日本重症心身障害学会誌
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教育講演4
これからの重症心身障害医療について考える
余谷 暢之
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2021 年 46 巻 2 号 p. 214

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抄録
私が小児科専門研修を始めたころ、国立成育医療研究センターの病棟には多くの複雑な疾患を抱えた子どもたちが入院していた。今でいう重症心身障害児・医療的ケア児であった。一目では全体像が評価しにくく、また長い歴史の中にある様々な経験、家族の想い、どれも簡単には取り扱えず難しさを感じる日々であった。そんな中、当時の指導医の言葉が今でも残っている。「子どもたちの一番近くにいるあなたたちだからこそ子どものちょっとした変化に気づくことができる。そして子どもと家族のニーズをとらえることができるんだよ」と。ベッドサイドで子どものそばにいて、家族と話をしていく中で、子どもたちが感じていることや変化に気づけるようになり、家族の想い、気持ちの揺れや変化する時間を一緒に過ごす中で、そこにある医師としての役割を自覚するようになった。重症心身障害児・医療的ケア児を診ることは小児科医にとって大切な子どもの目線、アドボカシーの視点そのものであると気づくようになった。 小児科学会会員を対象とした調査でも、約80%の小児科医が重症児診療に小児科医が関わることが大切であると答え、自分も重症児の診療に関わりたいと思うと答えた小児科医が約30%であった。これらの割合は、若手小児科医の方が高く、若い世代がこういった診療の重要性を感じ、関わりたいと思っていることが明らかとなった。 欧米ではGeneral Pediatricsの中にcomplex care fellowship programが設けられて、体系だったプログラムで重症児診療を教育する体制が構築されつつある。また、学会が中心となり、重症児を診るための医師としての指針が提唱され、学会として支援が行われている。 2020年8月より日本小児医療保健協議会(四者協)の重症心身障害児(者)・在宅医療委員会の委員長を拝命することとなった。そこで委員会として、重症児診療を見える化して体系化するために、以下のことについて新たに取り組みを始めた。 ・重症児・医療的ケア児を診療する医師としての指針 成育医療の視点をもった重症心身障害児(重症児)および医療的ケア児診療の周知・普及を目的に、一般小児科医として獲得しておくべき基礎となる重症児・医療的ケア児を診療する医師としての指針を作成する。 ・医療的ケアが必要な重症児が在宅に移行するための指針 医療的ケアが必要になったこどもが、家族と暮らしていくという毎日の生活を手に入れるためのさまざまな支援を家族と支援者で作っていくための指針を作成する。 ・医師の少ない地域への支援 医療資源の少ない地域の視点で重要な項目をパターン化し、それぞれの事例(成功例など)を具体的にわかりやすく提示することで、他の地域でも参考になる取り組みを共有する仕組みを作る。 ・若手や経験値の少ない医師への支援 若手や重症児診療の経験の少ない医師のために、相談窓口を作り具体的な支援を行う。 「医療者はただ生かすためだけに働き研究しているのではなく、よりよい生き方ができるように考えて治療をしています」これは、私の重症児診療の師でもある洲鎌盛一先生がお子さんを亡くされたご家族に送られた言葉である。 本セッションでは、重症心身障害児(者)・在宅医療委員会の取り組みを紹介しながら、子どもたちがよりよい生き方ができるように我々小児科医に何ができるか、重症心身障害学会との今後の協働も含め、これからの重症心身障害医療について考える機会としたい。 略歴 2004年大阪市立大学医学部を卒業し2014年同大学院博士課程(公衆衛生学)修了 初期臨床研修の後、2006年から国立成育医療研究センターで小児科専門研修を行い、その後スタッフとして救急、総合診療に従事。2014年より神戸大学の緩和ケアチームで成人の緩和ケア診療に携わる。2017年より現職。小児専門病院での専門的緩和ケアの実践に取り組んでいる。 ・日本緩和医療学会理事 ・日本小児医療保健協議会 重症心身障害児(者)・在宅医療委員会 委員長
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