の具体的な対応について」(令和2年5月4日付厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課事務連絡))。 また、障害者支援施設において感染者等が発生した場合、感染者である職員は入院若しくは自宅療養または宿泊療養、濃厚接触者である職員は自宅待機となるが、これにより職員の不足が生じる可能性がある。このような緊急時に備えて、平時より福祉人材の応援体制を構築しておくことが求められる。障害者支援施設においては、まずは、当該施設を含む法人内で、生活支援員、事務職員等の職種に応じた人員確保策を検討していただくことが重要である。また、都道府県においては、令和2年度第二次補正予算に計上した、緊急時の応援に係るコーディネート機能の確保等に必要な費用も活用し、平時より関係団体と連携・調整し、緊急時に備えた応援体制を構築するとともに、感染者等が発生した場合の人材確保策を講じることが求められる。 さらに、平時からの感染対応力の底上げを図るため、令和2年度第二次補正予算における委託事業で、感染防止マニュアルや業務継続計画策定を支援するガイドラインの策定を行っている。 4)慰労金の支給 未知の感染症への対応において、感染すると重症化するリスクを伴う利用者と接し、 心身に負担がかかる中、業務に従事した方々に対し、慰労の意を示すものとして令和2年度第二次補正予算において障害福祉サービス等従事者に対する慰労金の支給を行っている。 5)障害者施設等における検査 障害者施設等でのクラスター発生を防ぐためにも、医師が必要と判断した方や濃厚接触者の方が、確実に検査を受けられるようにすることが重要である。このため、クラスターの発生など地域の感染状況を踏まえ、感染拡大防止の必要がある場合、現に感染が発生した施設にかぎらず、地域の関係者を対象とする検査を幅広く行政検査として実施するよう要請している。 なお、行政検査が行われない場合において、障害者支援施設等において必要性があるものと判断し、自費で検査を実施した場合については、それが施設の運営に必要不可欠であれば、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(障害分)の対象経費となる旨を周知している。 2.通所サービスに替わる代替サービスの提供等 1)居宅への訪問や電話等によるコミュニケーションの継続について通常のサービスと同額のサービス報酬の支払い 事業所が電話等により相談支援等を行うことは、家庭の孤立化防止等として重要である。そのため、利用者の居宅への訪問、電話等でできるかぎりの支援を行ったと市町村が認める場合には、通常提供しているサービスと同等のサービスを提供しているものとして、報酬の対象とすることが可能であること等の取扱いを可能としており、このことについて「新型コロナウイルス感染症に係る障害福祉サービス等事業所の人員基準等の臨時的な取扱いについて(第8報)」(令和2年6月19日付厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課事務連絡)等において示している。 2)人員配置基準等の弾力運用 新型コロナウイルス感染症の影響により、一時的に人員基準等を満たせなくなる場合でも、報酬の減額を行わないことを可能としている。たとえば、体制に係る加算の要件が欠如した場合についても、同様の考え方により継続算定が可能としている。 このほか、各種加算のうち、面談や会議の開催等が要件であるものについて、電話、メール、テレビ会議等の活用などにより算定可能とするなど、弾力的な運用としている。  3)サービスの再開支援 新型コロナウイルス感染症の影響により、従来利用していた障害福祉サービス事業所等でのサービスの利用を控えている利用者については、その利用の再開に向けた働きかけや環境整備が重要となる。このため、令和2年度第二次補正予算では、当該利用者に対して、健康状態や生活実態の確認や利用を希望するサービスの確認を行った上で、必要な対応を行った場合の費用を補助している。 Ⅲ.終わりに 冒頭述べたように、障害福祉サービスは、利用者やその家族の生活にとって欠かせないものであり、新型コロナウイルス感染症流行下においても、感染拡大防止の徹底を図りつつ、継続的なサービス提供を図っていくことが重要である。 このためにも、障害福祉サービス等報酬や運営基準等による対応、予算事業による対応等を組み合わせ、総合的に取組を進めることが必要であり、今後も必要な支援に全力で取り組んでいく。
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