抄録
目的
Emericella 属は Aspergillus のテレオモルフの 1 つであり,真菌症原因菌として医学的および発ガン性マイコトキシン生産菌として食品衛生上,重要な属である.これまで,本属の分類は主として SEM を用いた子のう胞子の表面構造を基に行われており,系統関係が充分解明されていない.そこで,分子系統解析を行い,分子系統と従来の分類指標である形態学的知見およびマイコトキシンの生産性の 3 つの指標を用いて詳細な分類を行い,それらの相関関係を検討した.
方法
ITS 領域,β - チューブリン,ハイドロフォビン遺伝子およびステリグマトシスチン生合成系遺伝子の 1 つである stcE 遺伝子の塩基配列を決定し,各遺伝子について NJ 法による分子系統解析を行った.得られた系統樹と形態的知見およびステリグマトシスチンの生産性との相関性を検討した.
結果
今回使用した 4 遺伝子のうち,β - チューブリン,ハイドロフォビンおよび stcE 遺伝子での解析結果はほぼ一致した.一方,一般に種の分類で用いられている ITS 領域においては,塩基配列の違いがあまり大きくなく,本属の詳細な分類には適さなかった.分子系統と子のう胞子の形態的知見との相関を検討したところ,子のう胞子の赤道面隆起の幅が狭く,レンズ面が滑面である典型的な形態を示す種が 1 つのグループを形成した.さらに,レンズ面に特徴的な隆起を持つ種,レンズ面が網目状になる種,特徴的な付属糸を有する種といった,特徴的な形態を示す種がそれぞれ別々のクラスターを形成し,分子系統と子のう胞子の形態には相関性が見られた.ステリグマトシスチンの生産性については,典型的な形態を示す種,レンズ面に隆起を有する種およびその近縁種に生産性が集中する傾向が見られた.