抄録
深在性カンジダ感染症の診断には、細菌感染症より頻度の低い感染症の一つに過ぎないこと、特異的な臨床所見はないことの認識がまず必要である。細菌感染症への合理的診断・治療の延長にカンジダ感染症の早期診断がある。喀痰・尿からの検出は特異性が極めて低く、穿刺液や血管カテーテル類からのカンジダ検出が最大の手がかりである。カテーテル抜去も腹部CTもなく、カルバペネム、グリコペプチドの投与が続いている症例、喀痰からのカンジダに抗真菌薬を投与されている症例は実に多い。 治療においては、薬の選択以前に、原因にも増悪因子にもなるカテーテル類の抜去は最小の労力で直ちに可能であるため最優先であり、予後に対して抗真菌薬以上の影響をもつ。また、抗真菌薬の投与量・投与期間も予後に与える影響が大きい。成人1日量でfluconazole 400mg、amphotericin B 0.5mg/kg、micafungin 100mgといった十分な投与量は予後改善のみならず、未制御感染巣の存在や薬剤耐性を早期に判断するために必須である。投与期間は血液培養陰性化、感染巣の検索と制御、眼内炎の除外ができても2週間は必要である。これまでの臨床比較試験からは3剤の効果の差は少ないと考えられる。各薬剤の特徴を考慮すると、[1]抗真菌薬投与歴や細菌検査歴、[2]腎機能障害や腎毒性のある併用薬剤、[3] 菌種、[4] 好中球減少の有無、などは使い分けるポイントになろうが、その妥当性を検証するためには臨床比較試験が必要と考えられる。 当院で起こった過去3年間の全カンジダ血症66例は17診療科に渡り、消化器外科41%、非消化器系外科32%、内科系27%、平均すると1.3症例/年/科であった。つまり、深在性カンジダ症は特定の診療に関係してのみおこる病態ではなく、科の枠組みを超えたアクションを要する感染症の代表である。当院では感染制御部の臨床介入活動を通してカンジダ菌血症症例の予後を改善させることができた。無菌検体からのカンジダ検出や抗真菌薬の過小投与に対して全病院的に常時監視と介入を行う仕組みを整える価値はどの病院にもあると考える。